あの日から、約一週間が経った。私は何をする気にもなれず、自分の部屋の中で一人、時間を持て余していた。夏休み中で学校もないから、翼くんはもちろん、光輝くんとも会っていない。事故の次の日に、翼くんはしばらくの間入院になる、というメッセージが光輝くんから来て以来、連絡すら取っていなかった。これは、今までの私たちなら絶対にありえない。でも、今はまだ自分の中でも咀嚼しきれていなくて、どうしようもなかった。

ふと、いつかの三人での帰り道を思い出す。
花火が好き、と言っていた翼くん。
夏の終わりは8月31日だと言っていた翼くん。
私たちと花火大会に行くのを楽しみにしていた翼くん。
思い出すのは、笑顔の彼ばかりだ。

病室で、力なく横たわっていた彼の姿を思い出す。それだけで次々と浮かんできてしまったネガティブな感情を、ぶんぶんと頭を振って追い出した。
「……翼くんと、花火見たかったな」
私たちが行く予定だった花火大会は、毎年花火大会の中でも後半に行われるものだった。だから、今年はもう、三人で花火を見ることは難しい、ということになる。
「……!」
そこでふと、あることを思いつく。私は慌ててスマートフォンを手に取った。


「翼くん!」
「……すず?」
「すずちゃん? どうしたの、そんなに慌てて」
二日後、翼くんの病室に入ると、そこにはちょうどお見舞いに来ていたのであろう光輝くんもいた。彼の隣に当たり前のように置かれた車椅子に、涙が出てしまいそうになるのを必死に堪える。
「翼くん、まだ間に合うよ! 夏はまだ終わってない!」
「え?」
翼くんは何のことかわからない、とでもいうように私を見ている。その瞳にはどこか諦めのようなものも見えた。

調べてみると、今年の夏の花火大会はあれが最後ではなかった。8月31日にも、近くで小規模ではあるものの花火が上がるお祭りがあったのだ。
「調べてみたら、花火大会はまだあったの! 8月31日にも、花火は上がるの! だから、三人で一緒に行こう? 私と光輝くんで、車椅子でも見られる場所を探すから!」

病室内にもう何度目かの静寂が流れる。光輝くんも、心配そうに翼くんの様子を窺っていた。

「……から、もう」
「え?」
最初に沈黙を破ったのは、翼くんだった。でも、今日の翼くんはどこか、いつもとは違う雰囲気をまとっている。
「……翼?」
異変に気付いた光輝くんが名前を呼ぶ。そのとき、翼くんが堰を切ったように叫び始めた。

「……もういいから! 花火大会も、……俺なんかと仲良くしようとするのも、全部!」

「……翼くん?」
こんなに取り乱す翼くんを見たのは初めてで戸惑う。私が知っている彼は、いつも冷静で優しい眼差しをしているから。
「翼、何言って、……」
光輝くんは止めようとしたけれど、翼くんの表情があまりに苦しそうで、私も光輝くんもそれ以上何も言えなくなってしまう。
「……もう帰って」
「おい、翼!」
「……すずも、光輝も、もう帰って。あと、もう来なくていいから」
再び、無音が落ちる。その場の空気に耐えられなくて、私は一人、病室を飛び出した。