〇山の中(夕)
歩いているアルファとベータ。
前方に木でつくられた門が見える。
門の下に十代半ばくらいに見える美少女が一人で立っている。
美少女に近づいていくアルファ。
アルファ「すいません、ここに住んでる人ですか?」
ルベラ「はい、ルベラといいます。私は里の案内人です」
アルファ「私たちは旅の者で、宿を探してるんですけど」
ルベラ「でしたら、ご案内します」
アルファとベータ、ルベラのあとについていく。
遠くに木の棒が一定間隔で並んで地面に埋められている。
ルベラ「あの棒より先は魔獣のテリトリーなので、絶対に入らないでください」
と、木の棒を指差す。
ベータ「入ったら、どうなるんですか?」
ルベラ「殺されても文句は言えません。人間のテリトリーでは殺生を禁じていますが、魔獣のテリトリーでは禁じられていませんから」
前方から歩いてくる狩人の男性。
狩人「ルベラちゃん、今日も可愛いね。山の様子はどうだい?」
ルベラ「(笑って)今日は狩りをするなら西の方角が一番ですね」
狩人「ありがとう。行ってくる」
ルベラ「頑張ってください」
門に向かって行く狩人。
アルファ「ここには秘宝があるっていう噂を聞いたんですけど、本当ですか?」
ルベラ「はい、ありますよ」
アルファ「最近、物騒な事件が起きてますよね。秘宝の警備は大丈夫ですか?」
ルベラ「優秀な戦士が警備にあたっているので問題ないですよ」
アルファ「何人くらいで警備してるんですか?」
ルベラ「私は詳しく知らないのですが、全員が回復魔法を使える一流の戦士です」
アルファ「回復魔法?」
ルベラ「敵から攻撃を受けても致命傷でなければ回復魔法を使って治療できます。この里には呪いを受けたりした者が回復魔法による治療を求めて多く訪れます」
遠くにある魔獣のテリトリーで3匹の魔獣の姿が見える。
一匹の魔獣が羽交い絞めされて、もう一匹の魔獣に殴られている。
ベータ「(一方的に殴られている魔獣を見て)……」
ルベラ「人間のテリトリーでは、あのようなことは起きないので安心してください」
ベータ「ちょっと待ってください、あの殴られてる魔獣を助けます」
アルファ「ベータ、魔獣同士の争いなんだからほっとけばいい!」
ベータ「魔獣とか人間とか関係ないだろ!」
アルファ「魔獣のテリトリーに入るのは危険よ!」
ベータ「一方的に殴られてるのを見過ごすことなんてできない」
ルベラ「(驚いた表情で)……」
魔獣のテリトリーに向かって走っていくベータ。
ルベラ、ベータについていく。
アルファ「(顔をしかめて)……」
魔獣のテリトリーの前で立ち止まるベータ。
ルベラ「どうする気ですか?」
ベータ「……時間がかかるけど、相手を眠らせる催眠術を使います」
と、遠くにいる3匹の魔獣に向かって手の平を向ける。
ルベラ「催眠術?」
しばらくして、3匹の魔獣が地面に倒れる。
ルベラ「凄い!」
ベータ、魔獣のテリトリーに足を踏み入れる。
ルベラ「え! 向こうに行くんですか?」
ベータ「あのままほっといたら、2匹の魔獣が目を覚ましてまた同じ状況になるから」
アルファとルベラはテリトリーの境界線に立ったまま、ベータの歩いていく姿を見つめる。
ベータ「(殴られていた魔獣に)立てますか?」
魔獣「……いや、無理そうね」
ベータ「オレにつかまってください」
魔獣「悪いわね」
ベータ「女性の魔獣さんですか?」
魔獣「そうよ。私は女」
殴られていた魔獣と一緒に人間のテリトリーにもどるベータ。
ベータ「回復魔法を使える人はどこに?」
ルベラ「ちょっと距離があります。近くに私の家がありますから、そこで応急処置しましょう。こっちです」
ベータ、魔獣と一緒にルベラについていく。
ルベラ(M)「おばあ様、私にはこの人が悪い人のようには思えません……」
〇ルベラの回想
老婆の家の中で座っているルベラ。
老婆「里に訪れた者から秘宝の話題がでたら、まず私のところに連れて来なさい」
ルベラ「おばあ様のところにですか?」
老婆「秘宝を奪う者が現れたという噂があってな。道案内すると嘘をついて必ず私の家に連れて来なさい」
ルベラ「わかりました」
(回想終了)
〇ルベラの家(夜)
床で横になっている魔獣。
ルベラ「とりあえず、これで応急処置は完了です。もう夜ですし、みなさん今日は私の家に泊まっていってください」
ベータ「ありがとうございます。あの、ご両親は?」
ルベラ「父と母は戦士なんです。今日は秘宝を守る担当なので、帰ってきません」
ベータ「そうなんですか」
アルファ「トイレはどこかしら?」
ルベラ「そこを出て左です」
アルファ、トイレに向かって歩いていく。
ルベラ「ベータさんって、優しいですよね」
ベータ「(苦笑して)そうかな?」
ルベラ(M)「それに、カッコいいし」
ベータを見つめるルベラ。
ルベラ「……あの人は恋人さんですか?」
ベータ「いや、違います。仲間ですよ」
ルベラ「(嬉しそうに)そうなんですか!」
熱い視線をベータに送るルベラ。
ベータ(M)「なんか、熱視線を感じるような……」
トイレからもどってくるアルファ。
アルファ「お風呂はあるかしら?」
ルベラ「ありますよ。そこを出て右です、自由に使ってください」
アルファ「じゃあ、そうさせてもらうわ。ベータ、一緒に入るわよ」
ベータ「!?」
ルベラ「えっ!?」
アルファ、ベータに近づき腕をつかむ。
ルベラ「恋人同士じゃない男女が一緒にお風呂に入っちゃうんですか!?」
アルファ「そうよ。仲間同士でも一緒に入るの」
と、ベータの腕を強く引っ張って連れて行く。
ベータ「(わけがわからないという表情)」
〇洗面所(夜)
アルファ、ベータと一緒に洗面所に入って扉を閉める。
ベータ「(赤面しながら)おい、本気で!?」
アルファ、自分の口の前で人差し指をたてる。
ベータ「!」
アルファ「(小声で)静かに。今から内緒話をするわ」
ベータ「……」
服を着たまま風呂場に入るアルファとベータ。
アルファ「(小声で)今回の秘宝を奪うには、絶対に敵を殺さないとダメ」
ベータ「!?」
アルファ「(小声で)地下のときみたいに時間指定して敵を眠らせても、回復魔法を使える戦士が起こしにきたら、私たちは終わりよ」
ベータ「……」
アルファ「(小声で)今回は絶対に敵を殺すのよ」
〇ルベラの家(夜)
そわそわして落ち着きのない表情のルベラ。
洗面所のほうからアルファが歩いてくる。
ルベラ「(アルファを見つめて)……」
アルファ「あー、気持ちよかった」
ルベラ「! お、お風呂で何してたんですか?」
くすりと笑うアルファ。
アルファ「何って、入浴以外にすることあるの?」
ルベラ「(赤面した表情で)……ベータさんは?」
アルファ「長風呂よ」
洗面所のほうへ歩いていくルベラ。
アルファ「……」
ルベラ、ドキドキした表情で洗面所の扉の前に立つ。
扉が開いてベータが出てくる。
ルベラ「ひゃっ!」
ベータ「ああ、お風呂ありがとうございます。さっぱりしました」
ルベラ「(赤面しながら)よ、よかったです」
時間経過。
布団を敷くパジャマ姿のルベラ。
左端の布団の上で魔獣が横になっている。
右端に布団を敷くルベラ。
ルベラ「ベータさんの布団はこっちです、どうぞ」
ベータ「ありがとうございます」
と、右端の布団の中に入る。
魔獣の右隣に布団を敷くルベラ。
アルファ「……」
ルベラ、ベータの横に布団を敷いて自分が中に入る。
ルベラ「アルファさん、どうぞ」
と、魔獣と自分の間にある布団を手でさす。
アルファ「なんで、ベータの隣があなたなの?」
ルベラ「ど、どこに寝ようと関係ないじゃないですか」
アルファ「(余裕の表情で笑み)別にいいけど」
電気を消すと窓から月明りが入ってくる。
ルベラ、ベータの方を向いて好意の視線をおくる。
ベータ(M)「やっぱり、熱視線を感じる……」
〇ルベラの家の前(翌日・朝)
魔獣が横になった木製の担架のようなものにロープをくくりつけるベータ。
ベータ「じゃあ、回復魔法が使える人のところに行こう」
と、ロープを引いて担架を引きずっていく。
アルファ「なんで私たちがそこまでする必要があるのよ?」
ルベラ(M)「悪い人じゃなくても、おばあ様のところには一度連れて行かなきゃ」
アルファとベータ、ルベラについていく。
〇老婆の家(朝)
老婆の前に立っている一人の女性。
老婆「ルベラが旅人を連れていたと狩人から報告されてる。ここに人が訪ねてきたら、外に出て、覗き穴から私を見なさい。もし私が合図を出したら、すぐに動くんだよ」
女性「わかりました」
〇山の中(朝)
ベータ、魔獣が横になった担架を引きずって歩いている。
ルベラ「(笑顔で)あ、妖精だ」
ルベラの肩にのる妖精。
ベータ「それが妖精?」
ルベラ「はい。共通語は話せないんですけど、みんないい子で」
前方から鍛冶屋の男性が歩いてくる。
鍛冶屋「おはよう、ルベラちゃん。町の様子はどうだ?」
ルベラ「朝は人が少ないですね」
鍛冶屋「そうか、だったら里を出るのは午後からにしようかな」
と、去っていく。
〇樹木の枝(朝)
妖精たちが遊んでいる。
〇山の中(昼)
木でつくられた家の前に立つアルファ。
アルファ「留守じゃなきゃいいんだけど……」
と、ドアをノックしようとする。
〇老婆の家(昼)
老婆と女性が話している。
玄関のドアがノックされる。
老婆・女性「!」
老婆が無言でうなずく。
女性、素早く裏口から外に出る。
老婆「……」
女性、外から覗き穴で部屋の中の様子を見る。
老婆「……入りなさい」
玄関のドアが開かれる。
鍛冶屋の男性が疲労困憊の表情で立っている。
老婆「!」
鍛冶屋「重傷を負った魔獣を連れて来ました。回復魔法で何とかならないでしょうか?」
鍛冶屋の背後に魔獣をのせた担架がある。
〇山の中(昼)
家の玄関の扉を開けるアルファ。
部屋の中に一人で座っている長老。
長老「……君たちは誰かな?」
アルファ「ちょっと、道に迷ってしまって」
ベータ「(長老を見つめる)」
長老の家の前で、ルベラが地面に横たわって眠っている。
〇回想・ルベラの家
13時間前。
風呂場で内緒話をしているアルファとベータ。
アルファ「(小声で)今回は絶対に敵を殺すのよ」
ベータ「……」
アルファ「(小声で)あと、あの子は私たちを騙そうとしてる」
ベータ「(小声で)え?」
アルファ「(小声で)秘宝を奪われた話が広まってるみたいなの。それで、警戒してる老婆のもとに秘宝の話題を出した私たちを連れていく気よ」
ベータ「(小声で)どうして、そんなことが……」
アルファ「(小声で)私は心が読めるから。詳細なことまではわからなかったけど、秘宝を奪うまでの時間がないのはたしかよ。明日には秘宝を奪うことを決行する。おそらく、あの子に里の長の家まで能力を使って案内させることになるわ」
ベータ「(小声で)里の長?」
アルファ「(小声で)この里の長老が秘宝の警備の鍵を握ってるみたい。とにかく、全員が寝床に入ったら、能力を使ってあの子と魔獣を眠らせて。そのあと、あの子から詳しい情報を聞き出すのよ」
ベータ「(小声で)……わかった」
アルファ「(小声で)じゃあ、私はお風呂に入るから。ベータは私の次に入って」
と、服を脱ぎ始める。
ベータ、赤面して風呂場から出ていく。
時間経過。
ベータたち四人が一列に布団の上で横になっている。
ルベラ、ベータの方を向いて好意の視線をおくる。
ベータ(M)「やっぱり、熱視線を感じる……」
ベータ、ルベラの方に顔を向ける。
ルベラ「(赤面する)!」
ベータ(M)「6時間眠れ!」
ルベラ「(ドキドキながらベータを見つめる)」
ベータ「……」
天井に顔を向けるベータ。
ベータ(M)「なんか、照れるな……」
ルベラ「……夜は長いですよ」
ベータ(M)「え? どういう意味だ!?」
時間経過。
すやすやと眠っているルベラ。
布団から起き上がるベータとアルファ。
アルファ「魔獣にも念じた?」
ベータ、頷く。
ベータ「ルベラさん、寝言でオレたちに秘宝について詳しく教えてくれ」
ルベラ「(寝言で)はい」
時間経過。
アルファ「……なるほどね。ベータ、急いで行くわよ」
と、立ち上がる。
ベータ「何しに?」
アルファ「秘宝を守る戦士を殺すために決まってるでしょ?」
ベータ「!……」
アルファ「急がないと警戒が強まって手遅れになる」
玄関に向かって歩いていくアルファ。
ベータ、アルファについていく。
アルファ(M)「(笑みを浮かべて)うまくいった。もし甘い能力の使い方をすれば、ベータは思い知ることになる……」
(続く)
歩いているアルファとベータ。
前方に木でつくられた門が見える。
門の下に十代半ばくらいに見える美少女が一人で立っている。
美少女に近づいていくアルファ。
アルファ「すいません、ここに住んでる人ですか?」
ルベラ「はい、ルベラといいます。私は里の案内人です」
アルファ「私たちは旅の者で、宿を探してるんですけど」
ルベラ「でしたら、ご案内します」
アルファとベータ、ルベラのあとについていく。
遠くに木の棒が一定間隔で並んで地面に埋められている。
ルベラ「あの棒より先は魔獣のテリトリーなので、絶対に入らないでください」
と、木の棒を指差す。
ベータ「入ったら、どうなるんですか?」
ルベラ「殺されても文句は言えません。人間のテリトリーでは殺生を禁じていますが、魔獣のテリトリーでは禁じられていませんから」
前方から歩いてくる狩人の男性。
狩人「ルベラちゃん、今日も可愛いね。山の様子はどうだい?」
ルベラ「(笑って)今日は狩りをするなら西の方角が一番ですね」
狩人「ありがとう。行ってくる」
ルベラ「頑張ってください」
門に向かって行く狩人。
アルファ「ここには秘宝があるっていう噂を聞いたんですけど、本当ですか?」
ルベラ「はい、ありますよ」
アルファ「最近、物騒な事件が起きてますよね。秘宝の警備は大丈夫ですか?」
ルベラ「優秀な戦士が警備にあたっているので問題ないですよ」
アルファ「何人くらいで警備してるんですか?」
ルベラ「私は詳しく知らないのですが、全員が回復魔法を使える一流の戦士です」
アルファ「回復魔法?」
ルベラ「敵から攻撃を受けても致命傷でなければ回復魔法を使って治療できます。この里には呪いを受けたりした者が回復魔法による治療を求めて多く訪れます」
遠くにある魔獣のテリトリーで3匹の魔獣の姿が見える。
一匹の魔獣が羽交い絞めされて、もう一匹の魔獣に殴られている。
ベータ「(一方的に殴られている魔獣を見て)……」
ルベラ「人間のテリトリーでは、あのようなことは起きないので安心してください」
ベータ「ちょっと待ってください、あの殴られてる魔獣を助けます」
アルファ「ベータ、魔獣同士の争いなんだからほっとけばいい!」
ベータ「魔獣とか人間とか関係ないだろ!」
アルファ「魔獣のテリトリーに入るのは危険よ!」
ベータ「一方的に殴られてるのを見過ごすことなんてできない」
ルベラ「(驚いた表情で)……」
魔獣のテリトリーに向かって走っていくベータ。
ルベラ、ベータについていく。
アルファ「(顔をしかめて)……」
魔獣のテリトリーの前で立ち止まるベータ。
ルベラ「どうする気ですか?」
ベータ「……時間がかかるけど、相手を眠らせる催眠術を使います」
と、遠くにいる3匹の魔獣に向かって手の平を向ける。
ルベラ「催眠術?」
しばらくして、3匹の魔獣が地面に倒れる。
ルベラ「凄い!」
ベータ、魔獣のテリトリーに足を踏み入れる。
ルベラ「え! 向こうに行くんですか?」
ベータ「あのままほっといたら、2匹の魔獣が目を覚ましてまた同じ状況になるから」
アルファとルベラはテリトリーの境界線に立ったまま、ベータの歩いていく姿を見つめる。
ベータ「(殴られていた魔獣に)立てますか?」
魔獣「……いや、無理そうね」
ベータ「オレにつかまってください」
魔獣「悪いわね」
ベータ「女性の魔獣さんですか?」
魔獣「そうよ。私は女」
殴られていた魔獣と一緒に人間のテリトリーにもどるベータ。
ベータ「回復魔法を使える人はどこに?」
ルベラ「ちょっと距離があります。近くに私の家がありますから、そこで応急処置しましょう。こっちです」
ベータ、魔獣と一緒にルベラについていく。
ルベラ(M)「おばあ様、私にはこの人が悪い人のようには思えません……」
〇ルベラの回想
老婆の家の中で座っているルベラ。
老婆「里に訪れた者から秘宝の話題がでたら、まず私のところに連れて来なさい」
ルベラ「おばあ様のところにですか?」
老婆「秘宝を奪う者が現れたという噂があってな。道案内すると嘘をついて必ず私の家に連れて来なさい」
ルベラ「わかりました」
(回想終了)
〇ルベラの家(夜)
床で横になっている魔獣。
ルベラ「とりあえず、これで応急処置は完了です。もう夜ですし、みなさん今日は私の家に泊まっていってください」
ベータ「ありがとうございます。あの、ご両親は?」
ルベラ「父と母は戦士なんです。今日は秘宝を守る担当なので、帰ってきません」
ベータ「そうなんですか」
アルファ「トイレはどこかしら?」
ルベラ「そこを出て左です」
アルファ、トイレに向かって歩いていく。
ルベラ「ベータさんって、優しいですよね」
ベータ「(苦笑して)そうかな?」
ルベラ(M)「それに、カッコいいし」
ベータを見つめるルベラ。
ルベラ「……あの人は恋人さんですか?」
ベータ「いや、違います。仲間ですよ」
ルベラ「(嬉しそうに)そうなんですか!」
熱い視線をベータに送るルベラ。
ベータ(M)「なんか、熱視線を感じるような……」
トイレからもどってくるアルファ。
アルファ「お風呂はあるかしら?」
ルベラ「ありますよ。そこを出て右です、自由に使ってください」
アルファ「じゃあ、そうさせてもらうわ。ベータ、一緒に入るわよ」
ベータ「!?」
ルベラ「えっ!?」
アルファ、ベータに近づき腕をつかむ。
ルベラ「恋人同士じゃない男女が一緒にお風呂に入っちゃうんですか!?」
アルファ「そうよ。仲間同士でも一緒に入るの」
と、ベータの腕を強く引っ張って連れて行く。
ベータ「(わけがわからないという表情)」
〇洗面所(夜)
アルファ、ベータと一緒に洗面所に入って扉を閉める。
ベータ「(赤面しながら)おい、本気で!?」
アルファ、自分の口の前で人差し指をたてる。
ベータ「!」
アルファ「(小声で)静かに。今から内緒話をするわ」
ベータ「……」
服を着たまま風呂場に入るアルファとベータ。
アルファ「(小声で)今回の秘宝を奪うには、絶対に敵を殺さないとダメ」
ベータ「!?」
アルファ「(小声で)地下のときみたいに時間指定して敵を眠らせても、回復魔法を使える戦士が起こしにきたら、私たちは終わりよ」
ベータ「……」
アルファ「(小声で)今回は絶対に敵を殺すのよ」
〇ルベラの家(夜)
そわそわして落ち着きのない表情のルベラ。
洗面所のほうからアルファが歩いてくる。
ルベラ「(アルファを見つめて)……」
アルファ「あー、気持ちよかった」
ルベラ「! お、お風呂で何してたんですか?」
くすりと笑うアルファ。
アルファ「何って、入浴以外にすることあるの?」
ルベラ「(赤面した表情で)……ベータさんは?」
アルファ「長風呂よ」
洗面所のほうへ歩いていくルベラ。
アルファ「……」
ルベラ、ドキドキした表情で洗面所の扉の前に立つ。
扉が開いてベータが出てくる。
ルベラ「ひゃっ!」
ベータ「ああ、お風呂ありがとうございます。さっぱりしました」
ルベラ「(赤面しながら)よ、よかったです」
時間経過。
布団を敷くパジャマ姿のルベラ。
左端の布団の上で魔獣が横になっている。
右端に布団を敷くルベラ。
ルベラ「ベータさんの布団はこっちです、どうぞ」
ベータ「ありがとうございます」
と、右端の布団の中に入る。
魔獣の右隣に布団を敷くルベラ。
アルファ「……」
ルベラ、ベータの横に布団を敷いて自分が中に入る。
ルベラ「アルファさん、どうぞ」
と、魔獣と自分の間にある布団を手でさす。
アルファ「なんで、ベータの隣があなたなの?」
ルベラ「ど、どこに寝ようと関係ないじゃないですか」
アルファ「(余裕の表情で笑み)別にいいけど」
電気を消すと窓から月明りが入ってくる。
ルベラ、ベータの方を向いて好意の視線をおくる。
ベータ(M)「やっぱり、熱視線を感じる……」
〇ルベラの家の前(翌日・朝)
魔獣が横になった木製の担架のようなものにロープをくくりつけるベータ。
ベータ「じゃあ、回復魔法が使える人のところに行こう」
と、ロープを引いて担架を引きずっていく。
アルファ「なんで私たちがそこまでする必要があるのよ?」
ルベラ(M)「悪い人じゃなくても、おばあ様のところには一度連れて行かなきゃ」
アルファとベータ、ルベラについていく。
〇老婆の家(朝)
老婆の前に立っている一人の女性。
老婆「ルベラが旅人を連れていたと狩人から報告されてる。ここに人が訪ねてきたら、外に出て、覗き穴から私を見なさい。もし私が合図を出したら、すぐに動くんだよ」
女性「わかりました」
〇山の中(朝)
ベータ、魔獣が横になった担架を引きずって歩いている。
ルベラ「(笑顔で)あ、妖精だ」
ルベラの肩にのる妖精。
ベータ「それが妖精?」
ルベラ「はい。共通語は話せないんですけど、みんないい子で」
前方から鍛冶屋の男性が歩いてくる。
鍛冶屋「おはよう、ルベラちゃん。町の様子はどうだ?」
ルベラ「朝は人が少ないですね」
鍛冶屋「そうか、だったら里を出るのは午後からにしようかな」
と、去っていく。
〇樹木の枝(朝)
妖精たちが遊んでいる。
〇山の中(昼)
木でつくられた家の前に立つアルファ。
アルファ「留守じゃなきゃいいんだけど……」
と、ドアをノックしようとする。
〇老婆の家(昼)
老婆と女性が話している。
玄関のドアがノックされる。
老婆・女性「!」
老婆が無言でうなずく。
女性、素早く裏口から外に出る。
老婆「……」
女性、外から覗き穴で部屋の中の様子を見る。
老婆「……入りなさい」
玄関のドアが開かれる。
鍛冶屋の男性が疲労困憊の表情で立っている。
老婆「!」
鍛冶屋「重傷を負った魔獣を連れて来ました。回復魔法で何とかならないでしょうか?」
鍛冶屋の背後に魔獣をのせた担架がある。
〇山の中(昼)
家の玄関の扉を開けるアルファ。
部屋の中に一人で座っている長老。
長老「……君たちは誰かな?」
アルファ「ちょっと、道に迷ってしまって」
ベータ「(長老を見つめる)」
長老の家の前で、ルベラが地面に横たわって眠っている。
〇回想・ルベラの家
13時間前。
風呂場で内緒話をしているアルファとベータ。
アルファ「(小声で)今回は絶対に敵を殺すのよ」
ベータ「……」
アルファ「(小声で)あと、あの子は私たちを騙そうとしてる」
ベータ「(小声で)え?」
アルファ「(小声で)秘宝を奪われた話が広まってるみたいなの。それで、警戒してる老婆のもとに秘宝の話題を出した私たちを連れていく気よ」
ベータ「(小声で)どうして、そんなことが……」
アルファ「(小声で)私は心が読めるから。詳細なことまではわからなかったけど、秘宝を奪うまでの時間がないのはたしかよ。明日には秘宝を奪うことを決行する。おそらく、あの子に里の長の家まで能力を使って案内させることになるわ」
ベータ「(小声で)里の長?」
アルファ「(小声で)この里の長老が秘宝の警備の鍵を握ってるみたい。とにかく、全員が寝床に入ったら、能力を使ってあの子と魔獣を眠らせて。そのあと、あの子から詳しい情報を聞き出すのよ」
ベータ「(小声で)……わかった」
アルファ「(小声で)じゃあ、私はお風呂に入るから。ベータは私の次に入って」
と、服を脱ぎ始める。
ベータ、赤面して風呂場から出ていく。
時間経過。
ベータたち四人が一列に布団の上で横になっている。
ルベラ、ベータの方を向いて好意の視線をおくる。
ベータ(M)「やっぱり、熱視線を感じる……」
ベータ、ルベラの方に顔を向ける。
ルベラ「(赤面する)!」
ベータ(M)「6時間眠れ!」
ルベラ「(ドキドキながらベータを見つめる)」
ベータ「……」
天井に顔を向けるベータ。
ベータ(M)「なんか、照れるな……」
ルベラ「……夜は長いですよ」
ベータ(M)「え? どういう意味だ!?」
時間経過。
すやすやと眠っているルベラ。
布団から起き上がるベータとアルファ。
アルファ「魔獣にも念じた?」
ベータ、頷く。
ベータ「ルベラさん、寝言でオレたちに秘宝について詳しく教えてくれ」
ルベラ「(寝言で)はい」
時間経過。
アルファ「……なるほどね。ベータ、急いで行くわよ」
と、立ち上がる。
ベータ「何しに?」
アルファ「秘宝を守る戦士を殺すために決まってるでしょ?」
ベータ「!……」
アルファ「急がないと警戒が強まって手遅れになる」
玄関に向かって歩いていくアルファ。
ベータ、アルファについていく。
アルファ(M)「(笑みを浮かべて)うまくいった。もし甘い能力の使い方をすれば、ベータは思い知ることになる……」
(続く)