二日前から夏休みに入り、わたしはおばあちゃんの実家に遊びに来ていた。
 東京から電車にゆられること4時間くらい。
 お父さんとお母さん、わたしと妹の4人。
 東京と違って自然豊かで代わりに電車やバスがほとんど走っていない。
 ううん、走ってはいるんだけど・・・・・・。
「え! バス1時間に1本なの!?」
「そうみたいだね」
わたしはお父さんとバス停の時刻表を見て叫んだ。
 近くにゲームセンターもショッピングモールも無いから隣町のプールにでも行こうと思ったんだ。
 けれど錆の目立つ時刻表には残念な現実があった。

 でもジリジリ照り付ける太陽の下、1時間先のバスを待つなんて絶望的だった。
「えー・・・・・・死んじゃうー」
ジーワジーワジャリジャリジャリというオーケストラ顔負けのBGMをバックに、わたしはお父さんにしなだれかかった。
 夏川さくらといういかにも暑さに強そうなわたしだけど、都会育ちには田舎の自然に勝てなかった。
 照り返す太陽の光がアスファルトを灼熱の大地に変える。
「ううー・・・・・・」
まるでゾンビみたいにうなだれたまま家路につく。
 ゆらゆらと熱気なのかモヤのようなものが立ち昇る。
 茹であがってしまいそうな中、やっとの思いでおばあちゃんの家に辿り着いた。

「あれぇ? プール行ったんやなかったんけ?」
洗濯ものを干しながらおばあちゃんが尋ねてきた。
「せやねん。行こうおもてんけどな、バス無かったわ」
お父さんがサンダルを脱ぎ、雑巾で足を拭く。
「ホンマか。あー、そやな。一昨年くらいから本数減ったんやったわ」
2人の会話を聞き流しながら冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注いだ。
 琥珀色の液体がキラキラと輝く。
「あっつぅー・・・・・・」
ゴクゴクと喉を鳴らして麦茶を飲むわたしにおばあちゃんが呼びかけた。
「さくらちゃん川で泳いだらええんちゃう?」
「川で?」
川と聞いて思い浮かんだのはコンクリートに囲まれ、よどんで灰色の水だった。
「川ってドブのことでしょ?」
「ちゃうで。田舎の川はきれいやで。あと冷たい」
わたしは駈け出していた。