「私を討伐する気ですか、ベルダ殿」
「悪いな。お前個人に恨みはないが――」

 俺は空中で剣を構える。

「その前に一つ聞いてもいいか? お前はレアアイテムを大量に所持しているそうだな。そいつはお前の城の宝物庫にあるのか?」
「確かに我が城の宝物庫には魔界全土から集めたレアアイテムが多く秘蔵されていますが――なにゆえ、今そんなことを? いや……」

 アルドーザがニヤリと笑った。

「なるほど、『解呪の宝珠』ですか」
「…………」

 俺は無言で奴を見据えた。

「あなたもまた魔王様に離反するつもりで」
「誤解があるようだな」

 いや、実際は離反したいと思ってるけど。
 部下にもこの会話を聞かれてるだろうから、ごまかさなくてはならない。

「俺はただお前が持つ宝物を回収したいだけだ。我が軍に有用な道具も数多くあるだろうからな」
「……いっそ手を組みませんか、ベルダ殿。すぐに襲いかかってこないところを見ると、私となんらかの意思疎通を図りたいのでしょう」
「えっ」

 予想外の申し出に、俺は戸惑った。

 ただ『解呪の宝珠』の場所をそれとなく探りたかっただけなんだけどな。
 すぐ戦闘に入らず、会話になってしまったから誤解を招いたんだろうか?

 ――いや、待てよ。

「そうだった……お前、主人公相手にも共闘を持ちかけたよな?」

 ルート分岐によっては、アルドーザが主人公――勇者に対し、『手を組んで魔王を討たないか?』と言ってくるシナリオがあるのだ。
 そして、選択肢や戦闘の結果次第では、アルドーザは仲間になるようだ。

 俺はそのルートを選ばなかったので、あまり詳しくは知らないが――。

「主人公? なんの話です?」
「知る必要はない」

 首をかしげるアルドーザに、俺は冷ややかに言った。

「答えは……否、だ」

 言って剣を抜く。

「俺はお前をここで倒す」
「……なるほど。あなたはあくまでも魔王の忠実な手下というわけですね」
「当然だろう。魔王様のために、お前を討つ」

 内心を隠し、俺は言い放った。

 この会話も部下たちに聞かれている。
 当然、コーデリアにも。

 俺の一番身近にいる彼女には、特に怪しまれるわけにはいかないからな。
 魔王に忠誠心厚い暗黒騎士を演じておかなければ。

 呪いを解き、いずれ魔王から離れる、そのときまで――。

「ならば、あなたを殺し、魔王をも屠ってみせましょう!」

 アルドーザが吠えた。
 全身からすさまじい熱波が吹き荒れる。

『戦闘モード』に入ったようだ。

 さすがに雑魚モンスターとは迫力が違う。
 違いすぎる。

 これは、俺も本気で行くしかないな……!