着信を告げるけたたましい音が鳴り響いて、僕は現実に引き戻された。
 スマートフォンの画面を見れば、担当編集の名前が表示されている。

「もしもし」
『先生ーっ!し・め・き・り!ちゃんと守るって言ったじゃないですかぁ』
「ああすまない。原稿、ちゃんと完成してはいるんだ」

 送る前に幼なじみの小説を書き始めてしまっただけで。
 僕より五つほど年上であるはずの担当編集の女は、子どもが駄々をこねるときのような声で言う。

『だったら早急に送ってくださいよぉ!もうっ』
「だからごめんって」

 僕の軽い返事に、彼女が大きくため息を吐くのがわかる。

『でも先生が何してたのかあたしにはわかりますよ~。この時期ですからね。また亡くなった幼なじみを主人公にした小説とやらを書いていたんでしょう、()()()()?』

 ……ああ、付き合いが長いだけあって、この担当編集にはお見通しなのか。

『莉桜先生の亡くなった幼なじみ、名前は確か、()()()()でしたね』
「よく覚えているね。さすが僕の担当編集」

 佑馬は、交通事故に遭って死んだ。()()手術が行われる前日のことだ。