「はぁ、今日から当番だよ〜…」今年度一発目の当番は私だけではなく、チャラチャラした同級生とすることとなったことを思い出し、ため息が漏れた。正直、活動をすること自体に不満はないのだが、ただ隣で課題をしている彼女としばし離れてしまうことが寂しくて、悲しくて、いたたまれないのだ。ずっと見ていたいほど吸い込まれる美しさに今日も恍惚とし、「友達」というレッテルでは満足できないような、かといって「心友」以上の関係を望んでいるこころに急いで蓋をする。
「もう少ししたら当番行く…?」
ハッとして目を逸らす。
「えっと、今5分か…あと2分したら行く」
あぁやだ離れたくないな、という本音は今日もうるさい。
「ギリギリまで行かないタイプなんだ詩織。いいんですか〜?先輩に怒られませんか〜?」
なんだかんだ言って、私のことをいつも心配してくれる。
「そう、それがね!先輩じゃなくて、タメの子なの。楽!」
「そうなのか!じゃ、詩織、気楽に当番楽しめそう?」
「そう…だと思うな。じゃあ、もうそろそろ行くね!」
気にかけてくれてるという事実が私の心を加速させていく。悟られまいと会話を早く切り上げるのも至難の業だったりする。

控えめに、私はちゃんと今日の仕事を覚えていましたよという雰囲気を醸しつつ、既に受付で本を読んでいる彼に声をかける。
「あの、今日の貸出結構いるの?」
あ、今俺に声かけたのかと本の世界からふっと帰ってきた目が私をじっと見つめる。
「うーん、あんまりかな。こんなに本面白いのにな…」
彼の左手に支えられている小説は加藤シゲアキ先生の「閃光スクランブル」だった。あ、そういえば、この人めちゃくちゃ本読むとか言ってたような、、、
「あ!私も最近読んだよ、その本!」
思わず声が上擦った。
「え、嘉神も?まだネタバレすんなよ?」
「いやいや、流石に読者から結末を想定する楽しみ奪ったりはしないよ…」
右手をヒラヒラさせてしょんぼり声で言ってみる。
もし、私も読み切る前に実はこんな話でした、みたいな知りたくもない情報を聞かされるのは辛いから。
「そうだよな。嘉神も俺と同じで、クライマックスまで楽しみとっときたい派なんだな。」
「うん。本好きでも、みんながそうじゃないってことも最近のハイライトだったりするんだよ。」
「あぁ、確かにな。先に最後押さえて、結末わかった上で初めから読み進めていくタイプもいるもんな。」
腰掛けた椅子からスッと立ち上がる委員長は、ふわわと大きな欠伸をした。
「そうそう。本って必ずしも、こう読まなきゃって決まりないでしょ?」
本の読み方一つで話が深まるのがたまらなく楽しいと感じている自分がいた。

いつもあまり人と友好的に話したりしない私だが、本の話になると饒舌になっていて、なんだか同じ人間なのにまるで違う人が自分に乗り移っているみたいで狐に包まれているかのような感覚に陥った。

「あー。たしかにな。本ってほんと自由でいいよな。心がふわって軽くなるしな。」
そう言って、私の前で軽くスキップしてみせる。
なぜだか、図書委員になってまだ2回ほどしか顔を合わせていないのに、馬が合う彼の存在が奇妙に思えた。きっと、見た目とは相反するこころに渦巻く霧を彼も抱えているのかもしれないと感じた。ほんのわずか、だといいのだけど。