「どうして下着は抵抗無くお供えしたのにスマホで渋ったのか、そこはとりあえず置いといて……」

 私の相談に乗ってくれた彼は、開口一番、若干引いた様子でそう言って更に続けた。

「妖怪のせいだねそれは」
「妖怪のせい?」

 何でもかんでも妖怪のせいにするという流行りは、とうの昔に過ぎ去ったはずだが、しかし彼の真剣な表情を見る限り、本気らしい。
 まあ私も、それとなく『そういった類』のせいだとは思っていたけれども。

「その写真を撮って確認した時には既に、家の前に着いていたんだよね?」
「うん」

 私はスマホで撮影した例の写真を彼に見せながら答える。

「ふむ……やはり君が迷い込んでいた道は、その妖怪が作り出した異界だね。無限に同じところをグルグルと歩き続ける、そんな世界だ」

 なるほど。つまり私は、知らず知らずのうちにその妖怪の術中に嵌ってしまっていたということか。しかし、彼の解釈を聞く限りでは、私が昨日体験した出来事とは矛盾が生じていた。

「でも私、こうして帰れてるよ?」
「君は運がいい。きっとその妖怪は生まれたばかりだ。生まれたばかりだから、名前も、形も、知名度も無い。だからこそ、君は帰されたんだ」

 ……つまり?
 仮にその『生まれたばかり』というのが合っているとして、何故それが私の生還に繋がるのかは分からなかった。その疑問が顔に出ていたのか、彼は続ける。

「妖怪の知名度っていうのは、イコールでその妖怪の力になっていて、そして妖怪が存在している理由にもなっている。人あるところ、妖怪あり。人間に名前を付けられて、形を想像されて、それが広められて、初めて妖怪は妖怪として存在出来るんだ」

 不安や恐怖心、何か壮大な異常現象に直面した時、それが人間の想像の範疇を大きく外れていたら、きっと自分たちよりもっと大きな存在のせいであると思ってしまうだろう。雪女とか、魃とか、それらの妖怪も、一説では異常気象から想像され作られた妖怪であると聞く。

「僕が思うに、昨日君のことを迷い廻らせた妖怪は、その写真を使って多くの人間に自分のことを広めて欲しいと思ったのではないかな。だからスマホを取り上げる事はしなかったし、写真を撮ってくれたから帰したのだと思うよ」
「私は生まれたばかりの妖怪に利用されてるって事ね」
「そういうこと。実際に君、こうして僕に相談しに来てるからね」

 現在進行形で私はあの迷惑な妖怪に利用されている。こうして彼に相談した時点で、私は彼奴の布教に加担してしまっている。なんか悔しい。下着を取られ、その他諸々、所持品が取られてしまい、挙句上手いこと利用されてしまっているとは。

「もう今日は帰る。帰ってすぐ寝る」
「そう、じゃあね」

 イライラしてきた。だからといって復讐を行える程、私は人間を辞めていない。せめてもの抵抗として実行出来るのは、今回の件を広めないことだ。そうすれば彼奴を知っているのは目の前の彼と私だけ。聞いた理論から行けば、きっと彼奴は自然消滅しているだろう。