『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

「教えてください先生、僕達の兄弟子。レイヴンに勝てる確立を」

 カルナックは黙った、真実を告げていいのかはたまた無理にでも諦めさせるのか。師としては複雑な気持ちだったろう、自身が育てた弟子同士が合間見えることがあったとは思いもよらず……いや、少なからず反帝国感情を抱いていた二人を育てていたときにそれは分っていたことだったのかもしれない。

「限りなく低いです、それも一桁でしょう」
「一桁、それでも勝ち目は一桁だけの数字があるんですね?」
「いやレイ君、確かに勝率は一桁だが残りの数を考えれば君一人インストールを使えたところでレイヴンに勝てるはずが」
「先生!」

 レイは机にもう片方の手で叩いた、久しく見ていなかった我が弟子の感情的な顔を見てカルナックは驚いた。

「アデル、インストールとは自信との戦いです」
「え?」

 突然話を振られたアデルは何を言われたのかよく理解できていなかった。自身との戦い? それはどういう意味なのだろうか。

「二人とも表で待機していてください、後ドアの外に居る二人も一緒に来なさい」
「ドアの外?」

 数秒の沈黙があった後ドアが開いた、そこにはガズルとギズーの姿があった。バツが悪そうにゆっくりと入ってくると二人は頭を下げた。

「それで先生、話を戻しますがインストーラーデバイスについて詳しく」



「インストーラーデバイスとは、先ほど説明した通りインストール時に置けるエーテルを一時的に制御させる装置のことを言います。ただしこれを使えば安易にインストールが使えるというものではありません。インストーラーデバイス自体の効果は装備者の精神状況で異なります。また、暴走させたときに発せられる膨大なエーテルを押さえ精神負荷を抑える効果も発揮します」

 外に出た四人を前にしてカルナックが説明を始める、右手首に腕輪をはめていた。それがインストーラーデバイスなのだろう。

「見た限りではレイ君で十二分は制御可能でしょう、しかしアデル。君がインストーラーデバイスを使ったとしても持って五秒が限界だと思います」
「たったの五秒!?」

 四人はその言葉を聴いて驚いた、確かにアデルは法術が苦手なのは知っている。しかし彼のエーテル制御は一般の術者と大差変わらない物だと思っていた。だからこその法術剣士と名前が通っていた。

「ちょっと待ってくれ、確かに俺は法術が苦手だけどたったの五秒で何をしろって言うんだ!」
「五秒と言う時間は確かに短い、だからこそ今の君ではインストーラーデバイスを使ってもインストールを使うことが出来ないという事に繋がるんです。正確に言えば無駄なのです」
「なら、どうしろって言うんだ。インストーラーデバイスですら意味の無い物になってるじゃないか」
「それを今から行うんですよ」

 全く意味の分らない事を話すカルナックに四人は揃って首を傾げた。

「一つ良いかな剣聖」

 ガズルが一歩前に出て困惑した表情で話し始める、右手に重力球を作り出してそれを体の前に持ってくる。

「根本的な話で悪いんだが、俺のこの重力を操る力。これを応用して何かレイヴン対策で出来ることは無いか? もしくは俺にもインストールってのが習得できるものなのか?」
「ガズル君、インストールは誰でも習得できるものではありますが君の場合天性の力です。私も長い間色々な人を見てきましたが重力を操る力を持ってる人とは出会ったことがありません。その力がましてやエレメントを利用した法術なのか、はたまた別の力なのかも検討がつきません」

 グルグルと渦を巻いている重力球を右手で握りつぶす、期待の眼差しでカルナックを見つめ始めた。

「なら、俺にもインストールを教えてくれ。あのレイヴンに一泡吹かせてやりたい!」

「勇ましいことです、ですが先ほども話したとおり君の力が法術なのか、それとも別の力なのか分らない以上インストールを教えることは出来ません。仮に教えたとしてもどの程度エーテルが暴走するのかが分りませんしアデルより危険です、今は諦めなさい」
「そうか、アデルより危険か」

 ものすごく残念そうな顔をして肩を落とした、それを見ていたギズーは思わず吹き出してしまった。同じくアデルも笑っている、申し訳なさそうにしてるのはカルナックとレイの二人だけだった。

「さてっと、ではインストーラーデバイスを使えるかどうかの試験を始めます」
「いよいよ本題か、おやっさん俺は何をすればいいんだ?」

 ニヤっと笑みをこぼすとカルナックはズボンのポケットに右手を突っ込んだ、とっさにレイ達は各々の武器を取り出して戦闘体制を作る。

「私に触れてみなさいアデル」
 そういうとカルナックを中心にブワァっと重たい空気が流れ出した、その空気の重さに辺り一面が緊張する。最初に崩れたのはギズーだった。法術を一切使えない彼にはあまりにも辛い空気だ。

「な……んだこれ!」

 次にガズルが崩れる、方膝を地面について身動き取れないで居た。アデルはかろうじてその中で立っていられた。レイは涼しそうな顔をして三人を見た。

「三人とも何でそんなに苦しそうなんだ?」
「は!?」「え!?」「何だと!?」

 三人が同時に声を上げる、眉一つ動かさずにレイはその場で立っている。カルナックも驚いていた、これほどの重圧を作り上げても尚レイは涼しい顔をしていたことに正直彼の才能を疑った。

「レイ君はこの程度では何とも無いようですね、そちらの二人は大丈夫ですか?」
「まだまだ!」「動けないけど、何とか……」
「わかりました、ではもう一段階ギアを上げます」

 カルナックは二人の同意を受けた上で一つ法術のギアを上げた、今度は重圧に加えて真空の様なすさまじい衝撃波を加えてきた。その法術にガズルとギズーは大きく後方へと吹き飛ばされる。

「よっと」

 吹き飛ばされた位置にシトラが待ち構えていた、二人を受け止めると溜息をついてカルナックへ文句を言う。

「こらー先生、こんな子供相手に精神寒波使うなんて何考えてるんですか?」
「いやぁ、シトラ君助かるよ。その二人を家の中に逃がしてくれないか?」

 ニコニコと左手で手を振るカルナックにあきれた顔でもう一つ溜息をついた。二人を両脇に抱えながら走り出した。玄関の前に来ると自動的にドアが開く、アリスだった。両脇に抱えられて居る二人は思わず『なんで!』と叫んだ、確かに二人がそう叫ぶ理由も分らなくはない。

「さて、ここまでしてもレイ君は何とも無いんですね」
「あ……はい、特に何も」

 レイは相変わらず汗一つかかずにそこに立っていた、流石にこれを見たカルナックも困惑の表情を隠しきれない。同じ理由でアデルも表情を曇らせた。

「あの衝撃波をまともに食らって何でお前はそんなに平然としてられるんだ!」
「そう言われても」

 アデルはついに右ひざを地面に付けた、ガクガクと震えながらカルナックを睨み付ける。

「こんな状況であんたに触るなんて出来るわけないだろ! 何を考えてるんだ!」

 アデルの言うことも一理ある、だがその隣で平然として立っている男が居る。それが何よりの疑問に感じるアデルは戸惑っていた。

「先ほどもお話した通りインストールを扱うにはエーテルの制御が必要不可欠です。何故レイ君が平然としていられるか、何で君がこんなに苦しいのか。その違いは制御力の違いです。私は君たちに重圧を掛け、真空波で吹き飛ばそうとしました。だがレイ君はそれを押し退けた、これは周りのエレメントを制御することで無意識の内に対法術障壁(アンチマジックシールド)を展開させています。それに対してアデル、君はそれを操る術を知らない。だから無防備に私の精神寒波を受けているんですよ」
「それでおやっさんに触ってみろか……難しい宿題が出たもんだ」
「先ずはそれを習得しなさい、そうすればレイヴンの攻撃も緩和できるでしょう」

 ゆっくりと地面についていた膝を起こそうと上体を上げる、そこにまた一発衝撃波が飛んでくる。先ほどとは違いダメージを負った体でそれをまともに貰い後方へと吹き飛ばされる、背中から地面に叩きつけられてピクリとも動かない。

「いってぇ!」

 体は動かなくても口は動くようだった、一瞬気絶したかのように思えたが間一髪意識は繋いでいた。両手を使って体を起こし立ち上がろうとする。

「なるほどな、これを克服しなければ進むものも進まないって事がよく分った。あのレイヴンって野郎もあんたの弟子だ、もちろんこれが使える、これを克服できなければ動かない的を簡単に攻撃するだけで相手は倒れるって事か」

 グルブエレスを地面に突き立てて杖の代わりにした、中腰の状態まで何とか持ち直すことが出来たアデルだったがそこに衝撃波が再びアデルの体を襲う、今度はグルブエレスを握り締めていたおかげもありバランスを崩す程度で済んだ、それを見たカルナックは一つ笑みをこぼす。

「今の感じですアデル、わずかながら障壁を展開しましたね。もちろん無意識だとは思いますが感覚は体に残っているはずです、それを強くイメージしなさい。そして展開しなさい。次の一発……」

 カルナックはそこまで話すと一度口を紡ぐ、アデルが立ち上がるまでその先に言うことを抑えることにした。バランスを立て直して再び足に力を入れるアデル。乱れた呼吸を整え体にわずかながら残っている感覚を思い出し強くイメージする。両足を肩幅に広げてゆっくりと立ち上がったその時。

「私は君を殺します、死にたくなければ防ぎなさい」

 そういうと強力な衝撃波を放った、その衝撃波はレイの法術障壁をも貫通して襲い掛かる。着ているジャケットの左脇をかすめる様に流れ、ほんの少しだがジャケットに切れ込みが入る。それほどの威力だった。

「うおぉぉぉ!」

 アデルは左手でツインシグナルを鞘から引き抜くと同時に右手のグルブエレスを地面から引き抜いた、左上からツインシグナルを縦に振り下ろしさらにグルブエレスで横に一線を入れた。その瞬間アデル目掛けて放たれた衝撃波が何か目には見えない壁と衝突した。閃光が放たれギギギギと音を立てる。

「これが俺の全力だぁ!」

 アデルが叫んだ、森中に響くような叫び声だった。



 それから三時間、カルナック含めた者は居間に居た。だがそこにアデルの姿は無かった。
 アデルは昔使っていた部屋で気を失っている、意識を取り戻すまでの休憩といっても取れる。何事も無かったようにカルナックはお茶を啜っていた。

「ねぇ先生、アデルは大丈夫なんですか?」

 プリムラが心配そうにカルナックに尋ねた、茶飲をテーブルに置くと笑顔で質問に答える。

「大丈夫ですよプリムラ君、アレぐらいのことじゃ彼はビクともしません」
「そうですか」

 プリムラが安心して自分の前に置かれているお茶に手を出す、周りをふっと見渡すと他の人達はアデルの事を忘れたかのように落ち着いていた。

「ねぇレイ君、何でそんなに落ち着いていられるの? アデルは貴方の親友なんでしょ? 心配じゃないの?」

 突然の質問に自分のジャンバーの切れた部分を縫っていたレイはゆっくりと振り返る、しかし器用なことに手は動かしている。指に刺さることは無いのだろうか。

「ん~、大丈夫じゃないかな。あれしきの事どうってこと無いと思うけど」
「あれしきって……修行時代どんなことしてたのよ貴方達」
「あまり思い出したくないかな」

 一瞬顔が青ざめた、修行時代のことを思い出しているのだろうか。手元が狂い自分の指をサクサクと刺し始めた。それを見たガズルが大笑いする。

「レイ、自分の指さしてるぞ」
「え?」

 ガズルに言われた先を見てレイは大騒ぎし始めた、何発刺したのだろうか血がタラタラと流れ始める。指を自分の口にくわえてもごもごと話し始める。

「修行時代は崖から落とされたり猛獣の討伐に行ったり、さっきの精神寒波はまだ生ぬるいほうだよ。精神的なダメージなら暫くすれば起きると思うんだ。肉体的ダメージなら流石に心配はするんだけどね」

 言われればその通りだった、だがカルナックが仕掛けた攻撃は精神寒波の他にも法術による真空波の対人攻撃があったと思うのだが、それには一切触れずに話を進める。まず今回カルナックが行った攻撃を詳しく分析すると次のようになる。

「先生が使った攻撃は主に二つ、一つは対法術圧迫、きっとこれが精神寒波。僕自身受けたのは初めてだったけど障壁のおかげで殆ど無力にすることが出来た、逆に障壁を展開せずにまともに受けていたらギズーやガズルのように体の自由が奪われて途轍もない恐怖が体を襲う。身動き取れない上に恐怖まで刷り込まれたら絶望が襲うから対人にはものすごく効果的なんだろうね。次に行ったのが風の法術を使った衝撃波だと思う、同じものだったら僕も使えるけど威力が桁外れに違うと思う、先生がその気にあれば周りの木々も含めて僕達は一瞬で真っ二つになっちゃうよ」
「レイ君、おだてても何もでませんよ?」

 またお茶を啜るカルナック、ニコニコと笑顔でそう話をした。

「ですがレイ君、障壁を使えるぐらいではインストールマスターと戦うのは無謀ですよ。特にレイヴン、彼を相手にするのであればこちらもインストールを習得し更なるレベルアップを行わないと勝ち目はありません」

 口にくわえていた指を離して絆創膏を張るレイはカルナックの言葉を頷きながら聞いている、回りのガズルとギズーも頷いた。

「レイヴン・イフリート、先生の一番弟子で現存する四人の剣帝の頂点。今一番剣聖に近い人間ですね」
「その通りです。剣技はもとより炎の法術なら何でも使いこなします、油断は出来ません。インストールを使えばその法術の破壊力は暫定でも三倍、スピードも格段に上がり今の君達では手に負えないでしょう」
「待ってくれ剣聖、仮にレイとアデルがインストールを使えたとしたらどうなるんだ?」

 ゆっくりと茶飲をテーブルにおいて目の前のお饅頭に手を伸ばす、一つ頬張って再び笑みをこぼした。

「分りませんね、レイ君が習得できるのは氷と風のインストール。アデルは炎のインストールだと思いますが何ともいえません。元々インストールで効果が大きいのは炎です、主力となるアデルが使ったとしても持って五秒、その間に何が出来るでしょうか。はたまたレイ君がどちらかをインストールしたとしても正直戦力にはなりません。氷は障壁の強化や自分のパワーアップ、風は自分や特定の人間を治癒させる目的。仮に障壁の強化や治癒で傷を癒そうとしたところでレイヴンがそれを上回る攻撃をしてきたら意味がなくなります。つまりは即死です」

 スッと立ち上がると空になった湯飲みにお茶を入れ始め懐からタバコを一つ取り出して口にくわえた、右手で指を鳴らすと人差し指から炎が湧き上がる、それでタバコに火をつけて一服する。

「インストールで出来ることは限られています、全部のエレメントに様々な効果があるのと同じですが、すべて自己の強化も可能です、その中でも炎は風と氷以外の長所を取り込んだ最上位クラスです。その代償も大きく、自己破壊や最悪の場合エーテルバーストも引き起こします」
「エーテルバースト?」

 ギズーが首を傾げた、元々彼は法術が全く使えずその手の話は苦手だった。法術の変わりに銃火器を使い攻撃するスタイルだったギズーは聴いたことの無い言葉に反応していた。

「エーテルバーストとは、自信のエーテル全てを暴走させ体内から破壊する現象を言います。一度エーテルバーストが発動してしまえば術者の体は木っ端微塵に破壊されるかもしれません、今のアデルなら起こりかねませんね。万が一無事で居たとしても精神が破壊され見た目は激変し化物に転化してしまうでしょう」

 一同がゾッとした、それほどまでに代償が大きいとは思いもよらなかった事。そしてそんな術を何故この人は編み出したのか、編み出さなければならない理由があったのか。

「最悪エーテルバーストが起きなかったとしても、炎の力に精神が乗っ取られ暴走。敵味方関係なく攻撃を行い最終的には自害します。炎は気性が荒いですからね」

 淡々と説明を続ける、左手でタバコを指にとって煙を吐き出した。口から吐き出されたそれは白く部屋を濁していく。

「そうだ先生、話は変わってしまいますが聞きたいことがあります」
「聞きたいこと、ですか?」

 突然の話題変更に目を光らせながらレイの顔を見る、再びタバコをくわえると自分の指定席に戻ってまた饅頭に手を伸ばす。

「神苑の瑠璃について何か知っていることはありませんか?」

 饅頭を取ろうとしたその手がピタっと止まる、ゆっくりとレイに顔を向け凝視する。レイは何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと驚いている。心配そうにレイの指を擦っていたメルもビクっと肩を震わせる。ギズーとアリスもピタッと動きを止めてしまった。

「レイ君、どこで瑠璃の事を?」
「アデルが話してくれたんです、まだ明確ではありませんが帝国も瑠璃の捜索に動き始めた様子です」

 一段とカルナックの表情が険しくなった、その顔を見てレイは恐怖を覚える。今まで見たこと無いその目、話しかけるにも怖くて声を掛けづらい感じだった。

「――指揮を取っているのは誰か分りますか?」
「剣帝序列筆頭、レイヴン・イフリート」

 居間に居た全員が声がした方を見る、そこにはフラフラとまっすぐ立つ事もできないアデルが居た。頭を左手で抑えて右手で壁に寄りかかっている感じだった。

「ここに来る途中に聞いた話だ、中隊規模を引き連れて向かうところを見たって行商人が居たんだ。おやっさん、神苑の瑠璃っていったい何なんだ? 帝国が狙うほどの代物なのか? アレほどの権力と力を持った帝国が今更何でそんな石を欲しがる、中央大陸と西大陸を武力で制圧するほどの力を持っておきながら今更何を願う?」
「……」

 カルナックはスッと立ち上がりアデルの傍へと歩き始めた、険しい表情でアデルを見つめ一つ溜息をついた後笑みをこぼした。

「君達が知る必要の無い物です、その石の事は忘れなさい」
「でもおやっさん!」
「なりませんアデル、あの石に近づくことでレイヴン達は全滅するでしょう。わざわざ貴方が戦う必要も無くなり無理をしてインストールをマスターする必要も無くなった、良い事じゃないですか。自分の命は大切になさい」

 そういうとカルナックはアデルの肩に手を置いた、アデルは何か言いたそうな表情をしていたがそれをカルナックが首を振って止めた。そして自分の部屋へとゆっくりと戻っていく。

「どうしたんだろうな剣聖」

 ガズルが口を開いた、重たい空気の中最初に言葉を発する。それからまた暫く沈黙が流れ風の音だけが居間に流れていた。

「アリス姉さん、何か知りませんか?」

 食器洗いを再開しもくもくと片付けているアリスにレイは尋ねた、だが何も言わずに食器を洗う。その顔には動揺とどこか悲しそうな目をしていた。

「貴方達は神苑の瑠璃の事を聞いて、どうするつもりだったの?」

 一通り片付け終わった後アリスが手を拭きながら話す。

「分りません、先生のあの動揺を見る限り僕達には危険すぎる代物かもしれません。ですが挑む価値はあると思うんです、アデルが話したとおり帝国がその石を狙うのであれば僕達はそれを阻止します。何でも願いを叶えると僕は聞いています、帝国なんかが手に入れたらこの先何をするか分りません。ですから」

「石を手に入れ、破壊する……とか?」

 ココアをコップに注ぐアリス、ゆっくりとカップの中にココアが溜まっていく。七分ほど入ったところで入れるのを止めてテーブルへと向かい、一際大きな椅子に座った。

「かつて、あの人も石を探しに旅に出た。もう何年も前のことよ」
「おやっさんが?」
「そう、今日みたいに風が強くて雪が降りそうなぐらい寒い日だった」

 時刻は夜の十一時を回っていた、部屋を明るく照らすランプも程よく光っていて暖炉に近いプリムラは寝息を立てて眠っている。アデルはレイの隣に座り両腕をテーブルに置きその上に顔を乗せた。

「当時の弟子達は皆石を探すことに反対していた、その中でも異常とまでに反対した一人の弟子がいてね。私と同い年位だったと思う、その人は石について詳しかった。だからこそカルナックが旅に出ることを反対した」
「それで、その石って一体何だったんですか?」
「色々と噂はあったわ、君達の聞いた通り何でも願い事をかなえてくれる奇跡の石だという人もいたし、石を手に入れれば巨万の富と名声を得られるって言う人も居たわ。……全て違ってたけど」

 両手でコップを持ち上げると中に入ってるココアを回し始めた、くるんと回るとカップの縁で円を書いて少し静まる。それを繰り返していた。

「神苑の瑠璃はね、異世界の魔王を蘇らせる儀式で使う神器として一度封印された。二千年も前の話よ」
「アリス姉!」

 ギズーが立ち上がって怒鳴る、アリスはそれを申し訳なさそうな顔をして続ける。

「ごめんねギズ君、私から黙っているように言ったのに」

 瞳を閉じて、困った顔をしながらアリスは首を傾けた。他のメンバーはこの二人が何を話しているのか全く分からないでいる。

「えっと、二人とも一体どうしたの?」

 レイが戸惑いながらも口を開く。

「本当は内緒にしているつもりだったけど」