この国は、聖女の祈りによって支えられている。



 とは言っても、今では聖女の祈りは形式上のものであって、聖女も単なるお飾りに過ぎない――と多くの国民はそう思っている。



 しかし、聖女が唯一無二の存在であり、崇拝の対象であることは、今も昔も変わらない。









 私が生まれたこの家は、この国の礎を築いたとされたという高名な聖女を先祖に持つ、国一番の旧家である。



 聖女の血を継ぐ者――代々、母から娘へと聖女の座は受け継がれてきた。



 現在、聖女の座に就いているのは、私の母エリザベートである。そして、次期聖女になるのは、現聖女エリザベートの娘である私、マリアだ。









 聖女はただ祈ればいいだけの存在ではない。国民に尊敬される存在でなければならない。



 そのため、祈りの作法や儀式に関することだけではなく、一般教養やマナーも完璧に身に付ける必要があった。



 さらには、自らを厳しく律し、常に国民のことを考え、国民に寄り添うこと――それこそが聖女のあるべき姿だと私は考えている。



 だから、私は何事にも手を抜かなかった。