「ガラスビョーは、体がガラスになるびょーきです」
 自信満々な大きな声で彼は言う。
 「正解!」
 女性の声に答えた男の子は嬉しそうに席に座る。
 「オイカワ君は硝子病になったことある?」
 「ないです」男の子は座ったまま答える。
 「でも、いとこのきょーすけクンはなったことがあります」
 「なるほどぉ」女性は大げさに頷く。
 「このクラスで、硝子病になったことがある人、手を挙げて」
 女性がそう言うと、十人くらいの子供が手を挙げた。
 「硝子病って、今では身近な病気だけど、少し前までは治すことが出来ない病気だったって知ってる?」
 女性はまじめな顔をして言う。
 教室が一瞬、静かになる。
 「今日は硝子病についての勉強をします」女性は笑って言う。
 「でもその前に、知っていて欲しい人がいます」
 そう言うと、女性はスクリーンに一枚の写真を映した。
 一見すると、ベッドの上に硝子の塊が置いてあるように見える。
 しかし、よく見るとそれは、安らかな表情の少女の顔だった。
 「この写真に写っているのは○○さんという人です。この人は、硝子病がまだ治せなかった時代の人です」
 教室の何人かの子供は辛そうに顔を手で覆った。
 「硝子病を治すことが出来なくて、最期は硝子になってしまいました」
 子供たちはみんな、下を向いていた。
 「○○さんは、全身が硝子になるまで、この病気の研究に協力していました。そのおかげで、今の治療法が見つかったのです」
 女性がそう言うと、子供たちは顔を上げる。
 「じゃあ、もし○○さんがいなかったら…」
 教室の真ん中の席に座る女の子が、小さな声でそう言った。
 女性は静かに頷いた。
 「今日は、硝子病と一緒に○○さんのことをよく知って欲しいの」
 女性はそう言うとタブレットを操作して、スクリーンに教科書の画像を映した。
 
 この教室からずっと離れた場所にある小さな家で、硝子の少女は、太陽の照りつける海を進む夢を見ていた。