「生徒会長がいらっしゃる……?」

 グラスを磨いている手を休め、クロードはエリスの方に振り返った。

「そう――」

 やっぱり無理よね、とエリスが言葉を繋げようとする前に、

「それで、いついらっしゃるんですか?」

 とクロードが即座に返した。

「え……ご招待してもいいの?」

「問題ありません。主人が決めたことに反対する理由などありませんので。それに、生徒会長とお近づきになる絶好の機会ではありませんか?」

 もう、この話は終わりだ、と言わんばかりにクロードは作業を再開し始めた。

「まだ他に何か?」

 なかなかその場を離れようとしないエリスに、クロードは声をかけた。

「言いたいことはわかるけど、私自身、生徒会長とは知り合ったばかりだし、個人的にお茶にご招待するほどまだ親しくはないというか……」

 こうは言ってみたものの、エリスの心配はほかのところにあった――ルードヴィッヒは、きっとクロードに探りを入れてくるだろう。しかも、あのルードヴィッヒのことだ、どのような形で探りを入れてくるのかわからない。

 目的を果たす前に、どんなに些細なことであっても、こちら側の情報は漏らすべきではないとエリスは考えていた。だから可能な限り不要な接触は避けたかったのだ――特に向こう側から接触があった場合は。

「ご心配は無用です。主人の恥になるようなことは決していたしません」



「ところで、私のことよりも、まずはご自分のことを気にされたらいかがですか?」

「えっ、私!?」

 エリスは素っ頓狂な声を上げた。

「先ほどから、随分と言葉が乱れていらっしゃいます」

「あ……!」

 エリスは慌てて口を押さえた。

「この学校に入学してから……いえ、正確に申し上げれば、実技試験を終えてから様子が変わられました」

「……」

 具体的には言っていないものの、エリスのルードヴィッヒに対する感情のことを、クロードは指摘しているのだろう。

 クロードに感づかれていたことを知り、エリスは恥ずかしさのあまり倒れそうになった。

「あなたの人生ですから、私がとやかく言う筋合いはございません。しかし、今のご自分の立場をお忘れなきよう」

「わかった……これからは気を付ける……」

 エリスは気まずそうに小さな声で答えた。