最後の魔女試験当日の朝、ヒカリは会社の前でマリーを待っていた。するとマリーが現れる。
「おはよう」
マリーは落ち着いた口調で言う。
「おはようございます!」
ヒカリは真剣な表情で言う。
「ふふ。去年とは違うわね。……すごく、たくましくなっているわ」
マリーはそう言いながらヒカリの頭を優しくなでた。
「ふふ!」
ヒカリはマリーから褒められたのが嬉しくて、笑ってしまう。マリーはヒカリの頭をなでるのをやめ、真剣な表情を浮かべる。
「じゃ、行くわよ! 覚悟はできてる? ……なんて、もちろん聞かない」
マリーは真剣な表情で言った。そして、目の前の景色が歪んだ後、ヒカリとマリーは呪いの魔女の館の前に立っていた。
「行くよ!」
「はい!」
ヒカリとマリーは呪いの魔女の館に入っていく。大広間に着くと前回よりも少し多い、十三人ほどの魔女見習いが集まっていた。
「前回よりも多いですね」
ヒカリはつぶやいた。
「そうだね」
マリーは軽く返事をした。すると、大広間二階の奥の扉が開き、呪いの魔女が現れた。
「ひっひっひっ! また、こんなにたくさんいるのかい! 人間がぁっ!」
呪いの魔女が魔女見習い達を見下ろしながら、恐ろしい形相で言う。ヒカリは怖気づくこともなく、呪いの魔女をしっかりと見つめた。すると、呪いの魔女は、ヒカリを見て一瞬固まった後、すぐに他の魔女見習いに視線を移した。
「それじゃ、魔女試験を始めるかい。……今回の試験は、……どうしようか。……んー。……まぁ、『前回と同じ』でいいだろう。……誰も合格者はいなかったしね」
呪いの魔女は落ち着いた口調で言う。ヒカリは『前回と同じ』という言葉に少し反応した。
「さて、魔女は全員そっちの部屋に行きな!」
呪いの魔女は力強く言った。
「またか! ……くそ」
マリーは呪いの魔女を睨んだ後、他の魔女と一緒に隣の部屋に入っていった。
「さて、まずはこれからだ。……ほれ」
呪いの魔女がそう言うと、ヒカリは燃え盛る炎の中に立っていた。
ヒカリは自分の体に視線を移すと、炎が全身にまとわりついているのがわかった。去年なら炎の熱さと痛さで叫んでいた事態なのだが、今回のヒカリは叫ばない。それからヒカリは、周りを見渡しながら何かを探した。すると、燃え盛る炎の奥の方から、何やら声が聞こえてきた。ヒカリはその声のする方へゆっくりと歩き出す。
「助けてくれー! 体が焼けてしまう!」
「なんで助けてくれなかったのー?」
ヒカリは無言でその声のする方に近づいていく。怖気づくことなく歩みは止めない。すると、二人の人物が見えてきた。やはり、去年と同じで、炎に焼かれているヒカリの両親だった。
「こんな火事の中、お父さんをなんで置いて行ったんだー?」
「もう熱くて痛くて地獄だわー!」
ヒカリは何も言わず両親に近寄り続ける。ヒカリは歩きながら歯を食いしばった。
「この幻は、自分の弱さ、自分のトラウマだ。この炎は熱くも痛くもない。それが今の自分ならわかる。もうこんなトラウマに負けたりなんかしないから……」
ヒカリはそうつぶやくと、炎に焼かれていている両親を抱きしめた。
「お父さん。お母さん。……あの時、私を助けてくれたんだよね。ありがとう」
ヒカリが両親を抱きしめながら言うと、両親は黙ったまま体の力を抜いた。
「あの時、マリーさんが一階から来たのは、きっと、お父さん達が私を助けるようにマリーさんに言ったんだって、よく考えたらわかったから。マリーさんの表情を思い返せば、そんなのわかるよ……」
ヒカリは両親に向けて感謝を伝える。気がつくと、涙が溢れ出して体が震えていた。
「あれからね。私、友達たくさんできたよ……。小学校、中学校、高校も卒業して、今ではちゃんと仕事もしてるんだよ……。お父さんとお母さんがいなくなって、すごく辛かった。……悲しかった。……寂しかった。…………。……でもね。……やっと自分の居場所が見つかったんだ。……だから、毎日楽しいし、心の底から生きていてよかったって思うの。……本当に……私を産んでくれて、育ててくれて、ありがとう。……ヒカリは、これからもずっとお父さんとお母さんのこと忘れないからね……」
ヒカリは泣きながら両親を強く抱きしめた。幻とはいえ、こうやって再会できて、本当に嬉しかったから。そして、ヒカリは名残惜しい気持ちもありつつ、両親からゆっくりと離れる。
すると、突然周りの炎が消えて、両親も火傷の無い普通の姿に戻った。両親は笑顔を浮かべ涙を流しながらヒカリの顔を見つめた。
「お父さん達は、ヒカリが元気ならそれでいいんだ」
「ちゃんと好き嫌い言わずに、何でもしっかり食べるのよ」
両親は優しい口調でそう言った。
「うん」
ヒカリは涙を流しながらうなずく。すると、両親が消えていき、周りも元の大広間に戻る。ヒカリはローブの袖で涙を拭い周りを見渡すと、ヒカリ以外の魔女見習いは一人しか立っておらず、他は全員床に倒れていた。
そして、突然、目の前に呪いの魔女が現れる。
呪いの魔女の幻に打ち勝ったヒカリは、呪いの魔女を見つめて堂々と立っていた。
「ほう。二人も残ったか。それじゃ、最終試験を始めるかの」
呪いの魔女がそう言うと、ヒカリともう一人の魔女見習いは、不気味な森の前に立っていた。ヒカリともう一人の魔女見習いは、周りが気になり見渡す。
「ここはどこよ! すっごく気味が悪い!」
もう一人の魔女見習いが言う。少し身長が低く、暗い紫色の帽子とフード付きのローブを身につけ、黒い靴を履いた明るい茶髪でおかっぱの女の子だ。
「ひっひっひっ! ここは私が作った魔界樹の森さ」
呪いの魔女は笑いながら言う。
「魔界樹の森……」
ヒカリはその森の名前からも危険度の高さを感じた。
「ここは、もちろん、あんたたちの知っているような、普通の森じゃーないからね。ひっひっひっ! ……あそこに塔が見えるだろう?」
呪いの魔女は笑いながら言った後、どこかを指差した。呪いの魔女が指差した方向を見てみると、遠くの方に大きな塔が見えた。
「日没までに、あの塔の頂上にくること。それが、最終試験の内容さ。……さぁ、開始だよ。二人もいるんだから、仲良くもがきなさい。ひっひっひっ!」
呪いの魔女はそう言うと、目の前から消えていった。ヒカリは、呪いの魔女が最後に言った言葉の意味がわかり、すぐにもう一人の魔女見習いに話しかけようとした。しかし、もう一人の魔女見習いは、ほうきに乗り飛び去ってしまう。
「待って! 二人で協力した方がいい!」
ヒカリはもう一人の魔女見習いに向かって叫んだ。
「私は強いのよ! あんたなんかの力を借りなくても、こんな試験、余裕で乗り越えられるんだから!」
もう一人の魔女見習いはそう言うと、森の中に入っていった。ヒカリは少しだけ呆然としたが、すぐに気を取り直して周りの観察を始めた。
「森の上空には、常に何か大きな生き物がたくさん飛んでいる……。なんだあれ、鳥のような、人のような、見たこともない生き物だ……。空を飛んで簡単にたどり着けるほど、甘くはないか」
ヒカリは塔に向かう最善なルートを考える上で、一番思いつきやすい空に目を向けたが、やはりそこは、単純に通れるほど甘くないことが理解できた。そして、森に目を向ける。
「だとすれば、何が潜んでいるのかわからないけど、何かあっても身を隠せるから、森の中を通った方がいいな。……それに、あれだけ高い塔だから、少し飛べば進行方向を間違えずに済みそうだし。……そうしよう!」
ヒカリは冷静に判断して森の中を通ることに決めた。
ヒカリは周りを警戒しながら森の中をほうきで飛んでいく。すると、奥の方から悲鳴が聞こえた。
「悲鳴? 魔女見習いの子?」
ヒカリは焦った。その悲鳴がもう一人の魔女見習いの声だったからだ。ヒカリは悲鳴が聞こえた方へ急いで向かった。
すると、もう一人の魔女見習いが木の枝にグルグル巻きになり、大きな生き物に襲われている状況が確認できた。大きな生き物をよく見ると、全身が濃い緑色で、目が一つだけの体長十メートルほどの巨人のようだ。
ヒカリは緑色の巨人の間をすり抜け、もう一人の魔女見習いのそばまでたどり着いた。もう一人の魔女見習いはどうやら気を失っているようだ。
「気を失っているだけか。でも、すごいケガしてる」
ヒカリは気配を感じて後ろを振り返ると、緑色の巨人が襲い掛かってきていた。ヒカリはとっさに逃げることができず、全身を巨人の両手で握られてしまった。巨人は大声で叫びながら、ヒカリを握りつぶそうと力を込め始めた。
「……っぐ。…………」
ヒカリは痛みに耐える。すると、緑色の巨人は、一瞬驚いた様子で固まった後、ゆっくりと力を緩め始めた。
「……なんで、抵抗しない?」
緑色の巨人はヒカリに問いかけた。
「あなたが私を殺すつもりがないって、わかったから」
ヒカリは少し苦しい表情を浮かべながら言う。
「なぜ、そう思う?」
緑色の巨人はじっとヒカリを見つめながら言った。
「なんとなくわかる……」
ヒカリはそう言った。
「この森には、何が目的だ?」
緑色の巨人は、さらにヒカリに顔を寄せて問いかける。
「あの塔に行きたいの。だから、ちょっとだけ通らせて欲しい」
ヒカリは右手で塔を指差して言う。すると、緑色の巨人はヒカリを握りつぶすのをやめ、ヒカリをゆっくりと地面に下ろした。
「お前はいいやつだと思った。だから何もしない」
緑色の巨人は落ち着いた口調でそう言った。
「ありがとう。……あの! えっと……緑さん!」
ヒカリはなんて呼べばいいのかわからなかったので、とっさにそう言った。
「み、緑さん? 俺のことか? はははは!」
緑色の巨人は少し戸惑った様子を見せた後、大声で笑いだした。
「もし、気にさわったならごめんなさい! 名前があれば、教えて!」
ヒカリは問いかける。
「……名前はない」
緑色の巨人は遠くを見て、ほんの少しだけ寂しそうに言った。その後、ヒカリの顔に視線を移して笑みを浮かべる。
「だから、お前に名前を付けてもらえて、すっごく嬉しかった! 人間よ、お前の名前は?」
緑さんは嬉しそうに言う。
「私はヒカリ!」
ヒカリは元気よく名乗った。
「ヒカリか! いい名前だ!」
緑さんは笑顔でそう言った。
「あの! あそこの魔女見習いの子を解放してもらえないかな?」
ヒカリは緑さんにお願いをする。
「あいつはヒカリの仲間なのか?」
緑さんは問いかける。
「うん。まだあまり話したことないけど、これから仲良くなれるってわかる」
ヒカリは真剣な表情を浮かべてそう言った。
「それなら俺はもう手を出さない。ただ、解放してほしいのなら、俺じゃなくて魔界樹に相談するんだな。……それじゃ、気を付けて行って来いよー!」
緑さんはそう言うと、大きな足音をたてながら去っていった。すぐにヒカリは、もう一人の魔女見習いに駆け寄り、その体を縛っている木の枝に優しく手を触れた。
「私たち、この森を通りたいだけなの。この子が何をしたかは知らないけど、決して悪い子じゃないと思う。だから、離してもらえないかな?」
ヒカリが真剣に言うと木の枝が緩み、もう一人の魔女見習いが解放された。
「サイクロプスが認めたならば、あなたは悪い人じゃない。そんなあなたが言うならば解放します」
魔界樹は優しい口調でそう言った。
「ありがとう!」
ヒカリはそう言うと、すぐにもう一人の魔女見習いの様子を見る。木の枝の圧迫がなくなったからか、顔色も良くなっていた。
「大丈夫?」
ヒカリはもう一人の魔女見習いに声をかけた。
「……う。……なんで、あんたが。いててて!」
もう一人の魔女見習いは意識を取り戻し、ゆっくりと立ち上がろうとする。ヒカリはもう一人の魔女見習いがしばらく歩けない状態だと一目見てわかった。
「すごいケガしてるから、動いちゃダメよ!」
ヒカリはもう一人の魔女見習いを支えながら言った。
「やめてよ!」
もう一人の魔女見習いは、ヒカリの手を振り払いながら言う。そして、もう一人の魔女見習いはヒカリの支えがなくなり、尻もちをついてしまった。
「ほら! 一緒に行くよ! まだ大人を乗せては飛べないから私の背中に乗って! 何が出るかわからない森なんだから!」
ヒカリはおんぶの姿勢をしながら、もう一人の魔女見習いに言う。
「どうせ私は、もう何もできないのよ! ただのお荷物じゃない! 誰かのお荷物になるくらいなら、死んだ方がマシよ!」
もう一人の魔女見習いは大声で言った。その瞬間、ヒカリはもう一人の魔女見習いを思いっきりビンタした。
「……そんな悲しいこと、言わないで」
ヒカリは悲しい表情を浮かべながら力強く言った。すると、もう一人の魔女見習いは驚いた表情を見せた後、視線をそらした。
「……ごめん」
もう一人の魔女見習いは小さい声でそう言った後、ヒカリの背中に乗った。
「でも、私をおぶってたら、日没までに間に合わなくなっちゃうよ。あなた、魔女になれなくなってもいいの?」
もう一人の魔女見習いは心配しているようだった。
「困っている人がいるから助ける。それだけよ。……それに、まだ諦めたわけじゃない! 間に合うように頑張るし!」
ヒカリは笑顔でそう言った。
「……あんた、名前は?」
もう一人の魔女見習いは問いかける。
「私はヒカリ」
ヒカリは名乗った。
「私はリカ。この恩は必ず返すわ」
リカはそう言った。
「よろしくね。リカ」
ヒカリはリカと少し打ち解けられた気がして嬉しかった。
「うん。……よろしく」
リカは恥ずかしそうに小さな声で言った。
「ヒカリ、この森の中央の塔に行きたいんですよね?」
魔界樹がヒカリに話しかけてきた。ヒカリは話しかけてきた魔界樹の方に体を向ける。
「うん! そうだよ!」
ヒカリは魔界樹に返事をする。
「中央に行くなら気を付けてください。ダークウィザードという魔法を使ってくる恐ろしいやつが四体いますので」
魔界樹はそう言った。
「ダークウィザード。……それは、魔法使いなの?」
ヒカリは魔界樹に質問した。
「いえ、魔法使いは魔法を使える人間ですが、ダークウィザードは魔法が使えても人間ではありません」
魔界樹はそう言った。
「そんなのがいるんだ……。わかった! いろいろとありがとう!」
ヒカリは魔界樹にお礼を言うと、リカをおぶって歩き出した。
「ねぇ。……あんた、いろいろ大丈夫なの?」
リカは何かわからないがヒカリのことを心配していた。
「ん? 大丈夫だけど?」
ヒカリは特に体の具合も悪くなかったのでそう言った。
ヒカリは塔に向かって歩いていた。
「…………はぁ。…………はぁ」
ヒカリはとにかく足を止めないで歩き続ける。そうすれば、きっと日没までに塔へたどり着けるはずだから。ヒカリはそう信じて只々歩き続ける。
「ねー。大丈夫? 休んだ方がいいんじゃない?」
リカは心配そうに言った。
「……はぁ。……休んだら。……間に合わなくなるでしょ」
ヒカリは歩きながらそう言う。
「そうだけど……」
リカは心配しているようだ。それでもヒカリは黙って歩き続ける。
ヒカリは、塔までの距離がおよそ半分くらいに縮まったところにいた。ずっと歩き続け、全身が汗まみれで気持ちが悪くなってきた。
「これで、だいたい半分か……」
ヒカリはつぶやいた。
「ごめんね」
リカはそう言った。
「えっ?」
ヒカリは突然のリカの発言に対して少し戸惑った。
「体もボロボロで、魔力も全然残ってないから、何も役に立てなくて……」
リカは弱々しくそう言った。
「……いいの。……その気持ちだけで、私頑張れるから」
ヒカリは荒い呼吸をしながらそう言った。
「……もう。……かっこよすぎ」
リカがかすかに聞こえるくらいの小さな声で言ったのが、聞こえた気がした。
ヒカリはとにかく歩き続ける。空を見上げると、だんだん暗くなってきているのがわかった。もっと急がなければならないと焦ってしまう。
「ちょっと待って! 前から何か来る!」
突然リカが大声を出した。その瞬間、目の前から氷の矢が飛んできた。ヒカリはその矢をギリギリでかわして立ち止まる。すると、遠くに黒っぽいフードをかぶった四体の何かが宙に浮いていた。
「ダークウィザード……」
ヒカリはすぐにそれがダークウィザードだとわかった。
「え? ダークウィザード? なにそれ」
リカは何がなんだかわかっていないようだ。
「くる!」
ヒカリがそう言うとダークウィザード四体が攻めてきた。ヒカリは慌てて走り出す。遠くからダークウィザードが火の玉を飛ばしてきた。ヒカリはその火の玉を走りながら避ける。しかし、ヒカリが避けたところに氷の矢が飛んできた。
「お願い!」
ヒカリは手をかざした。すると、周りから大量の草が集まり、盾になってヒカリを守る。
「ヒカリ! 後ろ!」
リカが慌てて言った。ヒカリが後ろを振り向くと、ダークウィザード三体が、魔法でとてつもなく大きな火の玉を作っていた。
「あんなのまともにくらったら、無事でいられるわけない!」
ヒカリは急いで逃げる。次の瞬間、ダークウィザードは大きな火の玉を投げつけてきた。ヒカリは全速力で走って逃げるが間に合わない。もう逃げられないと思ったその時、巨大な何かが突然現れ、大きな火の玉を受け止めた。大きな爆発音とともに辺り一面が炎で包まれる。
ヒカリは後ろを振り返って立ち止まる。そして、ヒカリは驚いた。なんと緑さんが大きな火の玉を受け止めてくれていたのだった。しかし、緑さんは今の火の玉で大やけどを負ってしまっていた。
「緑さん!」
ヒカリは緑さんの体が心配だった。
「きゃああああ! また出たあああ!」
リカは慌てながら叫んだ。
「ダークウィザードよ。いつも森の侵入者をやっつけてくれるのは、助かっている。……だが、この子たちだけは手を出すんじゃねえ!」
緑さんはダークウィザードに力強く言い放った。
「まぁ、こいつらには、何言っても聞こえてはいねえがな。……ヒカリ! 何体かは俺が引きつけてやる! だから、そのうちに塔へ向かえ!」
緑さんはそう言うとダークウィザードに立ちはだかった。
「緑さん。……うん! 本当にありがとう!」
ヒカリは笑顔でそう言うと、塔に向かって再び走り出した。そこにダークウィザードが迫ってくる。そこに緑さんが走ってきて割り込んだ。
「だから、お前らの相手は俺だって言ってるだろう!」
緑さんは大声でそう言うと、ダークウィザード二体を両手で掴んだ。
「後ろから二体来てる!」
リカが慌てて言った。
「もう時間がない! とにかく走るよ!」
ヒカリは思いっきり全速力で走りだす。すると、周りの自然が金色の光を放ち始めた。自分でも信じられないくらい速く走れる。追い風なのか、後ろからものすごく強い風が吹いてくるのがわかった。その時、後ろから炎の矢が来るのがわかったので、体を右にずらして避ける。
「なんで、わかるの?」
リカは不思議そうに言った。
「……ありがとう。そっちに行くね。……目の前の大きな木を左に曲がる、ね」
ヒカリは風の声に返事をした後、急に左に進路を変更した。すると、ダークウィザード一体が左に曲がったところにある大きな食虫植物に捕まった。
「……ありがとう」
ヒカリは前を向いたままお礼の言葉を風に乗せた。
「すごい」
リカは何かを感動していた。その時、ヒカリは体力の限界が近づいてきているのを感じた。
「…………はぁ。…………はぁ」
ヒカリは塔まであと少しだから、どうにかもってくれと心の中で祈った。
「ちょっと、もう限界でしょ!」
リカはすごく心配しているようだ。
「もう時間がないの! ここで諦めたらダメなの! 諦めたら全部終わりなの! あぁー! ちっくしょおおおお!」
ヒカリは全身の力を振りしぼり走った。
「うわっ! 左からダークウィザードが!」
リカは慌てて言った。ヒカリは慌ててダークウィザードを見た。すると、何かの魔法攻撃を準備しているようだった。
「はぁっ!」
ヒカリが左手をかざすと大きな突風が発生し、ダークウィザードを吹き飛ばした。
「ここで決める!」
ヒカリは急に立ち止まり、吹き飛んだダークウィザードに向けて、両手を力強くかざした。
「はあああああああああああ!」
ヒカリは全身に力を込めて大声で叫ぶ。すると、辺り一面に金色の光が放たれ、周りにある木の枝やつる、草などが勢いよく成長し、ダークウィザードを何重にも包み込んだ。
「………………あ」
ヒカリは意識を失いそうになり、地面に片膝をついた。
「ヒカリ!」
リカはヒカリを大声で呼びかけた。
「…………まだよ。……まだ、諦めてない」
ヒカリはそう言って再び歩き始める。
それから、しばらく歩き続け、念願の塔にたどり着くことができた。
「…………あとは。…………。登るだけ……」
ヒカリはそう言うとその場に倒れてしまった。ヒカリは意識があっても体が言うことを聞かない状態だった。
「ヒカリ! あー! もうあと数分で日没! どうしよう!」
リカはすごく焦っているようだ。ヒカリはリカの声が聞こえるが力が入らない。するとその時、ヒカリとリカの体が突然浮き始めたのだ。
「な、なによこれ!」
リカは焦った様子だった。よく見ると、様々な植物がぐんぐんと成長し、体を持ち上げていた。
「……ふふ。みんな、ありがとう」
ヒカリは植物に頬を寄せて言う。
「えっ! なにがどうなってんのよ!」
リカは混乱しているようだ。そして、ヒカリとリカは塔の上に到着した。ゆっくりと植物がヒカリとリカを下ろした。ヒカリは座り込んだ。すると、そこに呪いの魔女が現れる。
「ひっひっひっひっ! 日没寸前だったね。……よくここまでこれた。……さて」
呪いの魔女がそう言うと一瞬で大広間に移動した。
ヒカリとリカは魔界樹の森から大広間に帰ってきた。
「……戻ってきた」
リカは安心した様子で言った。
「ヒカリ!」
「リカ!」
ヒカリは声のする方を向くと、マリーともう一人魔女が駆け寄ってくるのがわかった。駆け寄ったマリーは、すぐにヒカリを優しく抱きしめた。
「ヒカリ。大丈夫か?」
マリーはすごく心配したような口調で言った。
「…………はぁ。……ギリギリ」
ヒカリは頑張って笑顔で返事をすると、マリーはヒカリの笑顔に安心したようだった。
「最終試験を終えた二人に、一人ずつ魔女試験の結果を伝えるかの……」
呪いの魔女はそう言った。
「まずは、あんたから」
呪いの魔女はあぐらをかいて座っているリカを指差した。
「魔女見習い『リカ』。あんたの魔女試験の結果は…………不合格」
呪いの魔女はリカに結果を告げた。リカは落ち込む様子もなく、機嫌が悪そうな感じだった。
「ほっほっほ。なぜ不合格なのかは理解しているようじゃの」
呪いの魔女は笑いながら言った。
「そんなのわかってるわよ!」
リカは呪いの魔女に怒った様子で言い放つ。
「どうせ理由など言うつもりはないけどね。ひっひっひっ!」
呪いの魔女は少し楽しんでいるようにも見えた。
すると、呪いの魔女は座り込んでいるヒカリの方を向いた。
「次は、あんたね」
呪いの魔女がそう言うと周りの空気が一瞬で重たくなった感じがした。
「魔女見習い『ヒカリ』。あんたの魔女試験の結果は……………………」
呪いの魔女は真剣な表情でヒカリを見つめた。ヒカリはいよいよだと思い緊張して、急に呼吸ができなくなった。すると、呪いの魔女は突然見たこともないほどの優しい笑みを浮かべた。
「『合格』だよ」
ヒカリはその言葉に驚いた。
「や、やったわね! ヒカリ!」
マリーは嬉しそうにはしゃいだ。
「へへ。なんだろう。よくわかんなくて…………。えっと……。あーもう、なんだろう……。……涙しか出ないです」
ヒカリは座ったまま天井を見上げ、こわばった表情で涙を流し始めた。自分が魔女試験に合格したという事実がまだよく理解できない。すると、しだいに合格したという事実が理解できてきて、急に体が震えだした。
「…………うぅ。……やったあ。……合格できたよお」
ヒカリは天井を見上げたまま号泣した。マリーはそんなヒカリを優しく抱きしめる。
「本当によく頑張った……。これはね、本当にすごいことなんだよ。ヒカリ……」
マリーも震えながら言った。それからヒカリはしばらくの間、泣き続けた。ずっと長い間、魔女試験合格だけを目標に過ごしてきた。自分が掲げた目標を達成できた喜びは言葉にならない程、大きかった。
「合格者はこっちへおいで。あんたはもう帰りな」
呪いの魔女はヒカリに対して近くに来るよう言い、リカに対しては帰るように言った。すると、リカは体が痛いのか、少し震えながらゆっくりとヒカリの方へ歩いてくる。そして、リカはヒカリのそばにしゃがみ込んだ。
「……ヒカリのおかげで助かったし、自分に足りないものもわかった。……この恩は、いつか必ず返す」
リカはヒカリの目を見て真剣な表情で言った。
「そっか。……うん! 楽しみにしてるね!」
ヒカリは笑顔でそう言った。
「それじゃ、またね! いててて!」
リカはゆっくりと立ち上がろうとしながら言うが、体の痛みが原因なのかよろけてしまう。すると、突然リカの師匠が現れ、よろけたリカを支えた。リカの師匠は、リカと同じ暗い紫色の帽子とローブ、白のワンピースに茶色いブーツを身につけた長い金髪の女性だった。
「ティファ!」
リカは師匠を見てそう言った。すると、リカの師匠がヒカリを見て笑みを浮かべる。
「私はティファ、この子に魔法を教えている魔女よ。この子を助けてくれて、本当にありがとう。魔女試験を合格するなんて、さすがはマリーの弟子ね! ふふ」
ティファは笑顔でそう言った。
「マリーも元気そうでよかったわ」
ティファはマリーに視線を移して言う。
「あぁ。ティファも元気そうで何より」
マリーは少し笑みを浮かべながら言った。
「……それじゃ、私たちはもう帰らなきゃね」
ティファはリカの顔を覗き込む。
「あの! えっと! …………ほ、本当にありがとう! 落ち着いたら、あんたのとこに遊びに行くから!」
リカは少し照れながらも笑顔でそう言った。その後、リカとティファは去っていった。
「いい友達ができたね」
マリーは落ち着いた口調で言った。
「はい。すごくいい子です。もしかすると、あの子のおかげで、試験を合格できたのかもしれないです」
ヒカリは真剣な表情で言った。
「よーし!」
ヒカリは元気よくそう言うと、どうにか頑張って立ち上がった。
「大丈夫か?」
マリーは心配していた。
「あと少しだから頑張ります!」
ヒカリは元気よく笑顔でそう言い、呪いの魔女のもとへとゆっくり歩き出す。そして、呪いの魔女の目の前に立った。
「魔女見習い『ヒカリ』! 魔女見習いとしての期間、困難な修行や試験を乗り越え、魔女に必要なものを全て持っていると判断し、あんたを魔女にする! 覚悟はできてるかい? ……なんて、聞かない」
呪いの魔女はそれを言い終わると、ヒカリの胸の位置にある魔女玉に人差し指で触れ、そのままヒカリの胸の中まで押し込んだ。押し込む際中、綺麗な白い光が放たれた。そして、光が消えると魔女玉も無くなっていた。
「おめでとう。これであんたは魔女さ」
呪いの魔女は笑みを浮かべながら言った。
「……魔女になったんだ。私」
ヒカリはついに魔女になることができた。ずっと、なりたかった魔女になれた。夢が叶うってこんな気持ちなのか。思っていたよりも実感がない。ただ、たどり着いた達成感だけが、じわじわと溢れ出してくる。すると、喜びの気持ちが高まり自然と笑顔に変わっていく。そして、夢が叶った今思うことは、結局この一つだけだった。頑張ってきて本当に良かったと。ヒカリはマリーのもとへとゆっくり歩いていく。
「さて…………」
呪いの魔女は何かを話し始めた。
「マリー! あんたのとこの前回落ちた魔女見習いを、ここに呼びな!」
呪いの魔女はマリーにそう言った。
「……はいはい。そういうことね。……わかったよ」
マリーは何かを察してか素直に返事をし、何かの魔法を発動させる。すると突然、目の前にシホが現れた。
「こちらの用紙にお名前と連絡先を……。って、あれー! ここどこ?」
シホは会社の制服姿で、手にはペンと受付の用紙を持っていた。おそらく、接客中だったようだ。すると、シホは呪いの魔女を見つけて驚く。
「ぎゃああああ! 呪いの魔女ー!」
シホは大声で叫んだ。
「そんなに驚くんじゃないよ」
呪いの魔女はそう言った。
「あ! マリーさんとヒカリちゃん! ってことは、ここは呪いの魔女の館ですか?」
シホは少しずつ頭の中を整理しているようだった。すると、シホはヒカリの顔を見て、何かを思い出したかのように、心配そうな表情になった。ヒカリは、シホが魔女試験の結果を心配しているのだと察した。
「シホさん! 私、魔女になれました!」
ヒカリはシホに元気よく言った。
「ほ、ほ、本当にー? よかったー!」
シホはすごく驚いた様子を見せた後、嬉しそうな表情のまま力が抜けたのか、その場に座り込んだ。
「シホ! 呪いの魔女はあんたに用があるんだとさ!」
マリーはシホに向かってそう言った。
「えっ! 私に?」
シホは驚きながら呪いの魔女を見る。
「元気にしてたかい? 魔女見習い『シホ』」
呪いの魔女はそう言った。
「えぇ。……まぁ」
シホは少し構えながら言う。
「実はね、あんたは前回合格にしてもよかったんだ」
呪いの魔女はそう言った。
「えっ!」
シホは驚いた様子で言った。
「だけどあの時、あんたには迷いがあったね。……そんな状態じゃ、魔女にしたくなかった。だから不合格にした。……でも、もうその迷いは無くなっているみたいだから、あんたが望むなら魔女にしてやるけど、どうする?」
呪いの魔女は問いかける。
「えっ…………。でも、今さら、魔女になんて……。都合が良すぎかなって……」
シホは下を向いて言う。
「シホ!」
マリーは大声で叫んだ。
「はいっ!」
シホは驚きながら元気よく返事をした。
「……あんたの夢なんでしょ? 魔女になるのは。……本当になりたいものなんだから、遠慮なんてするもんじゃないよ」
マリーは優しい表情を浮かべて言った。すると、シホは少し考えているような表情を見せた後、勢いよく立ち上がり呪いの魔女を見つめた。
「私を魔女にしてください!」
シホは深く頭を下げて力強く言った。ヒカリはシホが素直に魔女になることを望んだので、すごく嬉しかった。
「魔女玉は胸のところにあるようだね」
呪いの魔女はつぶやいた。
「えっ! いつの間に!」
シホは自分が魔女玉を持っていることに驚いている様子だった。どう考えてもマリーがやったとしか思えないので、ヒカリはすぐに納得した。
そして、呪いの魔女はヒカリの時と同様にシホの胸に魔女玉を押し込む。すると、しばらく白い光が放たれた後、徐々に光がおさまっていった。
「あんたもこれで魔女さ。ひっひっひっ! これにて魔女試験を終了する!」
呪いの魔女は大声で力強く言い、長かった魔女試験が終了した。
マリーの魔法でヒカリとシホは、呪いの魔女の館から会社に戻ってきた。
「ヒカリ!」
エドが慌てた様子で、机の上の書類を崩しながらも駆け寄ってくる。すると、ROSEの皆がヒカリ・シホ・マリーの前にすぐに集まった。そして、ヒカリとシホは笑顔でお互いの顔を見合わせる。
「ふふふ! せーの! 私たち、魔女になれましたー!」
ヒカリとシホは満面の笑みを浮かべながら、元気よく伝えた。すると、エドは勢いよくヒカリに抱きついてきた。
「やったー! おめでとう! よかったー! っていうか、シホもなのー?」
ROSEの皆が喜んだ様子で騒ぎ出した。
「よかった! 本当によかった!」
エドはヒカリを抱きしめながら嬉しそうな口調で言う。
「エドのおかげだよ」
ヒカリは優しくそう言った。
「とにかく……よかった!」
エドはそう言って泣きながらヒカリを抱きしめる。すごく心配していたのだろう。安心させられて本当に良かったとヒカリは思った。
「シ、シホ……。今のは……本当か?」
リンは戸惑いながらシホに近づく。
「はい! 私もなれちゃいました!」
シホは笑顔でリンに伝えた。すると、リンは涙を流しながらシホを抱きしめた。
「うわぁ!」
シホはすごく驚いたようだ。
「……そっか。よかったー。よかったよお」
リンはすごく嬉しかったのか泣きながら弱々しく言う。
「もう、リンさんが泣くと、私も涙が……」
シホがそう言った後、シホとリンは大声で泣き始めた。シホも魔女になることができて本当によかったとヒカリは思った。
その日の夜、魔女になったヒカリとシホのお祝いの飲み会が、寮の食堂で開かれた。
マリーがマイクを持ってみんなの前に立つ。
「改めて! 本日、ヒカリとシホが見事、魔女になることができた! 仕事と修行の両立。そこでお互いが得たものを、評価してもらえたからだと思う。……何より、ずっと、ずっと、辛くて。……キツイのは、見ていてわかっていた。…………本当に、二人どもおめでどおおお!」
マリーは途中から涙が溢れ出し、最終的には鼻水をたらして号泣しながら言った。そんなマリーの姿に全員が涙した。
「……今日は思いっきり楽しんでくれ!」
マリーは涙を拭いながら言うと、手で目の辺りを押さえながら自分の席に戻っていく。よく見ると、見慣れないローブ姿の人が、マリーの席の隣に座っていた。そして、マリーが席に座ろうとした時、見慣れないローブ姿の人は、ハンカチを取り出してマリーに渡した。
「ほれ。ハンカチ」
「ありがとう……。って! なんであんたがここにいるのよ!」
マリーが突然大声で叫んだ。その瞬間、見慣れないローブ姿の人の顔が見えた。それは、マリーが驚くのも当然の人物、呪いの魔女だった。
「げっ! 呪いの魔女! なんでここに!」
ヒカリとシホは同時に叫んだ。
「ほっほっほっ!」
呪いの魔女は周りの動揺も気にせず笑っていた。
「あれが呪いの魔女? 俺、初めて見た! マリーさんと同じくらい強いんでしょ? ものすごく、やばい組み合わせなんじゃ……」
ROSEの皆も突然の呪いの魔女の登場に、動揺し始めたようだ。
「ひっひっひっ。……娘と酒飲むのに、許可がいるのかい?」
呪いの魔女は笑みを浮かべながら言う。
「えっ! マリーさんのお母さん?」
マリーと呪いの魔女以外の全員が、口を揃えたように発言した。
「あぁ。…………めっちゃウザいけど」
マリーは浮かない顔をしていた。
「ひっひっひっ! 親っていうのはそういう生き物さ」
呪いの魔女は笑いながら言った。
「血筋ってやべえな……。親子で最強と最凶の魔女かよ」
ケンタは驚きながらつぶやいた。
「……それで、本当は何かあるんだろう?」
マリーは呪いの魔女に問いかける。
「たまには、娘と酒飲もうってだけじゃ、不満なのかい? ……ひっひっひっ。……まぁいい。たしかに、一つ用事があるからね。…………ヒカリに『二つ名』を与える」
呪いの魔女がそう言うと会場がどよめきだした。
「は! 『二つ名』だと! ヒカリは、まだ魔女になったばかりだぞ!」
マリーは呪いの魔女に言い放つ。
「ねぇ、エド。『ふたつな』って何?」
ヒカリは皆が騒いでいる『ふたつな』が何なのかわからなかった。
「『二つ名』っていうのは、魔法界で認められた魔法使いだけが、名乗ることができる名称で、呪いの魔女や鬼の魔女がそれにあたるんだ! とにかく、すごい魔法使いしかもらえないもので……。えっと、だから……。と、とにかく、すごいものなんだよ! ……っていうか、俺も欲しいのに」
エドは興奮しながら言った後、少しうらやましそうな表情をした。
「そんなにすごいものなんだ! ……でも、なんで私が?」
ヒカリは首を傾げながら呪いの魔女を見た。
「ひっひっひっ! なんだい、全然気づいていなかったのかい? あの子の力を。……あの子は、二つ名を与えられるだけの力があるってことだよ」
呪いの魔女はマリーに向かって言った。
「……まさか」
マリーは理解できていない様子だった。
「ヒカリ、こっちへおいで」
呪いの魔女はヒカリを見ると手招きをした。ヒカリは呪いの魔女の隣に移動した。
「魔女『ヒカリ』。あんたに魔法界の二つ名を与える。……その名は、『天認の魔女』!」
呪いの魔女は力強く言った。すると、再び会場がどよめきだした。だが、ヒカリは『てんにん』と言われて意味がわからなかった。
「天認だとー!」
ROSEの皆は天認と聞き、すごく驚いていた。
「まさか、そこまで!」
マリーもすごく動揺しているようだ。
「『てんにん』って、そんなにすごいんですか?」
シホがリンに質問していたので、ヒカリは耳を傾けた。
「すごいってもんじゃない! かつての伝説の魔法使いに付けられていた二つ名だ! 天空の『天』に、認めるという字の『認』で『天認』だ……。まじかよ……」
リンは興奮した様子でシホに説明した。
「この子の力は、この世界にある全てのものと対話ができ、力を貸してもらえる力だ。……いざ、魔法を使う時には、己の体は金色の光をまとい、周囲に金色の光を放って、全てのものを味方にすることができる。……まさに、天が認めた魔法使いそのものなのさ。……ヒカリ、言ってる通りだろう?」
呪いの魔女は力強く説明した後、ヒカリに問いかけた。
「……はい」
ヒカリは少し驚きながら返事をする。
「……そうだったのか」
マリーはヒカリの顔を見て驚いた様子でそう言った。
「二つ名は、名誉あるものだ。誇りに思っていいよ」
呪いの魔女は少し笑みを浮かべながら言った。
「……はい! ありがとうございます!」
ヒカリは呪いの魔女に深々と頭を下げた。
「すげー! ヒカリ! 天認かよ! やばすぎだろ!」
ROSEの皆が祝福している声が聞こえた。すると、会場はそのまま飲み会の雰囲気に移っていく。それから、ヒカリは呪いの魔女とマリーの様子が気になり、こっそり見ていた。
「さて、邪魔したね。用が済んだから帰るとするか」
呪いの魔女は帰ろうとしてゆっくりと席を立った。
「ほら」
マリーは呪いの魔女にグラスを渡した。すると、呪いの魔女は少し驚いた様子でマリーを見る。
「せっかくだ。飲んでいけばいい」
マリーは真剣な表情でそう言った。
「ほう。気が利くようになったじゃないかい」
呪いの魔女は再び椅子に座り、マリーからお酒を注いでもらう。
「これでも、社長だから」
マリーはお酒を注ぎながら言う。
「……ふふふ。……あれから、どこに行ったのかと思えば、こんな会社を作っていたなんてね」
呪いの魔女は少し笑みを浮かべながら言った。
「あの時、母さんの言ったことが、今では理解できるようになった。…………悔しいけどね!」
マリーは言い終わると、笑顔を浮かべながら呪いの魔女のグラスに、自分のグラスをコツンとあてた。すると、呪いの魔女は嬉しそうな表情を少しだけ見せた。
「それと……。そのババア姿はどうにかなんねえのか? そういうキャラ作りの為か?」
マリーはお酒を飲みながら呪いの魔女に問いかける。ヒカリはどういうことなのか気になった。
「あら。こっちの方がいいかしら?」
呪いの魔女は、突然お婆さんの姿から若い女性の姿に変わった。ヒカリはすごく驚いた。ローブで顔がよく見えなかったものの、魔女修行の時にすごくお世話になったシェリーの姿だとわかったからだ。そういうことだったのか。呪いの魔女は、シェリーの姿でずっと見守ってくれていたのか。ヒカリはそれが分かると心の中がスッキリした。
「そっちがいい。……できれば親には、若々しくいてほしいもんだからね」
マリーはシェリーにそう言った。
「ふふふ」
シェリーは優しい表情を浮かべて笑っていた。ヒカリはこれ以上の覗き見はよくないと思い、やめることにした。本当はシェリーに話したいことがたくさんある。だけども、こんな親子の間に割り込むほど自分は無神経ではない。いつか話す機会があれば、その時に伝えよう。たくさんの気づきをくれた感謝の気持ちを。
その時、ヒカリはあることを思い出し、歩き出した。
「ヒカリ! 早くこっちこいよ!」
エドが元気よくヒカリを呼びかけた。
「ちょっと、ごめん! トイレ行ってくる!」
ヒカリはそう言って外に出た。そして、食堂の壁にもたれながら座りこみ、スマートフォンを取り出して電話をかける。
「あ! もしもし!」
ヒカリは電話先の相手に話しかけた。
「お! 自分から電話してきたなー! 偉い! 偉い!」
フミは元気よく電話に出た。
「ふふ。…………フミ! 私、魔女になれたよ!」
ヒカリは少し笑った後、笑顔で元気よくそう言った。
「ほ、本当に! ……よかったー!」
フミは嬉しそうに喜んでいるようだ。
「うん! それだけ」
ヒカリはそう言った。
「いいんだよ。それだけでも。連絡くれたことも嬉しいんだから。……本当によく頑張りました」
フミは優しい口調で言った。
「ありがとう。なんかね、自分の中にあったいろんな後ろ向きな気持ちが、全部なくなってスッキリしたよ! ……やっぱ、魔女を目指してよかった! ふふふ!」
ヒカリは話しながら嬉しい気持ちが溢れ出してきた。
「……そっかー。……こんなに幸せそうな声、初めて聞いたよ。……よかった。……ごめん! 今、お客さんが多いからまた後でかけ直す!」
フミは慌ててそう言った。
「急にごめんね! ありがとう!」
ヒカリは忙しい中、電話をとってくれたお礼を言う。
「それじゃ、またね」
「うん。また」
ヒカリはフミとの電話を切った。
それから、ヒカリは夜空を見上げた。雲一つなく星が見える夜空。月の光で照らされる錦江湾。賑やかな仲間たちの声。ヒカリはゆっくりと目を閉じる。
「やっと、夢が叶った……。……でも、今はまだ夢の始まり。……これからやっと、夢見た人生を送れるんだ。……やりたいことだって、たっくさんあるんだから。……本当に、いろいろあったけど、頑張って生きてきた」
ヒカリは言い終わると、目を閉じたまま深呼吸をする。そして、ヒカリはしっかりと目を開く。
「今までありがとう、魔女見習いの私。……これからよろしくね、魔女になった私」
ヒカリが夢に描いた人生は、ここから始まる。