──そうして、暁人と千明は学園卒業まで「ご主人様」と「奴隷」として平穏な生活を過ごした。
理人は、新しい奴隷を迎えなかった。奴隷なんて必要ないほど、周りの女子達を魅了し、思い通りの生活を送っていた。
綾音は皆の見守り役を務めた。
──そして、4人は遂に卒業の日を迎えた。
卒業式の後、暁人が理人に話かけた。
「理人、僕はずっとお前が嫌いだった。お前との差を感じるたびに辛かった。でも……、彼女がそばで支えてくれて楽しい生活を送ることがてきた。幸せだったよ。ただただ感謝の気持ちしかないんだ。これからも彼女の1番いい笑顔を見ていたいから……、手放すことにするよ」
理人がクスッと笑って言う。
「手放すの遅い。もう少し待たされてたら奪いに行こうと思ってた」
暁人も笑いながら言う。
「ごめんね。でも、理人らしい。──待ってると思うから、行ってあげて」
理人は頷いて、走って行った。暁人が、小さくなっていく理人の背中を見つめながら呟く。
「理人より早く出逢えていたら、僕のことを好きになってくれたのかな……?」
「さぁ、どうでしょうね。あの2人は、切っても切れない赤い糸で繋がってるから……」
暁人が驚いて横を見ると、綾音の姿が。
「綾音ちゃん! いつの間に⁉︎」
「見守り役ですから! もし、ご希望なら私が特別に、あっくんのそばに居てあげても良いけど」
笑顔で話す綾音に、暁人はニッコリ笑い返した。
──千明は、思い出がたくさんつまった学園を1人で歩き回り、最後にあの教会にやってきた。教会の椅子に腰掛け、静かに目を閉じた。
あぁ、懐かしい。色々なことがあったなぁ。泣いたり、笑ったり、毎日忙しかったけど、楽しかった。あいつに振り回された日々が、ついこの前のことのようだ。引越して来る前に、思い描いていた高校生活とはかけ離れていたけど……、この学園に来られて、そして皆と出会えて本当に幸せだった。
神様、ありがとうございます。でも、もし可能ならば、もう1度ここにあいつを連れてきてほしいな……。なんてね……。
「待ってるだけじゃダメだよね。自分から行かなくちゃ」
千明がそう言って目を開けると──
誰も居ない。でも、ここで理人が居たらビックリだよね。
そんなことを考えながら立ち上がって振り返ると、そこには理人が居た。
「えっ、嘘……」
そう呟いて、千明は両手で顔を隠した。
「何やってんだ? お前」
不思議そうな顔で千明に近づく理人。
「何でもないよ! いきなり、あんたが現れたからビックリしただけ」
千明は両手で顔隠したまま、そう言って後退りした。
「何でもないなら顔見せろよ」
そう言って、どんどん近づくいて来る理人。千明は焦ったように言う。
「えっ、あっ……、ちょっと待って……」
理人が、千明の顔を覆っている両手を握り、引き剥がすと──
千明は泣いていた。
「お前、また泣いてんのかよ」
「だから『待って』って言ったじゃん!」
千明が言い返すと、理人が優しい顔で千明を見つめて言う。
「俺はもう十分待った。だから、これ以待たない」
「そうだ、5分しか待てないんだもんね」
バカにしたように笑いながら言う千明を見て、少し苛立つ理人。そして、あることを閃いた。
「お前、笑っていられるのも今のうちだぞ」
そう言われ、疑問に思う千明。
「それって、どういうこと?」
理人が得意げな顔で言う。
「こういうことだよ」
そう言って、千明に優しくキスをした。
えっ──!
千明は大声で叫んだ。
「私の大事なファーストキスを返して──!」
おわり