亜里香と雄輝は、鬼崎家並びに鬼のあやかしの当主のところへ来ていた。

あの鬼澤 華子の無礼を詫びたいとのことである。

鬼の当主、鬼崎 鬼太郎(きたろう)は、やさしそうな老人であったが、

どこか威圧感があった。

虎ノ門家の、故前当主とは、旧知の仲だったらしい。

「先日はうちのものが失礼いたした。

話は雄大殿から聞いた。

あやつは自分最優先で、人間はあやかしよりも下だとみている。

鬼全員がそうではないことは、この私が保証するがな。

鬼澤はかねてからたびたび問題を起こしていて、

それでも、霊力が強いゆえ、地位も高く、無下にはできぬことから

我々も頭を抱えていた。

だが、虎ノ門家の花嫁に手を出したのだ。

これを機に、一度バシッとけじめをつけさせる。」

「当たり前だ。亜里香が無傷だったからよかったものの、

もしも普通の人間であればとんでもないことになっていただろう。」

雄輝の眼は、鋭く光っていた。

「というわけで、今日は鬼澤の当主と、その妻に令嬢を呼び出しておる。

言いたいことは言いたいだけ言えばよい。

入ってきなさい。」

「鬼澤です。失礼します。」

鬼澤家の三人が入ってきた。

「ほれ、座りなさい。」

鬼太郎に促されて、三人は畳に正座した。

「華子は知っておろうが、お前たちはまだ知らないであろう。

こちらが、雄輝殿の花嫁、亜里香殿だ。」

華子の両親は、青ざめた顔で、畳に手をついてお辞儀した。

「はじめまして、亜里香様。

この度は大変なご無礼をどうかお許しくださいませ!」

「お父様!お母様!わたくしは無礼など働いてはおりません!

この女に頭を下げる必要はございませんわ!」

華子が叫んだ。

「ほう。華子。あんな目にあってもまだそんなことを言うのか。

あの姿はなかなか滑稽だったぞ。

そのようなことを言えば、罰が増えていくばかりだ。」

「華子!なんてことをするんだ!

お前も謝りなさい!」

「いやよ。わたくしは鬼澤家の令嬢。

汚らわしい魔族になど頭を下げるものですか!」

「あ、」

亜里香は苦笑いをこぼした。

さんざんな目にあわされたとはいえ、これではさすがに気の毒である。

「どうした、亜里香?」

雄輝が尋ねる。

「いやあ、気の毒だなあっておもって。

雄輝の花嫁があたしだったばかりに、地獄を見る羽目になるとはね。

さすがにかわいそう。」

「どういうことかしら?」

華子は亜里香をきっとにらみつけた。