この文芸部は部長の上村先輩を含め、部員は八人。
活動内容は、月に一度俳句や短歌、小説などジャンルは問わずに何か一つ創作物を作って提出し、翌週部員同士でそれを見せ合って講評し合うというものだ。講評会の日は、この狭い部室に部員達が全員集合する。逆に言えばそれ以外の日は基本自由で、部員達の多くは主に家で創作活動に励んでいる。わざわざ放課後に部室に足を運ぶようなもの好きは、倉吉先輩と私くらいだった。
ペンの先を顎に当てて考える素振りをしながら、ちらりと倉吉先輩の横顔を盗み見る。彼は依然と集中した様子で、一心不乱にシャーペンを走らせていた。
細められた切れ長の瞳は凛とした雰囲気を漂わせており、長いまつ毛が静かに瞬きを繰り返す。倉吉先輩がペンを握って僅かに動くたびに、窓から射し込む西日に明るく照らされた髪がさらりと揺れた。
こうして倉吉先輩と同じ空間で同じ時間を過ごせるのも、至近距離から整った顔を見つめられるのも、文芸部員の特権の一つだ。その特権を利用せずに幽霊部員と化したり、放課後は迷わず帰宅を選ぶ他の部員達は、本当に損していると思う。
まぁ実際のところ、彼らのおかげで倉吉先輩と二人きりの時間を過ごせているわけではあるが。
ふいに倉吉先輩が顔を上げ、視線をそらす間もなくばちりと目が合う。「あっ」と声を漏らすと、彼は先程まで凛としていた瞳を和らげて首を傾げた。
「どうした、もう集中力切れたか」
「はい。少し……」
渡りに船とばかりに大きく頷く。すると倉吉先輩は、年相応の無邪気な笑顔を浮かべた。
「倉吉先輩は来月も詩を提出するんですか?」
「まぁ、俺は詩しか作れないし。……もしかして飽きられてる?」
「そんなことないです!」
無意識にそう叫んでいて、その声量に自分でも驚く。倉吉先輩は一瞬目を丸くした後、苦笑交じりに言った。
「ははっ、必死すぎ。って、お前ならそう言うに決まってるよな。ミャオは俺のファンなわけだし」
倉吉先輩にからかうような声で言われ、カアァと顔が熱を帯びていくのを感じる。恥ずかしくなって俯くと、「沈黙は肯定って言うけど、まんまその通りだな」と追い打ちをかけられた。
私が倉吉先輩のファンであることは、文芸部全員が周知の事実だった。
あれは二年前。当時中学三年生の受験生だった私は、その頃仲が良かった友人の穂乃花と共にこの私立稲河原高等学校の文化祭に訪れた。
帰りの電車の中で、興味本位で購入した文芸部の部誌を開き、息を呑んだ。あの時の衝撃と感動は、今でも強く記憶に残っている。
活動内容は、月に一度俳句や短歌、小説などジャンルは問わずに何か一つ創作物を作って提出し、翌週部員同士でそれを見せ合って講評し合うというものだ。講評会の日は、この狭い部室に部員達が全員集合する。逆に言えばそれ以外の日は基本自由で、部員達の多くは主に家で創作活動に励んでいる。わざわざ放課後に部室に足を運ぶようなもの好きは、倉吉先輩と私くらいだった。
ペンの先を顎に当てて考える素振りをしながら、ちらりと倉吉先輩の横顔を盗み見る。彼は依然と集中した様子で、一心不乱にシャーペンを走らせていた。
細められた切れ長の瞳は凛とした雰囲気を漂わせており、長いまつ毛が静かに瞬きを繰り返す。倉吉先輩がペンを握って僅かに動くたびに、窓から射し込む西日に明るく照らされた髪がさらりと揺れた。
こうして倉吉先輩と同じ空間で同じ時間を過ごせるのも、至近距離から整った顔を見つめられるのも、文芸部員の特権の一つだ。その特権を利用せずに幽霊部員と化したり、放課後は迷わず帰宅を選ぶ他の部員達は、本当に損していると思う。
まぁ実際のところ、彼らのおかげで倉吉先輩と二人きりの時間を過ごせているわけではあるが。
ふいに倉吉先輩が顔を上げ、視線をそらす間もなくばちりと目が合う。「あっ」と声を漏らすと、彼は先程まで凛としていた瞳を和らげて首を傾げた。
「どうした、もう集中力切れたか」
「はい。少し……」
渡りに船とばかりに大きく頷く。すると倉吉先輩は、年相応の無邪気な笑顔を浮かべた。
「倉吉先輩は来月も詩を提出するんですか?」
「まぁ、俺は詩しか作れないし。……もしかして飽きられてる?」
「そんなことないです!」
無意識にそう叫んでいて、その声量に自分でも驚く。倉吉先輩は一瞬目を丸くした後、苦笑交じりに言った。
「ははっ、必死すぎ。って、お前ならそう言うに決まってるよな。ミャオは俺のファンなわけだし」
倉吉先輩にからかうような声で言われ、カアァと顔が熱を帯びていくのを感じる。恥ずかしくなって俯くと、「沈黙は肯定って言うけど、まんまその通りだな」と追い打ちをかけられた。
私が倉吉先輩のファンであることは、文芸部全員が周知の事実だった。
あれは二年前。当時中学三年生の受験生だった私は、その頃仲が良かった友人の穂乃花と共にこの私立稲河原高等学校の文化祭に訪れた。
帰りの電車の中で、興味本位で購入した文芸部の部誌を開き、息を呑んだ。あの時の衝撃と感動は、今でも強く記憶に残っている。