然な点が多い…… 」

「復活の蔵」誕生秘話

 蔵人を社務所に残して、家に帰った。
「さてと。Restore00001にどうアプローチするか…… 」
 しばらく考え込んだ。
「あまり批判的な事を書くと、態度を硬化させるだろうな…… 基本的に、お客さんの一人として扱おう。この蔵に興味を持って、関わる人は皆お客さんだ。例え批判的であっても、攻撃的なことを返してはいけない…… 」
 パソコンを起動して、ワープロを立ち上げた。
「Restore00001様
 この度は、蔵に関する貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。
 私はこの蔵の所有者である、津村蔵之助の息子の十蔵です。
 つぶやきを拝読したところ、お近くにお住まいの方ではないかと思いました。
 ご指摘の通り、弟の蔵人と一緒に、社務所で蔵ストラップの販売を行っております。
 ご心配をおかけしたかと思いますので、これまでの経緯を説明させていただきます。
 まず、この蔵を『復活の蔵』として恋愛復活のご利益がある、と拡散したのは私共ではありません。
 ある日突然観光客が押し寄せるようになって、このような噂が広まったのではないか、と弟の蔵人が申しておりました。
 私は、いつどのようにして人気が出たのか思い出せず、弟の言うことを信用しています。
 最近は、様々な演出をして神秘性を感じさせるなどの、広告戦略をしていることも事実です。
 ご指摘いただいた、ストラップは500円で販売しております。
 この価格はお守りや観光のお土産として適正な市場価格であり、悪質であるという認識はございません。
 価格は、私と弟が日夜制作している手数料、材料費、設備投資、社務所に詰めるという労働の対価を上乗せしたものです。
 他にご質問や、ご不明な点がございましたら、お問い合わせください。
 もし込み入ったお話になるようでしたら、直接お越しください
     津村十蔵」
 蔵人にも文面を見せた。
「うん。これなら、こじれないと思うよ。誠意ある対応だね。僕はちょっと感情的になってたよ…… 」
「もしかしたら、Restore00001が社務所に来るかもしれない。そしたら、俺に電話をかけて呼んでくれ」
「わかった。何だか安心したよ」
 ネガティブな事を書かれても、復活の蔵の人気に影響はなかった。
 しばらくは何ごともなく観光客が訪れ、ストラップを買い求めて行った。

 そんなある日のこと。
 せっせとストラップを拵えていると、蔵人から電話がかかってきた。
「大変だ! 兄ちゃん! 来たよ」
 小声でささやくような声だが、興奮している。
「何が? 」
「例の人だよ! 」
「ん? …… おおっ! 今行く」
 夜6時を回ったところだった。
 高校から帰宅して、ボーッとしていたところに、ついにやってきた。
 サンダルを突っかけて、小走りで社務所へ向かった。
 すると、社務所の前に十蔵と同い歳くらいの女の子が立っていた……
「こんばんは」
 とりあえず、普通に挨拶した。
「…… 」
 小さく会釈したが、黙っていた。
「この人が、Restore00001だってさっき名乗ったんだ。お兄ちゃんと話がしたいって…… 」
 蔵人が耳打ちした。
「ここでは何ですから、社務所の中へどうぞ」
 促すと、少し距離を置いて椅子を出した。
「…… へえ。社務所って初めて入ったわ」
 少女は中を見まわして、興味深げに物色し始めた。
「これが例のストラップよね。さぞかし儲かったでしょうね」
 ちょっと棘がある言い方をする。
「突然、SNSに変なつぶやきしたのに、冷静に対処した、津村十蔵さんはあなたかしら? 」
「そうです。失礼ですが、あなたは? 」
「弟さんには名乗ったのだけど、Restore00001こと久藤桐乃。高校2年生よ。桐乃でいいわ」
 なおも、社務所の中を見まわしている。
「私、この神社と蔵のことは、ずっと前から知ってたの」
 狭くて何もない空間だが、何かを探しているのだろうか。
 同い歳だと分かったので、少し安心した。
「桐乃さんは、近くに住んでるの? 」
「まあね。300mくらい先に家があるわ。あの文面からバレバレだったかしら」
 ニヤリとして見せたので、強い敵意を持っているわけではなさそうだ。
「兄ちゃんは賢いから、あの文章をあっという間に分析して見せたんだよ。僕は嫌がらせだと思ったけどね」
「まあまあ。蔵人。悪い人ではなさそうだぞ」
「普通は、弟さんみたいに反応するものじゃないかしら。ダイレクトメッセージを読んで、一本取られた感じがしたわ。ちょっと悔しくて、来てみたのよ」
 横目に十蔵を見つめている。
「それで、なぜあんな書き込みをしたの? 」
「つぶやきをするのに、いちいち理由があるかしら? ちょっとムシャクシャすることがあってね…… つい書いたのよ。内容は事実だし、別に謝るつもりはないわ」
 いろいろ指摘した部分はあるはずだが、そこを突いても大した意味がない。
 こういう人に、感情的な文章をぶつけたら、どうなっていたかは想像に難くない。
 蔵人は自分の考えが浅かったと、内心恥ずかしかった……
「別に、咎めるつもりはないんだけど、こうして会いに来た理由は他にあるんじゃない? 」
 面識があったとしても、こちらは全然覚えていないのだから、知人でもない。
 普通はネット上のやり取りで済ませるはずだ。
「ふふふ。実はね。私が『復活の蔵』を産み出したからよ」
「えっ! 」
 蔵人が声を上げた。
「そうそう。驚いてくれないと、張り合いがないわね。十蔵さんはどう思った? 」
「可能性は、あると思っていたよ…… 会いに来ると言うことは、よほどはっきりしたメッセージを用意しているのだろうと」
「あなたは探偵になるべきじゃないかしら…… ちょっと面白くないわ…… はあ…… 」
「僕は生まれたときからこうでね。その分蔵人が驚いてくれるよ」
「その、何もかも自分の掌の上ですって顔がね…… まあいいわ」
 桐乃は立ち上がって、なおも周りを見まわしている。
「ねえ。ストラップ。私にも作らせてよ」
 十蔵は、表情を明るくした。
「ああ。これは家で作ってるんだ。こっちへおいで」