「誰も、いない……」
ひゅうっと、どこからともなく風が吹き抜ける。
(教室を間違えた?)
──否。扉に貼られている紙は、間違いなく件のサークル名が掲げられている。
(同じサークルが同じ大学内にあるとは思えないし……)
となると、やはりここが彼女たちのサークルで間違いないはずで。しかし、それではここに人がいない理由が説明できない。……まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
(……どうするんだろうか)
僕はゆっくりと探偵少年を見る。彼が計画していたものが、一気に崩れ落ちていくのが聞こえる。どうしよう。慰めた方がいいのか、それとも何か案を出した方がいいのか。
(案って、何?)
予想外の出来事に、徐々に焦りが込み上げてくる。思考が纏まらない。解決策のひとつも思い浮かばない。参ったなと内心で小さく呟けば、探偵少年はつかつかと教室内へと足を進めだした。
「お、おいっ」
「……」
「ダメだって! 勝手に入ったら怒られるぞ!」
「……」
「おいっ! 無視すんな!」
無言で室内を突っきる彼に、だんだんとイライラが募っていく。
(何か言えよ、このバカッ!)
引き戻してくるべきか。それとも今度こそ逃げようか。二分される思考に、僕はどうしたらいいのか分からなくなってくる。
探偵少年はゆったりとした足取りでぐるりと室内を回ると、積み上げられていた資料をめくった。パラパラと目を通していくその顔は、俯いていてよく見えない。
「ちょっ、勝手に触るなよっ!」
「新刊か」
「!?」
ボソッと呟かれた言葉に、僕は戦慄する。
(それ、余計見ちゃダメなやつだろっ!)
新刊を勝手に盗み見たなんて知られたら、それこそ怒られてしまう。既に探偵少年の手は離されていたが、僕は怖くてたまらなかった。
(口封じされるかも……!)
新刊は作家にとって命と言っても過言では無いものだ。それを無断で、勝手に見られたなんて知ったら、僕なら卒倒するだろう。盗まれたかもしれないなんて思ったら、続きを書くことすらはばかられる。
「は、早く帰ってこいっ! 今なら許してくれるだろ!」
「もうちょっと」
「おいっ、いい加減にっ!」
「──あった」
静かな教室に、探偵少年の声が響く。思いの外落ち着いた声に、僕は冷水を浴びせられたような気分になった。冷静になっていく思考。──ふと、彼が目にしているものがあることに気がついた。
白い箱のような電化製品。側面の真ん中辺りに切れ込みがあり、ボタンのようなものが付いている。馴染みのないものだったが、僕はその形に心当たりがあった。
ひゅうっと、どこからともなく風が吹き抜ける。
(教室を間違えた?)
──否。扉に貼られている紙は、間違いなく件のサークル名が掲げられている。
(同じサークルが同じ大学内にあるとは思えないし……)
となると、やはりここが彼女たちのサークルで間違いないはずで。しかし、それではここに人がいない理由が説明できない。……まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
(……どうするんだろうか)
僕はゆっくりと探偵少年を見る。彼が計画していたものが、一気に崩れ落ちていくのが聞こえる。どうしよう。慰めた方がいいのか、それとも何か案を出した方がいいのか。
(案って、何?)
予想外の出来事に、徐々に焦りが込み上げてくる。思考が纏まらない。解決策のひとつも思い浮かばない。参ったなと内心で小さく呟けば、探偵少年はつかつかと教室内へと足を進めだした。
「お、おいっ」
「……」
「ダメだって! 勝手に入ったら怒られるぞ!」
「……」
「おいっ! 無視すんな!」
無言で室内を突っきる彼に、だんだんとイライラが募っていく。
(何か言えよ、このバカッ!)
引き戻してくるべきか。それとも今度こそ逃げようか。二分される思考に、僕はどうしたらいいのか分からなくなってくる。
探偵少年はゆったりとした足取りでぐるりと室内を回ると、積み上げられていた資料をめくった。パラパラと目を通していくその顔は、俯いていてよく見えない。
「ちょっ、勝手に触るなよっ!」
「新刊か」
「!?」
ボソッと呟かれた言葉に、僕は戦慄する。
(それ、余計見ちゃダメなやつだろっ!)
新刊を勝手に盗み見たなんて知られたら、それこそ怒られてしまう。既に探偵少年の手は離されていたが、僕は怖くてたまらなかった。
(口封じされるかも……!)
新刊は作家にとって命と言っても過言では無いものだ。それを無断で、勝手に見られたなんて知ったら、僕なら卒倒するだろう。盗まれたかもしれないなんて思ったら、続きを書くことすらはばかられる。
「は、早く帰ってこいっ! 今なら許してくれるだろ!」
「もうちょっと」
「おいっ、いい加減にっ!」
「──あった」
静かな教室に、探偵少年の声が響く。思いの外落ち着いた声に、僕は冷水を浴びせられたような気分になった。冷静になっていく思考。──ふと、彼が目にしているものがあることに気がついた。
白い箱のような電化製品。側面の真ん中辺りに切れ込みがあり、ボタンのようなものが付いている。馴染みのないものだったが、僕はその形に心当たりがあった。