違う景色を一緒に見ている。

「お、尾崎梅雨《おざきつゆ》です。よろしくお願いしまふ。」
中学初めの自己紹介、昨日あんなに練習したのに、やっちまった〜。

賑やかな教室。
もう、グループも出来てきて、クラスのみんなは、連絡先やら交換して、仲良くなっている。
私はというと、、、
休み時間になっても、誰にも話しかけられない。
勇気のない私。
三年間、本と共に過ごすのかな?
さらば、私の青春。
鞄から本を出した時、
「ねぇ、梅雨ちゃんだよね?
私、織田夏美《おだなつみ》。よろしくね」
背の高い、かっこいい女の子が目の前に立っていた。
「え、あっ、うん。梅雨です。よろしくね。」
「梅雨って呼んでいい?」
「いいよ。夏美って呼んでもいい?」
「もちろん!・・・本好きなの?」
「好き、夏美ちゃんは?」
「私は、好きじゃない。文字読むのが苦手なんだよなー」
夏目ちゃんは意外とはっきりいうタイプらしい。
「そっかー」
「でも写真集は好き。
大切な時間を切り取った感じ」
「分かる!色んな事が一枚で伝わってくるよね」
「そう、そうなの」
そのまま話は続き、私達は仲良くなった。
話してみると、夏美ちゃんと私には共通点はあまりなくて、どちらかと言えば正反対だった。
好きな物も、得意なことも、見た目も、性格も、でも私達は友達になった。
私たちが知り合って、春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が、終わろうとしていた。
私と夏美の関係は出会った時とは、大きく変わっていた。
良いようにとは言い難い関係に。
いや、この時はまだ良かったのかも知れない。





「夏美と梅雨って本当に親子見たい」
「後ろから見たらカップルかと思った」
「でしょ!」夏美が自慢げに言う。
もう聞き慣れた会話だ。
もうすぐで三学期も終わる頃、私たちの関係は、こう呼ばれるようになった。
夏美は嬉しそうだし、私も悪い気はしなかった。
私は、クラスとも馴染めて、みんなと仲良くなった。
それと、同時に夏美は変わっていった。

私と夏美は学校が休みの日も毎日一緒に居た。
それぐらい仲が良かったのだ。
私と夏美は本当にずーっといっしょだった。
他の友達と遊ぶ時も、グループを作る時や委員会、係も、授業で作るものさえも、全部一緒で、全部お揃いだった。
中学生なら普通なのかもしれない。
でも、私も夏美も一人でいる時間も好きだった。
だから、私たちの中では誰かとこんなに一緒に居ることは異常だった。
二年生になり一学期ももうすぐ終わり、夏休みが来る頃。
私と夏美の関係は壊れかけていた。
本当は壊れていて、形だけ保っていただけなのかもしれない。


「梅雨、なんであいつと話すの?あいつ嫌いなんだけど」
「これで夏美が嫌いって言った人何人目〜?」
「だって、梅雨と楽しそうに話してるやつ全員嫌い」
「もう、なにそれー」
「だってアイツぶりっ子だし、キモいし、なのに梅雨に仲良さそうに話しかけてくるし」
「もう、そんなこと言わない!」
この会話今月で何回目だろう。
夏美のはっきり意見を言うところは、すごいなと思うし、私は優柔不断だから尊敬する。
そういうところも好きだ。
でも、こうも毎日愚痴を聞かされていては、さすがにしんどい。

ある日、席替えをして夏美と席が隣になった。

「めっちゃ梅雨と近い!やった〜嬉しい」
と今にも飛び跳ねそうに夏美が笑う。
「ほんと、嬉しい!」
私も嬉しくて、授業中だということを忘れて、はしゃいでいた。
「よし今から授業するぞ〜」先生の声で教室が静かになった。
今日は班で数学の勉強を教え合うらしい。
私と梅雨は隣の席のだけど、通路を挟んだ隣の席で、同じ班にはなれなかった。

「あー、疲れた〜。もう無理。数学嫌い〜。」
夏美が今にも死にそうな声で言う。
「夏美って何の教科が好きだったけ?」
「音楽〜」
「5教科では?」
「なにそれ、私分かんない〜」
と夏美がおどけて笑う。
「まぁ、梅雨は賢いから。私と違ってなんでも出来るもん!
前の英語テストだって92点だったんでしょ?
私、64点だったもん」
「・・・・じゃあ、、今度勉強会しようか!」私の提案に
「やだ〜遊ぶ〜」と子どものように駄々をこねる。
「まぁ、いいよ梅雨と遊べるし」としょうがない、と言うように夏美が言った。
「それより梅雨、なんで、他の人と話すの?」
「なんの話」授業の話かな?と思いつつ私は聞く。
「授業中だよ〜」少し拗ねるように言った。
「しょうがないじゃん」
「それはそうだけど〜、なんかやだー」
「なにそれ〜」と私は笑って返した。

この頃から、夏美は私の事をよく怒るようになった。
毎日、毎日、
「なんでアイツらと話すの!」と言っては叩かれて、睨まれて、
「私の事嫌いになったの」と嘆かれて。
正直、私はしんどかった。それは夏美も一緒だろう。
夏美は理由が無くこんなことをする子ではない、何かあったのだろう。
苦しい事が。
私は、夏美以外の人と関わらなければいいじゃないか。
と何度も考えた、残念ながら私が関わろうとしなくても、関わらなければならないのだ。
こんな時、嫌味にも、人は沢山の人の手を借りて、支えられて成り立っているんだなと感じる。
そして、人は一人になっても大丈夫だけれど、孤独になれば生きていけないんじゃないかと、ふと思ってしまう。
私は嫌なことがあっても、辛いことがあってもあっても全部乗り越えてきた。
それでも、耐えきれない出来事が起きてしまった。



私と夏美は、放課後の誰もいない教室、二人だけの静かな時間が好きだった。
部活のない日は、いつもここで色々な話をする。
今日は雲一つない晴天で、気分も晴れやかだったから、つい聞いてしまった。

「夏美は、なんでそんなに嫌がるの?」
「何の話?」
夏美は私を見て首を傾げた。
「私が他の人と関わるのめっちゃ嫌がるじゃん。
なんでかな?と思って。
言いたくなかったら、言わなくていいんだけど、、、。」
「、、、、、、、、、、、、」
「怖いの。
梅雨が私から離れていくんじゃないかって。
誰かに取られるんじゃないかって。」
夏美は私の反応を窺うように静かに言った。
「どこにもいかないよ」
私は夏美を安心させようと思った。
あわよくば、他の人と話しても許してもらえるかな、なんて。
でも、それは単なる勘違いで、お節介だった。
「だったら、なんで他の人と話すの?
どこにもいかないなんて、適当な事言わないで‼︎」
夏美は目を赫くして叫んだ。
「て、適当じゃないよ」
「なら何?同情?」
夏美は鼻で笑うように私を見下ろした。
「梅雨はそんな風に思っていたんだ。
私といるのがしんどいなら、もう一緒にいてくれなくていいよ。
私知ってるよ。
英語のテストほんとは42点だったんでしょ。なんで嘘つくの?
私より低いじゃん!
自分を棚に上げて、そうやって私を見下してたんだ。
もう、いいよ。」
夏美はそう言って帰って言った。
確かに夏美が言っていることは正しい。
同情だったのも事実だ。
テストの点数を偽っていたのも。
だけど、なぜ私はこんなにも悲しい気持ちなんだろう。
夏美とずっと一緒にいる事が辛かったはずなのに。
そこで私は気がついてしまった。
私の悲しさの理由も。
私は夏美が好きだ。大好きだ。
あんなに大好きで大切な人に、私はなんて事をしてしまったのだろう。
私夏美と一緒にいる時間は辛い時間より、楽しい時間のほうが多かった。
「人は、悪いところを見がちだけれど、良いところを探して生きた方が断然楽しいし、幸せよ」と何かの映画で言っていた。
私は、ずっと辛いばっかりで、夏美と一緒に居て楽しかった時間を忘れていた。
そして、私は夏美と友達になってから初めて声を上げて泣いた。
それから私と夏美は話すことがなくなり、夏休みに入った。
私と夏美は同じ吹奏楽部に入っていたから、学校がなくなっても、毎日会っていた。
しかし一言も話さない。
吹奏楽部では楽器が違うし、人数も多いから、あまり話す機会がない。
私達の部活は顧問が変わってから、強くなった。
だから、夏休みはコンクールに向けての練習で、毎日毎日先生に怒られて、上手くいかなくて泣いて、それでも頑張って。
の繰り返しで、正直、夏美のことを考える時間は無かった。
そして、その夏、私達は初めて地区大会代表を取り、関西大会金賞を手に入れた。

夏休み前日。
私は夏休みの宿題をしていなかった。
ずっと「宿題、終わった。」とお母さんに嘘をついていて、バレた。
私はすぐ嘘を言ってしまう。
直そうとしても無理なのだ。
そんな自分が嫌いで、自殺を何度考えた事か。
今回も私の嘘のせいでお母さんに辛い思いをさせてしまった。
私は、なんでこんなふうになってしまったんだろう。
つくづく、自分が嫌いだ。
そしてその時、「他に隠しているだろう」と言われて、つい夏美との事を話してしまった。
もう、私は人生を諦めかけていた。
そんな夏休みが終わった。
二学期に入って、私も夏美もそれぞれ違う友達と楽しく過ごしていた。
しかし、私の心が晴れることはなかった。
幾度も話しかけようとしたが、私にはそんな勇気なかった。

「もうそろそろ、話しかけたら?
ずっと気にしてんじゃん」
「そんなことないもん」
「別にいいけどさ〜梅雨がいいなら私は」
意味深な感じで佐藤心《さとうこころ》が言った。
心は私と夏美との関係を知った上で仲良くしてくれている。
家も近くて夏美とも仲がいい。
その時「尾崎さん、少しいいですか?」と先生に話しかけられた。
私は大人の男の人が少し苦手で、今だに話したことが無かった。

私は先生と廊下に出た。
廊下は冷たくて、少し気持ちが良かった。
「織田さんと何かあったんですか?」
お母さんが先生に何か言ったのか、単に先生が気になっているだけなのか、私は聞かなかったが、お母さんだろうと見当をつけていた。
「なにもないですよ」
「本当に?」
「はい、なにかあったとしても
なんで、先生に言わないといけないんですか?
関係ないですよね?」
もう、なにも言いたくなかった。
どうせ、なにも変わらないんだろう。
私は諦めかけていた。
「関係あります。
あなたの先生です」
私はこういう正論のような事を、言う人は苦手だ。
結局、お母さんから聞いているとしたら少しは知っているのだろう。
私は少し怪訝そうな顔で
「・・・佐藤さんに聞いてください。
私からは言いたくありません」
そう言って、教室に入った。

そして次の日、私はまた先生に呼ばれた。
「佐藤さんから聞きました。
夏美さんとの事。
元に戻りたいと思いますか?」
先生がどこまで知っているのかは知らないが、大まかな事は把握しているのだろう。
「・・はい」
私は渋々答えた。
「先生も出来る事はします。
なので話して欲しい、あなたの口から」
私は話した。全部、全部。泣きながら。
所詮は子どもだ。
出来ることなんてたかがしれている。
大人だって。

それから私は毎日、先生に放課後呼び出された。
先生は助言してくれる事なんてないが、話す事で私は、自分の気持ちを整理した。
泣いて、泣いて、泣いて。
そして、夏美の方が辛いのにと、また自己嫌悪に陥る。
その繰り返しだった。
それでも、私と夏美との中が元に戻る事はなかった。




そうこうしているうちに、もうすぐ冬休みになろうとしていた。
私は冬休みまでに絶対解決しようと思っていた。
そして、今日が冬休み最後の日だ。

絶対、話しかけるぞ。
最後のチャンスだ。
今日を逃せば次はない。
大丈夫。
頑張れ私。
私なら出来る。
私は自分を出来るだけ勇気づけ、弱い自分に気づかないふりをした。
「夏美!ちょっと話したいことがあるんだけど、今いい?」
「いいよ。・・・何?」
夏美はそっけなく言った。
そりゃそうだ。私はそれだけのことをしたのだから。
「私、、、やっぱり夏美のことが好きなの。
夏美と一緒に居たいし、もっと話したい。
我儘だって分かってる、自分勝手だって分かってる。
それでも、夏美と友達でいたいの。
私のしたことは許さなくていいから、だから、友達やめるなんて言わないで」
私は泣き崩れてしまった。
なぜだろうか。
昔から自分の本当の気持ちを話すと、涙があふれてしまう。
夏美は、、、驚いたように目を見開いていた。
「泣かないでよ。
私が悪いみたいじゃん」
「ごめん」
「いいよ。
ていうか、友達やめるとか言ってないよ。
そんなの、こっちから願い下げだよ。」
「ほんと?」
「ほんとだってば」
夏美は笑っていた。
笑った顔を見るのはいつぶりだろう。
「私も梅雨がいなくてさみしかった」
よく見れば、夏美の目元は、少し黒くなっていた。
寝れなくなるまで考えてくれていたのだろうか。
私たちはそれから、沢山話しをした。
それは私が6年生の時だった。
私達三人は仲が良かった。
当然中学になっても一緒にいるものだと思っていた。
けど、それは思い過ごしで、上辺だけの友達にすぎなかった。

「夏美はどれがいい?
3人でお揃いのキーホルダー」
笑顔で顔を覗き込んでくる、梨沙《りさ》。
「こっち以外ありえないでしょ!」
自分の意見をはっきり言う蘭《らん》。
「どっちも可愛い!」
「でしょ、私はこっちがいいんだけどなー」と不満げに口を突き出して梨沙が言う。
「ない、ない絶対こっち!」負けじと蘭も言う。
二人はいつも意見が合わず喧嘩をしている。
仲がいいのか、分からないように感じるけど、ずっと一緒にいるのだから仲がいい。私を含めて。
私はそんな二人を尊敬していて、大好きだ。
大好きだった。

ある日、私はいつも通り学校に行った。
来てすぐ梨沙と蘭に気づいて、
「おはよう」と挨拶をした。
二人からの反応はなかった。
ちょうど先生が来たから、言わなかっただけかもと思い、この時は気にも留めていなかった。
でも、休み時間になって話しかけても、二人は話してくれなかった。
私は二人に無視されたのだ。
私は私なりに二人が無視をする理由を一生懸命考えた。
しかし、昨日はいつも通りだったのに、朝挨拶した時にはもう無視されていた。
だか昨日の放課後に何かしたのかと思ったけれど、思いあたる事はなにもなかった。
結局、私は放課後、二人に聴いてみることにした。

「梨沙、蘭、私なにかした?
考えたんだけど思いつかなくて
なにかしたなら、謝るし次から気をつけるから
無視しないで!
お願い!」
私は一生懸命自分の気持ちを二人に伝えた。
しかし二人の反応は私の予想を遥かに超えた。
「ギャッハハハ」
「はっはふっふっやっやばい」
二人は爆笑したのだ。
私は訳もわからず、ただただ突っ立ていた。
「ドッキリ大成功〜」
「ヒューウ、ヒューウ、パフパフ」
「思ったより夏美が良い反応してくれて、笑った。」
「実はいきなり無視をしたらどう言う反応をするか、というかドッキリでしたー」
「ごめんね〜」
「無視してる時、めっちゃ焦ってるし、笑い堪えるの大変だったんだよ」
悩んだ私のことなんて知らず、ケロっとした顔で二人は言う。
「そ、そっか〜。よかったー」私は多分笑いながら言った。
「あー楽しかった。」
「ウチらずっと友達でしょ」
「無視されても友達でいてくれるって、どんだけいい奴なんだよ〜」
と二人は楽しそうに言った。
そのあと、私は笑顔を張り付けて、二人と一緒に帰った。

家に帰って、布団に入っても、なかなか眠れなかった。
二人は、何故いきなりドッキリなんてしようと思ったのか。
私は考えても思いつかなかったから、考えるのをやめて。
羊を数えた。

しかし、次の日から二人は私に対する扱いが変わった。
まるで、実験動物を見るような。

「捕まえて」
「夏美逃げんなよ」
私は毎日二人に追いかけ回されて、こちょこちょと言う名の遊びをしていた。
蘭が私を押さえて、梨沙がこちょこちょをする。
しかし、梨沙のこちょこちょはこちょこちょと言うより、つねっていると言う方があっているほど痛かった。
「助けて!」
私は教室で毎日叫んだが、笑っているので、冗談と見られたのか、それとも梨沙と蘭だったからか、分からないけど、助けてくれる人はいなかった。
それから私は一人でいることが多くなった。
しかし、蘭か梨沙のどっちかが休むと前みたいに優しく私に話しかけてくれた。
いいように使われているだけだ。
それでも心のどこかで喜んでいる自分がいて、そんな私もまた、嫌いだった。
いじめとは、もっとしんどいことで、こんなのいじめじゃないって思ったから、ずっと耐えた。
もっとしんどい人はいっぱいるからと思って、ずっと我慢した。
陰で「あんな奴友達じゃないよ」
「遊んであげているだけ」
と二人が話しているのをよく聞いた。
私達はそれだけの関係だったのだ。
それでも私はなにも出来ず、卒業した。
「ってことがあって、私は人を信用するのが難しくなって、私から人が離れていくのが怖くなったの」
夏美は私を束縛してしまう理由を悲しそうに、吹っ切れたように話した。
「ごめんね、辛いこと思い出させて」
正直驚いた。
驚いたけど、やっぱり夏美は凄いと思った。
強いと思った。
「いやいいよ、人に話せて少し楽になったし」
夏美はスッキリしたような笑顔で言った。
「それから、私は変わろうって決めたの。強くなろうって。でも、なにも変わってない。次は私が梅雨を苦しめている。ホントごめんね。」
夏美は私の目を真っ直ぐ見て言った。
でも私は‘いいよ’なんて言えなかった。
何故か言うべきではないと思ってしまった。
それは、私が夏美に元々怒ってなかったからか、夏美の気迫に負けてしまったからか、分からないけど。
「親には?いじめのこと言ってないの?」
話を変えたくて、聞きたい事を聞いた。
「言ってない、誰にも。
弱いくせに強がりだからね。
それに心配させたくなっかったし。
言ったらどう思われるだろう?とか。
否定されたらどうしようとか思っちゃって。」
「そっか」
私はそれ以外の返し方を知らなくて、つくづく自分は無力だと実感した。
「・・・」
「・・・」
静かな沈黙を打ち消すように夏美は言った。
「話変わるんだけど、
日本じゃ、いじめられてるほうがカウンセリングをされたり、
学校に行けなくなったり、いじめられている側の方が損が多いと思うの」
「そうだね」
「でもさ、おかしくない?
悪いのはいじめている側で、いじめられている側なんて被害者じゃん。」
「確かにね」
いじめについてきちんと考えた事なんて無いから、言葉の意味は理解し難いけど、私にも分かった。
「いじめられた側の人は、いじめを受けて、苦しくなるの。
でもいじめている側は、きっと誰かをいじめてしまうほどの何かがあったんじゃないかなって私は思う。
もっと加害者のことも考えて、なんでなのかを考えなきゃ、きっと世の中変わんないよ。
そんな世の中になったら、もっと生きやすいのに」
夏美は遠くを見て、静かに語った。
私は、改めて夏美は凄いなと思った。
ちゃんと自分の気持ちを考えて、人に伝えることができて。
夏美は私より確実に過酷な人生を生きてきたのだろう。
だからこんなふうに色々な事を知っている。
だからこそ、苦しいのだろう。
私も夏美の苦しさを分かり合えるほど、たくさんの経験しようと思う。
私も言わなきゃ、夏美に。
言わないといけない。
「私もごめん。
私ね、嘘を吐きなの。
息をするように嘘を吐いてしまう。
だめだなって思ってるんだけど、上手くいかなくて、、。
本当にごめんね」
夏美は悲しそうだった。
「いつから、なの?」
「分かんない、気づいたら」
「そっか、」
夏美は辛そうに言った。
私はまた、夏美を苦しめてしまった。
こんな話し聞きたくないだろう。

「もう、帰ろっか遅くなったし」
夏美は名残惜しそうに頷いた。
時計は6時を差し掛かっていて、最終下校時間は過ぎていた。