かのやばら園の魔法使い ~弊社の魔女見習いは契約社員採用となります~

「エド!」

 ヒカリは驚いた。

「えっ! 本当だ!」

 その声が聞こえると、さらにケンタ・ライアン・リン・シホの四人も入店してきたので、ヒカリは驚いた。

「なんでエドたちがここに?」

 ヒカリは戸惑いながら言った。

「夕方になって、こいつらが飲みに行こうって、無理矢理誘ってきたからさ」

 エドはヒカリから視線をそらしながら言った。

「何言ってんだよ! ノリノリだったじゃねえか!」

 ケンタはエドにそう言った。

「はぁ? 俺は考え事してて疲れたから、気分転換にとついてきただけだ! ノリノリじゃねえ!」

 エドはケンタに強く言い放った。

「ヒカリこそ、なんでここに?」

 ケンタはヒカリに問いかけた。

「ここは、私の友達のお店なので、今日いろいろ考え事で疲れてた時に誘われたから……気分転換にと」

 ヒカリはケンタとエドから視線をそらしながら言う。ヒカリは気まずかった。たくさん考えないといけないから、魔女修行も無しにしてもらったのに、こうやって居酒屋でゆったりとご飯を食べようとしている姿を見られたら、さぼっているようにしか見えないからだ。なんとなく、エドも気まずそうにしているのは、おそらく同じような心境なのだろう。こういう時はなんて言えばいいのだろうかと考えても、うまい言葉がみつからない。沈黙が続いてしまった。

「エドもヒカリちゃんも、今日はいっぱい頑張ったんでしょ?」

 シホはヒカリとエドの間に入り、顔を覗き込みながらそう言った。

「まぁ」

 エドは小さい声でつぶやいた。

「はい」

 ヒカリも小さい声で返事をした。すると、シホは急にヒカリとエドの頭をなで始めた。

「二人ともよく頑張りましたー!」

 シホは頭をなでながらそう言った。

「ちょっ! 恥ずかしいだろっ!」

 エドは慌ててシホから頭をなでられないように一歩下がった。

「シホさん!」

 ヒカリも少し恥ずかしい気持ちになった。シホは頭をなでるのをやめた。

「私の方がお姉さんだからいいの! 頑張った二人にご褒美のヨシヨシー! ……ねっ!」

 シホは笑顔で元気よく言った。すると、ヒカリの中にあった気まずさは、いつの間にか無くなっていた。

「じゃ、楽しく飲もう!」

 シホは右手を上に突き上げて元気よく言った。ヒカリとエドは目を合わせた後、笑顔になる。

「おう!」
「はい!」

 エドとヒカリは元気よく言った。すると、フミが現れてエドたちをヒカリと同じテーブルに案内した。ヒカリは急に騒がしくなった環境が面白くて笑ってしまう。エドたちは席に着くと、メニューを見始めた。

「えっ! シホさん、お酒飲むんですか?」

 ヒカリはシホがお酒のメニューを見ていたので、驚いて質問した。

「そう! 実は今日ね、私の二十歳の誕生日なんだよ!」

 シホは笑顔でそう言った。

「えー! そういうこと? ここに来たのもお祝いの為だったんですか! えっと……。お、おめでとうございます!」

 ヒカリは戸惑いながらもそう言った。

「ありがとう!」

 シホは笑顔で言う。そして、シホはお酒のメニューを再び見つめ始める。

「よし、決めた! 芋焼酎にしよう!」

 シホは元気よく言った。

「えっ! 芋焼酎? アルコール度数が高いけど大丈夫か?」

 リンはシホを心配している様子だ。

「やっぱり鹿児島県民なら、芋焼酎ですよ!」

 シホは笑顔でそう言った。しかし、リンはまだ心配しているようだった。



 注文が一通り終わり、しばらくすると全員分の飲み物が届いた。

「皆、グラスは行き渡ったか? それじゃ、シホの二十歳の誕生日を祝って、カンパーイ!」

 ケンタがそう言うと皆も続いて乾杯と言った。

「これで、酒飲めるな!」

 ライアンはウイスキーを片手にシホに話しかけた。

「はい!」

 シホは嬉しそうに答えた。

「あー、俺も酒飲みてぇなー」

 エドは炭酸ジュースを握りしめながらそう言った。

「お前は、来年までもう少しの辛抱だな!」

 リンはビールを一口飲んだ後、そう言った。

「エド、私と同い年だったんだ!」

 ヒカリはエドの年齢を知らなかったので、同い年だということを知り驚いた。

「そうだなー」

 エドはお酒が飲めないことを残念に思っているのだろう。少しだけ落ち込んだ表情だった。ヒカリはそんなエドに何か言葉をかけてあげたいと思った。

「エド! 来年一緒にお酒デビューしようね!」

 ヒカリはアップルジュースの入ったグラスをエドに近づけ、満面の笑みを浮かべながら言った。

「……おう! そうだな!」

 エドは笑顔になり元気そうに言うと、ヒカリのグラスにコツンと自分のグラスを当てた。

「はいはい! 鳥刺し六人前でーす!」

 フミが大きな声で鳥刺しを大量に持ってきた。

「まさか、フミちゃんがヒカリの友達だったとは、ビックリだよ!」

 ケンタはフミに話しかけた。

「私も皆さんがヒカリと同じ会社の人だったとは、驚きました。……おっちょこちょいなヒカリですが、自分が言ったことは必ず貫く強い子です。ご迷惑をお掛けしてしまうことも多いかと思いますが、温かい目で見ていただけるよう、どうぞ宜しくお願いします」

 フミはエド達全員に聞こえるように、軽く頭を下げて言った。ヒカリは自分のことを言われて恥ずかしい気持ちになったが、フミの真剣な表情と発言がとにかく嬉しくて、今回だけはツッコミを入れられなかった。



 しばらくの間、注文した食事と飲み物を堪能するひと時を過ごした。ヒカリにとっては懐かしい味であり、昔のことを思い出すようだった。すると、周りがなにやら騒がしくなってきたことに気づく。

「はははー! どんどん飲むわよー! うん! 鳥刺しがうまい!」

 シホは急に人が変わったかのように、すごく元気にはしゃぎだした。

「あぁー。俺の鳥刺しー……」

 エドはシホが食べた鳥刺しの皿を見ながらそう言った。おそらく、エドの鳥刺しをシホが食べてしまったのだろう。

「エド! なければ頼もー! お姉さーん! 鳥刺し全員分くださーい! それと、芋焼酎おかわりでー!」

 シホはエドの肩に手を添えて言った後、フミに向かって大声で元気よく注文した。

「いつもの落ち着いた雰囲気のシホは、いったいどこへ……」

 リンは戸惑った様子だった。

「シホは、酒が入ると陽気になるタイプなんだな!」

 ライアンは楽しそうな口調で言った。

「ははは! おもしれぇな! シホ、最高ー!」

 ケンタは笑いながらそう言った。

「はははは!」

 シホは楽しそうに笑っていた。

「シホさん、こんなにお酒飲むと変わるんだー! ふふ。でも、なんか楽しいな!」

 ヒカリはシホの豹変ぶりに驚いたが、場を盛り上げているシホに魅了されて、楽しくなっていった。

「あぁー。また俺の鳥刺しがー……」

 エドはまた鳥刺しをシホに取られたようだ。ヒカリにとっても、エドがシホにこんなにいじられている姿は、あまり見たことがなく新鮮だった。

「素敵な仲間ができてよかったね」

 ヒカリの耳元でフミがささやいた。

「うん! 大切な仲間だし、今の私の家族だよ!」

 ヒカリは笑顔でそう言った。すると、フミはすごく驚いた表情を見せた後、黙ったまま固まってしまう。

「……そっか。……よかった」

 フミはうっすら涙を流しながらそう言った。ヒカリは突然のフミの涙に驚いた。

「なんで? ど、どうした?」

 ヒカリは戸惑いながら問いかける。

「なんでもないわよ! ……次はオレンジジュースでいいよね!」

 フミはいつも通りプリプリと怒った後、ヒカリの空いたグラスを取り、そう言って厨房に戻っていった。ヒカリはなぜフミが涙を流したのかが不思議だった。フミの涙の理由はわからないが、他に一つだけ気がかりなことがあった。

「…………メロンソーダ」

 ヒカリはオレンジジュースではなく、メロンソーダが飲みたかったのだ。

 フミからオレンジジュースを受け取ったヒカリは、なんとなく考え始めた。一年前は、こんな仲間ができるとは思いもしなかった。ここにいる皆は、いろいろな思いを持ってROSEに入り働いている。自分もその中の一人なのだと、ヒカリはしみじみ思った。

「ちょっと! シホ!」

 リンの慌てた声が聞こえてきたので、ヒカリはリンの方を見る。すると、なんとシホがリンに抱きついていたのだった。

「りーーん……」

 シホは目を閉じながら言った。おそらく酔っぱらっているのだろう。

「ラブラブだな」

 ケンタ・ライアン・エドが口を揃えて言った。

「いや! 違う! そういうのじゃ…………寝ちゃったか」

 リンは必死に否定した後、シホを見てそう言った。

「……リンさん…………ありがとう」

 シホは起きているのか寝ぼけているのかはわからないが、小さな声でリンに感謝の気持ちを伝えていた。

「……ふう。……こちらこそ」

 リンはシホの肩に手を添え、優しい口調で静かにそう言った。ヒカリはその様子を見てしまい、少し申し訳ないような気もした。だけど、リンとシホの間にはすごく深い絆があるのだと素直に思った。



「エド。私、わかったよ」

 ヒカリはエドに話しかけた。

「ん?」

 エドは鶏の唐揚げを食べながら返事をした。

「……自分に足りなかったもの」

 ヒカリはエドにそう言った。

「おっ! そっかー! ……よかった!」

 エドは鶏の唐揚げを食べるのをやめ、嬉しそうな表情を浮かべながらそう言った。

「うん!」

 ヒカリは満面の笑みを浮かべながら言った。

 それから、ヒカリは今日わかったことを振り返り始めた。自分に足りなかったもの、それは、もちろん魔法の力や技術もそうだけど、決してそれだけじゃない。本当に自分に足りなかったものは、命を懸けてでも絶対に魔女になりたいと思う気持ちと、それを応援し支えてくれる大切な仲間を思う気持ちだ。

 この人生を懸けてでも絶対に魔女になる。応援して支えてくれる仲間がいるからこそ、尚更、絶対に魔女になってみせる。それがこれからの私。ヒカリは胸の中に強くこの思いを刻み、新しい一年をスタートさせた。
 たくさんのことを考えた週末も過ぎ、また新しい一週間が始まった。ヒカリはいつも通り出社し、先に来ていたシホに朝の挨拶をした後、更衣室で着替えを済ませて受付の席に座る。シホは仕事の準備をしているようだ。

「土曜日の誕生日会、ありがとうね! すごく楽しかったよ!」

 シホは嬉しそうな表情でそう言った。

「いえいえ! こちらこそ、すごく楽しかったです!」

 ヒカリは笑顔で返事する。すると、そこにケンタとライアンが現れた。

「誕生日会、楽しかったな!」

 ケンタはシホとヒカリに向かって言う。その後、シホはすっと立ち上がった。

「わざわざ開いてくれてありがとうございます!」

 シホはケンタに頭を下げる。

「また、いつでも飲みに行こうな!」

 ライアンは楽しそうにそう言った。

「はい!」

 シホが元気よく返事をすると、ケンタとライアンは席に戻っていった。

「シホさん、お酒飲むとめちゃくちゃ陽気になるから、すごく盛り上がってましたよ!」

 ヒカリは笑顔で言う。

「なんか自分でもビックリするくらい楽しくなっちゃって、皆に迷惑かけてないか、心配してるんだけど……」

 シホは少し下を向きながらそう言った。

「全然大丈夫ですよ! とにかく大好評でした!」

 ヒカリはシホの顔を少し覗き込むようにして言う。

「それならいいけど……。あれは?」

 シホは心配そうな表情を浮かべながら何かを指差した。シホが指差した方向を見てみると、棚に隠れながらおびえた様子で、シホを見ているエドがいた。

「なにしてんのよ!」

 ヒカリは思わずエドにツッコミを入れてしまった。

「鳥刺し、鳥刺し、鳥刺し……」

 エドは小さい声で『鳥刺し』という単語を発していた。おそらく、シホの誕生日会でエドはシホからことごとく鳥刺しを奪われていたので、きっとそれでシホに対して恐怖心を覚えたのだろう。

「やっぱり私、何かやっちゃった?」

 シホは心配そうな表情を浮かべてヒカリに問いかける。

「だ、大丈夫です! エドのあれは、えっと……。そう! 一時的に鳥刺しの霊が憑依しているだけですから!」

 ヒカリは心配しているシホを安心させたくて、なんとなくの思いつきで言ってしまった。

「それならいいけど」

 シホは安心した様子でそう言った。ただ、ヒカリとしても思いつきで言ったにしろ、そんな理由で納得していいのかと、ヒカリはシホに対して心の中で静かにツッコミを入れた。

「まぁ。それじゃ、仕事始めようか!」

 シホは気持ちの切り替えが早かった。



 お昼休みになり、ヒカリは昼ご飯を持ってシホに近づいた。

「ごめん! 今日はちょっと昼休み中に寮に戻らないといけなくて、お昼は一緒に食べられないんだ!」

 シホは申し訳なさそうに言った。

「そうなんですか。わかりました」

 ヒカリがそう答えると、シホは足早に会社を出ていった。



 その後、ヒカリはいつもお昼ご飯を食べている場所に歩いていき、お昼ご飯を食べ始めた。

「へへ! 今日はカツサンドにしたんだったー! うっわー、おいしそう! ……うまい!」

 ヒカリはカツサンドにかぶりつき、満面の笑みを浮かべる。一口、二口とカツサンドを黙々と食べていく。

「やっぱ、一人だと寂しい」

 ヒカリはふとシホがいないことを寂しく思った。こうやって一人になると、当然のように隣にいてくれるシホという存在は、自分にとってすごく大切なものだとより感じられる。

「……いつの間にか、こんな生活も当たり前になってるんだな。……魔女になるために、ここで仕事してて。……でも、仕事ってなんで必要なのかな。……魔女になるためには、仕事も大事だって言われて、わからないまま続けてきた。……それがわからないんじゃ、魔女になれない。……気がする。……いや、気がするじゃなくて、たぶんそうなんだ。マリーさんもエドも言ってるし。……んー」

 ヒカリは軽く自問自答しながらぼやいた。

「『自分の真の役割を理解して仕事したら、思いやりのある人になれるから』なんじゃないの?」

 ヒカリはすごく驚いた。突然、自分の顔の近くからそんな声が聞こえてきたからだ。驚きながらも声が聞こえた方を見てみると、そこには中腰の姿勢のシェリーがいた。

「こんにちは。隣いいかしら」

 シェリーは落ち着いた様子でそう言った。

「シェ、シェリーさん! ビックリしましたよ!」

 ヒカリはシェリーの突然の登場に、驚きすぎて動揺していた。

「あら、おどかしちゃった? ふふふ、ごめんなさい」

 シェリーは笑顔でそう言うとヒカリの隣に座った。ヒカリは動揺していた気持ちを落ち着かせようと深呼吸した。

「魔法使いの世界もやっぱり平和を望んでいるの。もし、凶悪な人間に魔法の力を与えたとしたら、それって、とっても危険なことじゃない?」

 シェリーはヒカリの顔を見ながら問いかける。

「それは、そうですね。……でも、仕事をしていたら、なんで思いやりのある人間になれるんですか?」

 ヒカリは疑問に思ったことを質問してみた。

「単に仕事していて、誰もが思いやりのある人間になれるわけじゃない。だから、『真の役割を理解して仕事をしたら』がポイントかもね」

 シェリーは笑顔でそう言った。

「真の役割……」

 ヒカリはシェリーの顔を見ながらつぶやく。

「ふふ。じゃあね」
「あっ! シェリーさん!」

 突然風が吹いたかと思ったら、シェリーは消えていた。ヒカリは座っている状態から背伸びしながら後ろに倒れた。

「不思議な人だな……。んー! 難しいなー! そりゃ、危険な魔女になるつもりはないけど。……思いやりのある人か。私ってどうなのかな。思いやりあるのかな」

 ヒカリは空を見ながらつぶやく。
 午後の仕事もひと段落し、ヒカリはシホと更衣室で少しだけ休憩時間を取ることになった。そこで、昼休みからずっと気になっている、自分が思いやりのある人なのかどうかをシホに聞いてみた。

「えっ? ヒカリちゃんに思いやりがあるかって?」

 シホは驚きながら言った。

「はい」

 ヒカリはシホからどんな回答がもらえるかわからず、緊張しながら返事する。

「どうしたの急に?」

 シホは心配そうな表情を浮かべた。

「えっと、自分のことをもっと知りたくて……」

 ヒカリは少し視線を下げながら言った。

「……なるほど。……そうね。ヒカリちゃんは思いやりがあると思う」

 シホは口に手を軽く当てて、考えているようなそぶりを見せながら、落ち着いた口調でそう言った。

「本当ですか!」

 ヒカリは自分が思いやりのある人だと言われて緊張が解け、その反動ですごく嬉しくなった。

「でも、『見えているところには』かもしれないけどね」

 シホは考えているようなそぶりをやめ、真剣な表情で言った。だが、ヒカリはシホの言葉の意味がよくわからなかった。

「見えているところには思いやりがあって、見えていないところには思いやりがない……」

 ヒカリは必死に理解しようと考える。

「まぁ、見えていないところにも、思いやりがあるかもしれないけど、それは、私にはわからないところだし。……もし、ヒカリちゃんが両方ともに思いやりがあったら、もっとイキイキと仕事ができるかもしれないね」

 シホは落ち着いた口調でそう言った。ヒカリはやはりシホが何を言っているのかが、全く分からなかった。

「ふふ。さて、休憩終わり! 仕事再開するよ!」

 シホは元気よくそう言いながら更衣室を出ていく。

「は、はい!」

 ヒカリは焦りながらシホの後を追い更衣室を出た。





 その日の夜、ヒカリは寮の部屋で布団の上に寝転がりながら考えていた。

「自分の真の役割を理解して仕事をすれば、思いやりのある人になれる。……見えていないところにも思いやりがあれば、もっとイキイキと仕事ができる。…………んー」

 ヒカリは昼間に聞いたシェリーとシホの言葉を思い出しながら、その言葉の本当の意味を理解しようと考える。昼間と違って静かな部屋で落ち着いて考えているのにも関わらず、それでも理解できずに何もわからないままの自分に嫌気がさす。それでも、魔女になるためには、わかっていないといけないことだと思うので諦めたくないし、これ以上は後回しにしたくない。時計の秒針の音がうるさく感じ始めたのは、きっと一時間以上も考えていて、もう集中が切れているからなのだろう。

「そうだ。ジュースを買いに行こう」

 ヒカリはそう言って食堂にある自販機に向かった。食堂に入って自販機を見ると、誰かが自販機の前に立っていた。頭にお団子状にまとめた髪が二つ、黄色いパジャマ姿の女の子、間違いなくベルだ。

「ベルちゃん。こんばんは」

 ヒカリは自販機をじっと見ているベルに声をかけた。

「あ。ヒカリさん。こんばんは」

 ベルはヒカリに気づくとヒカリの方を向き、頭を下げて丁寧に挨拶をした。ベルはその後すぐに自販機の方を向いて、またじっと飲み物を見つめ始めた。おそらく、ベルは買う飲み物を迷っているのだろう。誰だって迷う時はあると思うので、ヒカリはしばらく待ってみた。だが、待ってはみたものの、ベルは一向に飲み物を買う気配がない。

「あ、なかなか買う飲み物が決まらない時ってあるよね!」

 ヒカリは迷っているのであろうベルに気を遣った。

「そんなことは考えてません」

 ヒカリはベルが自販機を見たまま、きっぱりとそう言ったので、ツッコミを入れたくなるほど驚いた。ベルが自販機を前にしていったい何を考えているのか、何のためにそこにいるのかわからず、只々混乱してしまう。ヒカリがそんなことを考えているとベルは自販機の前を離れた。

「飲み物を買うならどうぞ」

 ベルはそう言って自販機の前をヒカリに譲った。

「あっ、ありがとう」

 ヒカリは自販機の前に移動して、オレンジジュースをすぐに購入した。

「それじゃ、おやすみ」

 ヒカリはオレンジジュースを片手に持ちながら、近くに立っているベルに声をかけ、食堂を出ようとした。

「その飲み物……」

 ベルはそう言った。

「えっ?」

 ヒカリはベルの発言が気になった。

「『その飲み物を作った人は、誰が飲むかもわからないのに作っている』というのは、すごいことではありません?」

 ベルはヒカリを見て、首を傾げながらそう言った。ヒカリはその言葉を聞いて、何かが引っかかり固まってしまう。

「それでは、おやすみなさい」

 ベルは頭を下げて丁寧に挨拶した後、ゆっくりと歩いて食堂を出ていった。

 ヒカリは自然と考え始めてしまう。『その飲み物を作った人は、誰が飲むかもわからないのに作っている』というのは、たしかにすごいことだと思う。そういう仕事だから当たり前。いや違う。こうやって今の自分が欲しいと思うものを作っている、自分の喉を潤すために作っている。ということは、誰が飲むかはわからないけど、誰かがきっと喜んでくれると信じて作っているのか。だから、そこに価値があるのか。ヒカリはそんなことを考えた。

「ははは! なんだ、そういうことか!」

 ヒカリは片手で目のあたりを押さえて笑いだした。それから、ヒカリは下を向いた状態で静かになる。

「私、全然見えてなかった……。受付の仕事、その先に待つ全ての人々。それを考えてみたことなんてなかった……。ただ、相談者の話を聞いて、マニュアル通りに仕事をこなしていればいいのだと思ってた。……でも、そんなの心が通ってないよね。……相談者はもちろん、その家族や友人、その人に関係する全ての人々の笑顔のための仕事だったんだ。……相談者は本気で困っていて悩んでいて、勇気を出して相談してくれていたのに。私の仕事は、ただこなしていただけ。……思いやりなんて無かった」

 ヒカリは片手で目のあたりを押さえた状態で下を向きながらそう言った。その後、ヒカリは押さえていた手を放し、正面を向くと勢いよく涙が流れ始めた。

「今までの相談者の方々に謝りたい……。……うぅ。……んぐっ」

 ヒカリは受付の仕事に関する真の役割がわかり、見えていないところの思いやりが無かったことに気づいた。何もわからずとも仕事はできる。ただ、それだと本当の意味で仕事を好きにはなれない。なぜなら、仕事とは誰かのために価値を創造することだから。きっと、その誰かを思いやる気持ちが仕事の本質なのだと、ヒカリは強く思った。





 次の日の朝、会社に着いたヒカリは、玄関の前で立ち止まっていた。

「……今日から頑張るぞ。…………よし!」

 ヒカリは勢いよく玄関を開けた。

「おはようございまーす!」

 ヒカリは満面の笑みを浮かべながら出社した。只々、やる気に満ち溢れていたから。
 仕事について深く考えた日の数日後、ヒカリはエドと一緒に、霧島ヶ丘公園付近の山の中の河原にいた。

「さて、今日から魔女修行を本格的に再開する! 前回の魔女試験では、いろいろあったそうだけど、とにかく、魔法の力と技術がまだまだ未熟だから、格段に成長しなければならない! 次の魔女試験で泣いても笑っても最後だ! 一切手を抜かずにいくぞ!」

 エドは腕を組みながら言った。

「うん!」

 ヒカリは真剣な表情でうなずく。

「俺なりにいろいろ考えて、マリーとも相談した結果、物体移動系の魔法のみに絞って修行していく。はじめに、その辺の話をしていくと、そもそも魔法には、物体移動系・物質変化系・特殊系の三種類がある。物体移動系は、魔力で物を動かす魔法で、ほうきに乗って空を飛んだり、近くの物を触れずに動かしたりするもの。物質変化系は、魔力を使って、炎や水を出すなどそこに無かったものを生み出す魔法のことをいう。そして、最後に特殊系だが、これは幻をつくったりバリアをつくったりと様々なものがあって、身につけようと思っても身につけられるものではなく、本人の潜在的な能力の場合が多い。その中で物体移動系は、魔法の基礎とも言われるほど魔法使いにとって大切なものだから、マリーいわく魔女試験ではここができていれば合格できる可能性が高いらしい。だから、この物体移動系を確実に使いこなし、自信を持って最後の魔女試験に挑もう!」

 エドはヒカリに説明した。

「うん! わかった!」

 ヒカリは少し長いエドの説明だったが、しっかりと内容を理解できた。

「それじゃ、さっそく余裕で空を飛ぶ修行を始める!」

 エドはそう言うと、サッカーボールほどの綺麗な青い水晶玉を取り出した。

「水晶玉?」

 ヒカリは疑問に思いつぶやく。

「この辺一帯に、これと同じ水晶玉を十個設置してある。一番遠いところで、だいたい十キロメートル先だな。ほうきに乗って移動しながら、全ての水晶玉に触れてここに戻ってくること。ちなみに、十個の水晶玉は触れると、赤から青に変わるようになっている。そして、このスタート地点に置く水晶玉に触れれば、全部がまた赤に戻るから、何度でも挑戦できるわけだ」

 エドはヒカリに説明した。

「なるほど。こんな森の中でも、スムーズに飛べるようにならないと駄目だってことだね」

 ヒカリは水晶玉が置かれている森を見ながら言う。

「そう。……ただし! 制限時間は五分だ!」

 エドは手で『五分』を表現するように開いて見せた。

「えっ! 五分以内? …………。十キロメートル先まで行って戻るだけでも、五分って……」

 ヒカリは修行の難易度の高さに驚いた。

「そして、この修行のタイムリミットとしては、四ヶ月後と考えている。次の修行もあるし、それまでにクリアできないなら……。魔女試験を受けさせない」

 エドは少し睨みつけるような様子で言った。ヒカリはこの修行の難易度の高さに驚いていたが、エドが用意する全ての修行を終わらせると決めていたので、改めて気持ちが高ぶってきた。

「……そのくらい、本気で――」
「――やるよ!」

 エドの言葉に食い気味でヒカリは力強く答えた。

「この修行を乗り越えないと魔女になれないなら、絶対にクリアしてみせる!」

 ヒカリは真剣な表情でそう言った。

「おう! 頑張れ! ほら!」

 エドはヒカリにストップウォッチを渡した。ヒカリは受け取ったストップウォッチを見つめた。

「五分ってどんな世界なんだろう」

 ヒカリはぼやいた。すると、エドはほうきを取り出した。

「まずは、俺がやってみせる。本当にできるのか見てみたいだろ? 時間計ってな」

 エドはほうきにまたがる。

「用意…………ドン!」

 エドはその合図とともに、猛スピードで森に向かって飛び出した。ヒカリは慌ててストップウォッチを開始する。すでにエドの姿は見えなくなっていた。

「うそ。こんなに速いの?」

 ヒカリはあまりにもエドが速かったので驚いた。それから数分経った時、エドが猛スピードで戻ってきたので、ヒカリは慌ててストップウォッチを止めた。

「……四分二十二秒」

 ヒカリはストップウォッチを見て驚いた。本当に五分以内にクリアできるものだと思い知らされる。

「結構、時間かかったな」

 エドはさほど疲れた様子でもなかった。

「すごい。ほうきで飛ぶのに、こんなスピードがでるんだ」

 ヒカリはストップウォッチを片手に持ちながらつぶやく。

「できることは証明した! あとは頑張れ!」

 エドは笑顔でそう言った。

「うん!」

 ヒカリも笑顔で返す。



 そして、ヒカリは余裕で空を飛ぶ修行を開始した。ヒカリはさっそくほうきで森の中に飛び込んだ。

「うわぁー!」

 ヒカリは木にぶつかり地面に落ちてしまう。

「いててて。……少し擦りむいちゃった」

 ヒカリは膝を少し擦りむいたが、すぐに立ち上がった。

「だめだ。そもそも、こんな狭い森の中で練習するのも私には早い。もっと広いところで余裕で飛べるようになってからにしよう」

 ヒカリはそう言って森の中での練習をやめ、広い河原に戻った。



 ヒカリは気を取り直して、ほうきにまたがる。

「はっ!」

 ヒカリは魔法を発動させると、ほうきにしがみついた状態で宙にフラフラと浮いた。だが、どう見ても不格好なこの状態は、まだまだ修行が必要だと嫌でも感じさせられる。

「あら。そんなに力まなくてもいいのよ」

 少し離れたところからマリーがヒカリに声をかけた。

「マリーさん! うわぁ!」

 ヒカリは集中が途切れて魔法が解け、地面に落ちてしまった。

「いってー」

 ヒカリが痛がっていると、マリーは傍まで歩いてきた。

「あなた、自転車乗ったことないの?」

 マリーはヒカリに問いかける。

「えっ? 自転車? そりゃ、自転車に乗ったことなんて、腐るほどありますけど」

 ヒカリは急に自転車の話をされたので、質問の意味が分からなかった。

「自転車乗ってる時に、そんなカチコチに力んでないでしょう? ほうきで飛ぶのも自転車に乗るのと同じよ。魔法使いはね、人間が自転車に乗るのを覚えるように、ほうきに乗ることを覚えていくの」

 マリーは落ち着いた口調でそう言った。

「そうなんですね。…………やってみます!」

 ヒカリは立ち上がりほうきにまたがる。

「自転車に乗るような感覚で……」

 すると、ヒカリはほうきにまたがった状態のまま、宙に浮かび上がった。

「でき……うわぁ!」

 できたと思ったのも束の間、すぐにバランスを崩し地面に落ちてしまう。

「痛い」

 ヒカリは何度も地面に落ちてしまうので、いろいろなところが痛くなっていた。

「そうやって痛い思いもしながらできるようになっていくから、諦めないで頑張りなさい」

 マリーはそう言うと去っていった。

「自転車か。たしかに、今まではほうき乗る時に、空中で安定させるだけの魔力コントロールばかり気にしてた」

 ヒカリは立ち上がりほうきにまたがった。

「自転車なら、左右にしか倒れないから左右のバランス。ほうきでも、しっかりほうきを安定させれば、左右にしか倒れないから左右のバランス。……自転車なら、前に進むためにペダルに力を入れる。ほうきでも、前に進むためにほうきに魔力を与える。……ただ、ほうきの場合は、上下の移動もあるから、全方向への魔力コントロールが必要だ。……でも、自転車に乗るのと似てるかもな! ……よーし!」

 ヒカリは頭の中を整理してから修行を再開した。

「うわぁー! いってー!」

 それから、ヒカリは何度も失敗しながらも繰り返し修行を続けた。



 そして、一か月後、ヒカリは人が走るのと同じくらいの速度で、自由自在に空を飛び回ることができるようになった。
「よーし! これだけ飛べるようになれば、あとは水晶玉チャレンジするだけだな! 残り三ヶ月。やるぞー!」
 
 ヒカリは水晶玉チャレンジのスタート地点である河原で、気合いを入れた。

「まずは、水晶玉を探さないとな」

 ヒカリはほうきに乗り森の中へ入っていく。

「おっと! 危ない! ぶつかるとこだった。このスピードで飛んでてもぶつかりそうになるのに、エドはどんだけすごいのよ。……でも、私もできるようにならなきゃ! いてっ!」

 ヒカリは森の中で飛ぶ難しさを痛感した。

 それからヒカリは、三日ほどかけて水晶玉の位置を確認し、それを示したマップを作ってみた。

「えっと、水晶玉の場所は把握した。紙にも書いてみたけど……。とにかくすごい広範囲。それに、木の上にあったり根元にあったり。こりゃ大変だな」

 ヒカリはマップを見ながらつぶやく。最短ルートはわかったのだが、もっと短時間でゴールできる方法はないかと考える。だが、少し考えてみても、なかなか思い浮かばない。

「とにかく繰り返そう! 何度も何度もやってみて、コースを体に染み込ませなきゃ!」

 ヒカリは力強くそう言って水晶玉チャレンジを開始した。



 それから、ヒカリは何度も何度も挑戦した。雨の日も、風の日も。体中たくさんぶつけたり擦りむいたりしても、その度に必ず立ち上がり挑戦し続けてきた。魔女になりたいという強い思いがあるからこそ、どれだけ体が痛くても諦めるわけにはいかない。

 だが、一向にタイムは縮まらないまま、期限の一週間前になってしまった。この日もヒカリは何時間もの間、挑戦し続けていた。

「……くそっ。…………あと、一週間しかないのにタイムが二十分すら切れない。…………くそっ! もう一回! ……いっ」

 ヒカリはとにかく歯がゆかった。そして、ほうきを握っている自分の手を見ると、その部分が血まみれになっていることに気づいた。

「はぁ……。はぁ……。はぁ……」

 ヒカリは自分の血まみれになった手を見ながら呼吸を整える。すると、急に雨が降り始めた。タイムが縮まらない歯がゆさ、体中の痛み、それをあざ笑うかのような雨、びしょ濡れになる体。ヒカリの気持ちはだんだんと暗くなっていく。

「…………くそっ!」

 ヒカリはその言葉を発することで、自分の嫌な気持ちを発散したかった。だが、発散されない。

「諦めるのか?」

 エドは落ち着いた口調で問いかける。ヒカリは言葉が出ない。

「なぁ。…………あと一ヶ月くらい期限を延ばすか?」

 エドはそう言った。ヒカリはその言葉を聞いて、一気に頭に血がのぼった。

「バカにしないで!」

 ヒカリはエドを睨みつけながら怒鳴った。エドはじっとヒカリを見ていた。

「たしかに、こんだけ、こんだけ、頑張っても、全然タイムも縮まらないよ! こんなに、こんなに、こんなに、頑張ったのに! 全身痛くてボロボロだし! 本当に苦しい状態だと思うけどさ! それでも! 期限の延長なんてしないよ! ここで甘えが出たら魔女試験なんて受かりっこないから! ちゃんと覚悟したんだよ! 自分の人生懸けてでも魔女になるって!」

 ヒカリは下を向き、自分の中にある感情を力強く吐き出した。少しだけ沈黙が流れた後、ヒカリはゆっくりとエドの顔を見た。

「それに、エドが設定した期限を守れないんじゃ、そもそも魔女になれっこないしね。だから……。自分が本気でなりたいものだから! 痛くても、辛くても、悔しくても、絶対に諦めない!」

 ヒカリは真剣な表情でエドに伝えた。エドは何も言わなかった。

「もう一回やる!」

 ヒカリはそう言って修行を再開した。



 それから、何度か練習した後、ヒカリは木に寄りかかりながら座って休憩していた。気がつくと雨も止み、気持ちの良い青空が見えてきた。

「はぁ……。くそっ」

 ヒカリはどうやったらタイムが縮まるのかを考えていた。

「こんにちは」

 声が聞こえてきたので、ヒカリはゆっくりと左を見た。すると、そこにはシェリーが立っていた。

「…………こんにちは」

 ヒカリはシェリーから目をそらして挨拶を返した。ヒカリはすごく疲れていてイライラしている状態だったので、正直シェリーといえども、今は関わるのが面倒くさかった。

「どう? 調子は?」

 シェリーはヒカリに問いかけた。

「…………あまり」

 ヒカリはシェリーに対して、少しだけうっとおしいと思いながら返事をした。今は修行が忙しいのでシェリーとの会話に割く時間はない。だけども、シェリーは優しい表情でずっとヒカリを見つめている。それから沈黙が続いた。

 ヒカリはシェリーを見てはいないが、シェリーがずっと見つめていることがなんとなくわかった。もしかすると、自分を心配しているのかもしれないと思い始め、少しだけ自分の話を聞いてもらおうと思った。

「……なかなか上手に飛べなくて。どうやったらエドみたいに速く飛べるようになるのか、わかんなくて」

 ヒカリはシェリーとは視線を合わせずに、下を向きながら言った。

「うーん。……例えば、飛んでいる時に、ヒカリちゃんが感じている障害ってなんだろうね」

 シェリーは落ち着いた口調で言った。

「……空気抵抗。……いや、木が邪魔」

 ヒカリは素直に思ったことを伝える。

「じゃ、それを無くせば、もっと速く飛べるんじゃない?」

 シェリーはそう言った。

「空気抵抗が無くて、木が邪魔することも無い、さすがにそんなの条件良すぎですよ」

 ヒカリは苦笑いしながら言う。

「そうじゃないわ。……空気や木、そういった全ての自然をヒカリちゃんの味方にしたらいいのよ」

 シェリーは優しい口調で話す。

「なんですかそれ。意味わかりません」

 ヒカリは素直に思ったことを言ってしまった。

「自然に逆らってはダメ。自然に身をまかせ、風に舞う木の葉のように飛ぶの。飛ぶ時に感じる抵抗は、全て自然に逆らったから生まれるもの。いくら魔法が使えても自然の力には敵わないからね」

 シェリーは落ち着いた口調でそう言った。ヒカリはシェリーが何を言っているのかがわからず、黙ってしまう。

「じゃあね。頑張ってね」

 シェリーはそう言って去っていった。

 シェリーが去った後、ヒカリはシェリーの言葉を思い返した。もしかすると、シェリーはすごく大事なことを伝えてくれていたのかもしれない。だけど、自然に逆らわないなんて無理に決まっているし、言い方は悪いけど理想ばかり言っているような気がする。

 ただ、シェリーの言っていることを素直に信じることができたならば、もしかしたら本当に速く飛べるのかもしれない。とはいえ、自然に逆らわないとはどういうことなのだろうか。

 もっと深く考えようと思ったのだが、ヒカリの頭にはそれを考えるだけの力が残っていなかった。シェリーには申し訳ないが、そのことを考えるのは後回しにさせてもらって、今はコースを繰り返して、タイムを縮めていくことにしよう。

「もう一回、挑戦してみるか」

 ヒカリは立ち上がりながらそう言った。

「よーし。……やるぞ!」

 ヒカリは気持ちを高めて、再び水晶玉チャレンジを始めた。

 飛び立ったヒカリだが、自分で後回しにしたシェリーの言葉が、頭から離れていなかった。気がつくと、それを考えながら飛んでいた。

 ヒカリは木の上の水晶玉に触れて、下の方に戻る動作をしようとした時に、空中に舞う木の葉を見てあることに気づく。

「この葉っぱ……。そっか、そこに風が流れているのか」

 ヒカリは木の葉の動きに合わせて飛んでみた。すると、まるで風の道に乗って流されているかのように、面白いほど速く飛べた。

「ふふ。なにこれ。気持ちがいい。これが風の流れなんだ。木にぶつからないギリギリのところを飛んでいける」

 ヒカリはあまりにも気持ちが良かったので、楽しくなり笑ってしまう。次の水晶玉は、いつも触れた後、方向転換に時間がかかってしまう厄介なポイントだ。しかし、ヒカリはここでもあるものに気がついた。

「あの太い枝。もしかして」

 ヒカリはそう言って水晶玉に触れた後、その近くにある太い枝をバネにし方向転換をした。すると、減速することなく、むしろ加速して次の地点へ向かうことができた。

「やっぱり! へへ。楽しい」

 ヒカリは気持ちよく飛ぶことができて、とにかく嬉しかった。最近はずっと飛ぶことを楽しいなんて思えていなかったから。その後も今までとは違い、自然をフルに活用してゴールした。

「八分! やったー! あと少しだ! ふふ。自然に逆らわない。シェリーさんの言うとおりだ。すごく気持ちが良かった。……よし! 目標の五分を切れるように頑張ろう!」

 ヒカリはタイムを大幅に縮めることができて、とにかく嬉しかった。そして、元気を取り戻したヒカリは、五分を切れるように毎日夜遅くまで挑戦を続けた。





 水晶玉チャレンジのタイムリミットの日。ヒカリはいつもの河原にある少し大きめの岩に、片足だけ体育座りをした姿勢でエドを待っていた。

「おはよう。どうだ調子は?」

 エドはヒカリに声をかけた。ヒカリは後ろから来たエドの方を向く。

「ふふ! 絶好調!」

 ヒカリは笑顔でそう言うとその岩から降りた。

「ふーん。じゃ、見せてもらおうかな!」

 エドは元気よく言う。

「おし!」

 ヒカリは気合いを入れた後、エドにストップウォッチを渡し、ほうきにまたがった。

「いつでもいいよ」

 ヒカリは目を閉じて言った。

「じゃ、いくぞ。……よーい。……ドン!」
「っしゃあああああ!」

 エドが合図を出した途端、ヒカリは大きな声を出しながら猛スピードで森に突っ込んだ。

 それからヒカリは、全ての自然に体を預けて飛んでいく。それが毎回決まった飛び方ではないのは、自然が変わりゆくものだからなのだろう。今となっては、自然に逆らっていた頃の自分が理解できない。なぜなら今は、自然は人が信じていれば、必ず応えてくれるとわかっているからだ。ヒカリはそんなことを考えながら清々しく飛んでいった。

 そして、ヒカリはあっという間に全ての水晶玉に触れて河原に戻ってきた。

「えっ! もう戻ってくんの?」

 エドはすごく驚いていた。そんなにもいい結果なのだろうか。ヒカリがゴールすると、エドはストップウォッチを見て固まっていた。

「……三分四十六秒」

 エドは戸惑っているような様子だった。

「へへ! どうだ!」

 ヒカリは満面の笑みを浮かべながら、胸を張って言った。

「えっ? ほ、本当に、お前ヒカリなのか?」

 エドはすごく驚いていた。

「当たり前でしょ! もう、コツを掴めばこんなもんよ!」

 ヒカリはこうやってエドが驚いてくれる結果を得られて、素直に嬉しかった。

「いや、それにしても、俺よりも速いって……」

 エドはまだ驚いたままだった。

「これでオッケーだね! エド!」

 ヒカリは笑顔で言う。

「…………あぁ。これで合格だ」

 エドは優しい笑みを浮かべてそう言った。

「やったー!」

 ヒカリは思いっきり喜んだ。

 こうしてヒカリは、無事に余裕で空を飛ぶ修行をクリアしたのだった。
 余裕で空を飛ぶ修行を終えたヒカリは、エドと一緒に河原にいた。

「ふう。でも、すごい疲れた。魔力もほとんど残っていないよ」

 ヒカリは近くの岩に座りながら言う。

「すごい頑張ったからな。お疲れさま」

 エドは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「うん。ずっと見守ってくれてありがとう」

 ヒカリはエドに感謝の気持ちを伝える。

「当然だ!」

 エドは元気よく言う。

「今日はこれから――」
「――誰だ!」

 ヒカリが話を始めようとした途端、エドが警戒した様子で、ヒカリの前に背中を見せて立った。

「ほう? 気づかれるとは思わなかった」

 その声が聞こえると、突然ヒカリとエドは謎の四人組に囲まれた。

「えっ! 何?」

 ヒカリは急な出来事に動揺した。

「お前ら、魔法使いだな」

 エドは四人組を見渡し警戒している様子で言った。その四人組は、全員がフードで顔を隠してはいるが、暗い赤のローブに黒のフード付きのケープを身につけている。ヒカリもなんとなくだが、四人組を魔法使いだと察した。

「せっかくだから、自己紹介でもしてやろうか。私の名はグリード。ひと昔前に魔法界を少々騒がせた者だ」

 エドの正面に立っている魔法使いがフードを下ろし、顔を見せて話し始めた。銀色の少し長い髪、白いズボンに黒い長靴。その男がこちらにずっと話しかけている感じからすると、四人組のリーダーなのだろう。

「それで、何が目的だ」

 エドはグリードに問いかけた。

「俺が欲しいのは、その魔女玉だ」

 グリードはヒカリを指差して言った。ヒカリはローブの中にある魔女玉を見抜かれていることに驚いた。

「……ダメだ。お前らなんかに渡すような安いものじゃない」

 エドはこんな状況でも一歩も引かなかった。

「そうか。くれないか――」

 グリードはそう言った直後、一瞬でエドに攻撃してきた。ヒカリは何が起きたかわからなかったが、エドとグリードがお互いの拳を、片手で受けながら止まっていた。

「黙って渡せば、痛い目にあわないで済んだのにな」

 グリードが冷静な口調でそう言った。

「お前の方こそ、さっさと引き下がっていれば、ケガしなかったのにな」

 エドは負けじとグリードに挑発していた。ヒカリは初めて見る魔法使いの戦いに戸惑う。すると、他の魔法使い三人が、ヒカリに襲い掛かってきた。ヒカリはどうしたらいいのかわからず、両手を盾にして構えた。

「くそっ! 邪魔だー!」

 エドはヒカリを襲ってきた魔法使い三人の前に立ちはだかり、魔法で大きな火柱を立てた。すると、魔法使い三人は、その火柱を避けようと後ろに下がる。その時、エドの後ろに突如グリードが現れ、エドの背中に手を当てた。

「しまった!」

 エドは焦りながら言った。

「まだまだだな……」

 グリードがそう言った直後、エドの体が地面に勢いよく叩きつけられた。

「ぐはっ!」

 エドはその場にうつぶせで倒れる。

「エド!」

 ヒカリはエドに声をかけた。だが、エドの体はピクリとも動かなかった。

 そして、魔法使い三人がヒカリを囲み、魔女玉を奪おうとしてきたので、ヒカリはとっさに魔女玉を握りしめてうずくまる。

「絶対、あんたたちなんかに渡さないんだから!」

 ヒカリは大声で叫んだ。

「こいつらの仲間がくるかもしれない。そいつごと連れて帰るぞ」

 グリードがそう言うと、ヒカリは一番体の大きい魔法使いに抱えられ、連れ去られてしまった。





 ヒカリが連れ去られた後、エドは河原にうつぶせで倒れていた。

「…………はぁ。……はぁ。……はぁ。…………くそっ!」

 エドは気合いで立ち上がった。その後、エドはスマートフォンを取り出し、ROSEに電話をかけた。

「お待たせしました。ROSE株式会社のベルが担当致します」

 電話に出たのはベルのようだ。

「ベルか! マリーはいるか!」

 エドは焦りながら言った。

「この声は……。エドですか? マリーさんは外出していますが」

 ベルは落ち着いた様子で話していた。

「ヒカリがさらわれた!」

 エドは力強く言った。

「なんと!」

 ベルは驚いたように言う。

「最近、この辺に移ってきた魔法使いの奴らだ。この前の報告書通り、何かたくらんでいるとは思ってたが、あいつらは魔女玉を狙ってた。たぶん、報告書に書いている鉄の船のアジトにいると思う」

 エドはベルに説明をした。

「わかりました! こちらからもチームを編成して向かいますので――」
「――よろしく!」

 ベルが話している途中だったが、エドはこれ以上余計な時間をかけたくなかったので、電話を切った。エドはほうきにまたがり、錦江湾に浮かぶ鉄の船に向けて移動を始めた。





 ROSEの事務所では、ベルが受話器を持ちながらため息をついていた。

「まったく! まだ話の途中ですのに、なんで切るんでしょう! ……一人で行って何かあったらどうするんですか」

 ベルは少し怒った後、小さな声でぼやきながら言った。

 そして、すぐにベルは立ち上がった。

「ということで皆さん、聞こえましたか? マリーさんには私から連絡入れておきますので! すぐ出発しますよ!」

 ベルが大きな声で事務所内の社員に呼びかけると、皆慌てて準備を始めた。受付のシホだけが少し戸惑っている様子なのは、シホが魔法使いではないことが原因なのだろう。とにかく早くヒカリの救出に行かないといけないので、ベルも急いで準備を始めた。





 ヒカリが目を覚ますと、狭い部屋の中にいた。

「ここはどこだろう」

 ヒカリは起き上がり、扉のノブに手をかける。

「鍵がかかっている」

 部屋の扉には鍵がかかっていた。

「あっ!」

 ヒカリは魔女玉のことを思い出し魔女玉を確認するが、すでに取られた後だった。

「ない! くそ!」

 ヒカリは大声で言った。

「起きたか」

 どこからともなくグリードの声が聞こえてきた。グリードの姿は見えないので、これも魔法だと察した。

「あんた! 私の魔女玉返しなさいよ!」

 ヒカリは力強く言い放った。

「ふふ。それは無理に決まっている。我々にはあれが必要なんだ」

 グリードは落ち着いた口調で言う。

「どういうこと?」

 ヒカリはグリードに問いかける。

「だから、しばらく人質としてお前を預かる。あそこにはいるんだろう? 魔女玉を作れる魔女が。はっはっはっ!」

 グリードの声が途絶え、ヒカリはムカついて扉を蹴った。






 とある薄暗い部屋にグリードはいた。グリードは椅子に座って考え事をしていた。すると、その時、連絡係の魔法使いが現れる。

「侵入者を発見しました!」

 連絡係の魔法使いは、ひざまずいて伝える。

「そりゃ、来るよな」

 グリードは焦りもせずにつぶやいた。すると、部屋の隅に寝ていた魔法使いが起き上がる。

「俺が行く」

 その魔法使いは、グリードにそう伝えると歩いて部屋を出ていった。





 グリードの船に到着したエドは、甲板で暴れていた。

「情けねえ。大切な部下一人守れねえなんてよ」

 エドはそうつぶやきながら、襲いかかる敵の魔法使い達を蹴散らす。甲板はエドが放つ魔法の炎に包まれていた。

「情けねえよ!」

 エドは力強く言い放つと、敵の魔法使いを炎の拳で思いっきり殴り飛ばした。

 甲板にいた敵の魔法使いが残り少しになった時、船の中から一人の男が出てきた。
「なかなかいい炎持ってるな」

 船の中から出てきた男は、エドに声をかけた後、いきなり大きな青い炎をエドに放った。エドはそれを自分の赤い炎で防いだ。その男は、白いシャツと黄色の短パンを着ていて、髪はトゲトゲした黒髪だった。また、白いシャツのボタンは留めておらず、鍛えられている胸筋と腹筋が丸見えのようだ。

「俺はアレンだ。お前の名は?」

 アレンは落ち着いた口調で言う。

「俺はエド。お前も火か」

 エドはアレンに答える。

「エドか。いい名だ。ふふ。久しぶりに楽しめそうだ!」

 アレンはそう言うと、エドに猛攻撃を開始した。エドはアレンが連続で出す炎の拳を避ける。しかし、エドは炎をまとった蹴りが避けられず腹にくらってしまい、数メートル先まで蹴り飛ばされてしまった。

「くそ!」

 エドはすぐに立ち上がった。

「体術もできるようだな」

 アレンは少し笑みを浮かべて言う。

「へっ! お前も少しはできるようだな! 面白れぇ。お前を倒さないと先に進めないなら、ぶっ飛ばしてやるよ!」

 エドはアレンを少し睨みながら言うと、再び攻撃の体勢をとる。

「できるかな? 俺は強いぞ」

 アレンもそう言って構えた。次の瞬間、エドとアレンは同時に動き出し、炎をまとった体術でお互い攻め立てる。アレンの方が少しだけ体術が上手だったのか、エドはアレンの攻撃を避けきれず、拳を顔面に受けて殴り飛ばされた。

「くそ!」

 エドは床に仰向けに倒れた状態で言った。

「まだだ」

 アレンの声が聞こえると、空中で炎のかかと落としを狙っているアレンが見えた。瞬時に危機を察知したエドは、間一髪のところでアレンの攻撃を転がりながら避けた。しかし、アレンはすぐさまエドに駆け寄り、エドを壁まで思いっきり蹴り飛ばした。エドはアレンの連撃が効いていたので、すぐに起き上がれなかった。

「もう終わりか?」

 アレンは問いかける。

「いってーな!」

 エドは少し余裕なアレンにムカつきながら、気合いで立ち上がる。

「はぁ。ちくしょう。……こんなところで使いたくなかったけど。……仕方ねえか」

 エドはそう言いながら、ゴーグルを目の位置に下ろした。

「ごめん! 一気に決めさせてもらうわ!」

 エドは言い終えた直後、一瞬でアレンに近づいた。

「なっ!」

 アレンはすごく驚いた様子だ。その瞬間、エドは炎をまとった拳でアレンの顔面を殴り飛ばす。さらに、仰向けになって殴り飛ばされている状態のアレンを、腰の方から膝蹴りを入れた。

 それから、飛び上がったアレンに対して、エドは空中で背負い投げの形でアレンをとらえる。そして、空中でアレンを炎で包みながら、背負い投げの形で三秒ほど高速でグルグルと回る。

「ラストー!」

 エドは大声で叫びながら、アレンを船の床に力強く叩きつけた。アレンはこの連撃が効いたのか、動けない様子だ。エドは仰向けになったアレンのそばに座りこむ。

「……ふう」

 エドはアレンを倒すことができて一安心し、ゴーグルをおでこの位置に戻した。

「…………なんだ、今のは」

 アレンはエドに問いかけた。

「俺の特殊系の能力『超速』を使ったんだ! すげえ速いだろ!」

 エドは笑顔でそう言った。

「超速か。……だから対応できなかったんだな。……俺の負けだ」

 アレンは潔く負けを認めた。すると、エドの前に新たな敵の魔法使いが二人現れた。

「えー! アレンがやられるなんて!」

 黒のケープと帽子、ピンクの上着に水色のスカート、黒いタイツに白い靴、手には白い手袋を身につけた水色の髪の少女だ。長い髪は髪留めで左右の耳下あたりに留めていて、ピンクのステッキも持っている。

「私はノアっていうの、よろしくねー」

 ノアはぶりっ子のような仕草で言った。

「ほほう。俺はアンソニー。その力、試させてもらいたいな」

 もう一人は、黒の短髪でメリケンサックの付いたグローブを装着し、上半身が裸で、茶色のカーゴパンツと黒の靴を履いた大男だ。

「……くそ!」

 エドは焦った。今はもう戦えるだけの魔力が残っていなかったからだ。アレンを倒す時に使った超速は、まだ完全に使いこなせておらず、魔力の配分がうまくできないので、どうしても魔力を大量消費してしまう。エドはとにかくここをどう切り抜けたらいいかを考えた。だが、何もいいアイデアが思い浮かばない。その時、急にアンソニーが空を見上げたのが気になった。

「はいはーい。ご依頼通り参上致しましたよー」

 空から突然声が聞こえてきた。

「誰よ! あんたたち!」

 ノアは構えながら言った。すると、エドの前にローブ姿の二人組が空から降りてきた。

「ROSE株式会社の事務を担当しています、ベルと申します」

 ベルは頭を下げて丁寧に挨拶をした。

「同じく、ROSE株式会社の顔良し、強さ良し、性格良しの最強イケメン魔法使いリンだ!」

 リンはいつも通りナルシストな自己紹介をした。

「人さらいをとっちめにきました」

 ベルは真剣な表情を浮かべて言う。その後、ベルとリンは後ろを振り返りエドを見る。エドはこうやってベルとリンが来てくれてすごく嬉しかった。

「お前ら……」

 エドは嬉しさのあまり言葉が続かない。そんなエドを見たベルとリンは、少しだけ笑みをこぼす。

「…………じゃ! 任せたわ!」
「えっ!」

 エドはベルとリンが代わりに、目の前の魔法使い二人と戦ってくれるとわかり、目的のヒカリ救出のために船の中へ入っていく。ベルとリンが少し驚いていたようにも見えたが、そんなことよりも自分がヒカリを救わないといけないから、一刻も早く見つけ出さなきゃならない。エドはそう思いながら走った。





 ヒカリは狭い部屋の中で戸惑っていた。

「さっきから、すごく外が騒がしいんだけど、全然様子がわからない」

 ヒカリは扉の上にある小さな窓から顔を出し、廊下を見ていた。すると、ものすごい勢いで誰かが何かを叫びながら、走ってくるのがわかった。よく見ると、その人の後ろには大勢の魔法使いらしき人達が追いかけている。だんだんと近づいてくる。ヒカリは声を潜めて、どんな人が追いかけられているのかを観察していた。すると、ヒカリは驚いた。

「ヒカリー! どこだー! 返事しろー! 助けに来たぞー!」

 エドが敵に追われながらも、助けに来てくれていたのだ。

「エド!」

 ヒカリはエドに声をかけた。すると、エドは周りを見渡しヒカリを見つけたようだ。

「ヒカリ!」

 エドはヒカリを見つけられて嬉しそうだ。エドの後ろから敵の集団が近づいてくる。

「この部屋な! ちょっと、こいつらを撒いてくるから待ってろ!」

 エドはそう言うと再び走って去っていった。走り去るエドを二十人ほどの敵が追いかけていたので、どうにか忍び込めなかったのかと考えてしまう。しばらくすると、足音が聞こえたので扉の窓から顔を出すとエドが立っていた。

「はぁ……。はぁ……。……撒いてきた!」

 エドが力で扉を開けようとする。

「エド! 鍵がかかっているから力じゃ無理よ! 魔法は?」

 ヒカリはエドに伝える。

「もう魔力が無くて使えねえんだ! ちくしょう! 魔法が使えればなー!」

 エドは力ずくで扉を引っ張っていた。





 グリードがいる部屋では、グリードと一人の魔法使いが話をしていた。

「オリバー、あの娘の部屋にはちゃんと鍵はかけているんだよな?」

 グリードは問いかける。

「もちろんです!」

 オリバーは答えた。

「それで? 俺にその鍵を渡す予定だったはずだが、なぜそれができていないんだ?」

 グリードは疑問を抱きながら言う。

「あ、そうでした! 渡します! 渡します! …………」

 オリバーはそう言うと固まってしまった。

「どうした?」

 グリードは問いかける。

「鍵、扉にさしっぱなしでした……」

 オリバーはすごくアホだった。
 ヒカリの捕らえられている部屋の前で、エドは必死に扉を力ずくで開けようとしていた。ヒカリも内側から押すようにして協力する。

「ふんぐー!」

 エドの力んだ声が聞こえてくる。すると、遠くから敵の集団が再び近づいてきているのが、声や音でわかった。

「まずい! 早くしないと!」

 エドは焦った様子で言った。

「ねー! 近くに鍵とか落ちてないよね?」

 ヒカリは急いで問いかける。

「んなもんねえよ! さすがに、こいつらもそんなアホじゃねえだろ!」

 エドは焦った様子で言った後、扉を力ずくで開けるのをやめたようだ。

「あー。なんかこう、針金とかあれば開けられるのかなー。この鍵穴に合う何かが……。って、鍵付いてんじゃん! あいつらそんなアホだったわ!」

 エドは急いで鍵を開けて扉を開き、部屋の中に入った。エドは部屋に入るとすぐにヒカリを抱きしめた。エドは何も言わなかった。廊下の方を敵の集団が無事に通り過ぎたのがわかったが、それでもエドは黙ったままヒカリを抱きしめる。ヒカリは内心不安だった思いが溢れてきた。でも、エドがこうやって抱きしめてくれているので、その不安な思いはどこかに溶けていったような気がした。

「無事でよかった。怖かっただろ。……ちゃんと守れなくてごめんな」

 エドは優しく語りかけた。

「ううん。助けに来てくれてありがとう」

 ヒカリは落ち着いてそう言った。

「魔女玉は取られちゃった」

 ヒカリは少しうつむきながら言う。

「あぁ。取り返そう。こんな奴らに渡していいものじゃない」

 エドはそう言うとヒカリから優しく離れた。ヒカリは離れて見えたエドの真剣な目を見て、心がすごく落ち着いてくるのがわかった。

「さて! どうやってここを出るかな。といっても、魔法が使えねえから、走って逃げることしか思いつかねえ!」

 エドは困った表情を浮かべて言う。

「いやいや、どうにか隠れながら無難にいこうよ! 走って逃げるなんて、もしも敵に見つかった時だけだよ!」

 ヒカリは必死に伝えた。するとその時、部屋の扉の向こう側に誰かが来たのがわかった。エドはヒカリの前に立って構える。

「この船の鍵は……」

 部屋の向こう側から声が聞こえた。すると、次の瞬間、勢いよく扉が開いた。

「さしっぱなしが基本なんだー!」
「すっごく不用心!」

 扉が開くと全身獣のような人が叫びながら登場した。ヒカリとエドはまさかの発言にツッコミを入れずにはいられなかった。こげ茶色の体毛に灰色の短パン、鋭い牙と爪を持ち合わせた獣のような人。この姿も魔法なのだろうか。

「見慣れない顔だな」

 獣のような人はエドを見てつぶやく。エドは戸惑っているような表情を見せた後、何か良いアイデアを閃いたような顔をした。

「……き、昨日、こちらに来たばかりの新人です! 自分の部屋がわからなくなり、間違えてこの部屋に入ってしまいました! 申し訳ございません!」

 エドは機転を利かせたつもりなのだろう。でも、そんな理由が通用するわけないだろうと、ヒカリは心の中でツッコミを入れてしまう。

「……はぁ?」

 獣のような人は少し目つきが変わった。さすがに通用しなかったようだ。

「新人は上の階だぞ! ちゃんと説明会で聞いてなかったな!」

 獣のような人は叱りつけるように言った。まさか通用するとは思わなかったので、ヒカリは心の中で喜びの舞を踊った。

「俺も寝てたからわかる! うん。うん。眠くなるんだよなー。もしかして、俺のことも知らないんだな。俺はオリバーっていって、一応は幹部の一人だ。覚えておくように。とりあえず、ここの部屋には近づくなよ。俺が怒られるからさ」

 オリバーは完全にエドを新人だと思い込んでいた。

「はい。すいません」

 エドはそう言って部屋を出ていこうとする。ヒカリはエドだけ助かっても意味がないと、焦ってしまった。すると、エドはオリバーの前で立ち止まる。

「あっ! そうだ隊長!」

 エドは意味もなく敬礼しながらオリバーに話しかける。

「隊長! ……うふふ。まだ何かあるのか?」

 オリバーは隊長と呼ばれて喜んでいるようだ。すると、エドがヒカリを指差した。

「あの女、お漏らししてましたので、トイレに連れて行った方がいいんではないですか?」

 エドはすごいことを言った。ヒカリはお漏らしをしていなかったので、危機的な状況だとはいえ恥ずかしいことを言われて、心の中では少し怒ってしまった。

「それは、大変だ! 早くトイレに連れて行って新しい下着に着替えさせよう!」

 オリバーはすごく優しい人のようだ。

「この部屋に入ってしまった罰として、私がこの娘を連れていきますので、隊長はこちらでお持ちいただけますか?」

 エドはそう言った。

「そうだな! 任せたぞ! できるだけ早く戻って来いよ!」

 オリバーはエドがヒカリを部屋から連れ出すことを認めた。

「はい! ほら、行くぞ!」

 エドは敬礼しながら返事をして、ヒカリを部屋から連れ出した。ついに、部屋から出ることができたヒカリとエドだった。

 その時、突然ほうきに乗った一人の魔法使いが、勢いよくオリバーの前に立ちはだかった。

「待ったー!」

 ヒカリはすごく聞き覚えのある声に驚いて目をやると、なんとそこにいたのはローブ姿のシホだった。まさかの魔女姿のシホに戸惑った。もうシホは魔法を使えないはずなのに、どうして使えるのか不思議だった。

「誰だ、お前は?」

 オリバーはシホに問いかけた。そこにエドが急いで割り込んだ。

「隊長! 実はこいつも――」
「――私はシホ! この人と同じくヒカリちゃんを助けに来た! ……さぁ、始めましょう」

 エドの言い訳もむなしく散り、シホは思いっきり真実を伝えた。

「なっ! お前、だましたな!」

 オリバーはエドを指差し焦った様子で言った。

「だまされる方が悪いんだよ!」

 エドは偽ることをやめ、正直に言い放った。

「くそ! なめやがって!」

 オリバーは怒った様子でエドに向かっていく。エドが焦って後ろに下がると、エドとオリバーの間にシホが割り込んだ。

「あなたの相手は私よ!」

 シホは勇ましくオリバーに立ち向かった。

「シホさん、なんで魔女に?」

 ヒカリは状況が理解できず、直接シホに問いかけた。

「マリーさんから『本当に大切なものを守る時だけ魔女玉を使っていい』って言われててさ。ここで使わなきゃ、いつだよって思ってね!」

 シホは笑顔でそう言った。

「魔女玉? お前、魔女見習いか。俺もなめられたもんだ。魔女見習いごときが、俺に勝てるわけないだろうが!」

 オリバーは怒った様子でシホに襲いかかった。

「ちょっと、エド! どうしよう!」

 ヒカリはシホを心配してエドに駆け寄った。

「大丈夫だ。……見てろ」

 エドは落ち着いた様子だった。ヒカリはオリバーとシホの戦いに視線を移した。すると、オリバーの鋭い爪攻撃に対して、シホは床板を宙に浮かして、それを盾のように扱い攻撃を受け止めていた。それからシホは、数枚の床板や壁板をオリバー目がけて投げつける。しかし、オリバーの動きはとても素早く、全てかわされてしまう。その後、シホとオリバーは少し距離をとったまま、じっと睨み合う。

「すごい」

 ヒカリはシホがあまりにも戦うのが強かったので、見とれてしまった。

「マリーが言ってたんだ。シホは『魔法の天才』だよって」

 エドは安心した様子でそう言った。

「天才……」

 ヒカリはシホがそれほどまですごい実力者だと知らず、驚いてしまった。

 それから、シホとオリバーは再び戦いを始めた。強いはずのオリバーと、まともに戦えているシホはとにかくかっこよかった。

「くっ! なかなかやるな! お前、本当に魔女見習いか?」

 オリバーはシホの攻撃を避け、後ろに下がりながら言った。

「『元』だけどね!」

 シホは少しだけ笑みを浮かべてそう言った。

「なんだそれ! 魔女見習いでもないのか! ……バ、バ、バカにしやがってー!」

 オリバーは気が狂ったような様子で、シホに襲いかかった。

「かかった!」

 シホは笑顔でそう言うと、散らばった床板と壁板の二枚を動かし、思いっきりオリバーを空中で挟みつけ、そのまま数メートル先の丁字路の壁まで勢いよく追いやった。オリバーは胴を床板と壁板で押さえつけられて身動きがとれないようだ。

「ぐはっ! ……っく。動けない」

 オリバーはそう言った後、歩いてくるシホを見ておびえてしまったのか、突然震えだした。おそらく、シホが大きめの床板を、まるでチェーンソーのように高速回転させて、近づいてきたからだ。さらに、シホは高速回転させた床板を壁に当てて、火花を散らしながら迫るという、まるでホラー映画のような恐ろしい行動をとっていた。そして、シホはオリバーの目の前に立ち止まる。

「とどめよ。首にお別れ言いなさい」

 シホはオリバーを見下ろしながら言った。それは、とても恐ろしい表情だった。

「ひっ!」

 オリバーは目を大きく開いて涙を流していた。

「……時間切れ」

 シホはそう言って高速回転させた床板を、勢いよくオリバーに投げつけた。その瞬間、大きな音がして煙が立ち上がり、状況がわからなくなった。煙が落ち着いてからよく見ると、オリバーの頭上ギリギリに床板が突き刺さっていた。オリバーは、どうやら気絶しているようだ。

「ふう」

 シホはその場に座り込んだ。ヒカリとエドはシホに駆け寄った。

「シホさん! すごいです!」

 ヒカリはシホの手を握りながら言った。

「すごいなシホ! めっちゃ怖かったけど……」

 エドもシホの肩に手を添えて言った。

「うん! 頑張ったよ!」

 シホは笑顔でそう言った。その瞬間、ヒカリ・エド・シホの三人は、違う場所に移動させられた。周りを見ると薄暗くて広い部屋の中だった。よく見ると奥にある椅子に誰かが座っていた。
「さて、こうも部下達がやられていくというのは、見ていて気分が良くないな」
 
 椅子に座っていたのはグリードだった。

「グリード! それは、お前が仕掛けてきたからだろうが!」

 エドは力強く言った。

「グリード?」

 シホはグリードが分からなくて首を傾げた。

「シホさん。あいつがグリードっていって、敵の親玉なんです」

 ヒカリはシホに説明した。すると、グリードは椅子から立ち上がり、ヒカリから奪ったと思われる魔女玉を取り出した。

「このとおり、そいつが持っていた魔女玉は手に入ったので、当初の目的は達成した。だがな……魔女玉は一つじゃ足りないんだよ」

 グリードはそう言うと、不敵な笑みを浮かべながらシホを見た。

「シホ! 逃げろ!」

 エドは大声で叫んだ。その瞬間、グリードは動き出した。

「渡すもんか!」

 シホはグリードに立ち向かおうとして、瞬時に床板や壁板を大量に集めて、グリードに投げつけた。

「バカ! 逃げるんだよ!」

 エドはシホを見て力強く言う。そして、シホの投げつけた床板や壁板は、迫りくるグリードに近づいた途端、地面に叩きつけられた。

「えっ!」

 シホの驚いたような声が聞こえた次の瞬間、一瞬でシホの姿は消え、後ろの壁まで追いやられていた。グリードは右手でシホの首を持ち、そのまま体を持ち上げた。

「ごほっ!」

 シホは苦しそうにむせた。

「シホ!」
「シホさん!」

 エドとヒカリは同時に叫んだ。

「騒ぐな」

 グリードがそう言った途端、ヒカリとエドは地面に叩きつけられた。

「なんだこれ。魔法か?」

 エドは地面に張り付いた状態で言った。

「俺の特殊系の能力『重力変化』の前では、いかなる相手もひれ伏すだけだ」

 グリードはそう言うとシホを見た。

「くそ! 魔力が足んねえ!」

 エドはもがきながら言った。

「さて、魔女玉をいただくか」

 グリードがシホの首に掛けている魔女玉に手を伸ばした。

「やめてー!」

 シホが叫んだ瞬間、不思議なことが起きた。ヒカリ・エド・シホの三人の体の周りに、バリアのようなものが張られていたのだ。急な出来事にグリードは戸惑っている様子だ。

「何これ? バリアってやつ?」

 ヒカリはバリアのようなものを触りながら言った。

「へへ。間に合ったみたいだな」

 エドは安心した様子で言う。

「なんだ?」

 グリードも何が起きているのかがわからない様子だ。

 すると、何やら足音が聞こえてきた。コツン、コツンというヒールの足音だ。

「ついに現れたか……」

 グリードは何かを察したかのように言った。すると、部屋の入口が開き人影が見えた。

「魔女の中で最強と呼ばれる女。『鬼の魔女・マリー』」

 グリードは覚悟をしたかのようにそう言った。

「えっ! マリーさん?」

 ヒカリは入口にいる人影をよく見た。薄暗くてよく見えないがマリーのようだった。

「あー。うちの社員によくも怖い思いさせてくれたねー……。ひゃははははははははは!」

 マリーが不気味に言い放った。ヒカリはマリーの様子がいつもと違い、恐ろしい鬼のような形相だったので、驚きすぎて声が出なかった。

「マリーは本気でキレた時に、まるで鬼のように恐ろしい魔女になるんだよ。だから、魔法界では『鬼の魔女』と呼ばれているんだ」

 エドはヒカリに説明した。

「鬼の魔女……」

 ヒカリはマリーが最強の魔女とは聞いていたが、まさか『鬼の魔女』と呼ばれるほどの恐ろしい魔女だとは、思いもしなかったので少し戸惑った。

「ぶち殺してあげるわああああ!」

 マリーは狂ったように言い放った。

「面白い。俺もお前を倒し――」

 グリードが何かを言い始めた時、マリーは一瞬でグリードの顔面ギリギリの位置まで急接近していた。

「なっ!――」
「――ひゃはははははははは!」

 グリードが驚いた表情を見せた途端、マリーはグリードの顔面を力強く殴り、グリードは壁に叩きつけられた。さらに、殴られて倒れているグリードの頭を片手で掴み、そのまま床から壁、天井とものすごい速さで、何度も何度も引きずり回した。その光景は、誰がどう見ても地獄のようだった。そして、二十秒ほど引きずり回した後、マリーはグリードを遠くの壁に投げ捨てた。

「ぐはっ! ……ば、け、もの……か……」

 グリードは動けないようだが意識はあった。マリーは倒れているグリードから魔女玉を取り返した。

「さーて、このままでもお前は死ぬだろうが、殺して欲しいか? あーん? ひゃははははははははは! なんてなー! ひゃっはっはっはっは……。……はぁー」

 マリーは話しながらだんだんと鬼の形相が消えていき、普段のマリーの表情に戻っていった。

「……まぁ、死にはしないだろうから、早く仲間に助けてもらうんだな。もう他人から何かを奪うような生き方はやめな。どうせ、むなしいだけだから」

 マリーはそう言うとグリードの前を離れた。ヒカリとシホはマリーに駆け寄った。

「マリーさん! 心配かけてごめんなさい!」

 ヒカリはマリーの目を見て謝った。

「助けてくれて、ありがとうございました!」

 シホも自分の気持ちを伝えた。すると、マリーはヒカリとシホを強く抱きしめた。

「……すごく怖かっただろう。遅くなって悪かったね。二人とも本当によく頑張った」

 マリーは優しい口調でそう言った。ヒカリはマリーの温かい息が後ろ髪にあたって気づいた。こんなにも自分のために熱くなってくれたのだと。それは、一番のご褒美だと感じた。

「ヒカリ! 無事だったか! よかったー!」

 ケンタの声が聞こえると、マリーは抱きしめるのをやめた。

「敵が撤退していったから、何かと思えばみんな無事だったか!」

 ヒカリが入口を見るとリンとベルがいた。ベルはエドに向かって少し怒った様子で歩いていく。

「エド! まったくあなたって人は、なんでそんなに勝手な行動をとるんですか!」

 ベルはいつも通りエドに文句を言っていた。

「無事だったからいいだろ!」

 エドはベルに言い返した。

「どこが無事なんですか! ボロボロじゃないですか!」

 ベルはエドの体を指差しながら指摘した。

「これは……。わざとだよ!」

 エドは腕を組みながらベルから視線をそらして言った。

「全然言い訳にもなっていませんが。……まぁ、ちゃんと生きていてくれてよかったです」

 ベルはなんだかんだ言っても、エドが心配だったみたいだ。

「そういや、親玉はどこにいるんだ?」

 ケンタが問いかけた。

「あそこに。……あれ?」

 ヒカリはグリードを指差そうとしたが、いつの間にかグリードの姿が消えていたことに驚いた。

「あいつは、もう出ていったよ」

 マリーは落ち着いた口調で言った。

「えっ! いつの間に……」

 ヒカリは全く気付かなかったので驚いた。

「さぁ。みんな帰るよ」

 マリーがそう言うと、ROSEの全員はその場を立ち去った。ヒカリは、この世界には魔女玉を狙っている人達がいるということを、身をもって理解した。