この老人ホームで、アルコールのすっかり切れた頭でそれをじっくりと考えた。だから、息子に連絡を取って「ここから出せ」と言う気分にもなれないでいる。

「もう、向日葵は満開かしら」

 ゼンさんが最後の薬を飲み終えた時、ミトさんが窓辺に車椅子を寄せてそう言った。
 庭園の片隅では、小さな黄色がぽつんとした様子で浮かんでいる。それが数本の小振りな向日葵だと気付くまで、ゼンさんは数十秒かかった。

「驚いたな、ここには向日葵も植えられていたのか」
「去年、私がここへ来た時にも咲いていたわ。小さいけれど、立派な向日葵なのよ。視力が悪くなってしまって、少しぼやけて見えるのが残念ね」

 全開した窓の『開けるな厳禁』と貼られた注意書を脇目に、ゼンさんとミトさんが下を覗きこんでいると、カワさんも重たい腰を上げてそばに寄ってきた。

「どこに向日葵があるんだい? 黄色とピンクが混ざったところ?」
「おや、カワさんは目が悪いのかね?」
「老眼のうえに近視なんだ。私生活には、なんら不便はないけれど」

 カワさんは頬を桃色に染め、ミトさんの頭上から庭園を見下ろした。ミトさんは彼を振り返り、庭園の向日葵の形状が一回り小さいことを教える。