あの虹の向こうへ君と

 ちょっと斎藤くんがかわいそうだけど、彼のこうした子供っぽい一面があることを知ることができてうれしいかった。

 私と彼がちょっとした秘密を共有しているという事実が、なぜか心を暖かくしている。

 松山先輩は話していることの方が多いけれど、話を聞くのも上手い。
 私は女優の娘ということもあり映画が好きなので、夢中になって映画について話した。おしゃべりが得意ではなくても、好きなものなら無理をせずに語れる。

 彼といる時は自然と笑顔になっている自分がいた。
 彼との時間は本当にたくさんのことを知ることができた。

 そして、彼は私に恋を教えてくれた。
 二〇一五年、四月十八日、土曜日。

 私は今、ドリーム・シネマで映画を観ている。家から二時間近くかかるけれど、ここにはよく一人で来ていた。

 でも、今日は一人ではない。隣に善斗さんがいる。
 今日は善斗さんの誕生日をお祝いするためのデートだ。どこか行きたい場所があるか聞いたら、「琴音が一番行きたい場所に行きたい」と言われたので、思い出が詰まったこの小さな映画館にした。

 大切な場所に、大切な人と行く。これ以上の幸せはない。
 エンドロールがもうすぐ終わりそう。なんだかドキドキしてきた。

 今日は善斗さんのために、誕生日プレゼントを買ってある。この映画が終わって一緒にご飯を食べた後、大好きな彼氏に誕生日プレゼントを渡す。初めてエンドロールが早く終わればいいと思った。

 映画が完全に終わった。でも、それは映画の終わりだけではなかった。
 私の体が全く動かない。まるで、身体だけ先に寿命が来てしまったみたいだ。

 なにが起きているのかわからない。私の寿命までまだ時間はある。だから、命に関わるようなことではないはず。でも、怖い。すごく、怖い。

 善斗さんに助けを求めようとしても、全く声が出せない。
 さらに、目の前にいる人達が消え始めた。

 もう、わけがわからない。頭の中が完全にパニックになる。

 続けて映画館は暗転し、スクリーンに映像が映し出された。その光景に目を疑う。

 なんでこれがここに映っているの、私はなにを見させられているの。
 それは、ずっと私の背後にある記号だった。さらに制服姿の私が映し出され、左胸にピンク色のハートが光る。私の寿命が、スクリーンに映し出されてしまったのだ。

 頭の中が真っ白になる。