「ボランティア精神は血筋?」
 クレアは少し意地悪な質問をする。それに対して、春日井はまた真顔になった。
「……ああ。今まで気づかなかったけど、そうかも。叔父さんの影響は、あるかも」
 どこまでも素直な春日井の反応にクレアも再び肩を竦めて由香奈を見る。由香奈はまたぱっと視線を下げた。



 帰りがけ、由香奈とクレアは申し合わせたわけではないけれど、五百円ずつピンクのブタの貯金箱に入れた。
「ありがとうございます」
 お辞儀をする黄色いエプロンの女性の向こうで、子どもたちの相手をしながら春日井が手を振る。まわりの子どもたちの中に、先日怒った母親に引っ張られて帰っていった男の子の顔を見つけ、由香奈はほっとする。そんな由香奈に黄色いエプロンの女性はにっこりと微笑んだ。
「また来てね」

 店からかなり遠ざかってから、クレアが由香奈に言った。
「あの店員さん、クセモノだね」
「え……」
 由香奈は意味がわからず目をぱちぱちしてしまう。
「うん……わかんないなら、いいよ」

 クレアはこの後、学校の仲間と買い物に行く約束があるというので、駅前で別れた。由香奈はひとりでマンションに帰る。
 エントランスに入り、掲示板に向かう。馬車の上から憂いを帯びた眼差しが投げかけられる。

 クレアの口から貴婦人という単語が飛び出したとき、由香奈はこの絵の女性を思い出した。貴婦人て、きっとこんな感じの人のことだ。こんなふうには由香奈はとてもなれない。ミチルさんの宿題は、クリアできそうにない。

 カタンと物音がして我に返り、由香奈は管理人室の方を見る。小窓の向こうで藤堂が新聞を広げている。
(そうだった)
 由香奈は小窓に近づく。それを見た藤堂が立ち上がって小窓を開けてくれる。

「あの、ケーキ……ありがとうございました」
「……ああ」
「……」
 由香奈は目線を下げて、質問を口に出そうかどうか迷う。
(あれも仕事のうちですか?)

「仕事のうちだからな」
 先回りしたように言われてしまい、その淡々とした口ぶりに由香奈は思わず吹き出してしまった。
「どうして笑う?」
「あ……ごめんなさい。わからないけど……」

 本当に。どうして笑ってしまったのか。慌てて口元を押さえて藤堂を見上げる。本人は気づいているのかいないのか、藤堂も微かに口元をほころばせていた。