「まだタバコ吸ってるの?」
「あぁ」
「良い加減タバコなんて止めたら? 健康に悪いよ?」

 その言葉を聴いたのはとても久しかった、同じ台詞を昔好きだった女から言われたのを思い出してまた笑った。

「同じ事を前に言われた、でももう良いんだ。今更止められないよ」
「もう……肺がんになっても知らないよ?」
「今日は随分と食い下がるな、それで用件は?」
「あ、そうだった。実はね?」


 タバコと雨と雷、僕には良い想い出が無い。
 今を思えば、何でタバコなんて吸い出したのだろう。時々考えてはとある女性の顔が頭を過ぎる。別に忘れてた訳じゃない、それでも忘れようとして、忘れられないあの日。
 淋しさで一杯だった僕を励ましてくれた友人達、今では何処にいるのかも分からない彼等。その一人とはもう連絡も取れない。
 時間と言うのは昔の事を忘れさせてくれるのと同時に辛い事を思い出させてくれる。それはきっと、この雨のせい何だと思う。
 雨と雷とタバコの匂い、それが昔の青春と仲間達、大切な人の事を思い出させてくれる年に一度の梅雨。

「……また雷か」

 椅子から立ち上がって窓から身を乗り出して外の様子を確認する。激しく途端を叩く雨は次第に弱まり雷だけが真っ暗な夜を時折照らしていた。

「皆、元気かな」

 呟いたその言葉は雷の音で書き消され、また雨の音だけが真っ暗な夜のなか聞こえていた。