「はい、どうぞ。早く持って行ってあげて」



 私はアベルに薬を手渡した。



「どうかしたの……?」



 アベルの様子がおかしい。〈急用〉だと言っていたのに、急いで帰る様子がない。



 それどころか、扉の前に立ったまま、微動だにしない。



 このままでは埒が明かないと判断した私は、自分から行動を起こした。



 私は、扉の前に移動し、取っ手に手をかけた状態で、



「もう帰ってちょうだい!」 



 と叱責するような口調で言った。



 すると、アベルは、取っ手に触れている私の手首を強く掴んだ。



「放して!」



 ありったけの力で手を振りほどこうとしたが、それ以上の力で手首を掴まれているので、振りほどけない。



 離れは、たとえ真っ昼間であっても、滅多に人が近寄らない場所に建っている。大声を出して助けを呼ぼうにも、助けは来ないだろう。



 ――自分で何とかするしかない。









 外に出れば、逃げられるかも知れないと考えた私は、扉を開けようと必死にもがいた。 



 しかし、より一層強い力で腕を引っ張られ、その衝動で、私は床の上に放り出された。



 さらに運の悪いことに、倒れこんだ勢いのまま、私は後頭部を強く床に打ち付けてしまい、そのまま気を失ってしまった。



 私の記憶はそこまでだ。