確か小学4年生位の頃、私はある男子に片思いしていた。今となれば正直なんで好きなのかなんて分からないくらいガキだったけれどその時はかっこよく見えて仕方なかったんだ。そして私はその時仲良かった友達何人かにその事を話して、相談したりしていた。その中に私が好きだった男の子と1番距離の近い美人な女の子がいて、その子が言いふらしたおかげで本人にも、周りにも少し拡張された話が伝わってしまい私は一気に1人になった。仲が良かった子は複数人いたのにみんな女の子の方に付いて、変わらず仲良くしてくれたのは優羽だけだった。
その後も誰かに嫌われたり、騙されたり、空気を読めずに発言して避けられたりと色々なこともあったけれど何時でも変わらず接してくれていた優羽が特別になったのは当たり前の事だと思う。その後中学に上がって、離れても会いたかったから連絡を取り続けたし時々遊びに誘ったりした。始めの頃はただの友達だと思ってたけれど何となく、それがしっくりとこないような感覚があった。中学に上がり色々な事を、価値観を、知っていく中で自分がもしかしたら優羽のことが好きなんじゃないかって思ったりしたけれど何度も違うと思ったしありえないと思っていた。けれどある日やっぱり優羽のことが好きなんだと、ずっと一緒にいたいんだと気づいてしまった。その後も同性を好きになった事なんてなかったから悩んだし何度も違うと、諦めようと、試みたけれどどうしても出そうになかったから私は気持ちを認めた上で隠そうと決め、日に日に大きくなっていく感情を頑張って隠して来たんだ。
それなのに。隠すのがきつくなってきて、でも伝えることは絶対に出来なくて。
優羽まで変な目で見られるかもしれない、傷つけるかもしれない。そんなことをすることは私にはできそうにない。
こんなふうにどうにもできないでいる私はどうすればいいのかなんてわからなくなっていたんだ。
「同性愛者の人って居るじゃん?あれ意味わかんないんだけどー」
きっと教室からだろう。知らない子の話し声が聞こえる。
放課後、忘れ物を取りに戻った私は道中の教室から聞こえた単語に思わず体が止まった。
「だよねwまじ理解できないわ」
「てか好かれた方も可哀想だよね」
「いや同性に好かれる奴もやばい奴でしょ」
「それもそっかーw」
「同性愛者名乗ってる人も無理だけど同性に好かれてる奴とかも私無理だわ」
「それなー」
あぁ、聞かなければ良かった。
その会話は私がずっと悩んでいたことだった。ネットならまだ気にしないでいられた。でも、同い年の同じ地域に住んでいる人でもそうゆう考えを持つ人がいたという事実はずっと重かった。
やっぱり同性愛は気持ち悪いのだろうか。間違ったものなのだろうか。
優羽を思う気持ちは間違っているのだろうか。
優羽のことも傷つけてしまうのだろうか。
それは嫌だ。でも、分からない。
間違いかもしれないものを、誰かに批判されるかもしれないものを貫き通せるほど私は強くない。だけど優羽のことを好きだという感情を消すこともきっと無理だ。
どうすれば、どうすれば上手くいく?どうすれば私は、優羽は嫌われない?傷つかない?
やっぱり諦めるしかないのだろうか。
きっと優羽と繋がったままでは諦めるなんて無理だ。大丈夫、幸い連絡はほとんど私からだから。私が意図的に避ければどうにかなる。諦めよう。優羽の為にも、私の為にも。誰も傷つけないために、傷つかないために。
優羽を諦めると決めたのがテスト期間で良かった。やることが無かったらきっと、ずっと思い出してしまって諦めるなんて無理だっただろうから。私は優羽の事を考えない為にも無心でただひたすらに勉強していた。
どんなに長く感じても終わりは必ず来てしまうもので、テストは完全に終わって、いつもより勉強したテストはどの教科も少し上がっていたけれど理由を考えると手放しには喜べなかった。もう2週間はたったはずなのに諦めるどころか日に日に思いは強くなってほんの少しの事でも優羽を思い出してその度に感情があふれてしまう。
お揃いで買ったイヤリングも見えない所に隠した。
自分で諦めるって決めたのにどうしてこんなに苦しいのだろう。
でも、これがきっと優羽の、私の為だからきちっと諦めよう、彼女にこの思いがバレないうちに。
諦めようと決めてもう半月が経っていた。
それでもまだ私は優羽を諦められそうになかった。どうしよう、なんて考えているとスマホが鳴った。
『杏莉、大丈夫?最近連絡無いけどなんかあったの?』
珍しく優羽から来たメッセージ。
ああどうして、たったこれだけなのにどうにも心が踊ってしまう。
どうして、諦めようとしてるのにこんな事送ってくるんだよ。
今の私にとって優羽からの連絡は、優羽を思い起こすものは、甘美でそれでいて強力な毒のようだった。
ダメだ、諦めるって決めたんじゃないか。
でも返信しないと、でもそんなことしたら諦められなくなりそうで。
大丈夫、まだトークは開いてない。見た事がバレることは無い。 だから、
私は初めて優羽からのLINEに返信しなかった
「杏莉、大丈夫?」
昨日は優羽からのメッセージのせいでなかなか寝付けなかった。
みのりにまで心配されるとは、そんなに顔に出てるのだろうか、いやみのりは普段少し抜けているとこがあったりしても実はとても鋭かったりするから。
「大丈夫だよ。昨日暑くてなかなか寝付けなくてさ」
「確かに最近暑いよねぇ
でも、無理しちゃダメだよ?なんかあったらいつでも言ってね!」
「ありがとね」
1ヶ月、心の中では悩んでいても学校では完全に隠していつも通りの私を演じられていたと思う。
誰かに言ったりしたら、どこからその話が漏れるかなんてわからないから。
市立校に通っていることもあって同じ小学校の人は多く私も優羽も繋がっている人が多くいる。
別にみのりやともかを信頼してない訳ではないけれど、相談するなんてことは選択肢に入っていなかった。
ごめんね、2人とも。きっとこの事を2人に相談する日は来ないんだ。気にかけてくれているのに私はなかなか、誰かを信じられないから。
でも大丈夫、2人を傷つけないように、しっかり解決するからね。
でもどうしよう。諦めようと決めて1ヶ月も経ったはずなのに逆にどんどん思いは増して、きっと優羽に今会えばバレてしまいそうな位だった。優羽に会わなくていい方法、連絡しなくていい方法は、諦められる方法は何なのだろうか。
「諦めないとなのはわかってるんだけどさ、どうしたらいいかな?」
「うーん、もういっそ告白して振られちゃえば?」
「それが無理だって言ってんの!」
偶然、どこかの教室から聞こえてきた声。
なんだろう。私と重なる部分がある。きっと全然違うけれど。
なんとなく動けずに聞いていると、また別の声が聞こえてくる。
「それかさ、縁切っちゃえば?w」
きっとその子はふざけて言ったのだろう。でも私にとっては全く見ていなかった選択肢で、でも今の状況を全て変える方法で。
そうすれば良いのか、なんて悩みすぎておかしくなった脳は最適解として受け入れていた。
家に帰るため私は自分の教室に向かって歩き出した。
久しぶりに優羽とのトーク画面を開いた気がする。
優羽から連絡があったあと、私はスルーしていたのに時々連絡が入っていて、通知をオフにしていて良かったと心から痛感した。
今からやることは優羽と私の今までの関係を全て崩す事だ。きっともう会えなくなるし話せなくなる。優羽の笑顔を見ることは無くなるんだなんて思うと自然と指が震えてきて。自分で決めた事なのにどうしてもやっぱり怖い。
でも、やらなきゃいけない事だから。優羽を、私を、傷つけないために、傷つかないために。
震える手で文字を打っていく
『もう優羽のこと嫌いになったから
てゆうかずっと嫌いだったから
もう連絡してこないで
まぁブロックするから意味無いけどね
さよなら』
これを送ってしまえばもう優羽と今まで通り遊ぶなんて、話すなんて出来なくなるのに、打つ時はあんなに時間がかかったはずなのに送ってしまうのは一瞬だった。
震えている指のせいで思わず送信ボタンを押してしまった。
すぐに既読が着いたことでもう戻れないと痛感する。
どんな返信が来るのだろう。そもそも返信なんてしてくれるのだろうか。
自分で決めたはずなのに目頭が熱くなってきて。思わず1滴溢れたかと思うとそれを引き金に後から後から熱い雫がこぼれ落ちて私の視界を、取り返しのつかないトーク画面を濡らしていく。いっその事この雫がこの文字を、流して消し去ってしまえばなんて思ったりもしたけれど。何故か私は送信を取り消すことは出来なかった。
10分近くたったのだろうか、涙が収まって、滲まなくなった視界で確認するとまだ返信は来ていなかった。
これ以上見ているのはきつくてスマホを閉じる。何となく見た 窓の外は私の心情とは似ても似つかないどころか真逆の綺麗な晴れ模様で。それがまるで私は主人公じゃなくて、誰かと結ばれるなんて無理だと言われているようで思わず目をそらす。
何もやることがないままお母さんに呼ばれるまでずっとベッドの上で座り込んでいた。
優羽からの返信は次の日も来ることがなかった。本当はわかっていた。あんなメッセージを送ってそれでも繋がりたいと思われるほど優羽にとって私が重要では無いことも。
わかっていた。きっと嫌われてしまうことも。
それでも返信すらしたくないほど嫌われてしまったと改めて感じてまた涙が溢れてくる。縁を切ったはずなのに、もう繋がることなんてできないのに、私はどうしても優羽のことが好きで好きで堪らなかった。
大丈夫、もう縁は切ったから。バレることは無いのに。望んでいたはずなのにどうしても苦しくて、辛くて、胸を締め付けられているようで。
結局私は優羽のことをブロックする事なんて出来ずに昔のトーク画面を眺めては泣きそうになっていた。
『きっと貴方はこんな私を嫌うでしょう。それでも私はずっと貴方を思い続ける』
『明日10時、いつもの場所で!』
私のメッセージに返された了解のスタンプを下に流しながらさっきまでの会話がおかしくなかったか確認する。
きっと少しおかしくてもあの子、髙木 杏莉はスルーするだろうし受け入れてくれるだろう。それでも心配なものは心配で。
なにか誤解を与えるようなものは無いか、意味の通らないものは無いかしつこいくらいに見直すとスマホを閉じた。
明日杏莉と会えると思うだけで楽しみで心が弾む。
杏莉には安心して本音を言えるし一緒にいると楽しいし落ち着く。
否定しないでそのままの私を受け入れてくれる唯一の友達。中学に入って新しい友達も多くできたけれど杏莉以上に思える子は1人もいなかった。
明日はどこを回ろうかな。どんなことを話そうかな、なんてわくわくとしながら私は眠りについた。