人から聞いた話 パート2


 随分、昔の話です。
 何十年も前の。

 父方の祖母の親戚だったと思います。
 おばあちゃんの妹さんだったような……ちょっと記憶が曖昧です。

 普段は専業主婦をされていたらしいのですが、親戚が開業した小さな店で働いていたそうです。
 ただ、おばあちゃんが言うには、かなりずぼらな人といいますか。

 計算するのがすごく苦手で、面倒くさがりらしく。
 親戚が開業したということもあって、たくさんの身内が遊びに来ました。
 その他にもご友人や近所の人など。

 おばさんとしては、良かれと思い、
「おつり多めに渡しておくわ」
 なんて適当に計算して、多めにお釣りを返していたそうです。

 その噂は知り合いの人々へとすぐに広まり……。
 連日、おばさんに
「これ買うから、多めにちょうだい」
 なんて集まるのですが。
 おばさんは、人が良いので。
「いいよいいよ。持ってきな。多めにお釣りあげとくわ」
 と毎回レジからお金を他人にバラまいていたそうで。

 おばさんは元々親戚が開業したからと、手伝いみたいな感じで、レジ打ちしていたのですが。
 結果的に、お店にとっては、損失ばかり生む存在になっていきました。

 僕はこの話をおばあちゃんから聞いて、その後が気になり、質問しました。
「なにそれ。儲からないじゃん。どうなったの?」
「潰れたよ、一ヶ月で。ばあちゃんが店に行った時も、買った商品を上回るお釣り返してきたもん」
「借金しか残らないじゃんか……」
「そうよ、だから破産よ」

 起業した際は、身内に任せない方がいいのかもしれません。

 皆さんは変態さんに出会ったことはありますか?
 アニメやマンガ、ドラマで見るテンプレのような変態さんです。
 所謂、露出魔ですね。

 1970年代ぐらいの話だと思うのですが。
 まだ僕の母が20代前半、仕事帰りに駅から自宅まで歩いていると。

 当時は今ほど、道路は舗装されておらず、街灯も少なく、夕方でも真っ黒だったそうで。
 一人の女性が夜道を歩くのは、恐怖を覚えるそうです。

 特に電柱や曲がり角らへんが一番ビクビクするらしく。
 お袋が一人歩いていると……。
 スッと人影が地面に見えたと思った瞬間。

「うわあっ!」

 と中年ぐらいの男がトレンチコート姿で出現します。
 何事かと思ったお袋は固まって萎縮しました。

 その驚いた顔を見て、男はコートをバッと開きます。
 中はなにも着ておらず、毛むくじゃらの裸体、そして黒いアレが……。

「きゃあああ!」

 お袋がそう悲鳴をあげると、にやぁ~っと薄気味悪く笑います。
 満足したのか、サッーと走り去るのです。
 この時、フェミニストのお袋は、カチンときたそうです。

 知らないおじさんの汚いモノを見ただけで、悲鳴をあげた自分に。
 そして、咄嗟におじさんの股間を蹴り上げることができなかった自分に。

 だから、僕は幼いころから、お袋にこう言われて育ちました。
「いい? 変態はこの世に必ずいるのよ! いつか、あんたにパートナーが出来たとして、変態が股間を出したらすぐに蹴り上げなさい!」
「躊躇はいらない! あいつらは女の悲鳴が大好物なんだから!」
 ときつく言われました。

 僕は現実でそういう場面に出会うことは、なかなか無いよなぁと思っていました。
 現在の妻である彼女にも「お袋が遭遇した変態に会ったことあるか?」なんて質問ましたが。
「ないない。いても私は絶対悲鳴なんてあげないよ」
 と自信があったそうです。

 そして、結婚してまだ間もない頃、新婚生活が始まって一週間ほどです。
 僕は奥さんと初めての年末を過ごすことになり。
 北九州に住むおばあちゃんが遊びに来てほしいと言われたので。
 仕事あがりの奥さんを職場まで迎えに行き、駅のホームで小倉行きの電車を二人で仲良く待っていました。
 すると、反対方向のホームから、なにやら変な音が聞こえて。

 僕が振り返ると、酔っぱらったハゲのおじさんが、モノを出して、立ちションをされていました。
 昭和時代なら、まだ見たことがありましたが、久しぶりに見た光景に僕は驚き、
「あっ」
 と声が漏れてしまいます。

 隣りにいた奥さんがそれに気がつき、
「え、どうしたの?」
 なんて言うので、僕は
「見ない方がいい」
 と必死に止めたのですが。
「気になるじゃん」
 そう言って、見てしまいました。

 真っ黒なアレを。

「きゃああああ!」

 付き合って数年の間柄ですが、今まで聞いたことないぐらいの大きな悲鳴でした。
 妻はツンデレというか、あんまり感情を出さないタイプでして。
 そういう女の子らしいところをなかなか見せない人です。

 奥さんの悲鳴を聞いた反対側のおじさんがそれに気がついて。
「ヘッヘヘヘ。お姉ちゃん見ちゃったんだ? ヘヘヘ」
 なぜか自身の股間を見られたのに、喜んでいました。

 そして、おじさんは列車に戻り、博多側へと消えていきました。

 この時、妻はブチギレていました。
「ああ~ ムカつく! あんな汚いもんを見せられて、悲鳴をあげた自分が!」
 僕が「いきなりだったから、仕方ないよ」と落ち着くように言いましたが、妻の怒りは治まりません。

 おばあちゃん家に着いて、この話をすると。
「なんだって!? 妻子ちゃんにそんな汚いもん見せて笑ってたの?」
 とおばあちゃんがブチギレ。
 また姑となったお袋が隣りで、大激怒。
「幸太郎! あんた、そいつの股間を蹴り上げれば良かったじゃない!」
 と叱られ、
 僕は
「いや、反対側のホームだったし、無理だったよ……」
 そう言い訳をすると。

 お袋はブツブツ言いながらキッチンで、年越しそばを作りながら。
「あ~ そういう奴、本当に腹立つね! 一度、股間を蹴り上げないとわからないのよ!」
 と言っていました。

 汚物を見せられ、悲鳴を上げてしまうのが、女性の皆さん、共通で憤りを隠せないのかもしれません。


 僕は高校生時代、一般の全日制高校ではなく、定時制の高校に通っておりました。
 とある事情により、数年遅れで入学。
 そこで、かつての中学生時代の同級生に再会しました。

 シャイだった僕は、陽キャな彼とは、あまり中学生時代もそんなに交流はなかったのですが。
「味噌村くんじゃん! 久しぶり~!」
 なんて声をかけてきたので、僕は渋々挨拶を返しました。
「あ……久しぶり」
 その後、彼と色々、思い出話をしましたが、中学生時代はあまり楽しい過去がなかったので、億劫でした。

 彼はとにかく、明るい性格で、誰ともですぐに仲良くなれる人でした。
 高校の先生や友達、ガラの悪いヤンキーとも、難なく交流していて、すごいなぁと思っていました。

 ある日、僕に尋ねてきました。
「味噌村くんってさ、彼女とかいるの?」
「いや、いないよ」
「え? ウソでしょ? ひょっとして、まだ童貞?」
 僕はこの時、17歳ぐらいだったと思います。
「うん。そうだけど」
 当然のように答えてみると、彼は急に冷たい目で、僕を睨みつけました。
「その年で童貞なの……はぁ、バカっぽい」
「……」
 この日から、僕という人間は、彼の中のヒエラルキー、最下位になったようで。
 見下すようになり、態度も非常に感じ悪くなりました。

「おい、味噌村。お前、まだ童貞なの? ダッセ!」
「いや仕方ないじゃん。相手がいないんだから……」
 それを鼻で笑い、上から目線で物言います。
「浮いた話一つもないのかよ? だからお前はその年で童貞なんだよ、俺だったら死んでるね」
「そ、そんなに? 好き同士じゃないとさ……」
「だからぁ! その考えがダサいんだよ! さっさとどんな女でも良いから、ヤッてこいよ!」
「……どうやって、するのさ? 相手がいないのに」
「はんっ! だよな、お前みたいなやつは、女の子知り合いにいないよな。じゃあ、俺が紹介してやるよ。待ってろよ」

 次に会う時、彼は一つのA4ノートを学校に持ってきました。
「おら、童貞のお前に紹介してやるよ。どれがいい?」
 中身を確認すると、プリクラが沢山貼られていました。
 若い女の子がたくさん、ビッシリと。
「これ……全部、君の知り合い? やけに多いね」
「おお。俺みたいな積極的にナンパしたり、女に声をかける男は、これぐらい訳ないんだよ。さ、どの子がいい? お前に紹介してやるよ」
 僕は正直、紹介されるのは億劫でした。
 というのも、この時、既に好きな女の子がいたからです。(のちの妻)

「いやぁ、いいよ……僕はいつか好きな人とそういう関係になりたいから」
「ダセェこと言ってんじゃねぇ! だからお前は童貞なんだよ!」
 そんなことを大声で教室で騒ぎだすので、僕は生きた心地がしませんでした。
 だって、近くに意中の女性がいたので……。
「とりあえず、俺が紹介してやっからよ、もう勝手に決めるからな!」
「いいって……」
 なんでか知りませんが、彼は僕に童貞を捨てて欲しいそうで、多分借りを作りたかったのだと思います。

 ですが、毎度毎度、相手の女の子に断られて、僕に謝罪します。
「わりぃ。ドタキャンされたわ。ま、次は絶対紹介してやっからよ!」
「もういいって……」

 会うたびにプリクラを自慢げに見せつけては、
「どうだ? 可愛いだろ~?」
 なんて言うので、僕は毎回、不思議に思っていました。
 それは彼が手に入れるプリクラのことです。

 彼の言う通り、モテモテ男だったら、そんなに女の子に困らないと思ったからです。
 僕が童貞と知ってから、急にマウントを取ってきたり、
「お前はわからないと思うけど、バイクに女の子を乗せると背中におっぱいが当たるんだぜ?」
 という自慢話が、どうにも童貞臭いと思ったからです。

 あくまでも、僕の経験ですが、童貞を恋愛などで卒業された男性は、なんというか、余裕があると思うのです。
 色々聞くと優しく話してくれる感じです。
 ですが、彼にはそれが全くない。むしろ、必死すぎるぐらいだったので。

 ある時、僕はプリクラの女の子たちのことを聞いてみました。
「それにしても、若くない? この子たち」
「おお、この子はまだ中学卒業したばかりだから、今16歳かな」
 僕たちは、本来なら高校3年生になる年で、18歳です。

「16? この高校で知り合った子?」
「ちげーよ。ナンパだよ」
「へぇ……じゃあ、この子が中学生の時に声をかけたの?」
「そうだよ。お前と違って度胸があるからよ」
「ふーん」
 他にも色んなプリクラを見ましたが、若い。
 若すぎる。気になった僕は、年齢を次々と聞いてみます。

「14歳、13歳、15歳、16歳になったかな? その子たちは13歳ぐらい?」
「ねぇ、なんでそんなに若い子ばかりなの?」
「若いって対して年変わらないだろ? お前、童貞のくせして文句言ってんじゃねーぞ!」

 それから数年後、僕は高校の卒業を控えていて、母校である中学校に遊びに行きました。
 というか、過去の自分に踏ん切りをつけるためです。
 中学の担任教師とは犬猿の仲でして、トラブルで卒業したもので。
 自分の中では黒歴史でした。

 担任教師は相変わらず感じ悪かったですが、他の先生たちは成長した僕を見て喜んでくれました。

「あら~ 味噌村くんじゃない! 久しぶり~ 大きくなってぇ。あなただけよ、全然顔を見せなかったの」
「はは……そうなんですか?」
「う~ん、他の子たちは、みんな毎月、下手したら毎週遊びに来てたのよ。味噌村くんもこれから顔を見せなさいよ~」
「まあ、そうっすね」
 
 色々過去の話で盛り上がっている中、何人もの先生がこう言います。
「あれ? 彼は来てないの?」
 自称、モテ男の非童貞くんのことです。
「いえ。僕、一人で来ました」
「あら、そう。あの子、卒業しても毎日のように来るのよねぇ……同じ高校でしょ? 仲良くしてる?」
 この頃、僕は彼ともう付き合いをほぼやめていました。
「まあまあですね」
「良い子よね、彼って。OBとして、後輩や在校生にも優しく声をかけてくれるのよ。みんなからお兄ちゃんって言われててね」
 僕はこの時まさかと嫌な予感がしました。

 後に判明したのですが、(後輩の女の子たちから)
 彼は母校である中学校にナンパしに遊びに来ていたらしく。
 先生たちには普通に接するのですが、いろんな教室などに顔を出しては、女の子を漁っていたそうな。

 ここまでなら、まあ緩い中学校ということなのですが……。
 実は、ただの中学校ではありません。
 特別養護学校であり、今でいう特別支援学校です。
 しかも、中学部、小学部、とエスカレーター式の学校でした。
(在学している子供たちは6歳から15歳まで)

 当時の養護学校は、主に心臓病やぜんそく、先天性の障がいを抱えた子供たちが多かったです。
 しかし、時代の流れということもあって、心身症。
 要は心を病んだ子たちも受け入れ始めたころ。
 名称さえ、付けられなかっただけで、今なら確実に、発達障害や精神障害、人格障害などが診断される繊細な子供たちです。

 そこに年上の彼が、文化祭など、外部の彼も普通に客として遊びに来ます。
 先生にすごく可愛がってもらっていたので、在校生も気を許してしまい……。
 連絡先を交換。
(このことを先生たちは把握していません)

 主に中学生を標的としていたようですが。
 彼の基準ですと、その下も狙っていた可能性があり得ます。

 身近な人ほど、注意された方がいいのかもしれません。
 馴れ馴れしいほどに、優しくしてくる人は……。

 僕は中学二年生の頃に、一般の中学校から、特別養護学校に転校しました。(現在でいう特別支援学校)
 理由は、不登校だったからです。

 中学校のお友達が毎朝、僕の家にチャイムを鳴らして、
「味噌村くん、今日はどう?」
 なんて善意でやってくれていたのですが……。

 人間不信に陥った僕は、その仲の良い友達以外とは会いたくなくて。
 学校と聞くだけで、ガクガク震える拒絶反応が出ていました。

 おまけに、家の中では親父が出勤前に決まって一時間以上も
「学校に行け!」
 お説教というか、恫喝されていて。
 沈黙で抵抗していると、
「だったら出ていって働け!」
 なんて捨てセリフを吐かれ、ご出勤なさるので、僕は心身共に疲弊していました。

 親父からだけじゃなく、家族全体が「いけいけ」ムードで、圧がすごく、食事も睡眠もろくに取れず。
 ガリガリに痩せて行きました。

 見兼ねた母親が、親父を黙らせるために、エリート大卒の小児科医を探し、そこでようやく
『頭がいい医師』にお説教を食らったことで、僕は親父から解放されました。

 ですが、この医師も親父と大して変わらない威圧的なおじさんで。
「味噌村くん。もう学校に行こうよ。なんで行かないの? なんで? 早く言いなさい!」
「……」
 と3時間以上も診察室で取り調べを行う、サイコドクターでした。

「他に悩みはないか?」
 と問われ、
 僕としては
「親父とあなたです」
 と言いたかったですが、この医師から逃げると親父がまた脅してくるので、言えません。
 他に悩みと言えば、毎朝のお友達ピンポンが苦痛だと相談しました。

 そしたら、
「どうせ今の中学校行けないなら、養護学校に転校しなよ。転校するだけ、学校には行かなくていいから。そしたら、ピンポンされないじゃん」
 と言われて、僕はその案をのみました。

 しかし、これはドクターの策略で、いざ転校したら、毎週のように
「味噌村くん、転校したんじゃん? 行きなよ?」
「いや……いいです」
「ダメだよ、約束したじゃん。今からでいいから、体験しておいで!」
 と診察をほったらかし状態にして、養護学校に連れて行かれました。

 養護学校の先生たちは、前の中学校と違って、優しい人ばかりでした。
 ですが、僕は人間不信が酷く、心を開くことはなかなかありません。

 教頭先生ではないのですが、まとめ役みたいな先生がいて。
 その方がすごく親身になってくれ、
「ドクターは結構あれだからね。あんまり無理しなくていいよ」
 なんて同情してくれました。

 何回か、個室で面談を行い、週に一回ぐらいでしたが、その先生と色んな話をしました。
「幸太郎もあれだろ? 転校してきて、いじめられたんだろ? 実は先生もそうなんだよ」
 先生は仲良くなるために、僕の下の名前で呼んでくれるようになりました。
「先生もなんですか?」
「うん。大阪出身だったから、なまりでいじめられたよ」
 そういう感じで、次第に僕は心を許せるようになり。
 二年生の三学期あたりから、少しずつ学校に通えるようになりました。

 それを見た先生は大喜びで。
 また個室で話をしようと誘ってくれました。
「幸太郎、お前よく頑張ってるなぁ……でも無理はよくないぞ。勉強だけが学校じゃないと思うんだ」
「はぁ……」
「出会いを求めて、学校に来てもいいと思うんだよ」
「ん、出会いですか?」
「そうそう、この話は幸太郎の先輩。卒業生の話なんだけどな。その子、耳が聴こえなくてさ」
「ああ」
「でもさ、すごいイケメンなんだよ。耳が聞こえないだけ」
 なんか急に話題が変わってきたので、僕は首を傾げました。

「耳が聞こえないだけなんだからさ、モテたんだよ」
「え、ええ?」
「修学旅行にみんなで行ったんだけどね。その時、可愛い女の子に部屋へと誘われてさ。童貞捨てたんだって」
「な、なんの話です?」
「コソッと教えてくれたのよ。『可愛くて超気持ち良かった♪』てさ、ハハハ!」
「ん? なにがです?」
 先生は優しく微笑んで、僕の肩をポンポンと叩きます。
「だからさ。幸太郎もそういう目的で、この学校に通ってもいいと思うんだよ、なっ!」
「え?」

 14歳でまだ子供ぽかった僕は、先生の話してくれた意味がわからず、帰宅後、お袋にその話をしました。
「ははは! あんたの年でそんなことができるわけないでしょ! 先生の冗談よ、真に受けるんじゃないよ」
「どういう意味?」
「あんたはまだ知らなくていいの」
「ふーん」

 大人になった今なら、先生の語ってくれた先輩の話が良くわかります。
 卒業しても、未だに年賀状のやり取りをするぐらい素晴らしい先生です。

 僕が中学生になったばかりの話です。
 うちの親戚は、正直極端なまで、二分化しています。
 簡単に言えばヤンキーかオタクしかいなくて、リア充がいないのです。

 シャイな僕は、オタクサイド。
 大体、うちの男たちは、北九州で育ったこともあり、(僕個人の先入観です)血気盛んな男が多いです。
 悪く言えば、短気です。

 いとこに、年の離れた超のつくヤンキーのお兄ちゃんがいました。
 年下の僕たちには優しく接してくれましたが、地元ではかなりの有名人だったとか。
 それぐらい荒れた家庭で育ったもので。
 ヤンキー兄ちゃんの妹。芋ちゃん、(仮名)も結構、苦労したようです。

 芋ちゃんは僕より、三歳年上のお姉ちゃんで、この時まだ女子高生になったばかり。
 男子のいない女子高に通っていました。

 芋ちゃんは、よく我が家へと遊びに来ていました。
 大きくなった僕と少し大人の話もしてくれるようになり、恋愛話も語ってくれました。
「ポケベル持ってるから、いっぱいメッセージ送りたい」とか。
「女子高だから、出会いが少ない。つまらない」とか。
 僕は中学1年とはいえ、子供っぽかったので、話を聞いていても、意味がわかりませんでした。

 ふと、僕は思いました。
 それは芋ちゃんの中学生時代です。
 共学の中学校なら、好きな人がいたのでは? と思ったからです。

「ねえ、芋ちゃんは中学の時に誰かを好きになったりしなかった?」
 すると、芋ちゃんは、苦い顔をします。
「えぇ? うちの学校? 地元でしょ?」
 すごく嫌がっていました。

 その反応を不思議に思った僕が
「どうして?」
 と訊ねると……。

「うちの中学校って子供っぽい奴が多いっていうか……ヤンキーが多いんだよ。だからちょっとねぇ」
 実のお兄ちゃんが不良だからこそ、嫌っているようにも見えました。
「そっかぁ……でも、中にはいい人とか、いたでしょ?」
「うん……いたはいたけど……なんかさ。この前の春休みにさ……見たんだよね」
「なにを?」

 芋ちゃんが言うには、中学校を卒業して。
 あとは高校入学まで、暇だったらしく、女友達と地元で遊んでいたそうな。
 とある公園で、ベンチに座り、女子トークで盛り上がっていると……。

 目の前の噴水に、薄っぺらいダンボールを、地面に一枚ひいた老人を見つけました。
 老人はホームレスさんだと、すぐに気がついたそうで。
 なぜかと言うと正座して、膝の前に
『お恵みを……』
 なんてメッセージが書かれたプレートを置いていたからです。
 空き缶を置いて、小銭を待っていると。

 近くから、ヤンチャそうな金髪の少年たちが数人、こちらへ近づいてきます。
 ジュースを飲みながら、談笑していて。
 芋ちゃんは彼らを地元の同級生だと気がつきましたが。
 少年たちは芋ちゃんよりも、老人に興味がわいたそうで。
 ズカズカと噴水の前まで、近づき……。

 持っていたジュースを、老人の前で、わざわざ全て飲み干し、見せつけます。
 そして、飲み終えた空き缶に、大量の唾を吐き出すと、ソレを老人に目掛けて、力いっぱい投げつけ……。
「おいっ! 飲めっ!」
 と脅したそうです。

 僕はそれを聞いて、ビックリしました。
「なにそれ!? お金じゃないじゃん。しかも、ジュースを渡すならまだしも……」
「ね? だから地元の同級生にはあんまりいいイメージがないんだよ」
 まあ、これについては、いとこである芋ちゃんの環境もあったと思うので。
 一概に、言い切れないと僕は思っています。

 この話を聞いて、僕は続きが気になります。
「ところで、その唾が入った缶はどうしたの?」
「え? 缶のこと?」
「うん。もちろん、おじいさんも捨てたよね?」
 芋ちゃんは真顔で答えます。
「いや。飲んだよ」
「えぇ!? ウソでしょ!?」
「本当だって。相手が不良だから怖かったんだと思う。目の前で睨みをきかしていたから『ありがとうございます』って律儀に頭を下げて、全部飲んでた」
「なにそれ……」
 あまりの鬼畜ぶりに、僕は言葉を失いました。

 その少年たちは、遊び感覚でやったことなのでしょうが、同じ人間として、許せない行為です。
 どうか、その後のおじいさんが、穏やかな日々を過ごせるように、ただ祈るばかりです。

   了

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