プロローグ 彼女からの暗号

平成二十一年七月十七日C新聞夕刊より

特別支援学校十八人の死傷者

十七日午前十時十五分ごろ、A県S島にある特別支援学校の敷地内にて十三~十四歳の男女十七人の死体と意識不明の重傷を負った十四歳の少女が発見された。通報したのは職員藤原亮一さん(四十七)。発見時、現場には被害者の他に同校の生徒Aさん(十四)がいた模様。Aさんには外傷はなく衣服には被害者のものと思われる大量の血痕が付着していた。またAさんは血痕の付いたサバイバルナイフを所持しており、警察はAさんと施設の職員から詳しい事情を現在聞いている。

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 夏の早朝、とある学校の教室で、十七人の少年少女達が刺殺された。

 たった一人の少女の手によって。

 そのセンセーショナルな大量殺人事件は、国内はもとより、国外にも注目され大きな話題となった。マスコミやネットはまたたくまに犯人である少女の素性を暴き、彼女は好奇の目にさらされる。

 加藤杏(かとうあんず)。十四歳の殺人鬼。

 転校していった僕の元クラスメイトだ。

 問題を抱える子供達を治療、更生するための特別支援学校が僕の住むA県にある。A県といっても、本土ではなく一日に一便だけ出港するフェリーに揺られて三十分ほど要するS島にだ。たぶん当時、僕の周囲にいる大人達を含めてほとんどの人はこの県にそんな学校があったことすら知らなかっただろう。S島は漁業と観光で細々と成り立っているこれといって特色のない普段は誰にも見向きもされない小さな島なのだ。

 そんな寂しい離島の端っこにまるで人目を避けるように(実際避けていたんだろうけど)学校はあった。

「閉じ込められていたんだよ。まるで養鶏場のニワトリのように」

 後に加藤杏は僕にそう語った。

 そして、あの事件が発覚した時、中学二年生だった僕は暗闇の中にいた。

 僕は七月の後半を、暗闇の中で泣いて過ごしていたのだ。

 携帯の電源を切り、扉に鍵をかけ、窓を閉め切りカーテンを下ろした冷房の効いた部屋で、布団に包まり目を閉じてありとあらゆる外界からの情報を遮断して、震えていた。このまま闇に溶けて同化したいと馬鹿げたことを半ば本気で願っていた。