次の日も、その次の日も凛は家に来た。
彼は学校を休んでくる日もあれば、放課後に来る日もあった。
鈍感なふりをせずにはっきり言うと、凛はきっと自分のことが好きなのだと思う。だからこうして連日家に訪れてくれるのだろう。
ひまりは別に凛に好意を抱いているつもりは無かった。しかし彼といる時間は心地いいし、家族とは異なる気楽さがある。
きっとはみ出し者同士、心が通じるのだろう。
そんなある日のこと、秋雨が降る日だった。
妙に冷えて冬を近くに感じていると、いつもよりも少し遅い時間にインターホンが鳴った。家主の返答が来る前に玄関を開け、「こんにちは」と大きな声で言う。
ひまりはリビングにいたが、その声を聞くとすぐに玄関へと向かった。
初めはどこかうっとおしく思っていたが、今では凛が来ることを一つの楽しみとしていた。引きこもりのひまりにとっては、話し相手になってくれる凛がありがたかった。
玄関に行き、慣れたように「お疲れ」と言う。
凛もまた、慣れたように「お疲れ」と返した。
凛はびしょ濡れの傘を畳んで、高木家の傘と混同しないように靴棚に立てかけた。それから、いつものように「お邪魔します」と言って、そのままひまりの部屋へと向かう。
少し遅れて「どうぞー」と母親の声がしたが、その時にはもう階段を登り終えていて凛には声が届かなかった。
そんな彼の後を追って、ひまりも自室へと向かう。
部屋に入った凛は、まるで自分の家のように横になってくつろいでいる。凛が家に来るようになってから二週間ほどしか経過してないが、まるでずっと前から暮らしていたようだ。
ひまりはいつものようにベッドに腰かける。後ろに手をつき、体重をかけて楽な姿勢を取る。
しばらくいつものように、他愛のない話で盛り上がった。
その後、凛が姿勢を正した。ひまりは何かするのではないかと身構えたが、彼が告げたのは全くもって単純な事だった。
「月末、一緒に文化祭回らないか?」
もうそんな時期かと思った。文化祭委員はどうなっているだろうか。
正直言って回りたい。しかし今の自分にはそれができないだけの理由がある。
凛にはひまりの拒絶反応について言ったことはなかったが、しかし今までの会話から、何となく察していてもおかしくはない。
それなのに誘ってくれた。一体凛は何を考えているのだろうかと、不思議に思った。そんな彼が次第におかしく思えてきて、思わず吹き出してしまった。
「何だよ。おかしなことでも言ったか?」
ひまりは笑いの余韻を残して言う。
「いや、本当にデリカシーない人だなって」
「うるせぇ、何も考えつかなかったんだよ」
視線を逸らし、口を尖らせて言う。
「別にいいんだけどね」と、彼に合わせて笑いながら言った。
「まぁ、その誘いは嬉しかったよ。でも外出るの怖いしさ、一人で楽しんできてよ」
「いいや。俺は当日迎えに来る。行かないって言っても、無理やり連れていく」
「それは困るなぁ」と、笑って言った。
本当にそれをされたら困ったどころの話ではない。最悪の場合、文化祭色で染められた校舎を、ひまりの吐瀉物で汚してしまう可能性がある。船山に触れられたときのように。
どれだけ見たいものがあろうと、その可能性がある限りは学校に行くのは怖い。
ただ少し、灯花の年頃の少女のように、淡い期待を抱いた。
文化祭当日に凛が現れて、自分を学校まで手を引いて連れて行ってくれる。彼が連れ出したことによって、ひまりは恐怖を抱かなくなる。それは魔法のような夢だ。
でも少しくらい、魔法に期待してもいいのではないか。
どうせただの取るに足らない妄想だ。
どんなに壮大な妄想を広げても、誰も咎めやしないのだから。
彼は学校を休んでくる日もあれば、放課後に来る日もあった。
鈍感なふりをせずにはっきり言うと、凛はきっと自分のことが好きなのだと思う。だからこうして連日家に訪れてくれるのだろう。
ひまりは別に凛に好意を抱いているつもりは無かった。しかし彼といる時間は心地いいし、家族とは異なる気楽さがある。
きっとはみ出し者同士、心が通じるのだろう。
そんなある日のこと、秋雨が降る日だった。
妙に冷えて冬を近くに感じていると、いつもよりも少し遅い時間にインターホンが鳴った。家主の返答が来る前に玄関を開け、「こんにちは」と大きな声で言う。
ひまりはリビングにいたが、その声を聞くとすぐに玄関へと向かった。
初めはどこかうっとおしく思っていたが、今では凛が来ることを一つの楽しみとしていた。引きこもりのひまりにとっては、話し相手になってくれる凛がありがたかった。
玄関に行き、慣れたように「お疲れ」と言う。
凛もまた、慣れたように「お疲れ」と返した。
凛はびしょ濡れの傘を畳んで、高木家の傘と混同しないように靴棚に立てかけた。それから、いつものように「お邪魔します」と言って、そのままひまりの部屋へと向かう。
少し遅れて「どうぞー」と母親の声がしたが、その時にはもう階段を登り終えていて凛には声が届かなかった。
そんな彼の後を追って、ひまりも自室へと向かう。
部屋に入った凛は、まるで自分の家のように横になってくつろいでいる。凛が家に来るようになってから二週間ほどしか経過してないが、まるでずっと前から暮らしていたようだ。
ひまりはいつものようにベッドに腰かける。後ろに手をつき、体重をかけて楽な姿勢を取る。
しばらくいつものように、他愛のない話で盛り上がった。
その後、凛が姿勢を正した。ひまりは何かするのではないかと身構えたが、彼が告げたのは全くもって単純な事だった。
「月末、一緒に文化祭回らないか?」
もうそんな時期かと思った。文化祭委員はどうなっているだろうか。
正直言って回りたい。しかし今の自分にはそれができないだけの理由がある。
凛にはひまりの拒絶反応について言ったことはなかったが、しかし今までの会話から、何となく察していてもおかしくはない。
それなのに誘ってくれた。一体凛は何を考えているのだろうかと、不思議に思った。そんな彼が次第におかしく思えてきて、思わず吹き出してしまった。
「何だよ。おかしなことでも言ったか?」
ひまりは笑いの余韻を残して言う。
「いや、本当にデリカシーない人だなって」
「うるせぇ、何も考えつかなかったんだよ」
視線を逸らし、口を尖らせて言う。
「別にいいんだけどね」と、彼に合わせて笑いながら言った。
「まぁ、その誘いは嬉しかったよ。でも外出るの怖いしさ、一人で楽しんできてよ」
「いいや。俺は当日迎えに来る。行かないって言っても、無理やり連れていく」
「それは困るなぁ」と、笑って言った。
本当にそれをされたら困ったどころの話ではない。最悪の場合、文化祭色で染められた校舎を、ひまりの吐瀉物で汚してしまう可能性がある。船山に触れられたときのように。
どれだけ見たいものがあろうと、その可能性がある限りは学校に行くのは怖い。
ただ少し、灯花の年頃の少女のように、淡い期待を抱いた。
文化祭当日に凛が現れて、自分を学校まで手を引いて連れて行ってくれる。彼が連れ出したことによって、ひまりは恐怖を抱かなくなる。それは魔法のような夢だ。
でも少しくらい、魔法に期待してもいいのではないか。
どうせただの取るに足らない妄想だ。
どんなに壮大な妄想を広げても、誰も咎めやしないのだから。