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 とんでもない田舎に来てしまった。

 どうしよう、もうすでに帰りたいんだけど。

 それが、東京からA県N市の端っこの町に島流し、いや転校を余儀なくされた私が、最初に持った感想だった。これが日本三大都市と謳われた市に属する町なのかと疑ってしまう。新幹線を降りた駅の改札辺りはまだ良かった。新宿や池袋ほどじゃないにしろ、会社勤めと思しきスーツ姿のおじさん達やOL風のお姉さん達、それに私よりちょい上の(たぶん高校生だと思う)学生達が忙しなく、私鉄や地下鉄の連絡路や、高いビルのターミナルの方へと歩いて行く。

 たくさん人がいる。
 
 太い柱に埋め込まれたディスプレイでは知らない会社のCMをとっかえひっかえ流している。都市って感じだ。それにしても暑いというか熱い。夏だから当然とも思うけど、こっちの方が湿度が高いのか、イヤな感じの暑さだ。真新しい制服の上着が汗に濡れて背中に張り付いて気持ち悪い。さっきまでがらがらで冷房のよく効いたグリーン車でうたた寝をしていたから、いきなり天国から地獄に突き落とされた気分だ。私は青色のキャリーバッグについた車輪をころころ転がしながら、ケータイの地図と周囲を交互に見つつターミナルの方に向かい、私鉄の切符を買って赤色(朱色?)をした電車に載った。

 なんでこんな色で電車を塗るんだろう。

 センスを疑う。

 車内は冷房が効いていて席はいくつか空いていたが、私は右手でつり革を掴んで立って移動することを選んだ。その方が窓の外の景色が見えていいと思ったからだ。知らない土地の知らない風景に、私は興味があった。私の降りる駅は各駅停車しか止まらないらしいので、電車は減速、停車、発車を何度も繰り返す。私の視界に飛び込んでくる景色にだんだんと緑色が増えてきて、私は違和感を覚え始める。乗車してる他のお客も降りて減っていき、電車が停車するプラットホームも、どんどんこじんまりと、小さくなってくる。 おい。ちょっと待ってよ。

 そして、私は視界に田んぼらしき風景が飛び込んできた時、絶望的な気分になる。

 マジで田舎だよ、ここ。

 田んぼとか畑とかビニールハウスなんて、今までテレビでしか見たことなかったよ。

 私がこれから通う中学は、こんな田舎町にあるのか。