そう言いながら、彼女は、お湯の中にドンドン沈んでいく。口から鼻から、ブクブク泡が出てくる。真っ赤になって照れながら。
 きゅっと、なんだか、胸の奥に痛かった。ん。
「大人なのに、子どもっぽくって、でも、ちゃんと大人で、私が何をやっても、全部受け止めて、許してくれて、でも、怒るときはちゃんと怒って、めちゃくちゃ怖くて……」
 お湯の中で、ブクブク息を吐きながら、そんなようなことを、矢継ぎ早に言う。
 ああ、この人は、この顔は。その先生のこと、
「……好きなの?」
「好き」
 即答だった。真っ赤な顔で、真剣にこっちを見てくる。
 その顔が、まっすぐすぎて、見るのが辛い。
「憧れなんだ。私の」
 というと、きゃー! と言いながら、またお湯の中に、今度は、頭まで潜り込んだ。ブクブクブクブクブクブクブクブク.。o○
 銭湯のおばちゃん曰く、流行のガングロコギャル、ヤマンバの出で立ちで現れた、バケモノみたいな彼女は、今、多分世界で一番、乙女だった。
 そんな乙女を、私は見ていた。
 会ったばかりのこの人が、誰を好きでも構わないのに。どうでもいいのに。関係ないのに。
 なのに、なのに、なのに。
 なんだろう。やだ。だから
「その先生、もっと他にも、面白そうな話、知ってそうだよね」
 そう言うと、彼女はぱああっと笑顔になった。
「そうなの! 他にもね」
 気づいてるんだろうか。恋する乙女が、ただそれだけで、めちゃくちゃ可愛いことを。
 矢継ぎ早に、あんな話題こんな話題と、たくさん、「先生」のことを、彼女は話してくれた。話してる内容なんて、正直、何一つ覚えていない。ずっと、彼女の顔だけを見ていたから。
 ちく。
「会ってみたいな、その先生」
 心とは裏腹なことを言った。
 チク。
「でしょ!? 絶対楽しいよ!?」
 彼女が喜んでくれるんじゃないかと思ったから。
 チクリ。
 そこから、しばらく、とりとめもない話をした。
 あまりにも話し込んで、時間がたつのも分からなくなって、ただ、頭がのぼせそうになったから、お風呂から上がった。

 お風呂に入る前、脱衣所で、おばちゃんから、彼女のことを聞いていた。
 中学の頃から、陸上競技をやっていて、走り高跳びでは、県大会にも出場する選手だったとか。
 毎日のように、部活でかいた汗を、銭湯に流しに来て、さっぱりして帰る。