どちらがどう言い出したわけではないけれど、由香奈もクレアも予定のない夜にはフラワーで夕食を食べるようになった。
「家で食べるのはカップラーメンばかりだし」
 由香奈もバイトの賄以外では似たようなものだ。朝にはいつもマーガリンも付けない生の食パンをかじっている。

「女子力低すぎ」
 園美さん――黄色いエプロンの女性――は呆れた顔をしつつ、お代は財布と相談してでいいんだからね、と言ってくれた。
「ふたりみたいな若い女の子が座っててくれるだけで、効果は計り知れないんだから」
 朗らかに笑っておやつを持ってくる園美さんに鼻白むクレアの周りでは、女の子たちが小物づくりをしている。

「クレアさん、このパーツどうかな?」
「うん、合うと思うよ。センスいいね」
 由香奈は感心しながら、ビーズのブレスレットやレジンのペンダントヘッドができあがっていくのを見守る。午後五時をまわると、公園で遊んでいた男の子たちが戻ってくる。

「先に宿題やっちゃえよー」
 春日井がそう声をかけながら、算数の宿題を見てやったりする。由香奈のところにもドリルを持って質問に来る子がいる。出入りするようになってすぐ、春日井と同じように子どもたちの相手をしてくれるおねえさんとして認定されたようだ。

 そうやって自分から距離を縮めてくる子もいれば、未だ話をしたことのない子もいる。人懐っこい常連の子たちよりも、たまにやって来てつまらなそうにしている子の方が要注意なのだろうな、と由香奈は思う。

 お客が誰もいないときには、スタッフたちが活発に議論していることもあった。
「そもそもここは、食事を作ってもらえない子たちのための場所でしょう。もっとピンポイントでアプローチしてかないとダメなんじゃないかな」
「でも、それはデリケートな問題だから。民生委員に任せたほうが……」
「それじゃ何も変わらないじゃん」

 園美さんのほかに中心となる女性メンバーがふたりいて、よく言い争っていた。それに対して園美さんの方針は明確らしい。
「とにかく宣伝。地域に認知させること」

「俺もそれに賛成」
 公園で子どもたちを見守りながら、春日井もきっぱり言っていた。
「とにかくここに、子どもが無料で食事できて、一緒に来た親同士話ができて、家に一人でいるよりも子どもたちが楽しくすごせる、大人だって普通に食事することがボランティアになる、そういう場所があることを知ってもらうことが大事で、知ってるのと知らないとでは全然違う」