学校に近づくと、まるで何かの野次馬かと思う騒音がした。
それは校内に流れている流行りの曲のメドレーで、それが校外にまで漏れ出ていたのだった。学校の敷地に入り、ようやくそれが文化祭によるものだと理解したが、その曲はひまりの知らないものばかりだった。
まるで他校を訪れたような感覚で校門を通る。
アニメやドラマで見るような、校庭に出し物がある派手な文化祭ではなく、校内だけに留まった、公立高校らしい文化祭だ。
それでも初めて見るひまりの目には、それらは全て新鮮に映った。
申し訳程度に風船で装飾された玄関を、二人でくぐる。その頃には二人の手は離れていた。
各々の下駄箱に向かい、うち履きに履き替えてから再び合流する。
校内は華やかに装飾されており、玄関前の掲示板には外部の来客用に、催し物の案内地図が掲載されていた。
二人はその前に立って、どんなものが出店されているかを見る。
「どれにしようか」
目線を地図に向けたまま、凛に訊いた。
地図にはクラスの催し物と、どこで開かれているのかが書かれている。ひまりのクラスが出しているお化け屋敷の他、クレープ屋、金魚すくい。スナックといった、無難なものから趣向を凝らしたものまで、様々だ。
「これなんかいいんじゃないか?」
「え、どれ?」
ひまりは無邪気な子供のように、身を乗り出して訊いた。
「これだよ、これ」と、凛は指を差して示した。
指先は体育館を差していて、そこは個人が申し出て見せ物をする、いわゆる文化祭のメインステージだった。
ひまりは密かにそれを見ることに、憧れを持っていたのだ。
「私、教えたっけ?」
「何が?」振り向いて言った。「何となく好きそうだから。だって結構そういう動画見てたじゃん」
「え、いつ?」
「バイトの休憩中さ、文化祭でダンス踊ってる高校生の動画、見てたよね?」
「見てる私を見てたの?」
「まぁ、そうかな」
「えぇ」
とは言いつつも、内心気遣って体育館に行こうと言ってくれたことに、喜びを感じた。
「さ、行くぞ」
凛は話を強引に打ち切って、ずかずかと手を引いて歩いた。
途中、クラスメイトとすれ違ったが彼女らはひまりには目もくれず、文化祭を楽しんでいた。記憶違いでなければ、ひまりが教室で嘔吐したとき、悪口を言っていた生徒のはずだが、ひ
まりには目もくれずに通り過ぎていった。
人目を気にしながら、手を握って歩く。
カップルだと羨ましそうに見つめる女子生徒や、青春だねぇと懐かしむどこかの中年女性の姿が見えた。
ひまりが思ったよりも、侮蔑の目は向けられていないことに気づく。
そうして辿り着いた体育館は、カーテンが閉め切られており、互いの顔がぼやけて見えるほど真っ暗だった。ステージだけがスポットライトのように照らされており、辛うじて足場が見えた。
人の隙間を縫って歩き、ようやく座ることができた。
ステージではどこかのクラスのお調子者が二人揃って、テレビで見たことのある漫才をしており、体育館は笑いに包まれていた。
テレビで見るその漫才は面白いと思うのに、彼らがする同じ漫才は、はっきり言って面白くはなかった。しかしこの会場には笑わせる何かがあるのだろう。
面白いとは思わなくても、「さぁ、壇上から笑ってください」という雰囲気を感じると、会場は笑いの渦に包まれた。
面白くなかったが、釣られて笑ってしまう。
これが文化祭なのだと感じ、ひまりは楽しんで心から笑うのだった。
それは校内に流れている流行りの曲のメドレーで、それが校外にまで漏れ出ていたのだった。学校の敷地に入り、ようやくそれが文化祭によるものだと理解したが、その曲はひまりの知らないものばかりだった。
まるで他校を訪れたような感覚で校門を通る。
アニメやドラマで見るような、校庭に出し物がある派手な文化祭ではなく、校内だけに留まった、公立高校らしい文化祭だ。
それでも初めて見るひまりの目には、それらは全て新鮮に映った。
申し訳程度に風船で装飾された玄関を、二人でくぐる。その頃には二人の手は離れていた。
各々の下駄箱に向かい、うち履きに履き替えてから再び合流する。
校内は華やかに装飾されており、玄関前の掲示板には外部の来客用に、催し物の案内地図が掲載されていた。
二人はその前に立って、どんなものが出店されているかを見る。
「どれにしようか」
目線を地図に向けたまま、凛に訊いた。
地図にはクラスの催し物と、どこで開かれているのかが書かれている。ひまりのクラスが出しているお化け屋敷の他、クレープ屋、金魚すくい。スナックといった、無難なものから趣向を凝らしたものまで、様々だ。
「これなんかいいんじゃないか?」
「え、どれ?」
ひまりは無邪気な子供のように、身を乗り出して訊いた。
「これだよ、これ」と、凛は指を差して示した。
指先は体育館を差していて、そこは個人が申し出て見せ物をする、いわゆる文化祭のメインステージだった。
ひまりは密かにそれを見ることに、憧れを持っていたのだ。
「私、教えたっけ?」
「何が?」振り向いて言った。「何となく好きそうだから。だって結構そういう動画見てたじゃん」
「え、いつ?」
「バイトの休憩中さ、文化祭でダンス踊ってる高校生の動画、見てたよね?」
「見てる私を見てたの?」
「まぁ、そうかな」
「えぇ」
とは言いつつも、内心気遣って体育館に行こうと言ってくれたことに、喜びを感じた。
「さ、行くぞ」
凛は話を強引に打ち切って、ずかずかと手を引いて歩いた。
途中、クラスメイトとすれ違ったが彼女らはひまりには目もくれず、文化祭を楽しんでいた。記憶違いでなければ、ひまりが教室で嘔吐したとき、悪口を言っていた生徒のはずだが、ひ
まりには目もくれずに通り過ぎていった。
人目を気にしながら、手を握って歩く。
カップルだと羨ましそうに見つめる女子生徒や、青春だねぇと懐かしむどこかの中年女性の姿が見えた。
ひまりが思ったよりも、侮蔑の目は向けられていないことに気づく。
そうして辿り着いた体育館は、カーテンが閉め切られており、互いの顔がぼやけて見えるほど真っ暗だった。ステージだけがスポットライトのように照らされており、辛うじて足場が見えた。
人の隙間を縫って歩き、ようやく座ることができた。
ステージではどこかのクラスのお調子者が二人揃って、テレビで見たことのある漫才をしており、体育館は笑いに包まれていた。
テレビで見るその漫才は面白いと思うのに、彼らがする同じ漫才は、はっきり言って面白くはなかった。しかしこの会場には笑わせる何かがあるのだろう。
面白いとは思わなくても、「さぁ、壇上から笑ってください」という雰囲気を感じると、会場は笑いの渦に包まれた。
面白くなかったが、釣られて笑ってしまう。
これが文化祭なのだと感じ、ひまりは楽しんで心から笑うのだった。