「ここはね、エリアス君が魔法で作った建物なの。信じられる?」

 え?
 私はオルガさんに言われたことが分からなかった。

「どう言うこと?」
「エリアス君の能力よ。彼は創生魔法と言って、自分の望んだものが創れるの」

「そ、そんな馬鹿な魔法は聞いたことが無いわ」
「あぁ、でも材料が無いと駄目みたいね?」
「材料があっても、そんなことは出来ないわ」
「そうね、でも現実はどう?あなたの目の前にあるものはなに?」

「一流の建築家が何年かかかっても、ここまでの完成度の高い建物は作れないわ」
「でしょうね」
「あなた達はこれから一緒に、ここに住むの?」
「気になるところはそこなの、エージェントさん」
「?!何を言っているのかしら」

「しらばっくれないで。国に情報機関があって諜報活動をしていることは有名よ。そして外部からの人の出入りが多い、ギルドにエージェントが多いと聞くわ」
「でも、どうして私がそうだと思うのよ?」

「エルフだからよ」
「エルフが珍しいの?」

「珍しいわ。森の種族と言われているエルフが、堂々と人族の中に紛れて生活をして居るなんて」
「そんなの、人それぞれでしょう」
「いいえ違うわ。長生きな種族や、美形の種族は人族の中では暮らしづらいはずよ。特にエルフは美形だから、貴族の玩具になりやすい」

「そんな事はないわよ。今まで私は一度もなかったわ」
「それは国に守られているからよ。エルフとして街に住み、身の保証してもらう代わりにエージェントになる。違うのかしら?」

「もし、わたしがそのエージェントだったらどうするの?」
「エリアス君を守ってほしいの」

「守る?」
「そう、彼は世間知らずだから常識が少しずれているの。だからいずれはマジック・バッグに目を付ける人が出てくるわ。そしてこの家よ。廃墟寸前の家があったところに、一晩で見たことも無いような宮殿が建っている。商業ギルドのこの場所を売った人が見たら、驚くどころではないはずよ」

「それは、きっとそうね」
「そして人とは違う事をこれから、やり始める可能性があるわ。だからよ」

「そうね、私がエージェントなら、きっと目を付けるわね。容量が多いマジック・バッグ。自分の望んだものが創れる創生魔法が、もし本当なら大変な能力よ」
「ほんと、そうね」

「彼一人で軍事的な戦略も考えられるわ。物資輸送が楽になり、自分の望んだものが創れるら。材料があれば武器が作れると言うことだもの」
「そういう事になるわね。それにエリアス君は5属性魔法が使えるのよ」
「ご、5属性?!」

「そうよ。普通3属性でも凄いのに。でも彼は誰にも指導を受けていないから、やり方が分からないのよ」
「それは勿体ない。使える属性はわかる?」
「ええ、聞いてるわ。火、水、氷、風、光よ」
「ひ、光魔法ですって?!光魔法を使える人なんて、100年に1人くらいしか現れないのよ。貴族が聞いたら彼の光魔法を取り込むために、娘の婿にならないか!てたくさんの誘いが来るわ」


 この世界は剣と魔法の世界だ。
 それも魔法が失われない様に、貴族は魔法を使えるもの同士の婚姻が多いと聞く。

 そして魔法を使えない子供が生まれるとよほどの才能が無い限り、長男でも当主になることはできない。

 庶民でも魔法が使えれば、王宮に雇って貰えることがあるくらい貴重なことだ。

 生活魔法が使えてそれを鍛えることにより、攻撃魔法や回復系魔法が使えるようになるからだ。

 エリアスは転移前に『剣と魔法の世界』と聞き、誰でも生活魔法程度は使えると思っていた。
 だからオルガにも、簡単に話してしまったのだった。


「面白そうね、わかったわ。出来る限り彼を守ってあげるわ」
 やっぱりエージェントだったのね。
「あっ、言っておくけど私はエージェントではないわ。知り合いの親戚の、その友達の同僚の、家族の友達がエージェントらしいから頼んでおくのよ」
 誰よ、それ!
 バレバレでしょ。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 俺はオルガさんと別れ、商業ギルドに向かっている。
 『味元(あじげん)』の納品に行かないと。

 商業ギルドの中に入ると、受付にノエルさんがいた。
 
「こんにちは、ノエルさん」
「ようこそいらっしゃいました、エリアス様。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「はい、調味料『味元』の納品にきました」
「伺っております。こちらの倉庫へお願いします」

 そう言って俺は奥のドアを通り、倉庫に案内された。
 
「では、ここにお願いします」
「はい」
 俺は言われたテーブルに、ストレージから『味元』の入った入物を200個出した。
「まあ?!」
 あれ?マジック・バッグて、珍しくないはずだよね??

「確認してください」
「あっ、はい、はい」
 返事は1回ですよ。入社の時に習いませんでしたか?
 しばらくしてから、確認が終わった。

「それでは『味元(あじげん)』は1個2,000円で200個ですから400,000円。そこからギルドの税金10%を引きますので、360,000円のお支払いになります」
「ありがとうございます」
 俺はそう言ってストレージにお金を仕舞った。

「エリアス様はマジック・バッグに、みんな入れておくのでしょうか?」
「ええ、そうです。がさばりませんから」
「余計な事とは思いますが、盗難などの事を考えるとお金は分けておかれた方が…」
「あ、それは大丈夫です。盗まれることはありませんから」
「それはどう言う?」
「俺以外は(時空間魔法なので)使えませんから」

「そ、そうなのですね。凄い機能が付いているのですね」
 使用者認定機能が付いているのかしら?

「えぇ、便利ですよ。それから明日から6日後にギルドの依頼で、2週間くらいこの街を離れますから。戻ってきたら『味元』の反響を聞きに、顔を出しますから」
「わかりました。それからでしょうか、購入されたお屋敷の改築は?」
「それなら、もう済みました」
「え?!済んだ?!」
「俺、やることが早いんで。依頼から戻ってきたら、新居に住もうと思ってます」
 そういう問題では…。

「わ、分かりました。楽しみですね」
「ええ、そうなんです。ではまた!」
「はい、ありがとうございました」




 私はノエル。
 仕事帰りに少し遠回りをして帰った。
 エリアス様の購入された物件が気になったのだ。
 そんな短時間で出来るわけがない。
 それほど、老朽化が進んでいたのだ。

 私は目を疑った。
 何度も何度も目をこすったが、変らなかった。

 そこには高くて立派な塀に囲まれた屋敷があった。
 遠目からも分かる宮殿の様な大きさ、見たことも無い作りの建物のデザイン。

 そしてどれだけの財を投資すれば出来るのだろう。
 3階建ての各部屋は窓ガラスになっていた。

 
 『もう済みました』

 これは改築ではなく、建て替えだ。
 しかもまだ2日しか経っていない。
 いったいどうやれば…。



 翌朝、私は一番にギルドマスターに向かった。

「ギルマス、お話が…」
「おぉ、ノエルか。いったいどうしたんだ、こんなに早く」
「実はエリアス様の事ですが、彼は…」
 私が話そうとするのを、ギルマスは手を伸ばし止めさせた。
「彼の事なら、もう干渉は出来ない」
「どうしたのですか?」

「国から不干渉(ふかんしょう)条例が発令されたんだ」

「えっ?!」

 私はエリアス様のことを話そうとした。
 するとギルドマスターのアレックさんからそう言われた。

 不干渉条例
 それは国が総力を挙げて守る、対象となる人のことを言う。
 国宝級の才能や能力を持つ人を庇護するためにある条例だ。
 この対象に選ばれた人は24時間、影から専用の組織が身の回りを守ると聞く。
 国の重鎮に選ばれたと言っても、過言ではないだろう。

 そうね、あれだけのお屋敷を簡単に、建て替えできるなんて。
 おかしいと思ったのよ。



 私は商業ギルド、ギルドマスターのアレックだ。
 朝早く国から早馬が来た時は、驚いたものだ。

 しかし『味元(あじげん)』が、食の革命をもたらす可能性があることを国も認めたのか?
 どこから嗅ぎつけて来たのか?
 この世界の国々は女神ゼクシーを仰ぐ、シャルエル教が絶対信仰だ。
 そのため一国より力を持つ教団から、侵略や戦争は認められていない。

 他国とのやり取りは外商がどれだけ優位に働くかしかない。
 
 それほどのことなのか、エリアスという男が作る『|味元(あじげん)』は。