ログは前方を見据えたまま、腰の後ろに手をやった。彼が取り出して一度振るうと、強固な金属の固定音が鳴り響いた。突如として銀色の器具が現れたように見えたが、よく見ればそれは、横縞の黒い持ち手が付いた警棒だった。

 ログはそれを、エルに投げて寄越した。エルは慌てて、予想以上にずっしりとした武器を受けとめた。

「思い切り振るえば、細腕でもかなりの攻撃力になる。俺がフォローする――走れ!」

 怒号のような合図と同時に、ログが人形の一体を銃弾で吹き飛ばした。エルは、慌ててクロエに「隠れててッ」と言い聞かせ、コンマ二秒半遅れでログに続いて駆け出した。

 人形たちの中に飛び込むログの方から銃声音が続けて上がり、金属を打ちぬくような破壊音も上がった。

 ログの銃に撃ち抜かれた人形が、金属の破片を散らばらせて後方へと吹き飛ぶのが見えた。まるで精密な機械で造られた未来型のアンドロイドのように、人形の腹に開いた穴からは、細かい部品の集合体が覗いていた。

 同胞が壊されようが、人形達は構わず次々に突っ込んで来た。ログの強烈な蹴りに数体の仲間が飛散し、銃の柄で頭部を凹まされる様子を、気にとめる様子は微塵もない。八方からの攻撃に対するログの身体さばきは、戦い慣れた者の余裕さえ窺えた。

 道を切り開くようにログの後ろに、自然とつく形になったエルは、ミサイルのように突っ込んでくる小さな人形たちの攻撃を反射的にかわしていた。

 きらりと光る果物ナイフが鼻先をかすめた時は、さすがにひやりとした。そのストラップタイプの兎は、破壊され宙を飛ぶ仲間の屍を踏み台に、方向転換して襲い掛かってきたが、エルは回避直後に警棒で打ち払った。
 
 不意に、脇からジャックナイフを持った、顔の半分が焼けているドール人形が飛び出した。

 エルは恐怖映画を思い出し、悲鳴を上げながら両手で警棒を振るった。まるでホームランのような豪快な手応えと共に、人形が吹き飛んだ。

 え。意外と、メチャクチャ良い感じに飛んだな……