「主ちゃん、相変わらずだね」
「こんにちは、ふんぬ~……」
「ははは、僕に合わせてくれてるのかい? 面白い子だね。でもその体制……辛くないかい?」
「……ごめん首が痛い」
そう言うと彼はおかしそうにお腹を抱えて笑った、吊るされた状態で。
彼の名前は『吊るされた男』の正位置。カード番号は12で、主な意味は『試練・戦い・壁にぶちあたる』など。
彼は名前の通り、吊るされている。四六時中吊るされた体制だ。そんな彼と話す時、そのまま話しかけていいものか迷うので、先程のように逆さまになって話しかけたりするのだが、長くは続かない。
それが彼にとっては笑いのツボのようで、毎回するたびに笑ってくれる。これは私なりの彼の息抜きになればいいなと思ってしていることなので、少し嬉しかったりもする。
「本当に主ちゃんは面白いね、はははは!」
「だって……その体制辛そうだから」
「ありがとう、でも僕は自分の意志でこの格好をしているんだ。昔僕は大罪を犯して、いろんな人を傷つけてしまった。こんなことでは報われないのは知っているけれど、そのことを忘れないようにしたいからね」
「そうだったんだ……」
「ふふ、主ちゃんは優しいんだね。今までの人はどんな大罪を犯したのか根掘り葉掘り聞いてくるのに……」
「その事件の被害者の方への冒涜行為はしたくないから……興味本位で聞いていいようなことでもないし」
そういうと、彼は目をぱちぱちさせ、やがて優しく微笑んだ。
「そう言えば……前に吊るされた男さんにはこっちの世界とは別の世界が見えるって言ってたけど……」
「嗚呼そうだよ、主ちゃんのいる世界も見えるけどもっと別の世界をいつも見ているんだよ。例えば世界のすべてが茶色い世界とかね」
「茶色……? 全部が茶色いの?」
「そうだよ、その世界ではそれが普通。その世界の住人はちゃんと自分のことも他人のことも識別して生きているからね」
「不思議……どうやって識別しているんだろう」
「他にも、時間が逆に進んでいる世界とか、歩き続ける世界とか……世の中には色んな世界で溢れているんだってことが実感できるんだよね」
彼は逆さまに世界を見つめているからなのか、私達には見えない世界が見えるらしい。聞けば聞くほど不思議で面白いが、その世界にとっては全て当たり前のことのようだ。
「主ちゃんの世界でも、常識だと思われていることがあるだろう? でもそれも国が変われば当たり前じゃなかったりもするし、そっちのほうが僕は不思議だと思うけどなぁ」
「言われてみれば……人種が違ったりするだけで全然違うものね」
「だからといって、自分が思う決まり事とか当たり前だと思っていることが必ずしも正しいとも言えないしね」
宇宙のなかにある地球という惑星の中に世界があり、各国があり、国の中にも都道府県や州があり、そこでも各地域があり、個人がいる。それと同じように世の中にはいろんな世界があるようだ。
「みんな違うからこそ、派閥があったり問題が起こったりするわけだけど……共通するものだってあるよね」
「共通するもの……?」
「『今、この瞬間』を生きているということだよ。主ちゃんたちは今を生きている、過去の人でも未来の人でもない……今この瞬間を生きているんだ。その共通点があるからこそ、人同士は繋がれる」
彼の言葉は時々悲しい。違いだらけの中に一つだけでもある共通点を、私達は気付かないふりをして、自分の国や地域の決めごとを武器に他者と争いをしているのだろうか。
大罪を犯してしまった彼だからこそ見つけられた、人との派閥の中にある共通点。その共通点が今後起こるであろう問題に、少しでも良い影響をもたらしてくれればいいなと切に思った。
「こんにちは、ふんぬ~……」
「ははは、僕に合わせてくれてるのかい? 面白い子だね。でもその体制……辛くないかい?」
「……ごめん首が痛い」
そう言うと彼はおかしそうにお腹を抱えて笑った、吊るされた状態で。
彼の名前は『吊るされた男』の正位置。カード番号は12で、主な意味は『試練・戦い・壁にぶちあたる』など。
彼は名前の通り、吊るされている。四六時中吊るされた体制だ。そんな彼と話す時、そのまま話しかけていいものか迷うので、先程のように逆さまになって話しかけたりするのだが、長くは続かない。
それが彼にとっては笑いのツボのようで、毎回するたびに笑ってくれる。これは私なりの彼の息抜きになればいいなと思ってしていることなので、少し嬉しかったりもする。
「本当に主ちゃんは面白いね、はははは!」
「だって……その体制辛そうだから」
「ありがとう、でも僕は自分の意志でこの格好をしているんだ。昔僕は大罪を犯して、いろんな人を傷つけてしまった。こんなことでは報われないのは知っているけれど、そのことを忘れないようにしたいからね」
「そうだったんだ……」
「ふふ、主ちゃんは優しいんだね。今までの人はどんな大罪を犯したのか根掘り葉掘り聞いてくるのに……」
「その事件の被害者の方への冒涜行為はしたくないから……興味本位で聞いていいようなことでもないし」
そういうと、彼は目をぱちぱちさせ、やがて優しく微笑んだ。
「そう言えば……前に吊るされた男さんにはこっちの世界とは別の世界が見えるって言ってたけど……」
「嗚呼そうだよ、主ちゃんのいる世界も見えるけどもっと別の世界をいつも見ているんだよ。例えば世界のすべてが茶色い世界とかね」
「茶色……? 全部が茶色いの?」
「そうだよ、その世界ではそれが普通。その世界の住人はちゃんと自分のことも他人のことも識別して生きているからね」
「不思議……どうやって識別しているんだろう」
「他にも、時間が逆に進んでいる世界とか、歩き続ける世界とか……世の中には色んな世界で溢れているんだってことが実感できるんだよね」
彼は逆さまに世界を見つめているからなのか、私達には見えない世界が見えるらしい。聞けば聞くほど不思議で面白いが、その世界にとっては全て当たり前のことのようだ。
「主ちゃんの世界でも、常識だと思われていることがあるだろう? でもそれも国が変われば当たり前じゃなかったりもするし、そっちのほうが僕は不思議だと思うけどなぁ」
「言われてみれば……人種が違ったりするだけで全然違うものね」
「だからといって、自分が思う決まり事とか当たり前だと思っていることが必ずしも正しいとも言えないしね」
宇宙のなかにある地球という惑星の中に世界があり、各国があり、国の中にも都道府県や州があり、そこでも各地域があり、個人がいる。それと同じように世の中にはいろんな世界があるようだ。
「みんな違うからこそ、派閥があったり問題が起こったりするわけだけど……共通するものだってあるよね」
「共通するもの……?」
「『今、この瞬間』を生きているということだよ。主ちゃんたちは今を生きている、過去の人でも未来の人でもない……今この瞬間を生きているんだ。その共通点があるからこそ、人同士は繋がれる」
彼の言葉は時々悲しい。違いだらけの中に一つだけでもある共通点を、私達は気付かないふりをして、自分の国や地域の決めごとを武器に他者と争いをしているのだろうか。
大罪を犯してしまった彼だからこそ見つけられた、人との派閥の中にある共通点。その共通点が今後起こるであろう問題に、少しでも良い影響をもたらしてくれればいいなと切に思った。