【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

 俺は誰かに肩を揺すぶられていた。

 我に返ってみるとオルガさんが、目に涙を溜めて俺の両肩を掴んでいた。

「どうしたんですか?オルガさん」
「どうしたじゃない、いきなり何かブツブツ言い始めたと思ったら、何もない空間を指で叩いて。そしたら屋敷が突然できて、裏庭の方も土が盛り上がったかと思ったら平らになって。何がどうなっているんだ?」

 見られたか。
 ついオルガさんだと、警戒心が無くなってしまう。
 それに気が付くといつも俺の側にいるから、気にしなくなってたんだ。
 言うしかないな。

「これは俺のスキルです」
「スキル?これが」
「そうです、創生魔法と言って自分の望んだものが創れます」
「えっ、望んだものが創れる?」
「ただし材料がないと創れませんけど」
「それじゃあ、森に行って木や岩や土を、たくさんマジック・バッグに収納していたでしょう?このためだったのか?!」
「ええ、そうです。中に入ってみましょうか」

 俺達はドアを開け屋敷の中に入った。

 三階建ての西洋館。
 正面を入ると中は大きな階段があり、左右はフロアに。
 一階はホール、大階段、食堂、客間、台所、洗濯場、風呂場。
 二階、三階は部屋が七部屋ずつあり、各階にもトイレが付いている。
 地下には貯蔵庫。

 トイレは水洗、台所には魔道コンロ。
 一階のお風呂場、台所や洗濯場、各階にある洗面所にも水道の蛇口が付いている。
 蛇口は混合栓にし『水』と『火』 の魔石を入れ、お湯が出るようになっている。
 照明は全て魔道具で『ライト』の魔法を付与されている。
 そして屋敷の魔道具の魔力は屋根に『魔素吸収パネル』を設置し、大気中にある魔素を吸収していることを説明。
 氷と風の術式を付与し冷蔵庫もある事を話したら、オルガさんは声も出なくなっていた。

「す、凄い、お城みたいだな。こんな豪華な設備は、王都でもないかもしれない」
「そうですか?それから毎日、お風呂に入って奇麗にしてくださいね」
「毎日お風呂に入れるのか?」
「はい、衛生面でちゃんとしないと病気になりますから」
 この世界では細菌の概念がないからね。
 地球でも3秒間なら、落としても大丈夫と言うルールはあったけど。

 それから三階に上がった。
 
「俺の部屋はここにしますが、オルガさんはどこにしますか?」
「えっ、私も良いのか?」
「もちろんですよ、仲間ですから。それに宿屋だとお金かかりますから」
「そ、そうね。それならエリアス君の隣の部屋が良いな」
「わかりました。それから食事も簡単なものなら、俺も作れますから」
「凄い、エリアス君」
「そんなことないですよ。戦闘に役立ことは何も出来なくて、こんなことしか出来ません。これからどうやって、生きて行こうかと思うくらいですから」
「い、いや~、それだけ出来れば十分だと思うが…」


 私は思った。
 エリアス君はどうやら、自分に自信が無いらしい。
 そうだよね、世間知らずで15歳。
 自分がどこまで、できるかも分からない。

 でも戦闘は出来なくてもこれだけできたら…。
 冒険者を基準に生活を考えていることが、私には分からないけど。




「王都の依頼で1週間後にはこの街を出ますから、それまでは『なごみ亭』に泊まりましょうか。そして王都から戻ってきたら、この屋敷に住みましょう」
「そ、そうだね。でもこの広い屋敷に2人きりなんだな」
「まあ、その内、人(仲間)も増えると思いますから」
「えっ?!そ、そう。頑張る…私…」
 さ、さすがに獣人が子沢山と言っても14部屋以上ある、この屋敷の部屋を埋めるほど子供は産めないかな~。
 エリアス君で子供がポン、ポン産めるとでも思っているのかな?
 世間知らずだから、そんなことも知らないのかもね~。
 そこから始めるのか…。
 お姉さん頑張るわ~。




「ちょっと疲れました。宿に帰って少し休みたいのですが」
「そうだね、屋敷を作るほど、魔力を使ったんだもの疲れるよな」
「それから屋敷の合鍵です。どうぞ」
「あ、ありがとう」
「必要な物を揃えるにしても、鍵があれば俺が居ない時でも出入りできますからね」
 そう言うと、エリアス君は笑った。


 私はエリアス君と、宿の『なごみ亭』に戻るために歩いている。
 エリアス君が、とても眠そうだ。
 そうね、お屋敷を作るれるほど魔力を使ったんだもの。
 でも魔法で家は作れたかしら?
 魔法のことはあまり詳しくないから分からないけど。


 えっ?待って。
 仮に魔法でお屋敷ができるとしても…。
 あんな宮殿みたいな建物が、作れるほど魔力があるということ?
 私も多少は剣に魔法を乗せて戦うことは出来るけど。
 あそこまで巨大な物は無理ね。

 エリアス君が簡単そうに言うから、つい簡単に思ってしまったけど。
 とてつもない逸材だわ、エリアス君は。




 私達は『なごみ亭』に戻って来た。
 その頃にはエリアス君は、もう歩くのがやっとで。

 仕方がないから私が彼の部屋まで連れて行った。
 こう見えても虎猫族だから、人族よりは力はあるのよ。

 受付に居たアンナちゃんに、私とエリアス君の部屋の鍵をもらった。

 部屋に入り、ベッドに彼を横たえた。
 エリアス君の匂いがする。
 少し彼の匂いを嗅いでいた。
 だって虎猫族だから。
 獣人にとって臭いは大事。
 好きな人の匂いは嗅いでいたいものなの。

 エリアス君の可愛い顔を見ていたら、ふざけてみたくなった。
 彼の横に私も横たわった。
 しばらく彼の寝顔を見ていた。

 すると無意識なのがエリアス君の脚が、私の脚に絡まりホールドされた。
 そしていきなり私の尻尾の付け根を掴まれた。

 きゃ~!!

 力が抜けた。
 獣人は尻尾を掴まれると、力が抜けてしまう。

 エリアス君は、掴んだ尻尾を何度も、何度も前後に動かず。

 も、も、もうだめ~~!!




 あれ?
 オルガさんの顔が近い。
 これはいつもの幻想か?

『創生魔法』で屋敷を創っている時に俺を心配して、涙目になっていたオルガさんを思い出した。
 とても愛しいと思った。

『創生魔法』で何かを創っている時は、パソコン画面の様なものが空中に見える。
 それをタップして、作業をしている。
 きっと【スキル】高速思考で物事を考えているのだろう。
 (はた)から見たら目がどこかにイッテいるはずだ。


 そしてオルガさんの目が潤んで、とても可愛い。
 お目々クリクリだ。

 耳もなぜか垂れている。
 思わず耳を甘噛みしてみた。

 あぁ~~ん!!

 オルガさんの今まで聞いた声がない、声が聞こえた。

 その瞬間、俺は疲れと15歳の肉体年齢の欲求に負け理性が飛んだ。
 目が覚めるとオルガさんの顔が横にあった。
 そして俺達は、服を着ていなかった。


 屋敷を創った、それは覚えている。
 今までこんなに魔力を使ったことがなかったからか、意識が朦朧としていた。

 意識が断片的になり、宿屋のベッドに横になっているのは分かった。
 その時、オルガさんの顔がとても近かった。
 いつもの幻想だと思い、つい思っていたことをしてしまった。

 尻尾を掴み猫耳を噛むことだ。

 昔飼っていた猫は茶トラ模様で可愛かったな。
 オルガさんも茶トラ模様だった。

 そして転生の時に精神年齢も亡くなった時の35歳から、徐々に15歳になるようお願いしていたが。
 まさかこんなにも、この年齢の時は欲望が強かったとは思わなかった。

 そしてオルガさんの顔を見るとまた、可愛くなりおでこにキスをした。
 耳をモフモフし脚を絡め、ほっぺもグリグリする。

 そんなことをしていると、オルガさんが目を覚ました。
「お、おはよう」
 俺はつい、言ってしまった。
「おはよう」
 オルガさんも答える。
 顔が赤くなって可愛い。

「可愛い」
「エ、エリアス君の馬鹿!」
 オルガさんは照れている。

「ねえエリアス君」
「なあにオルガさん」
「私のこと嫌いになった?」
「なんで?」
「だって私、鍛えているから筋肉質で…」
「い、いや。そんなことないよ。筋肉質な女の人は好きだよ」
「ほんと、嬉しい~」
 その言い方だと俺がフェチみたいだけど。
 オルガさんは、嬉しかったのか抱き着いてきた。

「冒険者ギルドに行ってみないか。もうアバンス商会からの依頼があると思うから」
「そうね、行ってみましょうか」

 そう言えば、今は何時だろう?

 俺達は服を着て2階の部屋から1階に降りて来た。
 受付にはこの宿屋『なごみ亭』の主人ビルさんが居た。

「ビルさん。今、何時くらいですか?」
「そうだな、エリアス君達が10時過ぎに戻ってきて、2時間くらいの間は物凄い大きな声がして、それから2時間くらい静かだったから今は14時くらいかな」
「え??」
 ゴ~~ン!ゴ~~ン!
 大聖堂の14時の鐘が鳴る。
「ほらな」

 聞こえていたのか。
 俺とオルガさんは2人して赤くなった。

「まあ、夜中よりは良いがここには10歳の子がいるから、ほどほどに頼むぜ」
 アンナちゃんの事ですね。
 分かりました。

 そしてビルさんに、小声で言われた。
「しかし、若いっていいよな。俺なんて2時間ぶっ続けなんて、もう無理だからな」
 あぁ、そんなにしていたのですね。
 みなさん、すみません。



 俺達は冒険者ギルドに向かっている。

 ギルドに入ると、俺は受付のアリッサさんのところに並んだ。
 もちろんオルガさんも一緒だ。

「こんにちは、アリッサさん」
「こんにちは、エリアス君。ところで、その腕に付けている重りはな~に?」
 言われて見ると、オルガさんと腕を組んでいた。

『やったわね、あなた達』
『え、何の事かしら?』
 一度そう言う関係になると、普通にしているつもりでも周りは気付くものらしい。

『この、筋肉女が!!』
『なによ、おばさん。早い者勝ちよ』

 オルガさんはなぜか、勝ち誇ったような顔をしている。
 どうしたんだろう?
 
「俺達2人に指名依頼が来ているはずですが」
「ええ、あるわよ。アバンス商会からの指名依頼ね」
「『赤い翼』も一緒でしょうか?」
「そうよ。彼らはもう先に受けたわ。6日後の朝、アバンス商会に集合よ」
「報酬はおいくらでしょうか?」
「ギルドで手数料を2割引かれるから。凄いわエリアス君。Eランクで1日8,000円なんて」
 へ?
 8,000円ですか?
「オルガさんは、隣のコルネールの所で受付してくださいね」
 なぜかオルガさんには、冷たい感じで言う。
「わかったわ」
 オルガさんはそう言って、隣の受付のコルネールさんの所に移動した。

「こんにちは、オルガさんはAランクの指名依頼なので1日15,000円です」
 コルネールさんは、とても凄いことのように言う。
 確かに平均日給3,000円のこの世界なら、高いと思うけど。

 それなら果物を採取して売っていた方がいいのでは?
 普通にこの前、果物を売って17,000円だったけど。

 俺が不満そうな顔をしているのが分かったのか、オルガさんに言われた。
「エリアス君、Eランクで1日8,000円なら破格値よ」
「そうなんですか?」
「えぇ、よく考えてみて。私達、冒険者はなんの後ろ盾もなく、働くところが無いからやっているのよ。ある意味、後が無いの。その後が無い仕事で平均日給3,000円の、倍以上の金額がもらえるなんて凄いことなのよ」

 俺は勘違いをしていた。
 生前の考えが残ってたのだ。
 前にいた世界では、贅沢さえ言わなければ働くところはあった。
 そして似たような給料の会社が多く、嫌なら辞めて他に行くこともできた。

 だがこの世界は違う。
 産業が発達していない分、仕事が少ないのだ。
 そして就職してもその雇用先が、5年後にあるかどうかも分からない。
 そんな世界なんだ。
 そ、それなのに、俺は…。

「分かったよ、オルガさん」
 俺はそう言うと笑ってみせた。

 冒険者ギルドを出ようとすると、オルガさんはまだ用事があるようだ。
 先に行って、と言われ俺はギルドを出た。
 私はエリアス君がギルドを出て行くのを見送った。
 そして残ったオルガさんが声を掛けた。

「ねえ、アリッサさん」
「なんでしょうか?オルガさん」
「エリアス君のことなんだけど」
「エリアス君のこと?」
「えぇ、そうよ。彼の事が気になる?」

「な、なにを言っているのよ。あなたとお付き合いしているのでしょう?」
「う、うん。そうだと思うよ。でもまだ言葉では、言ってもらってないけど」
 えっ!言葉は無いって、どこから始まったの?普通逆じゃないの?
「獣人の私は助けられた恩に報い、強さに引かれるけど独占したいとは思わない」
「そ、そうなの(それで、したのね?エリアス様君て、案外…)」
「変なこと考えてない?口に出さなくても、気持ちは分かるものよ」
「い、いえ、別に」

「それじゃあちょっと聞くけど、今日は何時に仕事は終わるの?」
「17時だけど、なぜそんなことを」
「仕事終わりにちょっと付き合わない?」
「どう言うこと?」
「魔法に興味があり追及している人なら、良いものが見れるわよ」
「良いものって?」
「長生きの森妖精(エルフ)でも、見たこともないような魔法よ」
「な、なぜエルフだとわかったの」

「虎猫族の私の鼻を侮らないで。種族によって匂いが微妙に違うのよ」
「そ、そうなの。でもこのことは黙っていてね」
「誰に?エリアス君に?おばあちゃん超えだと、分かると困る??」
「ち!違うわよ。でもエリアス君絡みの話みたいね」
「えぇ、そうよ」
「分かったわ、付き合うから。帰りに待ってて」


 私にそう言うと、オルガさんはギルドを出て行った。
 エルフ族は比較的、何かに没頭する種族だ。
 多分それは長生きな分、探求心が強いのだろう。
 他の仲間も薬草などの研究に没頭して、何百年も森の奥から出て来ない人もいる。
 時間があり余り過ぎている。
 だから没頭できる何かが無いと。

 そして魔法の鍛錬、習得も欠かさない。
 でもこうして街中に住んで仕事をしていると、時間に追われ最近では魔法の鍛錬できないのが事実ね。
 腕が鈍ってしまうわ。



 17時になり私は冒険者ギルドのドアを開けた。
 すると建物の壁に寄り掛かったオルガさんが待っていた。

「ごめんね、待った?」
「いいや、今来たところさ」
 こ、これはデートじゃないよね?

 そして私達は歩き出す。

 オルガさんは獣人だけって、締まった筋肉質の体をしている。
 動きも俊敏そうだ。
 髪は茶色のショートカット。
 頭の上にちょこんと茶色の耳が載っている。
 オルガさんはボーイッシュで、女性冒険者のファンも多く人気も高い。

 なにを思っているんだ私は?

 そして繁華街を過ぎ、宿屋の前に立ち止まった。
「ここが私とエリアス君が泊っている宿屋よ」
 宿屋を教えて何の意味があるのだろうか?

「6日後の指名依頼までここに滞在しているの」
 はあ?
 そう言ってオルガさんはまた歩き出した。
 少し歩くと立派な大きな宮殿の様な豪邸が見えて来た。

 あれ?
 こんなところにあったかな?
 時々この道を通るけど、数日前はなかったはずだわ。
 どこの公爵様の別邸?
 塀も3m以上あり高く立派な作りだ。
 でも門番が居ない。

「さあ、中に入りましょう」
 そう言ってオルガさんは、その豪邸を指差した。

 え?

 門は鉄製らしく片門で、幅2mくらい高さ3mくらいの大きさだ。
 オルガさんは、門のところに鍵を入れ回した。

 なぜオルガさんが、この家の鍵を?
 カチ!と音がして門の鍵が開く。

 片手で門を押して中に入る。
 門は静かに開いた。

 庭も整備されており、門から屋敷まで石畳が引かれている。
 そしてその建物は、見たことも無いような作りの3階建てだった。

 1階から3階までの各部屋には、ガラス窓になっている。
 いったいどれほどのお金が掛かっているのだろう?
 ガラスは加工が難しくとても高価だ。
 私が両手を広げた幅くらいでも、眼が飛び出るくらいのお金は掛かるはず。
 それをこんなにふんだんに使うなんて。


「オルガさん、ここは…」
「まあ、それより屋敷の中を見て」
 そう言われ私は屋敷の中を案内される。

 正面は大きな階段があり、左右はフロアになっている。
 一階はホール、大階段、食堂、客間、台所、洗濯場、風呂場。
 そして各水場には蛇口と言う物があり、捻ると水とお湯が出た。
 これで毎日、お風呂に入れるそうだ。

 二階、三階は部屋が七部屋ずつと各階にもトイレが付いている。
 驚くのはトイレで陶器で座れるような作りになっており、後ろにタンクがおり水か流れるようになっている。
 その中にフロートを浮かせ水が無くなると、水属性の魔石から水が出てタンクを満たすようになっている。
 そして水圧を利用しノズルが出て、水が出るようなっていた。

 アウッ!
 不覚にも初めて使った時に、私は声を出してしまった。
 ウォシュレットの素晴らしさをこの日、知ってしまったのだ。


 各部屋には照明の魔道具が付いている。
 こんな贅沢なお屋敷は見たことない。

 どこの皇族のお屋敷なの?
 いいえ、お金を出せば建てられる限度を超えて言うわ。
 そんなところの建物の鍵を、どうしてオルガさんは持っているの?
 実は獣人世界の令嬢?
 それ以前に、どうして私をここに案内したの?

 オルガさんが口を開く。
「依頼が終わり戻ってきたら、私とエリアス君はここに住むのよ」

 えっ?!

 そして耳を疑うような言葉を更に聞いた。

「ここはね、エリアス君が魔法で作った建物なの。信じられる?」
「ここはね、エリアス君が魔法で作った建物なの。信じられる?」

 え?
 私はオルガさんに言われたことが分からなかった。

「どう言うこと?」
「エリアス君の能力よ。彼は創生魔法と言って、自分の望んだものが創れるの」

「そ、そんな馬鹿な魔法は聞いたことが無いわ」
「あぁ、でも材料が無いと駄目みたいね?」
「材料があっても、そんなことは出来ないわ」
「そうね、でも現実はどう?あなたの目の前にあるものはなに?」

「一流の建築家が何年かかかっても、ここまでの完成度の高い建物は作れないわ」
「でしょうね」
「あなた達はこれから一緒に、ここに住むの?」
「気になるところはそこなの、エージェントさん」
「?!何を言っているのかしら」

「しらばっくれないで。国に情報機関があって諜報活動をしていることは有名よ。そして外部からの人の出入りが多い、ギルドにエージェントが多いと聞くわ」
「でも、どうして私がそうだと思うのよ?」

「エルフだからよ」
「エルフが珍しいの?」

「珍しいわ。森の種族と言われているエルフが、堂々と人族の中に紛れて生活をして居るなんて」
「そんなの、人それぞれでしょう」
「いいえ違うわ。長生きな種族や、美形の種族は人族の中では暮らしづらいはずよ。特にエルフは美形だから、貴族の玩具になりやすい」

「そんな事はないわよ。今まで私は一度もなかったわ」
「それは国に守られているからよ。エルフとして街に住み、身の保証してもらう代わりにエージェントになる。違うのかしら?」

「もし、わたしがそのエージェントだったらどうするの?」
「エリアス君を守ってほしいの」

「守る?」
「そう、彼は世間知らずだから常識が少しずれているの。だからいずれはマジック・バッグに目を付ける人が出てくるわ。そしてこの家よ。廃墟寸前の家があったところに、一晩で見たことも無いような宮殿が建っている。商業ギルドのこの場所を売った人が見たら、驚くどころではないはずよ」

「それは、きっとそうね」
「そして人とは違う事をこれから、やり始める可能性があるわ。だからよ」

「そうね、私がエージェントなら、きっと目を付けるわね。容量が多いマジック・バッグ。自分の望んだものが創れる創生魔法が、もし本当なら大変な能力よ」
「ほんと、そうね」

「彼一人で軍事的な戦略も考えられるわ。物資輸送が楽になり、自分の望んだものが創れるら。材料があれば武器が作れると言うことだもの」
「そういう事になるわね。それにエリアス君は5属性魔法が使えるのよ」
「ご、5属性?!」

「そうよ。普通3属性でも凄いのに。でも彼は誰にも指導を受けていないから、やり方が分からないのよ」
「それは勿体ない。使える属性はわかる?」
「ええ、聞いてるわ。火、水、氷、風、光よ」
「ひ、光魔法ですって?!光魔法を使える人なんて、100年に1人くらいしか現れないのよ。貴族が聞いたら彼の光魔法を取り込むために、娘の婿にならないか!てたくさんの誘いが来るわ」


 この世界は剣と魔法の世界だ。
 それも魔法が失われない様に、貴族は魔法を使えるもの同士の婚姻が多いと聞く。

 そして魔法を使えない子供が生まれるとよほどの才能が無い限り、長男でも当主になることはできない。

 庶民でも魔法が使えれば、王宮に雇って貰えることがあるくらい貴重なことだ。

 生活魔法が使えてそれを鍛えることにより、攻撃魔法や回復系魔法が使えるようになるからだ。

 エリアスは転移前に『剣と魔法の世界』と聞き、誰でも生活魔法程度は使えると思っていた。
 だからオルガにも、簡単に話してしまったのだった。


「面白そうね、わかったわ。出来る限り彼を守ってあげるわ」
 やっぱりエージェントだったのね。
「あっ、言っておくけど私はエージェントではないわ。知り合いの親戚の、その友達の同僚の、家族の友達がエージェントらしいから頼んでおくのよ」
 誰よ、それ!
 バレバレでしょ。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 俺はオルガさんと別れ、商業ギルドに向かっている。
 『味元(あじげん)』の納品に行かないと。

 商業ギルドの中に入ると、受付にノエルさんがいた。
 
「こんにちは、ノエルさん」
「ようこそいらっしゃいました、エリアス様。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「はい、調味料『味元』の納品にきました」
「伺っております。こちらの倉庫へお願いします」

 そう言って俺は奥のドアを通り、倉庫に案内された。
 
「では、ここにお願いします」
「はい」
 俺は言われたテーブルに、ストレージから『味元』の入った入物を200個出した。
「まあ?!」
 あれ?マジック・バッグて、珍しくないはずだよね??

「確認してください」
「あっ、はい、はい」
 返事は1回ですよ。入社の時に習いませんでしたか?
 しばらくしてから、確認が終わった。

「それでは『味元(あじげん)』は1個2,000円で200個ですから400,000円。そこからギルドの税金10%を引きますので、360,000円のお支払いになります」
「ありがとうございます」
 俺はそう言ってストレージにお金を仕舞った。

「エリアス様はマジック・バッグに、みんな入れておくのでしょうか?」
「ええ、そうです。がさばりませんから」
「余計な事とは思いますが、盗難などの事を考えるとお金は分けておかれた方が…」
「あ、それは大丈夫です。盗まれることはありませんから」
「それはどう言う?」
「俺以外は(時空間魔法なので)使えませんから」

「そ、そうなのですね。凄い機能が付いているのですね」
 使用者認定機能が付いているのかしら?

「えぇ、便利ですよ。それから明日から6日後にギルドの依頼で、2週間くらいこの街を離れますから。戻ってきたら『味元』の反響を聞きに、顔を出しますから」
「わかりました。それからでしょうか、購入されたお屋敷の改築は?」
「それなら、もう済みました」
「え?!済んだ?!」
「俺、やることが早いんで。依頼から戻ってきたら、新居に住もうと思ってます」
 そういう問題では…。

「わ、分かりました。楽しみですね」
「ええ、そうなんです。ではまた!」
「はい、ありがとうございました」




 私はノエル。
 仕事帰りに少し遠回りをして帰った。
 エリアス様の購入された物件が気になったのだ。
 そんな短時間で出来るわけがない。
 それほど、老朽化が進んでいたのだ。

 私は目を疑った。
 何度も何度も目をこすったが、変らなかった。

 そこには高くて立派な塀に囲まれた屋敷があった。
 遠目からも分かる宮殿の様な大きさ、見たことも無い作りの建物のデザイン。

 そしてどれだけの財を投資すれば出来るのだろう。
 3階建ての各部屋は窓ガラスになっていた。

 
 『もう済みました』

 これは改築ではなく、建て替えだ。
 しかもまだ2日しか経っていない。
 いったいどうやれば…。



 翌朝、私は一番にギルドマスターに向かった。

「ギルマス、お話が…」
「おぉ、ノエルか。いったいどうしたんだ、こんなに早く」
「実はエリアス様の事ですが、彼は…」
 私が話そうとするのを、ギルマスは手を伸ばし止めさせた。
「彼の事なら、もう干渉は出来ない」
「どうしたのですか?」

「国から不干渉(ふかんしょう)条例が発令されたんだ」

「えっ?!」

 私はエリアス様のことを話そうとした。
 するとギルドマスターのアレックさんからそう言われた。

 不干渉条例
 それは国が総力を挙げて守る、対象となる人のことを言う。
 国宝級の才能や能力を持つ人を庇護するためにある条例だ。
 この対象に選ばれた人は24時間、影から専用の組織が身の回りを守ると聞く。
 国の重鎮に選ばれたと言っても、過言ではないだろう。

 そうね、あれだけのお屋敷を簡単に、建て替えできるなんて。
 おかしいと思ったのよ。



 私は商業ギルド、ギルドマスターのアレックだ。
 朝早く国から早馬が来た時は、驚いたものだ。

 しかし『味元(あじげん)』が、食の革命をもたらす可能性があることを国も認めたのか?
 どこから嗅ぎつけて来たのか?
 この世界の国々は女神ゼクシーを仰ぐ、シャルエル教が絶対信仰だ。
 そのため一国より力を持つ教団から、侵略や戦争は認められていない。

 他国とのやり取りは外商がどれだけ優位に働くかしかない。
 
 それほどのことなのか、エリアスという男が作る『|味元(あじげん)』は。
 俺は商業ギルドを出た後、その足で武器屋に向かった。
 もうそろそろ頼んでおいた剣が、出来ている頃だと思う。

 ドアを開けブルーノさんを呼んだ。
「ブルーノさん、いますか?ブルーノさん」
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるさ」

「剣がそろそろできた頃かと思いまして」
「丁度、できているぞ。ほれ、そこにある」
 
 台の上には、1.5mはある長剣、いいや大剣が横たわっていた。
「打ち上げるのが大変だったぜ!」
 そう言いながら作り上げた満足感からか、ブルーノさんは笑った。

 俺は剣の柄を握り持上げる。
 刀身が赤黒く光っている。
 なんて綺麗な剣なんだ。

「ヒヒイロカネを混ぜたら、なぜかそんな色になってな」

「綺麗な剣です。まるで黒作大刀(くろづくりのたち)
「黒作大刀か。ぴったりな名前だな」
「こんな素敵な剣を、ありがとうございました」
「裏庭で少し振ってみろ。バランスを見たいからな」
「わかりました」
 俺はブルーノさんから、剣が出来るまで借りていたクレイモアを返した。

 シュン!!シュン!!シュン!!シュン!!

 俺は言われた通り、裏庭に出て剣を振った。
「丁度いいバランスです。とても持ちやすく振りやすい」
 片手でも両手でも扱えるように、柄の長さを2握りから1.5握りくらいにしている。

「そんなことを言うのはエリアスくらいなものだ。なんせ両手剣の材料で片手剣を作り、それを振っているんだからな。そんな軽々しく剣を振るうお前の筋力はどうなっているんだ?」
「あははは、どうと言われても」

「まあ、何かあったらこいよ。定期的に剣の手入れも必要だからな」
「はい、それからミスリルや、ヒヒイロカネのような鉱物は俺でも買えますか?」
「買えないことは無いが、いったいどうするんだい?」

「少し、考えていることがありまして…」
「考えていること?いったいなんだ?」
「それは言えませんよ~」
「そうか、エリアスは鍛冶屋ではないから、鍛冶組合に入っていないから手に入れることはできないな。俺経由で良ければ、売ってやろう」
「ありがとうございます。でも武器にできる鉱物て、どんな種類があるんですか?」
「鉱物か、そんな事も知らないのに欲しいと言うのか」
「はい、すみません…」


「なら、教えてやろう。まずミスリルだ。魔力をよく伝導するので、魔法剣などに使える。アダマンタイトは非常に重く硬い。魔法を通しにくいのが特徴だ。オリハルコンはミスリル以上に魔法を通し、アダマンタイト並に硬い。まあミスリルやアダマンタイトの上位鉱物と言うところだ。緋緋色金(ヒヒイロカネ)は名前の通り赤い金属で、高い熱伝導性を持ち硬い金属だ。オリハルコンと同格だが、剣士が炎系の魔法を付与できるなら迷わずこちらだ。まあ、こんなところだな」

「ありがとうございました。一番安いのはどれでしょうか?」
「金額的にはミスリル、アダマンタイト、オリハルコンまたは緋緋色金(ヒヒイロカネ)だな」

「ミスリルで剣1本作れるくらいの材料だと、おいくらぐらいでしょうか?」
「それを言ったら原価が分かっちまうだろうが。まあ、いいか。ミスリルで200万くらいだ。そしてアダマンタイト、オリハルコンになると倍の倍だ」

「そ、そんなにするのですか!!」
「滅多にとれない鉱物だからな、高いんだよ。いくら金を積んでも、無いときは手に入らないからね」

「そんな高価なヒヒイロカネを交ぜた剣を、俺は10万で作ってもらえるなんて!」
「良いってことよ。試験的に作ったようなものだからな」
「では、頂いて行きます」
「おう、またこいよ!」

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 俺は武器屋から出て宿屋に戻った。

「お帰り~、エリアスお兄ちゃん。オルガお姉ちゃんは、もう部屋に戻ってるよ」
 この宿屋の一人娘アンナちゃん10歳だ。

 あれから俺達2人は相部屋に移った。
 あの後、オルガさんに部屋は別々と言うのも無駄だから、と言われたからだ。

「ただいま!」
「お帰り!」

 俺は部屋の入った。

「どこに行ってたのエリアス」
 いつの間にか気づいたら、オルガさんは俺のことは呼び捨てにしていた。
「商業ギルドに『味元(あじげん)』を納入して、武器屋に行って剣を取りに行って来たんだ」
「そうだったのね。私にも剣を見せてよ」
「いいよ」
 そういうと俺はストレージから、黒作大刀(くろづくりのたち)を出して見せた。
「凄いわね、私のバスターソードも長剣だけど、さすがにここまでは長くないわ」

 それはそうだ。
 黒作大刀(くろづくりのたち)は、全長150cmある。
 俺の身長は172~3cmくらい。
 自分の身長に近い剣など、普通は移動や重さを考えると作らない。
 それに鞘に入れてもすぐに抜けないから、戦う準備に時間が掛かり不便だ。
 でも俺のストレージなら、鞘代わりとなり移動にも支障はない。

「ちょっと、持たせてもらってもいいかしら?」
「どうぞ!」
 俺は片手で持った剣をオルガさんに渡した。

 えっ?!

 ゴトッ!!

 俺と同じように片手で剣を受け取ろうとしたオルガさんは、危うく落としそうになった。

「エリアス、よくこんな重い剣を持てるわね」
「えぇ、力はあるみたいで、テヘ?」
「テヘじゃないわよ。獣人の私が重いと思うのよ。本当にエリアスは人族なの?」
「そんなことを言われても」

 俺にもわかっていた。
 転移してきた当初に比べると、ステータスが全体的に上がっているのだ。

 この世界に体が馴染んできて、本来の能力に目覚めたような感じがする。
 とにかく体力が有り余って仕方ない。

 夕方なので宿屋の食堂に行き、夕食を食べる。
『なごみ亭』は食堂も兼ねており、食事だけでも食べれるところだ。

 そして最近は『味元(あじげん)』のおかげで人がたくさん来るようになったそうだ。
 店も賑わい席も空いていないことが多くなった。
 これも『味元(あじげん)』のおかげさ、とビルさんは喜んでいた。

 そして『味元(あじげん)』は店頭で販売が始まるまでは、俺が店頭価格と同じ金額でビルさんに売ることを約束している。

 俺達は夕食を食べ終わり、部屋に戻った。
 この世界はTVやPCもなく、夜はする事が無い。
 若い男女が部屋に2人いれば、することは1つ…。

 

 あぁ~~~~ん!!
 もう駄目~。
 獣人である私の方が先に根を上げるなんて。

 もうエリアスの体力に、付いて行けないわ~。
 いったい、どうなっているのかしら?

 私、1人ではもう体が持たない…。
 誰か探さないと。
 俺達は前の日、寝るのが遅かったので、当然朝起きるのも遅かった。
 1階の宿屋の食堂に降りて、朝食を頼んだ。

 忙しい朝の時間が過ぎたところで、1階は落ち着いていた。
 すると宿屋の一人娘アンナちゃんと、サリーさんとの会話が聞こえた。

 アンナちゃんが母親であるサリーさんに聞いていた。

「ねえ、お母さん」
「なあに、アンナ」

「最近、猫さんがいるの」
「猫さん?」

「そう毎晩、夜になると、にゃ~、にゃ~鳴いてるの。でも普段、どこを探しても猫さんなんていないのに。夜だけいるのよ?ねえ、どうして??」

「「「 ぶぅ~~!! 」」」

「汚いな。エリアスお兄ちゃん。噴き出して」
 10歳のアンナちゃんに怒られた。

 見るとビルさんはニヤニヤし、サリーさんはなんて答えていいのか分からない、という顔をしている。

 

 俺とオルガさんは、さっさと食事を済ませ2階の部屋に戻った。
「オルガさん」
「なんでしょう?エリアス」
 さっきの話を引きずっているのか、しおらしい。

「ちょっと早いけど、屋敷に住みませんか?」
「そ、そうね。そうしましょうか」
 依頼から戻ってきてからと考えていたけど、夜の事を思うと早く引っ越した方が良いかもしれない。

「何が必要なのかわかりませんから、まずは屋敷に行きましょうか。そしてその後は、果物採取でも行きますか?」
「いいわね!そうしましょうか」

 俺達は宿屋をでた。
 俺達の屋敷は泊っている『なごみ亭』から、数十軒先のところだ。

 そう言えばこの前『なごみ亭』のビルさんが、この先のボロボロの屋敷が突然、宮殿になった、と騒いでいたな。
 大げさだな、俺の能力なんて大したことないのに。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

「エリアス君、オルガさん!」
 歩いていると声を掛けられた。
 声のした方角に振る帰ると、冒険者ギルドの受付アリッサさんだった。

「どこに行くの?2人とも」
「実は屋敷を買いまして。住むのに必要な物を買おうと思い、その前に何が必要なのか見に行こうと思いまして」
「あぁ、あの凄いお屋敷ね」
「知っているんですか?」
「えぇ、この前オルガさんに案内されて、ちょっとだけ見て来たから」
 なんだ、2人とも仲が良かったんだ。知らなかった。

「私もご一緒していいかしら?今日は非番で時間があるのよ」
「どうぞ、面白くはないですよ」
 そう言いながら、俺達は歩き出す。

 高い門に囲まれた屋敷が見えて来た。
 高さ3mはある門に鍵を入れ開ける。

 ギィ~~~!!
 やっぱり門が鉄製で、重いから変な音がするな。
 
 そして門から続く石畳を歩き、玄関を開けた。
 それから三階に上がった。
 まずはオルガさんの部屋からだ。

「まあ、広い!」
 オルガさんの部屋を開け中に入ると、アリッサさんが驚いていた。
 あれ?この前、見たんじゃないの?
 まあ、いいか。

 二階と三階にある部屋は、各部屋12畳はある。
 無駄に広い敷地だから、屋敷も大きくしたんだ。

「ではまず必要なのは、ベッド、4人掛けのテーブル、椅子4つ、タンス、三面鏡ドレッサーと椅子のセットくらいかな?」
 そう言いながら俺はストレージの中で『創生魔法』で同時に創っていた。

「はい!出来上がり!!」

 そう言いながら俺はストレージから、全部を出していった。

 ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

「ねえ、エリアス君。これは何かな?」
「え?アリッサさん。見たことないんですか?ベッド、テーブル、椅子…」

「そうじゃなくて!『創生魔法』て、やつなの?」
「あぁ、オルガさんから聞いたんですね。そうですよ」

 なんだ、『創生魔法』て、オルガさんがアリッサさんに言うくらいだから、大した魔法じゃなかったんだ。
 そうだよな、そんな大層なスキルなら、女神様が簡単に授けてくれる訳ないよな。

「この鏡が三枚付いているのは何なの?」
「これは三面鏡と言いまして鏡が前と左右の板に三面に付いています。こうして左右に板を出すと前と左右から髪型が見えて分かりやすいんですよ」

「買うわ!!おいくらかしら?」

 え?

「だから、その三面鏡やらが欲しいのよ」

「でも、売り物ではないので…」

 エルフは森の民。
 森から離れて長いアリッサは三面鏡の材質に使われてえいる、オレンジ色のマホガニーの木の匂いがたまらなく懐かしかった。
 それにこの世界では鏡自体が珍しく、高額だった。

 すると突然、オルガさんが言い出す。
「譲ってあげても良いわよ。でも条件があるわ」
「条件?」
「アリッサさん、あなたは今、住む場所はどうしているの?」
「宿屋よ。賃貸で家を借りるより、食事付きの宿屋の方が安いから」

「それならここに住めば?」
「「 えっ?! 」」
 俺とアリッサさんが、同時に声を上げる!!

「エリアスは、このお屋敷を建てた時に言ったわよね?『この広い屋敷に2人きりなのね』と私が言ったら、『まあ、その内、人も増えると思いますから』て」
「えぇ…」
 言ったかな?

「それはアリッサさんのことだったのよね?ねっ?ねっ?」
「えっ、…えぇ…」

「だって私と同じように『ジャム』をあげたでしょ?」
「えぇ、まあ…」

「それに『季節ごとに森の果物は季節ごとに違うから、その都度たくさん採ってきますね』て、彼女に言ってたでしょう??」
「は、はぁ…」
 そ、そんなことは覚えて…。

「まあ、そんなに私のことを。この宮殿の様なこのお屋敷も、私の為に用意しただなんて…!!」
 アリッサさんは、感動して喜んでいる。


「さあ、君のために住むところを用意したよ!
    まあ、エリアス君。私の為にこんな豪邸を…。
 いいや、君の美しさの価値に比べたら、こんなちっぽな家なんて…。
    そこまで、私のことを…。
 もちろんだよ、アリッサ。君は天に浮かぶ、月の様だ。
 追いかけても、追いかけても空に逃げて行ってしまう!
 だから俺は、ここに君を縛り付けておきたいんだ。
 いいだろう、アリッサ!!」

「はい!エリアス君!!」

 オルガさんが身振り手振りで何かを言い、アリッサさんがそれに答えている。
 どうやら寸劇が終わったようだ。

「エリアス君、仕方ないわね。あなたの熱意には負けたわ。今日は無理だけど、明日からなら来れるからね?」
 ね?と言われても。

「よかったな、エリアス。アリッサさんが明日から、来てくれるってさ」
 なぜかオルガさんが、とても乗り気だ。
 普通は他の女性を入れるのは、嫌がるのでは?

 でも話は進んで聞く…。
 もう断れないよね、きっと。
 でも、なぜか嫌じゃない。
 きっと俺は誰かにグイグイ押され、振り回されるのが好きなのかもしれない。
 M男君と呼んでおくれ。

「それにシャワートイレの素晴らしさの虜になったのよ」
 そこですか?!

「へ、部屋はどうしますか?」
「オルガさんがエリアス君の部屋の右隣なら、私は左隣が良いわ」
「それからオルガさんと同じ、いいえ、少しデザインの違う家具をちょうだい!」
 そう言われアリッサさんには、花模様を彫った家具を創って出した。

 するとオルガさんがヘソを曲げたので、仕方なく違うデザインの花柄の家具を再度、創って出した。
 結局、最初に出した家具は俺用となった。

 その後、俺達3人はアバンス商会に寝具を買いに行った。
 俺達3人はアバンス商会に寝具を買いに行った。

 アバンス商会に入ると丁度、アイザックさんがいた。
「これは、これはエリアス様にオルガ様。そ、それに疾風…」
「ウゥッン!!」
 アリッサさんを見て、アイザックさんは驚いたように何かを言おうとした。
 しかしアリッサさんの咳払いが、それを遮った。

「こ、これは冒険者ギルドのアリッサ様まで、本日はどの様なご用件で」
「寝具を3人分、買いに来ました」
 俺が代表して言った。

「3人分でしょうか?」
 アイザックさんが、怪訝そうな顔をしている。
「3人で住むことにしたのさ」
 オルガさんが答える。

「さ、3人でですか?それは、それは…」
 それは驚くだろう。
 冒険者でEランクの俺がAランクのオルガさん、受付のアリッサさんと住むというのだから。

「これは皆様、先見の目がおありで。きっとエリアス様は、いずれ名を残されるでしょう」
 何を言っているんだアイザックさん?
 
「あぁ、そうだな。エリアスは、それまで私達で大事に守って行かないと」
 オルガさんが、力強く言う。
 あぁ、やっぱり。
 俺は誰かに守られないと、やって行けないくらい弱いという事か…。

「そうだ、エリアス。アイザックさんに見てもらいなよ。お前が造った木工家具を」
「木工家具でしょうか?」

「あぁ、こう見えてもエリアスは、木工家具が作れるんだ。ほら家にあるやつと同じものを1セット持っているだろう、エリアス見せてあげて」

 なにを言っているんだオルガさんは?
 仕方なく俺はアイザックさんに背を向け、見えない様にストレージの中で『創生魔法』を使い家具を創って行く。

 ストレージ内で作業をしている時は、パソコン画面の操作と同じになる。
 目の前の空間をタップしながら目を動かしている。
 傍から見たら『壊れた』と思われるからだ。

 俺はベッド、4人掛けのテーブル、椅子4つ、タンス、三面鏡ドレッサーと椅子のセット空いているスペースに出した。

「こ、これは…」
 アイザックさんは、家具に驚いている。

「この家具の表面の艶は、なんという見事さか…」
 家具をストレージ内で創る時に、風魔法で表面をツルツルに削っているんだ。

「そしてこの鏡は…」
 するとアリッサさんが自慢げに話し始める。

「これは三面鏡と言って、鏡が前と左右の板に三面に付いているの。そして左右に板を出すと前と左右から、髪型が見えてとても分かりやすいのよ」

「こ、これをぜひ、私に売ってください!!」
 は?なにを?

「分かりました。交渉はエリアス君の秘書である、私アリッサが対応いたします」
 いつから、俺の秘書に?

「私も入るよ」
 そうオルガさんも言いながら、3人で話始めている。

「この家具を定期的に卸して頂けませんかな?」
「いいですよ、それなら柄を少しずつ変えシリーズ化しましょう」
「良いですね、オルガさん。同じものは無いということね」

「そうよアリッサさん、その方が価値があるでしょ?」
「どのくらいのペースで卸して頂けますかな?3~4ヵ月に1度くらいでしょうか?」
「そうね、エリアスは手先が器用だから、月に1度、いいえ2度でも納入可能よ」
「そ、そうですか、それだと値段に困りますな」
「どういうことかしら」
 アリッサさんが聞く。

「3~4ヵ月に1度と、月に2度では付加価値が違うのです」
「あぁ、数が作れない方が高く売れるのね」
「ええ、その通りです」
「それなら、売れたら次を作るのでも良いわよ」
 オルガさんも、それに答える。

「では、そう致しましょう。それで買取の値段ですが…」
「それはないでしょう!」
「では、これくらいで…」
「あと、もう一声!」
「もう、これが限界ですよ」

「「 わかりました!! 」」

 どうやら買取金額が決まったようだ。

「エリアス君、買取金額が決まったわよ。100万で良いわよね?」
 へ?
 アリッサさんが何事も無いかのように言う。

 そんなにもらえるなら、冒険者辞めようかな…。
 今度の指名依頼は王都まで14日くらいで、1日8,000円だから112,000円だし。
 この世界では人件費が安いから、仕方ないけど。


 そして家具は売れたら次を作って納品することになった。
 
「エリアス様達は、どちらの宿にお泊りで?今後の連絡もありますからな」
「あぁ、それなら明日から宿屋ではなく、屋敷に移るから」
 オルガさんが、すかさず答える。
「屋敷を買われたと?」
「『なごみ亭』の並びの屋敷跡だよ」

「あぁ、あの屋敷跡ですか!土地代は安そうですが、改築費が大変そうですな」
「それが改築は、もう終わったよ」
「ええっ、もう終わったと?」
「エリアスは大工仕事が得意で、1人で改築したのさ」

 1人で?

「そ、それは凄いですな。落ち着かれたら、お邪魔してよろしいでしょうか?」
「もちろんよ、いつでも来てくれよ」

 アバンス商会のアイザックさん、オルガさん、アリッサさん3人の間で、話が進んで行く。

 俺は家具を出してから『へ?』しか、声を出していない。
 翻弄される人生か…、なんて。
 この世界に疎い俺の為に、オルガさんやアリッサさんはよく面倒を見てくれる。
 良い出会いがあって良かった。
 



 アバンス商会で寝具を買い、俺達はアリッサさんとそこで分かれようとした。
「これから2人はどうするのかしら?」
「俺とオルガさんは時間があるので、これから果物採取に行こうと思ってます」
「く、果物?!私も行くわ、弓と防具を着るから私の宿屋まで来て」

 そんなに果物が好きなんだ。
「でもアリッサさん大丈夫ですか?森に行くんですよ」
「ギルド職員だからと侮らないで。私はAランクレベルだから」
「そ、そうなんですか?凄い!」
 冒険者ギルドに勤めていれば荒くれ者も多い。
 だからギルマスのように強い人が後ろに控えているだけで職員は安心して働ける。


 それならいいだろうと装備を取りに、アリッサさんの泊っている宿屋に寄った。
 すると宿屋と言うより、立派な高級ホテルの様なところだった。

「冒険者ギルドは、よほど給料が良いんだな」
 オルガさんがアリッサさんに言う。
「昔、貯めたお金であって、そのお金で泊っているのよ」
「へ~、豪華なもんだな」
「まあね。じゃあ、ここで少し待っててね」
 そう言われ俺達はロビーで待つことにした。

 しかしアリッサさんはスタイルが良い。
 身長は163~5cmくらいかな。
 そして胸が…。


 しばらくすると銀色の髪を束ねた、アリッサさんが戻って来た。
 レーザーアーマーを着て、やや大ぶりな弓を持ちいかにもエルフて感じだ。

「お待たせ!さあ行きましょうか!」

 そういうアリッサさんは、とても凛々しく見えた。
 俺達3人は城門を出た。

「オルガさん。今日はこの前行ったところから、奥に行ってみますか?」
「そうね」
「アリッサさんは走るのは得意ですか?」
「もちろん得意よ。こう見えても昔は疾風…、な、何でもないわ。」

 な、なんだろう?
 そう言えばアバンス商会のアイザックさんも、何か言いかけてたけど。
 まあ、エルフのアリッサさんは250歳だから、長生きしていれば色々あるよね。


 あ、危なかったわ。
 危うく昔の(あざな)を言いそうになったわ。
 私が『疾風(しっぷう)のアリッサ』なんて呼ばれていたのは、今から150年くらい前よ。
 ドラゴンが街を襲い5人の仲間と戦ったドラゴン大戦。
 その時に私も活躍し付いた(あざな)よ。
 でもそんな(あざな)は、絵本の物語の中でのお話しよ。
 その当時の人族はもう、誰も生きていないから。

 エリアス君にはいずれ言うにしても…。
 今は17~8歳に見える、このままの年齢だと思っていてほしいわ。

 
「じゃあ。走りますよ。それっ!」
「ずるいぞ、エリアス!」
 エリアス君はオルガさんの前を走り始める!!
 
 私も少し手を抜いて走らないと。
 エルフである私は風の魔法が得意で、身に纏えば体を軽くし早く走れる。

 タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!
    タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!

       タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!タッ!!

 あれ?は、早い。
 さすがオルガさんは虎猫族だけある。
 でもそのオルガさんが、エリアス君には追いつけない!!

 でも魔法で身体強化しているようには見えない。
 体からは魔力を感じないけど。

 そう、まるでオルガさんと同じように、素の力で走っているように見えるわ。
 エリアス君てなに者なの?

 
「到着~!!」
 エリアス君は1番、オルガさんは2番、そして私が最後だった。

 はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、
   はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、

 私とオルガさんは、息が荒くなっている。
 でもエリアス君は、普通で一切乱れていなかった。
 体力が私達とは違う…。

 しかしこんな森の奥まで来るなんて。
 オルガさんはAランクの冒険者だからわかるけど、エリアス君はまだEなのよ。
 2人でこんなところまで来て、なにをしているの?


「じゃあ、いきます。【スキル】エリアサーチ発動!」

 エリアス君の体から魔力が立ち込める。

「何をしているの?エリアス君」
「はい、広範囲に鑑定魔法を使って魔物の魔石を捜しているんです」
「鑑定魔法を使えるの!!」
「えぇ、使えます。でも普段、使い道が無くて」
「そ、それはそうだと思うわよ」

 鑑定魔法を使えるだけで凄いことよ。
 使える人はほんの一握りで、使えるだけでたくさんの婚姻話が届くはず。
 一国の王が頭を下げて、好待遇で迎えてもおかしいくないのよ。

 なぜって物の本質が、分かるなんてありえないのよ。
 遺跡から発掘された何に使うか分からないものを鑑定でわかったり。
 人に対して使えば、ある程度の能力も分かってしまうから。

 そう言えば先日、オルガさんと同じような話をしたことを思い出した。

 容量が多いマジック・バッグ。
 自分の望んだものが創れる創生魔法。
 そして魔法が5属性も使える。
 どれ1つとっても国が好待遇で迎えてもおかしくない能力。
 そしてそれを1人で行える彼の危険性…。
 彼の能力は戦争や国盗りにも使える能力だから…。
 秘密にしなければ…。
 守らなければ…。


 エルフ族は寿命が500~1,000年くらいある。
 寿命が長い分、なにかを追求する者が多く探求心が強い。

 だから彼の能力を見極めたい。
 そんな彼の側に居たい。
 この先、エリアス君がどうなるのかを見守って行きたいわ。

 そして出来れば、彼の子供が欲しい。
 エルフの長寿命や風魔法。
 そこに彼の能力の1つでも加われば、どれほどの子供が生まれるのか。
 強い子孫を残したい。
 それはどの種族でも同じだ。
 もしこれを知ったら各種族間でエリアス君の、子種の取り合いが始まるわ。
 私もその相手になりたい。

 そ、そうだわ。

 私はとっさにエリアス君と腕を組んだ。
「アリッサさん、なにをやっているんですか?」
 エリアス君が、照れた顔をしている。
 可愛い~。




 わっ、なんだ。
 アリッサさんが突然、腕を組んできた。

 オルガさんもそうだけど、森に入ると腕を組むのが常識なのかな?

 しかしレザーアーマー越しでは、当たっても分からん。
 実に()しからん装備だ。

「ねえ、エリアス君。さっきから何か言ってるけど、誰と話しているの?」
 ま、まずい!口に出ていたのか?

「さすがに魔物が居るから、レザーアーマーは着ないと危ないからね」
 え、もしかしたらアリッサさんは、相手の思考が読める超能力があるのか?

「今度、一緒に住む様になったら、いくらでも腕を組んであ・げ・る・か・ら・ね」

 ブゥ~~~!!
 普段はアーマーを着ていないから、リアルに当たるではないか?!
 そんな至福の時よ、早く来い~!!



 すると右側に少し大きめの魔石の反応がある。
「オルガさん、右側です。行きま~す!」
「あぁ、わかった!」




 オルガさんとエリアス君だけに分かる会話ね。
 さすが息が合っているわ。
 でも何が右側なんだろう?

 エリアス君が右側に走る。
 その後をオルガさんと私が追う。

 
 するとそこには体長1m、全長2mはありそうなワイルドボアがでてきた。
 エリアス君を目掛け、突撃してくる。

 あ、危ない!
 エリアス君!!

 するとエリアス君は、左肘を出し腰を落として構えた。
 まるで見えない、盾を付けているかのように。

 そして、その瞬間!!

〈〈 ボンッ!! 〉〉

 音がしたかと思うとワイルドボアは、エリアス君の左腕に突撃し止まっていた。

「今です、オルガさん!!」
「あいよ!!」

 横からオルガさんが飛び出し、ワイルドボアの首をミスリルソードで一刀する!!

〈〈 ズガッ!! 〉〉

 シュウゥ~~~~!!

 ワイルドボアの首から血が噴き出し倒れ込む。

 ドサッ。

「ふぅ~。この手が一番効率が良くていいな」
「そうですね、オルガさん」


 私は腰を手に当てながら2人に言った。
「そうですね、じゃないわよ!あなた達はいったい何をしているのよ?!」
「そうですね、じゃないわよ!あなた達はいったい何をしているのよ?!」

 何を怒っているんだろう、アリッサさんは?

「私にはエリアス君がワイルドボアを片手で防いで止めて、その隙にオルガさんが首を一刀両断にしたように見えたわ」
「えぇ、その通りです」

「『その通りです』じゃあ、ないわよ!普通は出来ないわ、あんなこと!!」
「そうなんです、さすがはオルガさんです。ワイルドボアを一刀で仕留めるなんて」

「ち、違うわよ!私の言っているのは…」
「まあ、まあ、アリッサさん。エリアスは、そういう奴なんだよ」

「どういう事よ、オルガさん」
「自分がやっていることが、凄いと言う認識が無いんだよ。なっ、エリアス」
「なんの、ことでしょうか?」
「ほら、これだよ」

「本当にそう思っているのエリアス君?あなた大丈夫??いったいどんなところで育ってきたの?常識は??」
「そんなに言わなくてもアリッサさん。エリアスが困っているから」
「でも…」

「いいかい、エリアス。君のやっていることは普通ではないことが多いんだ」
「えっ?例えばどんなことでしょうか?」

「私が代わりに言うわ、オルガさん。いいよく聞いてね。まず容量が多いマジック・バッグね。そんな容量のマジック・バッグは今まで聞いたことが無いわ」
「持っていても誰にも言わないから、知らないのでは?」

「そ、そうかもしれないわ。でもそれだけでも国宝級の値段が付くのよ」
「へ~?!!」

 俺は驚いた。
 売れるものなら売りたい。
 でもスキルなので、売れないのが残念だと思った。

「う、売ることは出来ません」
「そうでしょうね、もし売ったら世の中が大混乱になるわよ」



「それから自分の望んだものが創れる創生魔法よ。そんな魔法は今まで聞いたことが無いわ」
「これも使えても、誰にも言わないだけなのでは?」
「そんなことは無いわ。使えば結果が残るもの。あの宮殿の様な屋敷のようにね」

 明治時代の西洋館風が駄目だったのか?
 バッキンガム宮殿クラスだと、デカいと思って止めたんだけど。

「でも材料が要ります。だから使いたくても、材料を調達する事が出来ない人なら使えませんから」
「それは、そうだけど。後は魔法が5属性も使えることね」

「えっ?!だって生活魔法ですよ。みんな使えるのでは?」
「ふぅ~~!!」
 アリッサさんはため息をつき、オルガさんの方を見た。
 するとオルガさんは、ね?みたいな顔をした。
 2人でなんだよ?


「普通は3属性でも珍しく凄いのよ」
「へ?」
「魔法はね、生活魔法を鍛えて、攻撃魔法や回復系魔法が使えるようになるの。貴族は魔法を使えない子供は、よほどの才能が無い限り長男でも当主になれないわ。そして庶民でも魔法が使えれば、王宮に雇って貰えることがあるくらい貴重なのよ」

「でも…」
「貴族は『魔法を使えるのは私達だけ』、という特権階級意識が強いの。だから魔法が失わない様に貴族間は、魔法を使えるもの同士で婚姻したり、相手が居ないなら姉弟婚が多いのよ」
「そ、そんな…」

「それも5属性。しかも光魔法なんて、100年に1人の逸材よ」
「でもライトの魔法を使った魔道具はありますよね?」

「えぇ、あるわよ。だからその魔道具を作れる光魔法の持ち主は、今では国で5本指に入る大金持ちよ」
「えっ!じゃあ、俺も明日から作ろうかな?」
「そうね、でも日々、怯えて暮らすことになるわ」
「どういう事でしょうか?」

「能力が高ければ、お金を儲ければ儲かるほど、それを狙う人が出てくるのよ」
「??」
「ライトの魔道具は軍事的にも夜の走行で役に立つ。どの国でも喉から手が出るほど欲しいものなのよ」

 ゴクッ。
 俺は黙ってアリッサさんの話を聞いている。

「そして、その製作者を狙う者が多くなった。その人は大きな屋敷で警戒厳重な警備員に囲まれ、国からも管理され屋敷から一歩も出ることもなく暮らしているわ」
「まるで監禁ですね」
「そうね、人と違う力を持つという事はそういうことよ」
「こ、怖いですね。ブルブル…」
「1つだけでも大変な事なのに、それをあなたは3つも持っているのよ。わかる?」
「はあ、なんとなくは…」


「例えばあなたの魔法属性を狙う貴族に、目を付けられたらどうなると思うの?」
「いいえ、わかりません」

「まずは自分の娘を押し付けてくるわ」
「娘を押し付けてくる?」

「えぇ、そして毎日、毎晩あなたを求めてくるのよ」
「俺を求めてくる?」

「そうよ、あなたと子供をつくれば5属性の内1つでも、いいえうまくすれば3~4属性をもつ子供が産まれて来るかもしれないわ」
「なんか種馬みたいですね?」

「そうよ、ある意味、魔法能力を持つ子供をつくるための種馬よ。そしてあなたが持っていない属性をもつ娘となら更に、6~7属性の子供をつくれるかもしれないわ?贅沢はさせてもらえるかもしれないけど、たくさんの女性を与えられ毎日、毎晩頑張らないといけないのよ。どう?」
「す、凄いですね」


「アリッサさん、エリアス君にそんな言い方をしても、逆に喜ばすだけかもよ?」
「えっ?!オルガさん、どういうこと?」