いつまでも肩を震わせて笑っている倉吉先輩に少しだけ腹が立って、私は言祝一矢が去年作成した最も新しい詩の一節を暗唱する。

「時には情熱的に燃え上がる炎のように、時には可憐に散りゆく花びらのように。それは人が人を想い、愛す、魅惑の恋の色で――」

「ちょ、バカ、やめろって!」

 途端に焦った顔に変わった倉吉先輩は、頬を赤らめて私に制止の声を上げる。私はそんな彼に向けて、満面の笑みを浮かべてみせた。

「倉吉先輩の言う通り、私は言祝一矢のファンですからね。彼の詩なら一言一句間違えずに暗記してますよ」

 胸を張ってそう言った後。すぐに先輩に対して出過ぎた、少々気持ち悪い発言ではないかと後悔する。不安に駆られながら倉吉先輩の方を窺うと、彼は両腕をテーブルの上に組んで、その中に隠れるようにして顔を伏せていた。

 黒髪から飛び出した赤い耳を見つめていると、倉吉先輩はその体勢のまま大きなため息をつく。

 再び顔を上げた倉吉先輩の頬は、まだ若干赤くなっていた。彼はその赤色を誤魔化すように額に右手の平を当てて、くしゃりと笑う。

「……参ったよ。ほんと、面白いなミャオは」

 倉吉先輩につられて、私も口元に手を寄せてクスクスと笑う。

 壁越しに聞こえてくる吹奏楽部の合奏に、二人分の笑い声が重なった。

 あぁ、やっぱり好きだな。

 放課後に、荷物でごちゃごちゃとした狭い部室で過ごす、倉吉先輩との時間。

 憧れのアイドルのような存在と同じ空間にいられるだけで、既にお腹がいっぱいになるくらい幸せなのに。

 口元に寄せていた手を下ろし、朗らかな笑顔を浮かべた倉吉先輩を見据える。彼の首元では、この時期には既にクローゼットの奥にしまい込まれているであろう厚手のマフラーが揺れていた。紺色のブレザーにその赤色はとても映えていて、否が応でも私の目を惹きつける。

 去年の秋の終わり頃に突然現れたそのマフラーを見て、胸の鼓動が激しくなった。

 私が大嫌いだった赤色。

 恋愛なんて興味ない。もう二度と関わりたくない。……そう思っていたのに。


 ねぇ、倉吉先輩。

 私はどうして、こんなにも嬉しくなるのでしょうか。