三×××年 七月。

『里を追われたあやかしたちが、いつからか人間界で人間に混じり生活するようになったと言われておりますよね。始まりは一人の人間とあやかしが恋に落ちたなんて素敵なお話ですが、実際のところ、あやかしはいると思いますか?』

『私はいると信じています。過去には天狗と思われる黒い羽根を生やしたあやかしが空を飛んでいたという目撃情報もありますからね! いつかこの目で見る日を楽しみにしているんですよ!』

『天狗と言えば、ここ百年ほど犯罪者が増加傾向にあるのは、人間界を守護している天狗の妖力が弱まっていったせいだと言われておりますね。たしかに犯罪者の増加は無視できませんが、あやかしとの関係は本当にあるんでしょうか?』

『昔から人間は災害などの自然現象すら霊的存在のせいにしていたじゃないですかぁ。犯罪者の増加を天狗のせいにしたい誰かの思惑って可能性もありますよねぇ』

『スタジオには何名かのあやかし否定派の皆さんもいるようですが……さて、ここで質問です。ここにいる皆さんは、全員人間ですか? この番組を見ているあなたの友人や恋人は本当に人間でしょうか?』

『一気にホラーになるじゃないですかぁ! やめてくださいよぅ!』

『ですね! あはははは!』

 温度管理が常に適温になるよう設定された自室で、伊勢《いせ》鈴鹿《すずか》はペンをくるくると指先で弄びながら、なんともなしに流れるテレビ番組を眺めていた。

 一緒に住んでいる叔父と叔母は仕事で、二十時を過ぎたというのにまだ帰らない。それもいつものことと、鈴鹿はノートに目を走らせた。
 とはいえ、集中力は低下中。鈴鹿はぼんやりとしながらノートにシャープペンシルで天狗の絵を描いていく。
 絵心はまったくない。黒く短い髪で鼻がやたら長い男性の絵が出来上がった。
 黒装束をなんとなく思い出しつつ描いて、背中から羽を生やしてみた。

(こんなのが本当にいたら、画像なり動画なりが残ってるはずでしょ……)