謎の球体

「ふう…… あぁあ。なんか、つまんないな」
 高校からの帰り道、中山直也は道端の石ころを蹴とばした。
「なんでこう、毎日パッとしないのかなあ…… 」
 16歳で高校2年生の直也は、学校から進路について考えるように宿題を出されていた。
 勉強も、運動もそこそこ頑張っているし、何も不自由はない。
 でも、毎日淡々と学校と家を往復する毎日に嫌気がさしていた。
 部活もやっていないので、放課後はすぐに家に帰ってパソコンでゲームなどをする毎日である。
 今日も1人で帰宅するところだった。
 自宅までは歩いて20分ほどでつく。途中には住宅地と畑くらいしかないので、道草を食う場所もない。途中にコンビニが1件ある程度である。
 いつも通っている道は、半分くらいは糸川という細い川に沿っている。その名の通り、糸のように細くて流れが速い川である。
 季節は春なので、川に沿ってカラシナが咲いている。目が覚めるような黄色い花畑が伸びていた。
 きれいな花を眺めながら、のんびり歩いているとカラシナのなかに白く光っているところがあるように見えた。
「ヤバいな。ゲームのやりすぎで目が疲れてかすんだかな」
 瞬きを繰り返すと、その光の中に銀色の物体が見えた。
「なんだ。あれは…… 」
 直也は近づいてみた。
「銀色のボールだ」
 恐る恐る手を伸ばしてみた。
 手を触れても大丈夫のようだ。
直径3㎝ほどで、手の中にすっぽりと収まった。
「きれいだな」
 持って帰りたい衝動が起こった。
 悪いことをするわけでもないのに、キョロキョロと周りを見渡して、誰もいないことを確認するとホッとした。
 そのボールを鞄にしまうと、家に持ち帰った。
「ただいま」
 一応いうが、誰もいない。
 両親は共働きなので、夜まで1人で過ごすことが多い。
 兄弟はいない。いつものように2階の自分の部屋に直行した。
 さっき拾ってきたボールを机の上に置くと、鞄をしまい制服のブレザーを普段着に着替えた。
「よく見ると、不思議なつやがあるな」
 鉄球のような物かと思っていたら、青や緑に部屋の風景が写り込んでいるのがわかった。
 ホログラムのような感じもするが、眺めていると少しずつ色が変化しているように見えてきた。
「どんな加工がしてあるのかな…… 」
 眺めているうちに興味が出てきて、パソコンで調べてみた。
「しかし、川辺で光っていたのはなぜだろう。発光していたように見えたけど。光がちょうど反射していたのかな…… 」
 ふと我に返ると、進路の宿題を思い出した。
 鞄から宿題のプリントを取り出した。
「将来やりたいことか…… 」
 しばらく球を見つめていた。自分の顔が歪んで写り込んでいる。それが青から緑へと、そして水色へと変わっていくのがわかった。
 部屋の側面にある本棚や窓のカーテンなどは淵の方に丸みを帯びて細長くなっている。
「もしかして、願いごとを叶えてくれたりして」
 直也は神社で手を合わすときに、願いごとをするのはおかしいと思っている。神様に挨拶をするために手を合わせるのである。
 そのついでに、願いごとをするのでは挨拶にきたというよりも願望をかなえにきたことになってしまう。
「家族が健康でありますように」というくらいならいい。「商売が繁盛しますように」とか「彼女ができますように」と神様にお願いしてどうするのだろう。
 努力すればかなう願望は、自力でやればいい。神様に頼むようでは達成できやしない。
 などと考えていたが、願望が頭をもたげてきた。
「彼女ができて、将来お金持ちになりますように」
 と手を合わせて拝んでしまった。
「ふっ、人間は弱い生き物だな」
 都合がいいように考えたものだ。人間全般ではなくて自分の弱さといい加減さだ。

「ピピピピ…… 」
 翌朝、いつも通り6時に目覚まし時計が鳴った。
 直也は目を覚ました。
「ううぅん。あぁ良く寝たぁ」
 なぜか、背中が痛い。
「イテテテ…… 何だろう…… 」
 目を開けると、天井が高い。
 自分がベッドから降りて床で寝ていたことに気付いた。
「あれ? 落ちたのかな…… 」
 ベッドを見ると、誰かが寝ている。
「ん? お母さん? 」
 近づいて見ると違う。
 直也はまだ夢の中なのかと思って周りを見まわした。
 もう一度ベッドを見ると、同い年くらいの女の子が寝ていた。
 すやすやと寝息を立てている。
「うわあぁ! 」
 ドタドタドタ……
 直也は腰を抜かして1階のリビングに駆け降りて行った。
 リビングでは父がスマホを見て難しい顔をしていた。
「おはよう。直也」
「お、おはよう。ちょっと。お父さん、お客さんを連れて来るなら一言言ってよ」
「お客さん? ハハア。寝ぼけているな」
「じゃあ、お母さん? 」
 キッチンでは母が朝食の支度をしていた。
「どうしたのよ。夢の話? 」
 2人とも驚いたような反応をした。
 本当に知らないようだ。
「俺の部屋に、女の子がいて、俺のベッ、ベッ、ベッドで寝ていて、それで、スースーと…… 俺は床で寝ていて…… 」
「ちょっと落ち着け。直也。そんなわけないだろう。顔を洗ってこい」
 父はスマホのニュースの方が気になるようで、またスマホに視線を落とした。
「そうよ。朝は忙しいんだから。早く支度しなさい」
 母に叱られた。
 自分でも自分が信用できなくなってきた。
 洗面所で顔を洗ってから、あらためて部屋を見れば冷静に見られるかもしれない。
「今日の俺はどうかしているな」
 顔を洗うと、もう一度部屋に戻ってみた。
「やっぱりいるじゃないか…… 」
 呆然としてドアを開けたままベッドを見つめていた。
 数分そうしていたが……
「これは事件だ」
 と呟くと、とりあえずスマホで写真を撮った。
 夢オチにしようとする両親に、事実を突きつけるしかない。
「ほら。みてよ、父さん」
「んっ。これはどこで撮ったんだ? 」
「もう。いい加減にしてくれ。日付と時間を見てくれよ」
 直也はイラ立ってきた。
「ははあ。じゃあ、上で人が寝ているんだな。わかった。わかった」
 釈然としない反応だが、やっと自分の目で確かめる気になったらしい。
 父は直也と一緒に2階へ上がると
 コンコン。
 誰もいないと思っているのにノックした。
 こちらを見てニヤリと笑う。
 真剣みが感じられない。
 ガチャ。
 ドアを開けると、父も直也と同様に固まった。
「……!? 」
「ほらね」
 父は、ゆっくりと直也の方へ振り向いた。
「あの女の子と、どういう関係だ」
 そうきたか、と思った。
「関係も何も、知らない人だよ」
「ウソをつけ! 何かやましいことでもあるのか」
 父が怒りだした。
 騒ぎを聞きつけて母もやってきた。
「ちょっといいかしら」
 部屋を覗くと、母も固まった。
 人間は、理解を超えた事態に対して、固まって対処するようだ。
「この状況を説明しろ」
 なぜか命令口調で、イラ立って父が直也にいった。
 直也は、もう嫌になってきた。
「朝起きたら俺が床で寝ていて、ベッドで知らない女の子が寝ていたんだよ」
「昨日の行動を聞いている」
 父は切り口上に行った。
 グズグズしていると出勤する時間になってしまうと思ったのだろう。
「昨日はリビングで3人で夕飯を食べたでしょ。そのときも、寝るときも誰もいなかったんだよ」
「それで? 」
「それでってなんだよ。何か隠してるとでもいうのかよ」
 直也はどうしたら良いのかわからず、ついカッとなった。
「まあまあ。直也。もう高校生だし、交際してもいい歳なのよ。でも自分の部屋に泊めるのはちょっと…… ね」
「そうだな。家に連絡しないと。心配してるぞ。きっと」
「謝りに行くべきかしら」
「そうかも知れないな」
 父と母は、直也の彼女だという結論に達していた。
 彼女を泊めてしまって、素直にそのことを言えないから虚言を言っていると決め込んでいる。
「あああ! どうしたら…… どうしたら、わかってくれるんだあぁぁ! 」
 ゴン!
 直也は頭を搔きむしって壁に頭を打ち付けた。
「ちょ、ちょっと。どうしたのよ」
「おい。落ち着け。時間もないし、一度リビングに戻って整理しよう」
 3人は朝食を採りながら話した。
「じゃあ。なにか。お前は本当に知らないのか」
 父はまだ疑っている。
「そうだよ。俺みたいに暗い奥手が、いきなり女の子を連れ込むと思うか! 」
 やけくそ気味にいった。
「そういえば、そうね」
 母は納得しつつある。
 ちょっと釈然としないが。
「しかし、彼女の家では今ごろ心配して探しているんじゃないのか」
 父も、こういうしかない流れになった。
「警察に届けているかもしれないわ」
「愛子。仕事は忙しいのか? 」
「急ぎの仕事はないから、私がちょっと残るわ」
「直也も、今日は学校に遅刻していけ。風邪だといえばいい」
「そうね。警察に相談しましょう。届が出ているかもしれないし」
「わかったよ…… 」
 何か、大変なことになってきた。
「しかし、あの子は誰なんだろう」
 困り果てた顔で、直也が言うと、
「まあ、すぐにわかるだろうさ。悪いが、後は頼むぞ」
 父が出勤の支度を整えると玄関から出ていった。


謎の女の子

「ああ。どうしたらいいんだろ…… 」
 直也はこれまでこんなに動揺したことはない、と思うほど気が動転していた。
「中学校のテニス部で、県大会に行ったときでもこんなに驚かなかったよ」
 頭を抱えていった。
「とにかく、起こして話をしてみましょう」
「俺にはできそうもないよ。この場合、何か犯罪になったりしないのかな。俺が監禁したみたいじゃないか。彼女がそういったら、俺の人生は終わりだ」
「そんなわけないでしょ。いいわ。母さんが起こしてくる」
 母が2階へ上がろうとした。
「ちょっとまって」
 直也が決然としていった。
「やっぱり自分で起こすよ。何か自分に責任があるなら、やらなくちゃいけない気がする…… 」
 直也は2階に上がると、部屋のドアを見つめた。
「ここを開けたら、後戻りはできない気がする…… 」
 自分の部屋が、すでに非日常の世界に変わっている。
 この先に、今まで経験したことがないような出来事が待っていると感じた。
「ええい! ままよ! 」
 ドアをそろりそろりと、少しずつ開けた。
 ベッドを視界に捉える。
 心臓の鼓動が波打って、うるさくなってきた。
 手は震え、口が乾く……
「何か、まずいことが起きている」
 忍び足で音を立てないように近づいていく。
 やっとの思いで、ベッドの脇に辿り着いた。
 冷汗が背中を流れた。
「も…… もしもし。朝ですよ。起きてください…… 」
 蚊が鳴くような声しかでなかった。
 緊張でのどが締めつけられるように苦しい。
 無理に大きな声をだすと、声が裏返りそうだ。
「も…… もしもおしっ。すみませんが。起きてください」
 脂汗がでてきた。
 声をだすことが、こんなにも難しいなんて。
 そのとき、突然机の上が緑に光った。
「ギッ…… キイイイィイン」
 何ともいえない不快な音が部屋に充満した。
「うわっ」
 思わず耳を塞いだ。
 数分経つと音が小さくなり、光も消えていった。
「んっ。ううん…… 」
 女の子が動く。
 寝転がったまま手を伸ばし、のけぞるように伸びをした。
「ぎゃあぁ! 」
 ドタドタ……
 直也はビックリしてリビングに駆け降りていった。
「どうしたの!? 」
 母が目を丸くしている。
「お、起きた。緑に光って起きた! 」
「大丈夫? あっ。すごい汗…… やっぱり私が」
「いいよ。いいって」
 気を取り直して、もう一度部屋へ向かう。
 ドアは開いたままだ。
「ゴクリ…… 」
 固唾を飲む。
「どうなってるんだ」
 壁に身を寄せると、中を覗いてみた。
 彼女は立ち上がって部屋の真ん中にいた。
 机を興味深げに見つめている。
 思い切って話しかけてみた。
「お。おはよう」
「!? 」
「あ。あのう…… 」
「お……は……よう。あ……の……う」
 透き通った透明感がある、ちょっとハスキーな声だ。
 妙にたどたどしく喋る。
 何か違和感を感じた。
 声を聞いて安心したのか、緊張がとけた。
「キミの名前は」
「キ……ミ、の、なま、えは」
 オウム返しをしていることがわかった。
 もしかして、外国人なのだろうか。
「What’s your name? 」
「ワッ… ツユアネイム」
「外国人なら英語を知ってるかと思ったんだけど。違うみたいだね」
「外国人なら英語を知ってるかと思ったんだけど。違うみたいだね」
 だんだん流暢になってきたようだ。
 突然、後ろで人の気配を感じた。
 振り向くと、白髪頭のおじいさんが立っていた。
「ぎゃっ」
 小さな悲鳴を上げた。
「私はエマ様の身の回りのお世話をしております。執事のムラマサでございます」
 直也は驚きのあまり部屋の隅にうずくまった。
「ひっ。あなたは。ど、どちら様で? 」
「実は折り入ってお願いがございます」
「は、はひ」
「下にいらっしゃるお母様と一緒にお話を聞いていただいてもよろしいでしょうか」
 老爺は慇懃に低姿勢でいった。
 3人はリビングに降りていった。
「あら。もう一人いらしたのね」
 母はサバサバとして、もう驚かない様子だった。
「直也。こちらの方は? 」
「しっ……執事で、ムラマサ様で、こちらがエマ様です」
「あらまあ。混乱しちゃったみたいね」
「突然の訪問に、驚かれるのは無理もございません。私は、こちらのエマ様の世話役をしております。執事のムラマサと申します。こちらは、つまらないものですが」
「あら。ご丁寧にどうも」
 箱はズシリと重かった。
「ひゃっ」
 ゴン!
 鈍い音を立てて、テーブルに落ちた。
「大変失礼いたしました。では私が開けさせていただきます」
 箱の一部を触ると、箱が四方へと開いていく。
 何か光り輝く物がでてきた。
「うっ。うわあああああぁ! 」
「ひゃああぁ! 」
 中には金塊が詰められていたのだ。
「喜んでいただけましたでしょうか。これは私どもの、せめてもの気持ちです」
「こ…… これは、き、金ですか? 」
「そうです。地球ではこの金を基準にして『経済』という力で支配されていると、文献に記されておりましたので。喜んでいただけると思い、用意させていただきました」
「えっ。いま地球って…… 」
 ボソッと呟いた。
 聞こえなかったようだ。
 直也が感じていた違和感の正体が、だんだんわかってきた。
「ちなみに私どもの世界では、金はどこにでもある石ころです。子どもはこの輝きを、珍しがっておもちゃにしますがね」
「かじっていいですか」
 オリンピックの金メダルのようにやってみたかった。直也がかじると、メッキではないことがわかった。
「純金じゃないか」
「こ、これをいただいても…… 」
 母が目を輝かせている。
「母さん。これには裏があるんだよ。うまい話にはドス黒い裏があるかもしれないじゃないか」
 母の目が「¥」マークになっているように見えた。
 人間の醜い部分がでている。
「ムラマサさん。これと引き換えに何を要求するおつもりですか」
「そうですね。何といいましょうか。えっとですね…… 」
 言いにくそうにしている。
 やはり裏があるようだ。
「その前に、あなた方は何者ですか」
「その問いの答えと、お願いごとが繋がっているので一緒に申し上げましょう」
 何だか改まった態度になった。
 母は正常な判断力を失っている。
 自分がしっかりしなくては。
「先ほど、『地球では』とおっしゃいましたね」
「そうです。私たちはパトロール用宇宙コロニーで移動しながら、宇宙の秩序を保つために惑星を調査する仕事をしている者です。地球はあなたがた人間が出現してから、高度な文明を持つに至りました。これほど発達した惑星は我々の星以外には見当たりません」
「はあ」
「こちらのエマ様は超常の力をもつ神の一族であり、特別なお方なのです。今日中山様のお宅にお邪魔いたしましたのは、エマ様に地球の文明を学んでいただき、立派な神になるための教養を与えていただきたいと思うからです。宇宙の秩序を保つため何とぞ、お力添えを」
 ムラマサは、最敬礼で頭を腰まで下げた。
 直也はポカンとして話を聞いていた。
 誇大妄想にしても、よくできた話だ。
 気になるのは、この金塊だ。
 人間は金に弱い生き物である。
「では、私どもが何をすればよろしいのでしょうか」
 母が急に丁寧になった。
「お母様。多くは望みません。エマ様はちょうど高校生のお年頃でいらっしゃいます。こちらの直也様とご一緒に、高校生として学校生活を味わい、こちらで家庭生活を味わわせて差し上げられれば良いのです」
「い、一応主人に聞いてみますね」
 というと、スマホを取りだした。
 呼び出し音5回ででた。
「もしもし。お父さん。事件よ。今すぐ帰ってこられないかしら」
「えっ! 何があった」
「金塊よ。凄い量よ」
「おまえ。大丈夫か」
「神様を高校へ通わせて、家庭生活を味わわせてあげると大金持ちよ」
「何をいっているんだ。忙しいから切るぞ」
「あれっ」
 金をみて舞い上がった母親は、会話もまともにできなくなっていた。
「切れちゃった」
「ふう…… 」
 ため息がでた。
 すると、直也のスマホに着信がきた。
 父からだ。
「直也。何があったんだ」
「あの女の子を、家で養子にしてあげて欲しいんだ。お金のためだけじゃなくて、1人家族が増えたら、楽しいと思うんだ」
「なんだか変なことになってるな。よし。今日は早引けして帰るから待ってなさい」
「父が帰ってくるそうです」
 ムラマサの顔がパッと明るくなった。
「それはよろしゅうございました。日本では家長である父親が物事を決断すると伺っております。これで話がまとまるでしょう」
 ホントにそうだろうか。
「そういえば、エマさん…… まだ言葉を充分話せないようですけど」
 ムラマサがニヤリと笑った。
 口ひげを細く整え、丸眼鏡をかけた老紳士といった容貌である。
 ずっと執事らしく振舞っていたが、いたずらっぽく笑ったので少し驚いた。
「もうそろそろ、理解したと思いますよ」
「何を? 」
「地球の、日本語をです」
「ナオヤ。私の名前はエマよ。よろしくね」
 さっきのきれいなハスキーボイスが聞こえた。
 少し間があった。
「エマ。俺と兄妹になるか? 」
「うん。ナオヤがお兄ちゃんで私が妹。うふっ」


兄として、妹として

「では。私も地球のことを少し勉強させていただきたいと思います」
 といって、金塊の一つを取り出した。
「調べたところ、金は専門の業者で売るのがよろしいそうですな」
 母に向けて、得意げに笑ってみせた。
 ムラマサは、根本から知的な感じがする。
「そうなんですか」
 そんなことは地球人でも知らない人が多いだろう。
「ちょっと失礼して、一本売ってきます」
 ワクワクしてしょうがない、といった表情で外に出ていこうとした。
「そうだ。実は私、地球で一つ会社を起こしたのです。『Amazen』というインターネット通販関連の会社です。では失礼」
「今のは、何のジョークだ? 」
 宇宙人のセンスはわからない。
 Amazenはスティーン・ジョイズが創業したはずだ。
「さてと。お父さんが帰ってくるまで時間があるわ。お昼にしましょう」
 宇宙人といっていたが、食事は普通だよな。
「うん。気にしなくていいよ。同じもの食べるから」
「うわっ! 心で思ったことがわかるのか」
「うふふ。これでも神だからね」
「隠し事はできないな」
「冗談よ。今のはある程度予測できたからわかったの。心までは読めないよ」
「じゃあ。チャーハンでもつくろうかな。エマちゃん。手伝って」
「はあい」
 何だかいい雰囲気だ。
 素直に妹ができることがうれしい。
 急に家の中が色鮮やかに見えてきた。
 改めて見ると、エマは鼻筋が通っていて、北欧系美人のように整った顔立ちだ。
 愛嬌があって、モテそうに見える。
 まあ、宇宙人で神だったら容姿を自在に変えられるのかもしれない。
 キッチンでは、母がスープを用意し、エマが野菜を切っていた。
 トントントン……
 微塵切りをする音が規則正しく響く。
 少しも途切れることなく、すべて切ったようだ。
 ボウルに入れると、フライパンを温め始めた。
 ごはんと卵を炒め、フライパンを振って混ぜる。
 慣れた手つきに見える。
「エマちゃん。チャーハン作ったことあるの? 」
「えへへ。事前に勉強してきたの」
「凄く上手よ」
 チャーハンと卵スープが食卓に並んだ。
「おいしい」
 ごはんが口の中でほどける感じが、絶妙な炒め加減だった。
「私より上手よ。エマちゃん」
 3人はあっという間にたいらげた。
「ただいま」
 父とムラマサが帰ってきた。
「ちょうどそこで会ってね」
「お父様と少しお話させていただきました」
 父は着替えて、リビングに戻ってきた。
「ねえ。あなた。エマちゃんは、とってもいい子よ。料理も上手で、頭も良いの」
「お父さん。はじめまして。エマと申します。よろしくお願いします」
 エマは屈託のない笑顔を向けた。
「そうか。ムラマサさんから事情は聞いたよ。すぐには信じられないようなことだが、うちで面倒をみようと思う」
「やった! エマ! 」
「ナオヤ。私。お父さんもお母さんもみんな大好き。うれしい」
「それでは。明日から直也さんの高校へ通えるように手配します。養子縁組の手続きもいたしましょう」
 ムラマサは書類を取り出すと、父に促した。
「学用品と制服も用意しなくちゃ」
「うふふ。ご心配なく。用意してきました。」