私の父も〈聖女の夫〉の例に漏れず、名家の出身だ。



 そして、父は、〈聖女の夫〉にふさわしい条件を持っているということだけで、〈聖女の夫〉に選ばれた。



 母と父との間には、特別な感情は存在しない――父は、次の聖女をこの世に出すためだけに母にあてがわれた。



 それでもそれなりに夫婦としての時間を持つことができたのなら、母と父との関係は進展したのかも知れない。



 だが、二人にそれは許されなかった。



 なぜなら、夫に対し、愛情が芽生えてしまい、夫の支配下に置かれることを避けねばならないからだ。強大な権力を持つ聖女は、特定の誰かに便宜を図ってはならないのだ。それがたとえ身内であっても。



 母だけではなく、私だってそうだ。次の聖女である私も、父とは必要以上の接触を持つことを禁じられている。



 それもやはり私に、親子の情を持たせないためである。



 こうやって、聖女の完全なる中立性は守られてきた。それを母は自ら破壊しようというのか。



 確かに、多くの国民が聖女をお飾りだと思っている今、聖女のあり方を考え直してもいいかも知れない。



 だが、それにしても母のやり方は早急すぎる。



 祖母はもういない。母を止められる人間はもうこの国にはいないのだ。