後日。新聞の一面を飾ったのは土鳩殺害事件の犯人の顔と名前。その他にも小さな記事で見覚えのある顔が数人載っていたが、僕は興味なさげに新聞を放り投げた。
「執筆は進んでいるかい?」
「ちゅう秋」
親友の顔に、僕はいつの間にか詰めていたらしい息をほっと吐いた。妻に茶のおかわりと茶菓子を頼み、僕は万年筆を握る。書きかけの原稿は、今度出す予定の新刊だ。軽く思いついていた展開を書いた僕は、運ばれてきた湯呑と入れ替わるようにペンを置いた。向かいの席では、ちゅう秋が僕の放った新聞紙を広げている。ふむふむと斜め読みした彼は、にやりと楽し気に笑みを浮かべた。新聞紙が綺麗に折りたたまれていく。
「中々面白い記事じゃないか」
「そう思うかい?」
「もちろん」
強く頷く彼に、僕は口につけた湯呑を傾ける。濃くも薄くもない茶が、美味しい。——嗚呼でも。
「そんな記事、面白くとも何ともないね」
僕はそう吐き捨てると茶菓子の煎餅を齧った。
「気に入ったならあげるよ」
僕はいらないから。——それもそうだろう。その記事を書いたのは他の誰でもない――自分自身なのだから。
つまらなさ気に煎餅を齧り、咀嚼する。ちゅう秋は呆れながらも新聞をもらっていくのだろう。懐に入れたかと思えば、代わりに僕に紙切れを差し出した。その表情は、どこか愉快そうに笑っていて。僕は紙切れを受け取ると目を見開いた。ちゅう秋が告げる。
「君さえよければ、今度土鳩たちの墓参りに行かないかい?」
紙切れ――使い捨てカメラで撮ったであろう写真には、動物保護の団体が作ったであろう土鳩たちの墓が映っていた。可愛らしい鳩の形で造られた墓を見て、僕はちゅう秋の誘いににべもなく頷く。
それから数日後。僕たちは二夫婦揃って彼等の墓参りに出かける事にした。