「りゅみになにかされりゅより、あいかにされりゅほが、
あいかのしゅごさがわかりゅとおもったにゃ。」
「???」
雄輝はよくわからなかったようだ。
「瑠海殿が何かするだけでは、亜里香殿には力がなく、
雄輝殿のおかげで無傷だったと思われるからだろう。
そうだな?」
「にゃ!」
言いたいことが伝わってうれしかったのか、
瑠海は満面の笑みだった。
雄輝はふっと笑って、瑠海の頭を撫でた。
「そうか。そこまで考えてくれて、ありがとな。」
亜里香は、こんなに小さくて、しゃべり方もかなり幼いのに、
ここまで深くものを考えられる瑠海に内心かなり驚いていた。
・・・雄輝に頭を撫でられているのは少し嫉妬してしまうが。
「そろそろ失礼する。鬼崎、礼を言う。」
「そうだ。私には5歳のふたごの孫がいるから、
ぜひ遊んでやってくれ、亜里香殿。」
亜里香はぱあっと顔を輝かせた。
「5歳?絶対可愛いじゃん!
もちろん、ぜひ遊ばせてください!」
雄輝はそんな亜里香を見て、その場にはいない双子に一人勝手に嫉妬していた。
屋敷に帰って、彩海が出してくれたチョコクッキーをほおばりながら、
亜里香は一人悩んでいた。
「こくはく、かあ。」
美紗に言われたことを思い出した。
そして、告白してきた男子に言われたことも。
亜里香と雄輝は恋人関係ではない。
好きになってしまったのだから、彼女になりたいと思うのは不思議ではないだろう。
「お悩み事でございますか?」
彩海が尋ねる。
「わたくしでよろしければ、お話、伺いますよ?」
「ん~、彩海さんって、彼氏います?」
彩海は少し顔をほころばせた。
「あら、恋煩いでございますか。
ええ、3年ほど、お付き合いしている婚約者がおります。
で、雄輝様に関する、どのようなお悩みですか?」
「ん~、なんというか、あたしと雄輝って、
カレカノじゃないじゃないですか。
なんかそれに違和感というか。
それに、ただの花嫁だからOKでしょ、って思ってるみたいで、
最近告白ラッシュなんですよね。」
「そうでございますか。
そもそも、亜里香様は雄輝様がお好きなんですよね?」
少々圧をかけて、彩海が尋ねる。
「え?あ、うん。」
「ならば、恋人関係でいたいのは当たり前です。
言いたいこと、思ってること、すべておっしゃってみればよいのです。」
「すべて、ねえ。
それができたら困ってませんよ。
あたし、あんまり自分の感情を表に出さないようにしてきたので。」
亜里香はあまり感情を表に出さなかった。
相良家では、嫌なことがたくさんあったが、
嫌な顔をすればもっと面倒なので、ずっとため込んでいたのだ。
「大丈夫でございますよ。ここに来てから、ずいぶんと表情が柔らかくなられましたよ。」
「え~、1ミリも自覚ないですよ?」
「嘘はつきませんよ。」
亜里香はふと、テーブルの上でじっとしている瑠海を見た。
瑠海はかわいらしくコテンと首をかしげた。
「にゃ?」
亜里香は瑠海を見たまま、話し始めた。
「雄輝と出会って、あの家を出てここにきて、
随分と環境が変わってしまったんです。
彩海さんが、瑠海が、雄輝がいる。
この幸せな環境に慣れすぎてはいけないと思うんです。
あたしには居場所がなかったことを忘れてはいけない。
それが、今のあたしを形作ったから。」
「ええ。忘れない方がよろしいと思います。
でも、幸せになるのと、苦しみ、
悲しみを忘れることは一緒ではありません。
幸せになってはいけない人など、いないのです。」
亜里香は、ほっと肩をなでおろした。
「そう、ですよね。わかりました!彼女になりたいって、言ってみます!」
「ええ、そうなさってください。
・・・雄輝様、お呼びしましょうか?」
「え⁉いま?」
彩海は笑った。
「はい。今でございます。善は急げ、ですよ。」
「え~、じゃあ、お願いします!」
彩海は一度出て行った。
亜里香は周りが静かになって、急に心細くなった。
ちゃんと受け止めてくれるだろうか。
「わっ!」
瑠海が亜里香の頭の上に飛び乗った。
前足で髪の毛をわしゃわしゃしている。
亜里香の頭をなでているつもりなのだろうか。
「だいじょぶ。しんぱいにゃい。あいかはしゅごいにゃ。」
亜里香はふわりと笑った。
「そっか。なら、安心だね。」
「にゃ!」
瑠海はそのまま頭の上でうずくまって寝てしまった。
そのままでは少し重いので、亜里香はそーっとおろして、
ソファーに寝かせた。
ちょうどそのタイミングで、彩海が雄輝を連れて戻ってきた。
「お連れしました。」
亜里香は振り返った。
「なんだ?話とは?」
雄輝は亜里香の目の前に座った。
「ねえ、雄輝。」
「ん?」
「あたしたちってさ、あくまでもあやかしと花嫁だよね?
恋人じゃ、ないよね?」
「な、なんだ急に。
もしかして好きなやつができたのか?」
珍しく、雄輝が動揺した。
「そうといえばそうだよ?」
「え、は?」
「あの、ね。あたし、こんなことになるとは思いもしなかった。
夢に見たことがないわけじゃない。
誰かがあたしを拾ってくれて、
あたしはあそこを出れるんじゃないかって。
それが急に叶って、
しかもあやかし。
その出会い自体が、相思相愛になることの予言みたいなものだった。
でも、どこか夢みたいで、それは噂、ただの噂だって、自分に言い聞かせてた。
でも、数日で、ダメになった。
噂がほとんど事実になっちゃったから。」
「亜里香、それって…」
「あたしはね、あたしは、雄輝が好きなの!
ただの花嫁じゃなくて、ちゃんと雄輝の彼女になりたい!
わぁっ!」
雄輝は亜里香をきつく抱きしめた。
「俺も好きだよ。花嫁だからじゃなくて、ちゃんと。
相良 亜里香として、亜里香が好きだ。
俺の、彼女に、なって。」
「うん!」
二人はきつく抱きしめあった。
亜里香は今、世界で一番幸せだった。
こんにちは。orangeです。
この度は、本作品を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
本作品は「あやかしの恋情1」となっておりますが、
0の続編となっています。
初めは0を1として、こちらを2にしておりましたが、
0があまりにも本編というよりプロローグ的なものになってしまいましたので、
こちらを1巻目という扱いにさせていただきました。
亜里香が虎ノ門にくる経緯を知りたい方は、ぜひ0の、
「魔女、捕まる」をお読みください。
2も続けて書かせて頂こうと思っております。よろしければ、そちらもお付き合いください。
この度は、「あやかしの恋情1〜魔女、愛さるる〜」に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
R4.12.14