「放課後の屋上といったら、告白が定番だよね。この構図を見るときみが振ったという感じだよね。彼女、嬉し涙流してるわけではないもんね」

「おまえ、盗み聞きしてたのか」

「いや、気分転換のつもりで屋上に来たら、女の子が泣いている声が聞こえたから慌てて駆けつけたんだけど、え、さっきの当たってたの?」

「……」

「無視?なんか気まずそうな顔をしてるけど、橘くんってモテるんじゃないの?なら、女子の一人や二人、平気で振れるでしょ」

 その人がわたしに近づいてくる。ふわっと甘い香りが漂ってくる。香水?

「ほら、もう泣いちゃだめだよ。かわいい顔が台無しだ」

 ハンカチの感触を顔に感じる。来栖と呼ばれた人が涙を拭いてくれてるみたいだった。

 来栖?そういえばどこかで聞いた名前。

「おや、橘くん、もう帰っちゃうの?」

「もう話は終わったよ」

「正直なところ、どんな事情があったのか、おれには全然わかんないんだけどさ、一応、謝ったほうがいいんじゃないの? 女子を泣かせたわけだから」

「おまえには関係のないことだろ」

「泣いてる女の子を見捨てておくわけにもいかないでしょうが」

 橘先輩はなにも答えず、静かにドアの開放音だけが響いた。

「ほんとひどい男だよね。泣いてる女子を放置するなんて」

「いいんです。悪いのはわたしですから」

「なにがあったのか、聞いてもいいのかな?」

 わたしは唇を噛み締めた。
 一人で抱えるには重すぎて、でも、誰かに簡単には話すことなんてできない。

「もちろん無理には聞かないよ。ただ、一つだけ教えてもらいたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「さっきの橘くんとは付き合ってるの?」

「……いえ」

「だよね。橘くんの顔、やけに険しかったんだよね。もしかしたらこれは色恋沙汰じゃないかもって、心の隅で思ったんだよね」