けど、不幸中の幸いといえばあれなんだけど、仕事中の話でもあり保険金が出るという話だった。
かなりの金額が出るということで、合格の後に僕もバイトを入れれば、どうにかこうにか妹の分も含めて大学の間はやりすごせそう……そんな感じだった。
けれど、僕たちに支払われる前の保険金を、一時的に預かっていた交通整理の会社が倒産したんだ。
そして社長の夜逃げの時に、そのお金は綺麗さっぱりと持ち去られることになる。
結局のところ、僕たちは父親が亡くなったことに対する一切の金銭的な見返りは得ることが無かったのだ。
――もしも、トラックの運転手がまともだったなら?
――もしも、交通整理の会社が倒産しなければ?
思うことはいくらもあったけど、僕はその時に覚悟を決めた。
つまりは、大学受験を諦めて就職しようと。
「お天道様に恥じない生き方をしろ。宮沢賢治|《みやざわけんじ》の『雨にも負けず』のように……な」
いつもそう言っていた父親に「妹のためにそうすべきだよね?」と、心の中で尋ねると、小さく頷いたような気がしたのが決定打だった。
――当時は就職に厳しい時代だった。
学歴の良い人たちですら何十連敗という絶望的に凍てついた就職活動戦線。
そんな中、僕はなんとか星川工業の社長さんに拾われることになったんだ。
周りの話では労働環境は結構……いや、無茶苦茶なブラック企業だという話だった。
だけど、妹の為なら頑張れた。
額に汗を流してのキツイ労働は、そりゃあ辛いこともたくさんあった。
けれど、ちゃんと楽しく笑える時間もあったし、僕としては生計が成り立っているという事実に感謝の日々だった。
と、そんなある日――
「お兄ちゃんって国立大の理系狙いだったんでしょ? A判定貰ってたのに……どうして……? 私なんて普通の高校しかいけないのに……なんでお兄ちゃんが働いて、私を進学させるの?」
「まあ、僕のことは良いんだよ」
「何でいつもいつも私のために頑張ってんのよ。今働いているところだって酷い労働環境って話じゃない」
「社長さんのことは悪く言っちゃダメだよ。この就職氷河期の中、僕を拾ってくれたのはあの人だけだ。ある意味、僕は恩を受けているんだからさ……」
「でも……」
かなりの金額が出るということで、合格の後に僕もバイトを入れれば、どうにかこうにか妹の分も含めて大学の間はやりすごせそう……そんな感じだった。
けれど、僕たちに支払われる前の保険金を、一時的に預かっていた交通整理の会社が倒産したんだ。
そして社長の夜逃げの時に、そのお金は綺麗さっぱりと持ち去られることになる。
結局のところ、僕たちは父親が亡くなったことに対する一切の金銭的な見返りは得ることが無かったのだ。
――もしも、トラックの運転手がまともだったなら?
――もしも、交通整理の会社が倒産しなければ?
思うことはいくらもあったけど、僕はその時に覚悟を決めた。
つまりは、大学受験を諦めて就職しようと。
「お天道様に恥じない生き方をしろ。宮沢賢治|《みやざわけんじ》の『雨にも負けず』のように……な」
いつもそう言っていた父親に「妹のためにそうすべきだよね?」と、心の中で尋ねると、小さく頷いたような気がしたのが決定打だった。
――当時は就職に厳しい時代だった。
学歴の良い人たちですら何十連敗という絶望的に凍てついた就職活動戦線。
そんな中、僕はなんとか星川工業の社長さんに拾われることになったんだ。
周りの話では労働環境は結構……いや、無茶苦茶なブラック企業だという話だった。
だけど、妹の為なら頑張れた。
額に汗を流してのキツイ労働は、そりゃあ辛いこともたくさんあった。
けれど、ちゃんと楽しく笑える時間もあったし、僕としては生計が成り立っているという事実に感謝の日々だった。
と、そんなある日――
「お兄ちゃんって国立大の理系狙いだったんでしょ? A判定貰ってたのに……どうして……? 私なんて普通の高校しかいけないのに……なんでお兄ちゃんが働いて、私を進学させるの?」
「まあ、僕のことは良いんだよ」
「何でいつもいつも私のために頑張ってんのよ。今働いているところだって酷い労働環境って話じゃない」
「社長さんのことは悪く言っちゃダメだよ。この就職氷河期の中、僕を拾ってくれたのはあの人だけだ。ある意味、僕は恩を受けているんだからさ……」
「でも……」