第二話
パーティー脱退から一ヶ月。
ジュードは己の第二加護を理解すべく、鍛錬を行っていた。
何事にもルールや仕組みというものがある。
神様が与えてくださる加護にも、同じことが言えるはず、とジュードは考えた。
彼まず、は状態異常耐性を上げる装備の仕組みから考えた。
『教会』に寄付をすることで得られる装備だ。
あれは人の持つ『抵抗力』――つまり耐性を、祈りの力で高めるもの。

『教会』の者でないジュードが祈りで耐性を高めることは出来ないが、彼には第二加護がある。
彼にできるのは頑張ることだけ。要するに、経験の蓄積だ。
ジュードは、蛇の毒を食らうことにした。
耐性があると言っても苦しみはある。大量に毒消しを用意し、毒にかかる度に使用。
何度も何度も毒を受けていけば、耐性が上がるのではないかと期待した。

そして――ジュードは己の加護を理解した。
彼の第二加護は、体自体を神が強化したのではなかった。
『状態異常耐性』とは、不可視の膜のようなものだった。鎧といってもいい。
ジュードにまとわりついていて、彼を守ってくれる。
膜の厚さの分だけ、俺を傷つける何かから守ってくれる。

あくまで耐毒に関してだけだが、一ヶ月の特訓で――膜は少し厚くなったのだ。
そう、彼の第二加護は、経験によって成長するものだったのだ。

それがわかったのは救いだったが、問題は――成長スピード。
この調子では、数十年あってもリーゼの隣には程遠い。

百年でもあれば別かもしれないが、そんな方法など――ある。
一つだけ、百年分の努力を積んだ上で、リーゼに追いつけるかもしれない方法があった。

魔物を生み続ける魔力空間・ダンジョン。
人類にとっては脅威でしかないダンジョンは、魔物を生み出す器官『核』を破壊することで消滅する。
それを理解しているからこそ、ダンジョン側は核を破壊されないように対策を講じる。
人が核まで辿り着けぬよう迷宮を築いたり、強力な魔物やトラップを配置したり――そもそも入って来ないようにしたり、だ。

ジュードが目をつけたのは最後者。
『時間の流れが乱れているダンジョン』だった。

そのダンジョンには、こんな話がある。
中に入った者が数時間の探索のあとで脱出すると、外では百年経っていた。
逆に数ヶ月遭難した者がなんとか脱出すると、外では数分しか経っていなかった。

更には、中では肉体が老いないという。

これを利用し、全てジュードに都合よくいけば、百年の修業を行っても、外では数分しか経過していなかった、なんてことも起こりうる。
そうすれば、リーゼにも追いつけるだろう。

だが、ジュードは自分が物語の主人公ではないと理解していた。
主人公がいるとすれば、それはリーゼのような人物。
あるいは――。

「一緒に入りましょうか?」

ダンジョンの前で悩むジュードに声を掛けたのは、
つい先日知り合った――白銀の髪の美女。