「なに、免許証なんか眺めているの」

買い物を済ませた哲弥が部屋へと帰ってきた。

狭いワンルームは服やバッグ、漫画の荷物がごった返す。
哲弥はそれを縫ってテーブルまで来ると、手元を覗き込んだ。

横に座るとパソコンを押し脇に寄せ、コンビニで仕入れてきた二人分の弁当と飲み物をだす。



今日は課題を一緒に終わらせるために集まっているのに、さっぱり集中できないでいる。
期限まであと4日しかないのに、考えるのは凜の事ばかりだ。

目の前のパソコンには提出期限の迫ったレポートが開かれているが、まだ三分の一しか終わっていない。


「これ、知ってた?」

俺は免許証の裏面をゆび指す。


「ドナーカードだろ。どうしたの急に」

「ちょっと最近、気になってて」

「ああ、凜ちゃんだろ」

「うん。ずっと治らないって言われてきたけど、最近、角膜っつーの? それ移植したら治るかもってわかってきたんだって。
目が見えるようになるには、それを試すしかないんだって話を聞いてさ」

「遊園地以来、頻繁に二人で出掛けるようになったのな」

哲弥は割り箸を口で割ると、弁当の蓋を開けた。


「やっと俺も慣れてきたっていうか、わかってきたというか。
映画もいくし、カラオケもいくし。ほんと何でもできるんだよな~」

「へえ、映画も」

「副音声つきのがあんの。アニメもドラマもそういうのあるんだから、当たり前っちゃー当たり前なんだけど、盲点だったっていうか。
今まで意識したことなかったからさ。
今ってさ、そういう障害者向けのアプリもあって、すげぇんだよ」


俺は筆箱からボールペンを取り出すと、免許証の裏に丸をつけて署名をした。

『私は、脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植のために臓器を提供します。』