ここ日本には、太古の昔から、神のような神気を纏い、霊力が高く、人ならざる力を持った神獣人という一族と、

霊力も人ならざる力も持たない人間が共存して暮らしてきた。

神獣人一族には、青龍、鳳凰、白虎、玄武の四族と、その四族を纏める麒麟の五族がある。

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神獣人は、麗しい容姿に、獣のようなしなやかで強い身体を持っているという。

容姿端麗、文武両道で、才気溢れるものが多く、時に激しい感情を持つことはあるが、感情に流されやすい人間とは違い、

冷静沈着で実行力が高く、強いカリスマ性がある神獣人は、戦国の世が明け、
泰平の世が訪れると、ありとあらゆる分野で活躍し、どの分野でも、頭角を現していった。

その頃より、神獣人の財力は莫大で、政財界に大きな影響力をも持ち、日本の影の実力者と言われてきた。

だが、神獣人一族は、以外にも、
今も昔も、政治の表舞台に立つことはない。

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太平の世が続き、人々の暮らしが豊かになっていった400年程前から、

神獣人一族の中には、
時折、花の紋様を胸に持った男児が生まれるようになった。

10数年すると、
今度は、人間の娘の中に、
年頃になると、花の紋様が手の甲に現れる娘が出てきた。

同じ花の紋様を胸に持った神獣人と
手の甲に持った人間の娘が出会うと、互いに惹かれ合い、なくてはならない存在となり、
生涯、仲睦まじく暮らすことが多かったため、その花の紋様は、いつしか【番の花紋】と呼ばれるようになった。

また、自分と同じ花の紋様を手の甲に持つ娘と出会った神獣人は、まるでお姫様のようにその娘を大事に扱ったことから、
胸に花紋をもつ神獣人は、【花王子】
手の甲に番の花紋が現れた娘は、【花姫】と呼ばれるようになった。

神獣人と人間の間に生まれた子は、人間の血で、神獣人の特徴が薄まるのだが、
同じ番の花紋を持つ、【花王子】と【花姫】は、どういうわけか?神獣人と人間のハーフであるにも関わらず、人間の花姫の血で、神獣人の特徴が薄まるどころか、神気、霊力共に高い子どもを授かった。

同じ【番の花紋】を持つ、【花姫】を花嫁に迎えた皇族の家は、子宝に恵まれ、親族の絆を深め、必ず繁栄した。

その頃より、花紋が現れた花姫が、同じ花紋を持つ神獣人と出逢えるシステムが日本に構築されていったという。

今の日本では、子どもが生まれると居住地の役所に出生届を出すように、
娘の手の甲に、花紋が現れると役所に連絡するよう義務付けされている。

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殆どの人々が、貧しく職にあぶれる大人が珍しくなかった戦後復興の頃、
それまで続けてきた花姫を花嫁に迎える神獣人家の習わし通り、

花姫を花嫁に迎えた神獣人家は、
花姫だけでなく、両親や親族に至るまでも迎え入れ養なった。

当時の神獣人一族の長、麒麟一族の当主は、戦後の焼け野原に、花姫の両親や親族の居住区を設け、
そこに花姫の両親や親族を移り済ませると、
花姫の両親や大人の親族には、仕事を与え、
子どもたちには、教育を与えた。

神獣人一族への花姫の嫁入りで、住む場所と仕事を与えられた大人たちの働きや、教育を与えられた子ども達が成長し、色々な分野で活躍するようになっていったことが、

戦後復興へ大きな影響と力を与えたため、
この国の戦後の発展は、花姫によって(もたら)されたと言われている。

400年程前から始まった同じ番の花紋をもつ神獣人家への花姫の嫁入りは、
花姫の身内のみならず、その花姫が嫁いだ土地の者の暮らしをも潤していったため、

国民は、豊かな暮らしを与える花姫、
手の甲に番の花紋の現れた娘を、
我が子のようにこぞって大事にし、その成長を見守り、いずれ尊き人となると敬うようになり、いつしか、花姫は国の宝と言われるようになった。

習わしは時と共に変わっていったが、

今も、花姫は、
神獣人一族からは大切に扱われ、
花姫が現れると国民はその成長を見守り、国の宝として、敬われている。