「俺が先に様子を見てくる。お前たちは後から来てくれ」

 俺は部下たちに言った。

「指揮はコーデリアに任せる」
「ベルダ様?」

 コーデリアが驚いたような顔をする。

「あなた自らが先陣を切るのですか?」
「やばくなったら戻るよ。それじゃ――【高速飛行】!」

 俺は空を飛ぶ呪文を使い、一気に次元門まで向かった。

 単独行動を選んだのは、この先で人間が魔族と戦っている可能性を考えたからだ。
 たぶん、その可能性は高い。

 そして人間が相手なら、正直言って殺したくはない。
 そんな俺の迷いをコーデリアたちに見せたくなかったのだ。
 また、怪しまれるからな。

 ――なんて考えるうちに、もう次元門の上空まで到着してしまった。

 そこでは、予想通り戦闘が行われている。
 門を守っている魔族兵が、たった一人の戦士に押されていた。

「あいつは――」

 はっきり言って、めちゃくちゃ強い。

 剣を振り回すたび、魔族兵が数人まとめて斬り飛ばされていく。

 と、その戦士が空中の俺に気づいたようだ。

「新手か!」

 と、叫んだ。

 十代なかばくらいだろうか。
 金髪碧眼、銀色の鎧をまとった騎士だ。

 ここからでは、はっきりと顔は見えない……けど、たぶんモブキャラではないだろう。

『エルシド』のゲーム内で活躍する、名アリのキャラクターに違いない。

「この強大な魔力――お前が魔王軍の将か!」
「将……? 俺が?」

 俺は自分自身を指さしてキョトンとなった。

「いや、そんな大それた役職じゃ……あ、違った。将軍か、俺」

 どうもまだ自分の地位や立場に馴染んでないせいか、とっさに『将』なんて呼ばれると、頭がついていかない。

「ふざけたやつだ……! 俺は勇者ルーカス! 魔王軍を倒し、世界に平和をもたらす者だ!」
「ルーカスだって!」

 俺は思わず叫んでいた。

 ゆっくりと降下し、地面に降り立った。

 勇者ルーカス――。
『エルシド』におけるプレイヤーキャラクター……つまりは主人公である。

 ちなみに主人公は男女どちらの性別を選ぶこともできる。
 男性を選んだ場合は少年勇者ルーカスになり、女性を選んだ場合は少女勇者ミリーナになる。

 この世界の勇者は男性の方らしい。

「主人公か……こうして見ると、めちゃくちゃ美少年だな……」

 どうせ転生するなら、こっちがよかった。