あの虹の向こうへ君と

 空には見たこともないくらい大きな虹のアーチが掛かっていた。

 映画館で観た映像の虹よりも美しく、それでもこの世のものだとはっきりと言える。紛れもなくこの世界の虹だ。

 僕たちはあの虹を渡って、二人で生きられる未来へとやってきた。そう思わずにはいられない。この瞬間をどうにか残したくなった。
「琴音、虹をバックに二人で写真を撮らない?」


「いいけど、映るかな?」


「なんとかしよう」


 二人は立ち上がった。僕はカバンからスマホを取り出すと、虹を背景に写真を撮ろうと試みた。


「ダメだ。全然入らない」


「そうね」
 代わりに入るのは、二人の寿命を表している記号だ。記号は同じ日付を啓示している。

 この日、二人は死ぬ。


「不思議、私が最初にこれを見た時すごく怖かったけど、なんかこの記号が好きになっちゃった」


「僕も同じだよ。全く怖くない」


 不謹慎な話ではあるが、これから先になにがあってもこの記号が僕と琴音を繋いでくれているのだろう。
 虹を背景に写すことを諦め、スマホを少し下に向けてみた。

 すると、二人の左胸にそれぞれ命の光が、ピンク色に輝いていた。

 それはハート型では無い。半分になったハート型だ。

 二人して驚いたが、暖かい気持ちになった。二人が離れなければ、これは完全なハートだ。
「琴音」


「なに?」


「これからも、よろしくね」


「うん!」


 画面に映る琴音は、にっこり笑って言った。

 僕はその瞬間を逃さず、笑顔で撮影の画面を押した。

 そういえば、中学時代の友人に琴音のことをまだ紹介できていない。この写真をSNSに投稿して知らせよう。

 やっと更新できる。
 今でも日記を毎日書き続けているからだろうか。昔のことを鮮明に思い出せる。

 それでも、前世の記憶は消えていた。少し残念な気もしたが、今を生きていくならその方が都合が良い。
 琴音と寿命を分け合った日、家に帰ると親から烈火の如く叱られた。

 琴音も同じだったようだ。当然、次の日は二人とも職員室に呼び出されて、双方の担任から厳重に注意された。

 次に無断欠席したら停学処分にするとも言われたが、僕と琴音が学校で問題を起こすことは二度となかった。
 次の週は、教会へ行った。

 その日は管理人のおじいさんと会うことが出来た。彼は琴音を見るなり涙を流した。

 管理人のおじいさんは和泉と名乗り、純子さんの話をたくさん琴音に教えてくれた。

 病気のことは伏せられていたが、純子さんが琴音の幸せを祈るために来ていたことも話してくれた。
 その事実を知り、琴音も僕も涙が止まらなかった。誰かが誰かを思う強い気持ちに応えて、カトアミケルは奇跡を起こすのだろう。

 和泉さんに会ったのは、この日が最期だ。次に教会を訪れた時は彼の息子さんがいて、和泉さんが亡くなったことを教えてくれた。

 結局、カトアミケルの奇跡を体験したのはあの一度きりだ。

 だが、あれがなければ二人の時間は終わっていた。だから、今日までの全てが奇跡の続きと言える。