アラムとの試合。
そして、母さんに稽古をつけてもらった日から、数日が経っていた。
「ふむ」
魔法書に目を通して、その内容を頭に叩き込んでいく。
最近の俺の日課は、母さんから借りた魔法書を自室に持ち込み、勉強をすることだ。
男だけど魔法の才能があるかもしれないということで、俺は魔法書の持ち出しを許可された。
ようやく現代の魔法に触れることができる。
あれからどのような進化を遂げたのか?
女性だけが扱えるようになって、どのような変化が起きたのか?
それを楽しみに勉強をしているのだけど……
「……まいったな」
苦い顔をして、魔法書をパタンと閉じた。
三十冊ほどの魔法書を隅々まで読み込んだが、成果という成果を得ることができていない状況だ。
「なんだ、この低レベルな魔法理論は?」
魔法書に書かれている魔法理論は、どれもこれも低レベルなものばかりだ。
間違えて子供向けのものを借りてしまったのではないかと、母さんに確認をしてみたが……
これらの魔法書は、大人向けの本格的なものだという。
それならばと思い、さらなる高度な魔法書を求めてみたのだけど……
やはり、結果は変わらず。
多少、レベルが向上しているだけで、低レベルな内容に変わりはない。
「これ、前世なら子供でも内容が理解できるレベルのものだぞ。それなのに、大人向けの難解な魔法書だって? いったい、どうなっているんだ?」
あれこれと考えて……
やがて、とある結論に至る。
その結論は、なかなかに認めたくないものなのだけど……
でも、それ以外に考えられない。
「……魔法のレベルが衰退しているな」
心当たりはある。
500年前、魔王が復活した。
どこから現れたのか、その正体は何者なのか。
なにもわからなかったけれど……
ただ一つ。
ヤツの目的が世界を滅ぼすこと、ということだけは理解した。
前世の俺は魔王に戦いを挑んだ。
別に世界を救うつもりはない。
単純に、己の力を証明するために、最強と呼ばれていた存在に挑みたかっただけだ。
まあ、それはどうでもいい話だ。
で……
500年前、魔王は盛大に暴れてくれた。
それはもう、目を覆いたくなるほどの惨状だった。
いくつもの国が滅び、あるいは、大陸が吹き飛んだ。
世界滅亡の数歩手前まで進んでいたのだ。
その影響で、たぶん、文明が停滞、衰退してしまったのだろう。
500年かけて現状まで復興したものの……
魔法のレベルが上がることはなくて、逆にレベルダウンしてしまった。
そう考えると色々と辻褄が合う。
「まいったな……これじゃあ強くなることができない」
この時代に転生した目的は、二つ。
一つは、この時代に逃げたと思われる魔王と決着をつけること。
今度は逃したりしない。
真の強者を決めるため、最後までとことんやり合うつもりだ。
もう一つは、500年の間に進化したであろう魔法を学ぶこと。
そうすることで、俺はさらに強くなることができる。
そう思っていたのだけど……
「進化するどころか衰退していたなんて……ホント、大誤算だ。どうする?」
魔法書を読み漁っても意味がない。
たぶん、どれもこれも似たようなレベルだろう。
百年以上前の古書なら、あるいは……
でも、そんな骨董品はウチにない。
「そうだな……人に教えてもらうのがいいかもしれないな」
全体的に魔法のレベルは落ちているものの……
それでも、色々な変化は起きている。
女性しか魔法を扱うことができないなど、その最もたる例だ。
そういう変化を重点的に学んでいけば、思わぬ発見があるかもしれない。
そして、それは誰かに師事して教えてもらうのが一番だ。
そんな結論に至った俺は自室を後にして、母さんのところへ向かう。
「あら? どうしたのですか、レン」
母さんは執務室で仕事をしていた。
のんびりと紅茶を飲んでくつろいでいるだけ……なんて貴族はいない。
大なり小なり、貴族というものは色々な雑務に追われているものだ。
「すみません、仕事中に。今、いいですか?」
「ええ、構いませんよ。ちょうど、休憩をいれようと思っていたところですから」
母さんはペンを置いて、俺の方を向いた。
「ちょっとお願いがあるんですけど」
「まあ、レンがお願いなんて珍しい。どうしたのですか?」
「魔法に関する家庭教師をつけてもらえませんか?」
「家庭教師を?」
「独学では限界があって。わからないところにぶつかっても、質問できる相手がいません。なので、家庭教師などをつけてもらえると助かるな、と思って」
魔法書が低レベルすぎて役に立ちません、とはさすがに言えなかった。
「なるほど、一理ありますね。レンの場合は特殊ですし、定石通りにはいかないことも……そうですね、わかりました。お父さんと相談をして、適当な人を探してみることにします」
「本当ですか!?」
「ええ。レンには魔法の才能があるかもしれませんからね。親として、子供の才能を伸ばしてあげることは当たり前のこと。できるだけのことはしますよ」
「ありがとうございます!」
こうして、魔法の家庭教師がつけられることになった。
――――――――――
「はじめまして。これから、私があなたの担当をさせていただきますね」
「よろしくおねがいします」
数日後……家庭教師が見つかり、さっそく授業が行われることに。
家庭教師は現役の冒険者だ。
一線で活躍する魔法使いで、百を超える魔法を操るという。
本来なら、家庭教師を引き受けているヒマなんてないのだけど……
たまたま足を怪我してしまったらしく、その間は家庭教師をしてくれるらしい。
一線で活躍する冒険者。
魔法書とは違い、高度な魔法理論を理解しているかもしれない。
それだけじゃなくて、俺が知らない技術、知識を持っているかもしれない。
そう考えると、すごくワクワクした。
「では、まずはテストをしましょうか」
「テストですか?」
「今のあなたにどれくらいの知識、技術があるのか、最初に知っておきたいんですよ」
「なるほど」
「正直なところ……男のあなたが魔法を使えるなんて、私は信じられません。なので、その辺りを含めて、実力を見極めていきたいと思います」
もっともな話だ。
「問題は私が作成しました。これを1時間以内に解いてみてください。あ、わからないところは空白で構いませんから」
「はい、わかりました」
「では、始め!」
先生の合図でテストを始める。
ペンを片手にテスト用紙と向き合い……
「あれ?」
違和感はすぐにやってきた。
「どうしたんですか?」
「先生、この問題おかしくないですか?」
「え?」
「ほら、ここの問題。魔法術式の足りない部分を埋めろ、というやつです」
「えっと……これがどうかしましたか? 特におかしなところはないと思いますが……」
「いえ、おかしいですよ。ほら、ここのところ。他の部分をこうして、こうすれば……」
先生が作った問題にペンを入れる。
「ほら。ここはこうした方が、より効率のいい術式になります。つまり、最初の問題は不適当ということに」
「ちょ、ちょっと待ってください……!?」
先生は慌てて俺が修正したところを見た。
「……た、確かに。この方が術式が何倍も効率よくなって……」
「これ以上に効率がいい方法があるということは、この問題はおかしいですよね?」
「そ、そうですね……すいません。ちょっと失敗してしまいました」
「いえ、気にしていませんから」
もしかしたら、あえてこういう問題にしたのかもな。
問題の真意を隠して、より深い思考をさせるように仕向ける。
さすが、一線で活躍する現役の冒険者だ。
こういう勉強なら大歓迎だ。
「って、あれ?」
「ど、どうしました?」
「先生、この問題もおかしいですよ」
「えっ、また!?」
「ほら。ここの術式が……ここは、こう。そして、こうするべきですね」
「うっ」
今度は単純なミスだ。
術式の一部が別のものに入れ替わっていた。
これじゃあ正常に魔法は発動しない。
発動したとしても、本来の威力の半分も出ないだろう。
「ここは、こうしてこうすれば……ほら、これで正解ですよね」
「な、なんていうこと……!? まさか、このような抜け道があるなんて……」
「先生?」
「い、いえ……なんでもありません。続きをしてください」
「はい」
ひっかけ問題が多いな。
気を抜かず、注意して挑まないと。
「あっ、またおかしなところを見つけました」
「えぇ!?」
「ほら、こことここ。あと、ここもおかしいですね」
「う、うぅ……こんな小さな子供が。それに、男なのに……どうして、これほどまでにとんでもない知識を? わ、私の立場というものはいったい……もう、プライドがぼろぼろですよ」
「あっ、もう一つ、おかしなところを見つけました」
「すみませぇえええええんっ、もう許してくださぁあああああいっ!!!」
「あっ、先生!? 先生ーーーっ!!!?」
なぜか、先生は泣きながら部屋を出ていってしまった。
……結局、先生はそのまま辞めることに。
家庭教師の話も流れてしまう。
どうしてこうなった?
そして、母さんに稽古をつけてもらった日から、数日が経っていた。
「ふむ」
魔法書に目を通して、その内容を頭に叩き込んでいく。
最近の俺の日課は、母さんから借りた魔法書を自室に持ち込み、勉強をすることだ。
男だけど魔法の才能があるかもしれないということで、俺は魔法書の持ち出しを許可された。
ようやく現代の魔法に触れることができる。
あれからどのような進化を遂げたのか?
女性だけが扱えるようになって、どのような変化が起きたのか?
それを楽しみに勉強をしているのだけど……
「……まいったな」
苦い顔をして、魔法書をパタンと閉じた。
三十冊ほどの魔法書を隅々まで読み込んだが、成果という成果を得ることができていない状況だ。
「なんだ、この低レベルな魔法理論は?」
魔法書に書かれている魔法理論は、どれもこれも低レベルなものばかりだ。
間違えて子供向けのものを借りてしまったのではないかと、母さんに確認をしてみたが……
これらの魔法書は、大人向けの本格的なものだという。
それならばと思い、さらなる高度な魔法書を求めてみたのだけど……
やはり、結果は変わらず。
多少、レベルが向上しているだけで、低レベルな内容に変わりはない。
「これ、前世なら子供でも内容が理解できるレベルのものだぞ。それなのに、大人向けの難解な魔法書だって? いったい、どうなっているんだ?」
あれこれと考えて……
やがて、とある結論に至る。
その結論は、なかなかに認めたくないものなのだけど……
でも、それ以外に考えられない。
「……魔法のレベルが衰退しているな」
心当たりはある。
500年前、魔王が復活した。
どこから現れたのか、その正体は何者なのか。
なにもわからなかったけれど……
ただ一つ。
ヤツの目的が世界を滅ぼすこと、ということだけは理解した。
前世の俺は魔王に戦いを挑んだ。
別に世界を救うつもりはない。
単純に、己の力を証明するために、最強と呼ばれていた存在に挑みたかっただけだ。
まあ、それはどうでもいい話だ。
で……
500年前、魔王は盛大に暴れてくれた。
それはもう、目を覆いたくなるほどの惨状だった。
いくつもの国が滅び、あるいは、大陸が吹き飛んだ。
世界滅亡の数歩手前まで進んでいたのだ。
その影響で、たぶん、文明が停滞、衰退してしまったのだろう。
500年かけて現状まで復興したものの……
魔法のレベルが上がることはなくて、逆にレベルダウンしてしまった。
そう考えると色々と辻褄が合う。
「まいったな……これじゃあ強くなることができない」
この時代に転生した目的は、二つ。
一つは、この時代に逃げたと思われる魔王と決着をつけること。
今度は逃したりしない。
真の強者を決めるため、最後までとことんやり合うつもりだ。
もう一つは、500年の間に進化したであろう魔法を学ぶこと。
そうすることで、俺はさらに強くなることができる。
そう思っていたのだけど……
「進化するどころか衰退していたなんて……ホント、大誤算だ。どうする?」
魔法書を読み漁っても意味がない。
たぶん、どれもこれも似たようなレベルだろう。
百年以上前の古書なら、あるいは……
でも、そんな骨董品はウチにない。
「そうだな……人に教えてもらうのがいいかもしれないな」
全体的に魔法のレベルは落ちているものの……
それでも、色々な変化は起きている。
女性しか魔法を扱うことができないなど、その最もたる例だ。
そういう変化を重点的に学んでいけば、思わぬ発見があるかもしれない。
そして、それは誰かに師事して教えてもらうのが一番だ。
そんな結論に至った俺は自室を後にして、母さんのところへ向かう。
「あら? どうしたのですか、レン」
母さんは執務室で仕事をしていた。
のんびりと紅茶を飲んでくつろいでいるだけ……なんて貴族はいない。
大なり小なり、貴族というものは色々な雑務に追われているものだ。
「すみません、仕事中に。今、いいですか?」
「ええ、構いませんよ。ちょうど、休憩をいれようと思っていたところですから」
母さんはペンを置いて、俺の方を向いた。
「ちょっとお願いがあるんですけど」
「まあ、レンがお願いなんて珍しい。どうしたのですか?」
「魔法に関する家庭教師をつけてもらえませんか?」
「家庭教師を?」
「独学では限界があって。わからないところにぶつかっても、質問できる相手がいません。なので、家庭教師などをつけてもらえると助かるな、と思って」
魔法書が低レベルすぎて役に立ちません、とはさすがに言えなかった。
「なるほど、一理ありますね。レンの場合は特殊ですし、定石通りにはいかないことも……そうですね、わかりました。お父さんと相談をして、適当な人を探してみることにします」
「本当ですか!?」
「ええ。レンには魔法の才能があるかもしれませんからね。親として、子供の才能を伸ばしてあげることは当たり前のこと。できるだけのことはしますよ」
「ありがとうございます!」
こうして、魔法の家庭教師がつけられることになった。
――――――――――
「はじめまして。これから、私があなたの担当をさせていただきますね」
「よろしくおねがいします」
数日後……家庭教師が見つかり、さっそく授業が行われることに。
家庭教師は現役の冒険者だ。
一線で活躍する魔法使いで、百を超える魔法を操るという。
本来なら、家庭教師を引き受けているヒマなんてないのだけど……
たまたま足を怪我してしまったらしく、その間は家庭教師をしてくれるらしい。
一線で活躍する冒険者。
魔法書とは違い、高度な魔法理論を理解しているかもしれない。
それだけじゃなくて、俺が知らない技術、知識を持っているかもしれない。
そう考えると、すごくワクワクした。
「では、まずはテストをしましょうか」
「テストですか?」
「今のあなたにどれくらいの知識、技術があるのか、最初に知っておきたいんですよ」
「なるほど」
「正直なところ……男のあなたが魔法を使えるなんて、私は信じられません。なので、その辺りを含めて、実力を見極めていきたいと思います」
もっともな話だ。
「問題は私が作成しました。これを1時間以内に解いてみてください。あ、わからないところは空白で構いませんから」
「はい、わかりました」
「では、始め!」
先生の合図でテストを始める。
ペンを片手にテスト用紙と向き合い……
「あれ?」
違和感はすぐにやってきた。
「どうしたんですか?」
「先生、この問題おかしくないですか?」
「え?」
「ほら、ここの問題。魔法術式の足りない部分を埋めろ、というやつです」
「えっと……これがどうかしましたか? 特におかしなところはないと思いますが……」
「いえ、おかしいですよ。ほら、ここのところ。他の部分をこうして、こうすれば……」
先生が作った問題にペンを入れる。
「ほら。ここはこうした方が、より効率のいい術式になります。つまり、最初の問題は不適当ということに」
「ちょ、ちょっと待ってください……!?」
先生は慌てて俺が修正したところを見た。
「……た、確かに。この方が術式が何倍も効率よくなって……」
「これ以上に効率がいい方法があるということは、この問題はおかしいですよね?」
「そ、そうですね……すいません。ちょっと失敗してしまいました」
「いえ、気にしていませんから」
もしかしたら、あえてこういう問題にしたのかもな。
問題の真意を隠して、より深い思考をさせるように仕向ける。
さすが、一線で活躍する現役の冒険者だ。
こういう勉強なら大歓迎だ。
「って、あれ?」
「ど、どうしました?」
「先生、この問題もおかしいですよ」
「えっ、また!?」
「ほら。ここの術式が……ここは、こう。そして、こうするべきですね」
「うっ」
今度は単純なミスだ。
術式の一部が別のものに入れ替わっていた。
これじゃあ正常に魔法は発動しない。
発動したとしても、本来の威力の半分も出ないだろう。
「ここは、こうしてこうすれば……ほら、これで正解ですよね」
「な、なんていうこと……!? まさか、このような抜け道があるなんて……」
「先生?」
「い、いえ……なんでもありません。続きをしてください」
「はい」
ひっかけ問題が多いな。
気を抜かず、注意して挑まないと。
「あっ、またおかしなところを見つけました」
「えぇ!?」
「ほら、こことここ。あと、ここもおかしいですね」
「う、うぅ……こんな小さな子供が。それに、男なのに……どうして、これほどまでにとんでもない知識を? わ、私の立場というものはいったい……もう、プライドがぼろぼろですよ」
「あっ、もう一つ、おかしなところを見つけました」
「すみませぇえええええんっ、もう許してくださぁあああああいっ!!!」
「あっ、先生!? 先生ーーーっ!!!?」
なぜか、先生は泣きながら部屋を出ていってしまった。
……結局、先生はそのまま辞めることに。
家庭教師の話も流れてしまう。
どうしてこうなった?