「さて、おぬしらには謝らんといかんの。谷のもんが迷惑をかけたようじゃ」
「迷惑をかけたのは君だ、アラン。今回の騒動の大半は、君が引き継ぎを怠ったことに起因している」
「そんニャんわし知らんもん! 死んじゃったもんは仕方ニャいと思いますぅー」
アランとヴァージニアのやりとりは、別れを前にした者たちとは思えないほど、軽薄で、あたたかなものだった。
「さて、まずはシュリ。おぬしはまだいろいろ足りん。その足りんところはミッケが補ってくれよう。ミッケの足りんところは、おぬしが補ってやれ。すまんかったニャ」
「じいちゃん……」
短いながらも、厳格な、親としての言葉だ。
「それと若人。おぬしはもっと年長者を敬え」
「……敬うべきところは」
少なくとも、まったく敬っていないわけでは、ない。参考にしちゃいけない部分もかなり多いように見受けられるが。
「んむ、それでよい。間違ってもわしのようなクズにはニャるんじゃニャいぞ」
「クズの自覚はあったんですね、やっぱり」
「やっぱりってニャんじゃい!」
そして最後にアランが向き合ったのは。
「して、ヴァージニアよ」
「なにかね。私はもう君と話すようなことはなにもないと思うのだが」
ヴァージニアは、アランと目を合わせようとはしなかった。だがそれで良いと、アランは笑顔でうなずく。
「ありがとよ」
「…………‼」
「その一言が伝えられんまま、ずいぶん歳を重ねてしもうた。ヴァージニア、おぬしはわしらの英雄じゃった」
アランはひげをなでならが続ける。
「じゃからのう。肩肘張っとらんで、次代の連中に任せたらええんじゃ。おぬしは英雄ではニャく、ひとりの『ヴァージニア・エル=ポワレ』として生きりゃあええ。わしはそうした」
ヴァージニアは、アランのほうを見ずに、黙って小さくうなずいた。偏屈な大魔術師には、それが精いっぱいの受け答えだったのかもしれない。
アランはそれでも満足そうに、ニッと笑ってみせると、俺たちみんなの顔を見回した。
「いやあ、久々に楽しかったんじゃが、名残(ニャゴリ)惜しいのう。ガーティーやロマネが待っとるでニャ。老いぼれはここらへんで退散じゃ」
どこからともなく、風が吹いた。
「それじゃ、さいニャら」